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なぜ種苗法は改正されたのか?種子法との違いや改正の反対理由も解説

種苗法とは、農作物の特許のようなものであり、国に登録された新品種を守るための法律です。品種登録することで、国内外問わず許可のない栽培や流出を防ぐことができ、健全な形での農業の発展へと導くことが期待できます。

本記事では、農業者に向けて、種苗法の概要や改正された背景、改正内容、反対意見がある理由などを解説します。「改正は農業経営にどのような影響があるのか?」「改正案が賛成と反対の意見に割れていたのはなぜか?」といった疑問を持っている方は、ぜひ参考にしてください。

01種苗法とは

そもそも種苗法とはどのような法律なのでしょう。まずは種苗法の概要や違反事例、種子法との違いなどを解説します。

概要

種苗法とは、農作物の品種を育成者の許可なく栽培・増殖させないための法律です。特定の品種を健全な形で栽培・流通させて、農業全体の発展を目的としています。

育成者とは特定の農作物を開発した人のことです。農林水産省に品種登録を出願し、承認された場合育成者権を得ることができ、品種登録された農作物の栽培・増殖をする権利を専有できます。

つまり品種登録された農作物は、育成者権を持つ人の許可なく栽培・増殖・流通できないということです。なお、育成者権の効力がある期間は25年または30年です。

違反事例

種苗法の違反事例には次のようなものがあります。

● 2012年4月:愛知県の農家が個人的に購入した「つや姫」の玄米から無許可で種苗を増殖させてWebサイトで販売
● 同年7月:県職員により警察へ通報され被疑者は逮捕後に起訴
● 同年10月:地方裁判所により懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円の有罪判決

種苗法と種子法の違い

種苗法とは、農作物の品種を登録して権利を守るための法律です。一方、1952年5月に制定された種子法は、戦後の食糧不足解決のためにできた法律であり、米・麦・大豆などの主要作物を安定生産することを目的としていました。

種子法は、農作物の原種(種子の親種)・原原種(原種の親種)などの生産を全ての都道府県に義務付け、品質の良い種子の生産や普及を図っていました。その結果、各都道府県では高品質なブランド米の開発・提供が積極的に行われてきました。

しかし、法制定から60年以上経過した現代では、種子の生産技術や品質も向上し、米の供給不足も解消されています。また、中食や外食などの需要が伸びている現代では、高価格なブランド米よりも低コスト品種が求められるなど多様化するニーズに対応できなくなっていました。

このような中、時代のニーズに応えるために、種子生産を義務付ける種子法は2018年4月に廃止されたのです。現在では、都道府県だけでなく民間企業も種子生産に参入しやすいように環境が整えられています。

02種苗法改正が実施された背景

種苗法は一部改正されており2020年12月に成立・交付されています。その後、主な条文が2021年4月および2022年4月に施行されました。ここからは、種苗法が改正された背景について 解説します。

国内の優良品種が海外に流出

種苗法改正に至った背景の一つに、国内の優良品種が海外流出したことがあげられます。長い年月と多額のコストを費やして開発した優良品種が海外流出してしまうと、日本の農業市場の発展に支障が生じます。新たな市場の獲得が喪失されて、さらに第三国での市場獲得も喪失してしまうためです。

このような育成者権の侵害を立証するには、品種登録した時点の種苗と比較して栽培をする必要があるなど、育成者権の効力が発揮されづらい事態も生じていました。

育成者権の効力が発揮されないと、国内の品種開発の促進や新品種の保護の妨げになります。育成者権の効力が適切に発揮され、海外流出を防ぐためにも種苗法の改正が実施されたのです。

優良品種の流出事例

国内の優良品種の流出事例には次のようなものがあります。

事例① シャインマスカット
シャインマスカットの苗木が流失して中国・韓国で産地化される。さらにタイ・香港・マレーシア・ベトナム市場で中国産・韓国産として販売される。
事例② 紅秀峰
サクランボ品種の「紅秀峰」がオーストラリアに流出して産地化される。山形県内農業者が紅秀峰を増殖させ、育成者権者に無断で種苗をオーストラリア人に譲渡した。

このような育成者権の侵害を防ぐとともに、新品種の開発投資が健全に農業者へ還元されるためにも種苗法の改正が必要となりました。

03種苗法の改正内容

種苗法の主な改正内容は次の通りです。

1. 海外への種苗の持ち出しが制限される
2. 国内の栽培地域が指定される
3. 登録品種の自家増殖は許諾が必要になる
4. 登録品種の表示が義務化される

それぞれ解説します。

海外への種苗の持ち出しが制限される

2021年4月1日から海外への種苗の持ち出しが制限できるようになりました。これにより、日本の優良品種の流出を防ぐことが可能です。種苗を海外へ持ち出す予定があることを知りながら、特定の人に譲渡した場合は刑事罰や損害賠償の対象となります。

育成者は、品種登録時に持ち出しの許諾が不要である国を指定する届出を行い、指定した国以外への持ち出しを制限します。ただし、指定できる国はUPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約)加盟国のみです。UPOV非加盟国への持ち出しは、届出の有無に限らず許諾が必要です。

また、制限をかけないこともできますが、事後的に制限をつけることはできないため注意してください。

国内の栽培地域が指定される

2021年4月1日から登録された品種は、国内で栽培できる地域を指定できるようになりました。育成者は品種登録時に栽培できる地域の届出を行い、指定した地域以外での栽培を制限します。指定した地域以外での栽培は育成者の許諾が必要です。

登録した品種の産地形成を推進するための制度であるため、特定の地域を必ず指定する必要があります。登録品種と栽培可能な地域の公表後に、届出地域を追加したり、制限を撤廃したりはできますが、事後的に制限を厳しくできないため注意してください。

登録品種の自家増殖は許諾が必要になる

2022年4月から登録品種を自家増殖する場合、育成者権を持つ人の許諾が必要となりました。自家増殖とは、農業者が収穫した農作物の一部を種苗として利用することをいいます。育成者権を持つ人は、増殖を許諾する条件を明確にして、登録品種の増殖実態が把握できるようにしましょう。

育成者権を持つ人が増殖の許諾を求めない場合、その旨を公表していれば他の農業者は許諾の手続きを実施せずに増殖が可能です。公表方法は、育成者権を持つ人が発行・管理しているカタログやホームページなどへの記載、または譲渡時に表示するといいでしょう。

育成者権を持つ人への増殖の許諾は、農業団体などが一括して受けることも可能です。種苗購入時の契約などに、許諾条件を取り決める方法もあります。なお、育成者権を持たない農業者が増殖させた種苗の譲渡に関しては、有償・無償問わず許諾が必要です。

登録品種の表示が義務化される

種苗業者は登録品種の種苗を譲渡する際に、その種苗が品種登録されているとわかるように表示することが義務付けられました。種苗本体またはその包装に表示しましょう。

「指定地域外での栽培制限がある」「海外への持ち出しに制限がある」など、利用条件も合わせて表示することが義務付けられています。加えて、「登録品種」「品種登録および品種登録番号」「PVPマーク(登録品種または出願中を示すマーク)」のいずれかを記載する必要があります。

義務表示の例は次の通りです。

04種苗法改正に反対の意見があるのはなぜか

種苗法の改正にあたり、許諾料により経済的な負担が増えたり、事務手続きが煩雑になったりするのではないかという懸念点があります。ここでは種苗法の反対意見について解説します。

経営が圧迫されるのではないかという懸念がある

種苗法の改正により育成者権が守られ、産地のブランド向上につながるという期待の声があります。一方、許諾料の支払いや手続きの複雑化により、農家経営が圧迫されるのではないかという不安の声も上がっています。

この懸念点に関する農林水産省の回答は次の通りです。

● 農業者がこれまで栽培してきた一般品種(在来種や登録期間の切れた品種)は、今後 も許諾の申請や許諾料は発生しない
● 自家増殖の許諾が必要になるのは国や自治体が開発し、登録された登録品種のみ
● 登録品種の許諾の手続きは、農業者の事務負担を増やさないために農業団体が一括して実施可能である

現状許諾料が高額になることは考えにくい

農林水産省は許諾料の設定に関しては、許諾に係るガイドラインで次のように設定しています。

● 農業者の経営に支障とならないように農業者の労務および経費の負担に配慮する
● 種苗法の改正にともない、許諾料を引き上げたり一方的に自家増殖を禁止したりする対応は望ましくない

種苗法の改正は、開発者が種苗費で収益を上げるためではなく、新品種を保護することを通して農業の発展を推進することが目的です。登録品種の許諾料が突然高額になるとは考えにくいでしょう。

なお、農業経営安定化の取り組みとして近年注目されているものの一つに「ソーラーシェアリング」という方法があります。ソーラーシェアリングとは農地に高さ3mほどの太陽光発電設備を設置して、従来通りの農業を営みながら同時に太陽光発電も行う取り組みです。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

昨今高騰する電力を自ら賄うことでコストを削減しつつ、売電で新たな収入源にすることもできます。ソーラーシェアリングに関心のある方は、実際に導入されている方にインタビューしたこちらの記事をお読みください。

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05種苗法改正は日本の優良品種を守り農業を発展させる

種苗法は、開発者が長い年月と多額のコストを費やしてきた優良品種の権利を守ります。登録品種が健全な形で栽培・流通することができれば、ブランド価値が高まり農業者の所得向上も期待できます。

ただし、品種登録をしたからといって、必ずしも海外流出や無断栽培・増殖を防げるわけではありません。明確な許諾の条件設定や増殖状況の把握なども必要です。育成者権を持つ人は、品種登録と同時に自らできる品種管理に努めましょう。

【参考】
種苗法(e-Govポータル)
改正種苗法について(農林水産省)
主要農作物種⼦法(種⼦法)の廃⽌について(農林水産省)
種苗法の一部を改正する法律の概要(農林水産省)
種苗法の改正について(農林水産省)
公的機関における開発品種の許諾に係るガイドライン(農林水産省)

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