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【事例付き】不耕起栽培とは?耕さない農法のメリット・デメリットとやり方を解説

不耕起栽培とは、ほ場を耕さないでそのまま種をまき農作物を育てる農法です。農作業の省力化や燃料削減、生物保全などさまざまなメリットがあります。土壌に炭素が貯留しやすくなるため、現在社会的な取り組みとして注目を集めている脱炭素化やCO2排出量削減効果も期待できます。

一方で除草労力やコストの増加、湿害リスクなどがあるため、デメリットへの対策も必要です。本記事では、不耕起栽培の概要から日本の現状、メリット、デメリットとその対策、やり方、事例までを解説します。

01不耕起栽培(農法)とは?

不耕起栽培とは、ほ場を耕さないでそのまま播種を行い栽培する農法です。慣行栽培とは違い播種前に農地を耕さないため、農作業の省略化や燃料削減、生物多様性の保全などに一定の効果があります。

また、CO2排出量を削減できる「脱炭素」の観点でも注目されています。脱炭素とは、地球温暖化の原因となるCO2などの温室効果ガスの排出量をゼロにする取り組みのことです。

土壌に含まれる炭素は、微生物により分解されCO2として大気に放出されてしまいます。一方で不耕起栽培は、ほ場を耕さないことで炭素などの土壌有機物の分解を抑制できるため、有機物が土壌に貯留しやすくなります。そして一部が微生物に分解されにくい土壌有機炭素になり、土壌から発生する温室効果ガスを削減できるのです。

02日本の不耕起栽培の現状

近年、不耕起栽培の研究が進んでおり、土壌や気象条件を整えることで慣行栽培と同等の収穫量の確保が実現しています。日本の不耕起栽培は、水稲・小麦・大豆・とうもろこしなどで一定の成果を出しています。

しかし、国内の小麦の不耕起栽培面積は、約1%と普及率は低いのが現状です。普及率が低い原因は、除草労力や除草コストの増大、湿害の発生(空気不足による生育障害)、粘土質土壌における土壌物理性の悪化(保水性・透過性・通気性などのこと)などのデメリットがあるためと考えられます。また、出芽・苗立の不安定性や水管理などの課題にも取り組む必要があります。

03不耕起栽培のメリット

不耕起栽培のメリットは次の通りです。

● 農作業の労力や燃料費を削減できる
● 耕起しないため地表の地耐力が高い
● 適地であれば土壌物理性が改善される
● 土壌炭素の貯留効果が期待できる
● 生態系を保全できる

それぞれ解説します。

農作業の労力や燃料費を削減できる

播種前に耕す作業がないため、作業時間や燃料費の削減ができます。事例をあげると次の通りです。

● 飼料用トウモロコシを栽培する農家:播種にかかる作業時間を半減、播種に必要な燃料費を1/5に削減
● 不耕起播種機を用いた水稲・小麦・大豆を栽培する農家:労働時間を70%削減、生産コストを40%削減

農業者不足や燃料高騰が問題となっている現代では、作業時間の短縮や燃料費削減は大きなメリットといえるでしょう。

参考:イタリアンライグラス跡地における飼料用トウモロコシの不耕起播種技術(農林水産省)
参考:不耕起播種機を用いて生産費を40%削減する 水稲-小麦-大豆輪作体系(農林水産省)

耕起しないため地表の地耐力が高い

不耕起栽培は、ほ場を掘り起こして土壌を柔らかくしないため地耐力が強くなります。地耐力が高いと次のようなメリットがあります。

● 直前に耕起しないため降雨による影響を受けにくく、すばやく播種を実施できる
● 耕起した土地よりも安定性があるため、収穫機などの農機具の操作性が向上する
● 稲や麦が倒れてしまう倒伏が起きにくい
● 土壌流出を抑制できる

適地であれば土壌物理性が改善される

不耕起栽培の適地においては土壌環境が改善します。不耕起栽培は、土のなかに有機物が残りやすく保水性・透過性・通気性を改善できるためです。

また、稲作農業においては不耕起栽培により養分と水分の通路となる土壌の亀裂や根跡の隙間が蓄積され、透水性が増加したという事例もあります。

一方、粘土質土壌で不耕起栽培を実施すると、土の隙間が少なくなりやすく土壌環境が悪化する可能性があるため、暗渠等の排水性の確保をする等、十分に注意しましょう。

土壌炭素の貯留効果が期待できる

図1:農地・草地土壌の炭素収支モデル
出典:農地による炭素貯留について(農林水産省)

不耕起栽培には土壌炭素の貯留効果があります。耕起しないことにより、土壌有機物の分解や土壌流出(風雨により土壌が徐々に減少すること)を防ぐことができるためです。

農林水産省によると、不耕起栽培の前後を比較すると、年間で「0.330~0.585tC/ha」の炭素貯留が認められたというデータがあります。土壌炭素は、農作物に養分を供給する重要な役割を果たしているため、農業の生産性の向上や安定化が期待できます。

また前述した通り、脱炭素の観点でもメリットがあります。耕さないことで土壌に多くの炭素などの有機物を固定でき、大気中へのCO2の放出を削減できるためです。

環境省のIPCC AR6 特別報告書によると人類起源の温室効果ガス総排出量のうち「農業、林業、その他の土地利用」によるものが23%を占めるといわれています。しかし不耕起栽培が普及すれば、巨大な炭素の吸収源として、地球温暖化を抑制する可能性を秘めているでしょう。

生態系を保全できる

ほ場を耕さないことで多様な生物を保全できます。不耕起栽培を実施する水稲農家では、次のような生態系を形成できた事例があります。

● 水中へ酸素と窒素を供給する藻類サヤミドロの発生
● 植物性プランクトンの栄養分となる糞を排出するイトミミズの繁殖

これらの生物の発生・繁殖は、環境保全はもちろんのこと、土壌に酸素・窒素・リンを供給できるため、農作物の品質向上も期待できます。

04不耕起栽培のデメリットとその対策

不耕起栽培のデメリットは次の通りです。

● 除草労力やコストが増えることがある
● 湿害が発生する可能性がある
● 土壌物理性を悪化させる可能性がある

デメリットへの対策も解説します。

除草労力やコストが増えることがある

不耕起栽培は雑草が繁殖しやすいため、除草労力やコストの増加が懸念されます。雑草の繁殖を抑制する対策として、除草剤のほかにほ場に麦わらを散布する方法があります。

麦わらを一定の大きさに裁断して、ほ場全体に均一に散布すると効果がみられるでしょう。散布した麦わらにより播種精度が低下する播種機も存在するため、事前の確認が必要です。

湿害が発生する可能性がある

不耕起栽培は発芽不良などの湿害リスクがあります。ほ場を掘り起こさない分、水はけが悪く滞水しやすくなるためです。播種後に雨が降ると播種溝に雨水がたまりやすくなるため注意しましょう。

明渠・暗渠・心土破砕(農地に切り込みを入れて水はけをよくする方法)などによって 排水性のある土壌を作るか、ほ場に深い切り込みを入れることができる不耕起播種機を導入する対策があります。

土壌物理性を悪化させる可能性がある

不耕起栽培は、土壌や気候条件によっては、土壌孔隙率(こうげきりつ)などの土壌物理性が悪化する可能性があります。土壌孔隙率とは、土の隙間のことで水や空気がある部分のことです。

土壌物理性の悪化は、保水性や根張り、有機物の活性を左右するため、農作物の成長に影響します。一方で、排水不良のある畑土壌で不耕起栽培を実施したところ、排水性が向上して収穫量が増加したケースもあります。一概に土壌物理性が悪化するとはいえないため、土壌や気候を考慮して、小さい規模からそのほ場に適した不耕起栽培を進めていきましょう。

05水稲(お米)の不耕起栽培のやり方

水稲の不耕起栽培の一例を簡潔に解説します。水稲の不耕起栽培にはいくつか種類がありますが、今回は耕起・代かき・育苗・移植作業を簡略できる不耕起乾田直播栽培を解説します。

1.品種選定不耕起乾田直播栽培は耐倒伏性が高まるため「コシヒカリ」「ハツシモ」などの倒伏しやすい品種も導入できる
2.ほ場選定排水溝や弾丸暗渠など実施しても排水性が低い土壌は避ける
3.ほ場準備土壌改良剤の散布・排水対策などを実施する
4.種子準備種子量を決定して、塩水選・種子消毒・催芽を実施する
5.播種4月中旬から5月中旬を目途に播種。安定した苗立ちをめざすために深度2〜3cmに播種機を調整する
6.施肥品種に合わせて種類や施肥量を調整する
7.雑草防除播種前・出芽前・入水前・入水後など必要に応じて実施する
8.水管理出芽までは地表面に滞水がないように細心の注意を払う
常時湛水でも生育には問題ないが、紋枯病の予防のために水がなくなったら入水が望ましい
9.病害防除品種に合わせて農薬や散布量を調整する
10.落水移植栽培よりも土壌が乾燥しやすいことで、品質が低下する可能性があるためできるだけ遅らせる
11.収穫収穫する

出典:不耕起乾田直播栽培(農林水産省)

06不耕起栽培の事例|作業時間とコスト削減を実現

日本で普及している不耕起栽培の農作物は、とうもろこし・小麦・大豆・水稲などです。ここでは、通常栽培と不耕起栽培の作業時間やコストの違いを実際の事例をもとに紹介します。

とうもろこし

不耕起播種機を導入して飼料用とうもろこしの不耕起栽培を実施した農家では、作業時間の短縮とコスト削減が実現しています。具体的には次の通りです。

通常栽培不耕起栽培効果
作業時間50分/10a10.4分/10a約80%削減
コスト19,391円/10a10,448円/10a約50%削減

出典:不耕起による飼料用とうもろこしの省力化栽培(農林水産省)

この事例では、慣行栽培と比較して堆肥散布・耕起・鎮圧・除草剤散布など作業を削減できたため、作業時間とコストの大幅削減が実現できました。さらに、慣行栽培と同等の収穫量と品質を実現しています。安定した不耕起栽培を実現できれば、少人数で大規模な耕作が可能となるでしょう。

小麦

不耕起栽培を実施した小麦農家では、作業時間の短縮とコスト削減、単収の増加を実現しています。具体的には次の通りです。

通常栽培不耕起栽培効果
作業時間6.2時間/10a4.2時間/10a約32%削減
コスト22,820円/60kg   15,583円/60kg約32%削減
単収152kg/10a308kg/10a約102%増加

出典:水稲の直播栽培、小麦の不耕起栽培の導入による省力・低コスト栽培体系の確立(農林水産省)

この事例では、農業者の担い手確保が困難である状況や、耕作放棄地の拡大が背景にあります。不耕起栽培による農作業の省力化は、農業者不足などの課題の解決策としても期待できるでしょう。

不耕起栽培は、大型の農機具を何度も入れずに農業ができるため、これまでと違う農地利用を検討できます。同じく耕作放棄地を活用した農業のカタチとして注目されているのがソーラーシェアリング(営農型太陽光発電設備)です。

ソーラーシェアリングとは

ソーラーシェアリングとは農地に架台を建て、その上にソーラーパネルを設置し、作物を育てながら太陽光発電を行う仕組みです。既存の農業収入に加え売電による収入の柱を得たり、電力の自前調達、荒れ地になった休耕地の活用にもなります。SDGsやエネルギーの確保が叫ばれる中、ソーラーシェアリングは社会的価値も高いソリューションです。
ソーラーシェアリングの詳細を知りたい方は、ぜひこちらを参考にしてください。

関連記事注目のソーラーシェアリング。導入件数増加の理由とは?

07まとめ:不耕起栽培を成功させるために土壌選定と排水対策と徹底しよう

不耕起栽培が成功すれば、農作業の省略化や燃料費の削減が実現でき、少ない人手でも規模の拡大につなげられます。農業の脱炭素化や持続可能な農業のためにも有効な手段の一つとなるでしょう。

不耕起栽培を成功させるには、湿害を防ぐために土壌環境にあった排水対策をする必要があります。また、土壌物理性の悪化の懸念があるため、播種前の土壌選定も重要です。

土壌や気象条件などがそろえば、慣行栽培と同等の成果を出している農家もあります。 小さい規模から取り入れて、そのほ場に適した不耕起栽培を進めていきましょう。

【参考】
水稲、小麦、大豆の輪作体系マニュアル(農林水産省)
農地による炭素貯留について(農林水産省)
「今後の環境保全型農業に関する検討会」 報告書(案)(農林水産省)
農地土壌が有する多様な公益的機能 と土壌管理のあり方(1)(農林水産省)
IPCC AR6 特別報告書(環境省)
不耕起播種機を用いて生産費を40%削減する 水稲-小麦-大豆輪作体系(農林水産省)
イタリアンライグラス跡地における飼料用トウモロコシの不耕起播種技術(農林水産省)
大豆の不耕起狭条密植栽培について(農林水産省)
冬期湛水・不耕起水稲栽培により 豊かな生態系を形成(農林水産省)
ウ.大豆の不耕起播種技術(農林水産省)
不耕起乾田直播栽培(農林水産省)
不耕起による飼料用とうもろこしの省力化栽培(農林水産省)
水稲の直播栽培、小麦の不耕起栽培の導入による省力・低コスト栽培体系の確立(農林水産省)

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