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有機農業(有機栽培)とは?メリット・デメリットや利用できる補助金を解説

有機農業とは、化学肥料・農薬に頼らず、食の安全や環境に配慮した農業のことです。商品価値の高い農作物を栽培できるのに加えて、土壌汚染や生物保全の観点からも注目されています。

本記事では、農家に向けて有機農業の定義と概要、無農薬栽培との違い、世界と日本の現状などを解説します。これから有機農業に取り組むべきかを判断するためにも、本記事でメリット・デメリットや利用できる補助金について理解しましょう。

01有機農業(有機栽培)とは?

まずは、有機農業の定義や概要、無農薬栽培との違いについて解説します。有機栽培と無農薬栽培は混同しやすく、禁止されている表記などもありますので、こちらで明確にしておきましょう。

定義と概要

有機農業の定義は、「有機農業の推進に関する法律」によると次の通りです。

●           化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
●           遺伝子組換え技術を利用しない
●           農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する

引用:【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~(農林水産省)

つまり有機農業とは、環境に負荷をかけずに土壌本来の生産力を発揮させる栽培方法です。有機農業は、化学肥料・農薬に頼らない分、安全で商品価値の高い作物が栽培できるといわれています。ただし、十分な土壌作りや農作物の管理を実施しないと、思ったような品質の作物を栽培できないため注意が必要です。

また、「有機農作物」「オーガニック」と名乗るには、登録認証機関より有機JAS認証される必要があります。無断での表示や紛らわしい表現は、法律で禁止されているため注意しましょう。

無農薬栽培との違い

有機農業はJAS認定の農薬であれば使用できます。一方、無農薬栽培はまったく農薬を使用しない農業です。しかし、現状は無農薬を証明する厳格な基準・規定はありません。過去に使用した農薬が土壌に残留していたり、近隣の畑から農薬が飛散したりしている可能性もあるためです。

そこで無農薬に代わる表記として用意されているのが、「特別栽培農産物」という名称です。特別栽培農産物とは、農薬や化学肥料の使用量を減らした農作物のことです。特別栽培農産物と認定されるには、その地域の慣行レベルと比較して、次の基準を満たしている必要があります。

● 節減対象農薬の使用回数が50%以下
● 化学肥料の窒素成分量が50%以下

「無農薬」「無化学肥料」と表示するのは禁止されています。無農薬栽培を実施したいのであれば、特別栽培農産物の基準をクリアして、次のように表示しましょう。

● 「農薬:栽培期間中不使用」
● 「節減対象農薬:栽培期間中不使用」
● 「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」

02有機農業の現状

ここからは、世界と日本の有機農業の現状を解説します。日本で有機農業が普及しづらい理由も紹介していますので、取り組みを検討している方は参考にしましょう。

世界的に有機農作物の売上が上昇している

農林水産省の有機農業をめぐる事情を参考にすると、世界の有機食品売り上げの推移は次の通りです。

出典:有機農業をめぐる事情(農林水産省)を元にRe+編集部作成

グラフを参考にすると、2001年から2020年にかけて世界の有機農作物の売上が210億ドルから1290億ドルにまで増加しています。20年間で約6倍にも成長しており、世界的に有機農作物の需要が高まっているのがわかります。

01日本でも有機農業の関心が高まりつつある

日本でも有機農業の関心が高まりつつある

農林水産省の有機農業をめぐる事情を参考にすると、国内の有機食品市場規模の状況は次の通りです。

推計年度
2009年
2017年
「ほぼすべて有機食品を購入している」一世帯の月平均の有機食品購入額11,800円10,750円
「ほぼすべて有機食品を購入している」人の割合0.9%1.68%
国内の世帯数4,900万世帯5,340万世帯
国内の「ほぼすべて有機食品を購入している」人の有機食品購入額624億円1,157億円
国内の有機食品市場規模の推計1,300億円1,850億円

出典:有機農業をめぐる事情(農林水産省)を元にRe+編集部作成

表を参考にすると2009年〜2017年にかけて、国内の有機食品の売り上げは550億円も増加しています。国内でも市場規模が拡大しているのがわかります。

10年間の国内の有機農業取り組み面積は次の通りです。

出典:有機農業をめぐる事情(農林水産省)を元にRe+編集部作成

生産者側でも、有機農業に取り組んでいる農家が少しずつ増加しているのがわかります。しかし、全国の耕作面積から見るとわずか0.3%(有機JAS認証を取得している農地)であるのが現状です。世界では最も面積割合が大きいのはイタリアの16.0%であり、世界的に見ても日本の取り組み面積は下位の結果となっています。

海外と比較し国内で有機農業が普及していない理由については次の章で解説します。

日本で有機農業が普及しない理由

農林水産省の有機農業をめぐる事情を参考にすると、農家が有機農業に取り組まない理由は次の通りです。

出典:有機農業をめぐる事情(農林水産省)を元にRe+編集部作成

グラフを参考にすると、国内で有機農業が普及しない多くの理由は、「人手が足りない」「手間がかかる」ことが原因であると考えられます。消費者ニーズに合わせて、有機農業の市場を拡大していくには、なによりも人手不足を解決する必要があるでしょう。

03有機農業のメリット

有機農業には慣行農業に無いメリットがあります。有機農業の取り組みを前向きに検討するためにも、メリットについて理解しましょう。

安心感と商品価値の高い農作物を生産できる

有機農作物は化学肥料・農薬を使わないため安心感があり、「安心して食べられる食品を購入したい」という消費者心理に応えることができます。また、有機農作物は「慣行栽培の農作物よりも美味しい」という声もあります。有機農作物が美味しくなる理由は、農作物の本来の速度で成長し、旨みを十分に蓄えるためです。

国際環境NGO グリーンピース・ジャパンの有機農産物と農薬に関する 消費者意識調査を参考にすると、消費者が有機農作物に感じている魅力は次の通りです。

このように有機農作物は、「安心しておいしく食べられる」という消費者ニーズに応えることができます。

環境に配慮した農業経営ができる

有機農業は、化学肥料・農薬を使用しないため土壌環境や生態系を守ることにつながります。化学肥料・農薬による土壌汚染が無くなるため、その土壌そのものや土壌に住む虫、土壌に住む虫を食べる動物などを守ることができるためです。SDGsが注目されている現代では、時代のニーズに沿った栽培方法といえるでしょう。

サステナブル(持続可能)な地球環境に貢献する農業の一つとして、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電設備)という取り組みもあります。詳細を知りたい方は、ぜひこちらを参照してください。

関連記事注目のソーラーシェアリング。導入件数増加の理由とは?

慣行農作物との差別化ができる

有機JAS認定を受けることができれば、有機JASマークを表示できるようになり、慣行農作物との差別化を図ることができます。

有機JAS認定を受けるための基準の一例をあげると次の通りです。

● ほ場は周辺から化学肥料・農薬が飛来しないように明確に区分すること
● 採取場は、周辺から使用禁止資材が飛来しない区域で、化学肥料・農薬を使用していない期間が3年を超えていること

厳しい規定はありますが、食の安全やオーガニックにこだわる消費者に一目でわかるアピールができるようになります。
出典:有機農産物の日本農林規格(農林水産省)

新たなビジネスにつながる

有機農業の取り組みが軌道にのれば、新たなビジネスにつながる可能性があります。有機農作物を売りにしたレストランや小売店への販路に加えて、有機農業の取り組みの体験をできるグリーンツーリズムや有機農作物を販売するイベント開催などが例にあげられます。

実際の例をあげると次の通りです。

「自然が真ん中」入門有機農業講座有機農業の体験・説明、新規就農の相談などを受けることができる
「オーガニックフェスタinいわて」の開催有機農業の農作物や加工品の展示会。消費者理解の向上・販路の確保・販売価格の安定化などにつなげることができる

出典:「自然が真ん中」入門有機農業講座(愛媛県グリーン・ツーリズム推進協議会
出典:オーガニックフェスタinいわて2022(岩手県有機農業連絡協議会)

04有機農業のデメリット

有機農業にはデメリットもあります。コストの増加や収穫量の減少、限られた販売ルートなどデメリットを理解したうえで、有機農業の取り組みを検討しましょう。

害虫・雑草の対策など人手と手間がかかる

化学肥料・農薬を使用しない分、害虫対策や雑草除去などの人手と手間がかかります。
前述したように農林水産省の調査によると、次の理由で有機栽培の取り組みを拡大できない農家が多いです。

● 人手が足りない:47.2%
● 栽培管理の手間がかかる:44.5%

参考:有機農業をめぐる事情(農林水産省)

農作物の収穫量が少ない

有機農業は、慣行栽培と比較し生育がゆっくりで手間もかかるため収穫量が少ないです。
そのため、次のように販売価格も高くなる傾向があります。

品目
国産標準品(円/kg)
有機栽培品(円/kg)
だいこん
204
315
にんじん
394
685
キャベツ
178
291
たまねぎ
296
536
トマト
607
1,078

出典:有機農業をめぐる事情(農林水産省)を元にRe+編集部作成

収量の減少と価格を上げざるを得ない点は有機農業の課題の一つといえますが、一方で、コスト上昇分以上に価格を上げることができれば収入の拡大を実現することもできます。単に、有機農業に取り組むだけでなく、販売戦略もセットで検討することが重要です。

販売ルートが限られる

有機農作物の市場が拡大ししつありますが、有機食品を取り扱っている流通・加工業者は2割と、まだまだ販売ルートは限られています。

その反面、農林水産省によると、「今後の国産有機食品の取り扱いを増やしたい」と考えている流通・加工業者は60.6%であり、半数を超える結果となっています。有機農作物の安全性や食味の良さを飲食店や直売所、オンラインショップなどでアピールしていけば、販路拡大のチャンスはあるでしょう。

出典:有機農業をめぐる事情(農林水産省)

05有機農業の補助金

有機農業には、国から取り組みを支援する補助金が公募されています。有機農業に興味はあるが資金面に不安があるという方は、有機農業の補助金について押さえておきましょう。

みどりの食料システム戦略推進総合対策

みどりの食料システム戦略推進総合対策では、次の項目に分けて支援を実施しています。

● モデル的先進地区の創出:地域全体で有機農業を取り組む自治体に対して、販路拡大や流通の効率化などの支援する
● 人材育成や需要喚起等を通じた現場の取組の推進:有機農業を人材育成や人材確保などで支援する
● クリーンな栽培体系への転換サポート:環境負荷を軽減する栽培技術など産地に適した技術検証・定着を図る取り組みを支援する
● 有機農産物の販路拡大、新規需要開拓の推進:農業者と事業所のマッチングなど販路の拡大や需要の拡大を支援する

環境保全型農業直接支払交付金

環境保全型農業直接支払交付とは、地球温暖化や生物保全など環境に配慮した農業を支援します。

交付単価の一例をあげると次の通りです。

● そばなどの雑穀や飼料作物以外:12,000円/10a
● そばなどの雑穀や飼料作物:3,000円/10a
● 有機農業の拡大を行う農業者団体への支援:4,000円/10a

補助金が気になる方は、農林水産省の補助金公募ページをチェックしましょう。

06まとめ|有機農業に挑戦するならメリット・デメリットを正しく理解しよう

有機農業には、「人手が足りない」「コストがかかる」などの課題が存在します。しかし、食の安全性を高めるのに加えて、土壌汚染や生態系の保全につながり社会的意義もあります。

SDGsなどで食の安全や持続可能な農業の促進が問われている現代では、有機農業に取り組む意義は高まっていくでしょう。有機農業を実施したい方は、本記事で解説したメリット・デメリットを十分に加味しながら、自分が取り組んでいきたい農業の形であるのかを検討しましょう。

【参考】
【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~(農林水産省)
有機農業・有機農産物とは(農林水産省)
有機食品の検査認証制度(農林水産省)
特別栽培農産物に係る表示ガイドライン Q&A(農林水産省)
特別栽培農産物に係る表示ガイドライン(農林水産省)
有機農業をめぐる事情(農林水産省)
有機農産物と農薬に関する 消費者意識調査(国際環境NGO グリーンピース・ジャパン
有機農産物の日本農林規格(農林水産省)
「自然が真ん中」入門有機農業講座(愛媛県グリーン・ツーリズム推進協議会)
オーガニックフェスタinいわて2022(岩手県有機農業連絡協議会)
有機農業の取組拡大に向けた各地の取組事例集(農林水産省)
環境保全型農業直接支払交付金(農林水産省)
補助事業参加者の公募(農林水産省)

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