新しい農業のカタチを
つくるメディア「リプラス」

2022.11.10

農業経営で失敗しないために知っておくべきキホンのキ

働き方の多様性が各地で認められるようになった今日では、都会での会社員生活から地方での農家暮らしに転身したいと考える人も増えつつあります。

少子高齢化や都市部への一極集中が進んだことで、農業を含め、第一次産業に従事する若者の数は減少傾向にあります。しかし、適切な農業経営を実現できれば、社会貢献や地方創生、食料自給率の増加や収入の確保など、私たちの生活や幸福な人生を送る上で大切なものを得られる可能性も秘めています。

この記事では、農業経営を始めようと考えている方に向けて、農業経営に着手する前に知っておきたい基本情報について解説します。

01農業経営の魅力とは

農業経営とは、農業を主軸としながら経営者として事業を展開するビジネスの在り方です。農業経営は通常の会社経営では得られない、多くの魅力を有しています。

経営者として多くの裁量を持てる

農業と聞くと屋外での作業労働の毎日を過ごすイメージが強いものの、実際にはそれ以外にもさまざまな業務や意思決定に、経営者の立場から向き合います。

経営者という立場は大変でもありますが、それだけにやりがいの多い仕事でもあります。また、経営者という立場はそれより上の人間がおらず、全て自分の判断で仕事をすることになります。

これまで自分の思うように動けず不満を抱えていた人にとって、農業経営は自分の裁量を存分に発揮できる、自由な働き方を実現するきっかけとなるでしょう。

やり方次第で儲かるビジネスへ発展できる

農業をはじめ、第一次産業はビジネスとして金銭的に儲けるというよりも、どちらかというと食を生産するという名誉が重視されるというイメージが定着しています。

確かに農業においては、人が飢えることなく暮らせるよう十分な作物を生産し、流通させることが重要ですが、近年はそういった義務の側面は弱まりつつあります。

むしろ農業にはハイテク活用や放棄された農地の有効活用など、多くのビジネスチャンスの余地が残されています。農業が抱える問題の解決にうまく対処できれば、儲かるビジネスへと成長させることができるでしょう。

食料自給率向上に貢献できる

日本は小さな島国でありながら、1億を超える人口を抱える国です。そのような日本で問題視されているのが食料自給率で、日々の食生活の大半を輸入に頼っているのが現状です。

日本は自然が豊かで、質の高い農業ができる土壌は整っているものの、農業従事者は減少し、輸入品との価格競争の中で作物の単価も上がりにくいことから、今後その自給率はますます減っていく可能性もあります。

そこで新たに農業経営に携わる人が増えることで、国内の農作物の生産量を増やすことができれば、輸入への依存度を減らし、食糧不足のリスクを遠ざけることができます。

食に携わる役割を担うことの名誉は、農業経営者の特権ともいえるでしょう。

自然に関わる仕事ができる

都会での生活を送る人が憧れるのが、自然豊かな暮らしです。農業経営者となることで、毎日緑に囲まれた生活を送ることができるため、都会での暮らしに飽き飽きしている、都市はたまにいく程度で良いという場合は、農業経営者への転身を検討するのも良いでしょう。

都会暮らしを選んでいる人の中には、仕事のために仕方なく都会に暮らしているという人も少なくないものです。農業経営を通じて緑に囲まれた暮らしを実現することで、ゆとりあるライフスタイルを実現できるでしょう。

02近年の就農人口の変動

農業経営という言葉への注目とは裏腹に、実際に農業を生業とする人の数は年々減少傾向にあります。

農林水産省によると、個人経営の農業従事者は2022年時点で122万人と、前年の130万人と比較して8万人もの減少が見られます。

また、農業従事者のうちの86%は65歳以上の高齢者で、今後ますますその数は減少してくということが予想されます。

これは逆を言えばこれから農業経営を始めたいと考えている人にとっては、競合が少ない分チャンスでもあります。いきなりの農業というのはハードルが高いと感じる人もいると思いますが、適切なノウハウを学べば十分に成果を出せる可能性があります。

また、地方創生の一環として、各地方自治体では新規就農を支援する行政サービスなども充実しています。利用できるものは積極的に活用し、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

03農業経営を始める上で必要なステップ

農業経営を始める場合は、段階的に必要なステップをクリアしていく必要があります。
以下はそのステップを大きく3つに分けたものです。

経営や栽培方法のノウハウ取得

まず重要になるのが、農業経営や、農業の根幹である作物の栽培方法を取得することです。家庭菜園などの知見があっても、ビジネスとして農業を始めるとなると、全く異なる知識や経験が求められるものです。

本格的な農業の経験がない場合、農業大学校や農業法人などへの転職を通じて、農業経営者としてのスキルを身につける必要があるでしょう。

経営資金の調達

農業経営を実現するためには、初期投資や運転資金の調達も欠かせません。作物の種や苗を購入する費用や、農地を開拓するための道具や機器、収穫のための機材なども必要です。

農業を始めてすぐに作物が収穫できるわけではないため、成果が現れるまでの運転資金を確保する必要もあるでしょう。

農地の取得

作物を育てるためには、肝心の農地の取得も忘れてはいけません。農地の購入や借用のためには、農地の貸し手を探したり、法律に基づき市町村農業委員会の許可を受けたりといった手続きも必要です。

本格的な農業経営には何かと事前準備に時間がかかるため、思いついてすぐに農業を始められるわけではない点は注意しましょう。

04農業経営を儲かるビジネスに育てるポイント

農業経営を本格的に展開する場合、経営者としての判断やスキルが問われることとなります。そのためには農業の収益化が不可欠ですが、経営を軌道に乗せるためのポイントについて、ここで解説します。

消費者目線の思考を身につける

農業に限ったことではありませんが、農業におけるビジネス意識が高まっている中で、消費者目線の重要性が指摘されています。

ビジネスの現場ではよく自分(自社)が得意とするものやサービスを販売するも、お客様の評価は上がらず失敗に終わるケースがよく指摘されていますが、これは農業経営にも当然当てはまります。重要なのは、あくまでも消費者が求めているもの、あるいは潜在的なニーズがあるものを見抜き、それを商品やサービスとして提供するにはどうすれば良いのかを考えるという順番です。

付加価値をつけるための取り組みに着手する

また、農業はただ従来のやり方を踏襲しているだけでは、生産効率やブランド化の面からは成果が期待できず、事業として軌道に乗せるためには時間がかかります。

いわゆる付加価値をどのようにつけるかですが、近年の取り組みとしてはスマート農業の採用にも注目が集まっています。

スマート農業は、先進的なロボット技術やIoTを活用したセンシングなどによって、少人数でも大規模な農地を管理したり、高度な農作物の管理を実現し、高い品質の作物を栽培したりするといった取り組みです。

少子高齢化が進み、働き手の不足が深刻な農業において、テクノロジーの活用は今後欠かせない取り組みとなります。少しでも早くからスマート農業に取り組むことができれば、ノウハウを早期から蓄積し、競合との差別化を進められます。

安定した収入源を確保する

農業は安定して作物が育てば問題はありませんが、自然環境や世界情勢に大きく左右されやすい業種でもあります。農業を主軸としながらも、出来高にかかわらず安定した収入を確保できる手段があればリスク回避に役立ちます。

安定した収入源確保の手段として、近年注目されているのがソーラーシェアリングです。農地に支柱を取り付け、耕作地への影響を最小限にしながらソーラーパネルによる太陽光発電を行い、余剰電力を販売するという取り組みは、農業従事者にとっての新しい選択肢となり得ます。

農業と発電の両立を実現したパイオニアとして注目されている、大学発ベンチャー企業経営者の馬上丈司さんは、自ら1.2MW(メガワット)という大規模なソーラーシェアリングを実践し、その成果に期待を寄せています。

ソーラーシェアリングの発電効率の高さやその経済効果は高く、収入が安定しない農家を支える経済基盤となる可能性もあるでしょう。馬上さんのインタビューについては、以下のページよりご確認ください。

関連記事馬上丈司さんに聞く!自らソーラーシェアリングを実践する理由とは?

055. 活用したい主な新規就農者支援の取り組み

農業経営を自らスタートするためには、それなりの経済的負担が発生しますが、各種就農支援サービスを活用すれば、その負担も軽減できます。

活用すべき主な新規就農者支援について、解説します。

就農準備資金・経営開始資金

農林水産省は、新たに農業者となることを希望する人に対して複数の金銭的なサポートを提供しています。

例えば「就農準備資金」を活用することで、都道府県が認める農業大学校等の研修機関等で研修を受ける就農希望者に、最長で2年間、月12.5万円の交付をおこなっています。

あるいは「経営開始資金」を活用すれば、農業経営を始めてから経営が安定するまでの最大3年間、月12.5万円(年間150万円)を定額交付してもらうことができます。

・就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)(農林水産省)

経済基盤が安定しないスタート当初をサポートしてもらえるのは、心強い限りです。

各都道府県の支援

国からのサポートだけでなく、各地方自治体の支援にも注目してみましょう。例えば千葉県佐倉市では、就農希望者に対して必要経費の1/2以内、最大で30万円の補助金を提供してい ます。

・佐倉市で新たに農業を始めたい方へ (千葉県佐倉市)

あるいは北海道新ひだか町においては、新規就農希望者は適切な教育機関で農業研修が受けられるだけでなく、月額最大21万円の支援金も受けられるなど、制度が充実しています。

・就農支援について(北海道新ひだか町)

自身の目的や生活に合った支援を探し、積極的に活用しましょう。

民間支援

行政や自治体だけでなく、独自に支援を行なっている民間団体もあります。全国新規就農相談センターなどの各地の農業法人では就農者向けのインターンシップを展開し、農業体験やノウハウの共有が受けられます。

また、高級イチゴの販売を手掛ける株式会社GRAでは、新規就農を支援するための学習プログラムを展開するだけでなく、マーケティングなどのノウハウも提供するなど、農業経営を前提とした就農者サポートに勤めています。

必要に応じて民間のサポートも有効活用しながら、農業経営のスタートを切れることが理想です。

06まとめ

農業従事者の数が少なくなる中、従来の農業経営のあり方を見直し、次世代農業に取り組むことでビジネスのチャンスをつかもうと動き出している人もいます。農業に限らず、新しい 技術や知識を学ぶことの重要性は日に日に高まっている中、例え農業経験がこれまでになくとも、各地で充実している研修制度や教育プログラムを利用することで、今からでも十分農産業に挑戦することができます。

自身が農業経営を通じて実現したいことは何なのか、どんな農業ビジネスを手掛けたいのかを考えながら、正しい就農アプローチを考えてみてはいかがでしょうか。

<参考>
新・農業人ハンドブック2021(農林水産省)
スマート農業の展開について(農林水産省)
農業労働力に関する統計(農林水産省)

SHARE シェアする
  • LINE
  • Twitter
  • Facebook
KEYWORD この記事のキーワード