2023.10.5
ドローンによる農薬散布のメリット・デメリット|料金相場も紹介
農家の高齢化や担い手不足などにより、農作業の負担軽減・効率化は喫緊の課題となっています。こうしたなか、農作業へのドローン活用が普及しつつあります。なかでも、重労働かつ健康へのリスクもある農薬散布に対して、ドローンを活用することに多くの農業従事者が注目しています。ただ一方、導入すべきか否かの判断を迷っている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事ではドローンによる農薬散布について、注目される背景、メリット・デメリットについて解説します。さらに、ドローン購入と代行サービス利用とどちらがいいか、料金相場まで紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
01ドローンによる農薬散布が注目される背景
まず、ドローンによる農薬散布が注目されている背景について解説します。
現在、日本の農業は農家の高齢化や若年層の都市部への流出などにより、深刻な「担い手不足・労働力不足」に悩まされています。現役の農業従事者は高齢化によって広大な農地の耕作や管理が困難となり、新たな担い手も時間的な拘束や負担の大きさから就農を敬遠しているのが実情です。
こうした背景のもと、従来は重労働である農薬散布の作業負担を軽減し、より短時間で完了できるドローンを用いた農薬散布が注目されています。
また、農林水産省を基軸とした「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」の発足からも、国が農業へのドローン普及に注力していることが分かります。
02ドローンによる農薬散布のメリット
ドローンによる農薬散布のメリットを4つ紹介します。
・作業負担を軽減できる
・作業時間を短縮できる
・農薬散布を安全に行える
・生産管理や害獣管理に応用できる(ドローン購入の場合)
作業負担を軽減できる
ドローンを用いることで、従来の農薬散布にかかる作業負担を大幅に軽減できます。
従来の方法では、農薬で満たされて重くなった噴霧器を担ぎ、広大な農地を歩き回りながら散布しなくてはなりません。作物を踏み倒さないように注意を払う必要もあります。
対して、ドローンによる農薬散布であれば作業者は定位置で操作を行うだけであり、農地に踏み入ることなく作業を完了できます。
作業時間を短縮できる
作業時間の短縮もドローンを用いて農薬散布を行うメリットです。農林水産省の報告によると、動力噴霧器で1ヘクタール当たり約2時間かけていた農薬散布をドローンで代行することにより約15~30分で完了できたという事例があります。作業時間を実に1/8~1/4に短縮できたことになります。
農薬散布を安全に行える
ドローンを用いることで、作業者の安全性が増します。従来の方法では、至近距離での散布を行うため、防護服を着用していたとしても霧状の農薬に触れたり、吸い込んだりしてしまうリスクは避けられません。対してドローンによる農薬散布であれば、遠隔操作により一定以上の距離を保った作業を行えるため、作業者の安全性が高まります。
生産管理や害獣管理に応用できる(購入やレンタルの場合)
ドローンを購入またはレンタルした場合、下記のように生産管理や害獣管理に応用できる点もメリットといえます。もちろん、それぞれに対応した機能をもつドローンであることが必要です。
● 生産管理
空中撮影機能を用いれば、生育ムラ・葉の色・草高・倒伏などを把握できます。リアルタイム映像での確認に加えて、画像や動画の撮影も可能です。一連の作業をセンシング作業と呼びます。これにより、病気や害虫による被害拡大を予防できます。
● 害獣管理
農地に害獣が近づいていないかを確認します。赤外線サーモグラフィーカメラを搭載すれば、夜間の監視も可能です。またドローンの機体種類によっては、超音波やサーチライトを用いて害獣への威嚇を行えるものもあります。
03ドローンによる農薬散布のデメリット
ドローンによる農薬散布のデメリットを4つ紹介します。
・購入・代行ともにコストがかかる
・周辺への配慮が必要
・使用可能な薬剤が限られる
・各種申請の手間がかかる(ドローン購入の場合)
購入・代行ともにコストがかかる
ドローンによる農薬散布を行う場合、購入・代行のどちらにおいても相応の費用がかかります。購入の場合は、1台あたり60万円~200万円程度で、メンテナンスなどの維持費もかかります。代行の場合は、1ヘクタールあたり約2万円以上必要になります。自社(自分)でこれまで通りの作業を実施した際の手間と、これらのコスト・手間削減を比較する必要があるでしょう。いずれにしても、自ら行うよりはコストが増すことは明らかです。
周辺への配慮が必要
ドローンによる農薬散布を行うにあたり、周辺の農地・居住者に対する配慮が必要です。
ドローンによる農薬散布は、濃縮された薬剤を細かな霧状にして散布します。その際、空中で水分が蒸発するにつれて液滴が軽くなり、周囲に飛散(ドリフト)しやすくなってしまうのです。その結果、非対象物へ付着してしまいかねません。特に隣接する農地で無農薬・減農薬栽培をしている場合は、要注意です。
使用可能な薬剤が限られる
農薬散布を行う場合、農薬取締法に定められた農薬に限って利用することが定められています。また、使用できる作物名・使用時期・使用量・使用方法などの「使用基準」が細かく定められており、遵守しなければなりません。
散布機としてのドローンによる利用が認められた農薬はまだ限られており、登録数の拡大が図られています。散布をする場合は、ドローンによる利用が認められているか、注意するとよいでしょう。詳細は農林水産省のホームページを確認してください。
各種申請の手間がかかる(ドローン購入の場合)
農薬散布でのドローン活用に特定の免許や資格は必要ありませんが、国土交通省に対して以下の各種申請手続きの手間が発生します。ただ、元々は個別システムで受付けていた各申請を、2022年12月以降は「ドローン情報基盤システム(DIPS2.0)」上で全て行えるようになったため、負担は多少軽減されています。
● 機体登録
国土交通省が管理するドローン登録システムへの登録手続きです。基本的には本人が実施しますが、代理申請サービスも利用できます。
● 飛行許可申請
航空法に基づき、事前に国土交通省へ許可・承認の申請を行うことが必要です。申請代行サービスを利用できます。
● 飛行計画登録
飛行日時や経路などを登録しなければなりません。登録は作業を実施する都度、web上で行います。
04ドローン購入と代行サービスのどちらがいいか
ドローンによる農薬散布を行うにあたり、購入か代行サービスかを迷う方も多いのではないでしょうか。
あくまでも目安ですが、一般的には作地面積が5ha以上である場合はドローン購入の検討余地があるとされています。あわせてドローンを販売する事業者などが開催する「ドローン体験会」へ参加し、「自分で操縦できそうか」を基に判断するのも有効です。
また、初めは代行サービスを利用して専門業者が行う作業を見た上で、自ら運用できそうなら購入するという方法もおすすめです。
05ドローンによる農薬散布の料金相場
ドローンによる農薬散布の料金相場を、購入と代行サービスに分けて紹介します。
ドローンを購入する場合の料金相場は、1台あたり60万円~200万円程度です。農薬散布のみを行える機体の場合は比較的安価であり、肥料散布・播種・センシングなど機能が増えるほど高価になります。もちろん、メンテナンスや農薬代などは別途必要です。
代行サービスを利用した場合の料金相場は、1反(10a)あたり2,000円~3,000円です。つまり、20haであれば40万円~60万円となる計算です。また、散布面積の広さに応じて、ボリュームディスカウントを行ってもらえるケースもあります。
06まとめ:作業負担を減らしつつ安定した収入を得るために
作業負担を軽減し、より短時間で完了できるドローンによる農薬散布が注目されています。
ドローンによる農薬散布のメリットは、「作業負担の軽減・作業時間の短縮・安全性の向上・その他管理への応用」の4つです。対してデメリットとして「コスト増・周辺への要配慮・薬剤の制限・申請の手間」の4つを紹介しました。導入検討時の判断にお役立てください。
また、ドローンによる農薬散布を導入する際には、購入か代行サービス利用かを迷うことも多いようです。本記事では、まずは代行サービスを利用し、自らで運用できそうであれば購入という流れを推奨します。
ただし、いずれにしてもドローンによる農薬散布導入も含めてICT技術の利活用による農業の効率化を図るためには、相応の費用負担が欠かせません。
こうしたなか注目されているのが、「ソーラーシェアリング」です。ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、従来通りの農畜産業を営みつつ太陽光発電を行う取り組みです。農林水産省による推進・支援もあり、全国的に広がりつつあります。
ソーラーシェアリング導入により、作業に必要な電力を自ら賄うだけでなく、売電で得られた副収入をドローンによる農薬散布のような新たな効率化策に投資するといった選択も行えるのです。
ぜひ、こちらの記事もあわせてご覧ください。
【参考】