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家畜も育てる!ソーラーパネル下で広がるグリーンウィンドの循環型農業

香川県でソーラーシェアリングを実践する14代目農家の森岡さんが全国のソーラーシェアリング実践者(空シェア人)を訪ねる「森岡さんの空シェアめぐり旅」。今回は栃木県を中心に農薬・化学肥料・除草剤を一切使用しない農業と全国でも珍しいソーラーシェアリング下でアニマルウェルフェアに配慮した畜産に取り組む株式会社グリーンウィンド取締役の菅谷英位さんを訪ねました。ソーラーシェアリングと農業を組み合わせたチャレンジの根本にあるのは「水も空気も土も、子どもたちのカラダも汚さない」という基本理念。拡大するソーラーシェアリング事業の展望や、害虫対策や収量についてなど気になるポイントについてもお聞きしました。

01農業の安定を目指して

森岡: さっそくですが、ソーラーシェアリングを始めたきっかけや導入の経緯を教えてください。

菅谷: はい。私は農家の長男ですので、若い頃から勤めながら休みの間に農業を手伝ったりして農業に携わっていました。そのうち両親が高齢になり、「自分が農業を続けていかなくちゃいけない」と思った時に、グリーンウィンドの母体である株式会社グリーンシステムコーポレーションから営農型太陽光発電のことを聞き、「是非やってみよう」と初めたのがきっかけです。その頃は米の値段が毎年のように下がり続けていた時期でした。このままだと農業経営が危ないという時に、売電収入があれば農業も安定するだろうと考えたわけです。

森岡: 実際に導入してから見えてくるメリット・デメリットがあるかと思います。運用してみての所感も教えていただけますか。

菅谷: やはり太陽光パネルが農地に建つということで、最初はパネルの影によって作物の生育に影響があるんじゃないかと心配していました。それから柱が建つことによって農作業の効率にどう影響するのかも懸念していました。実際にやってみると、作物に関しては、米・麦・大豆にあった遮光率を調べて設計したので通常の栽培と変わらない収量を得られましたし、麦の等級については一等をとれています。農作業についても慣れるうちに違和感なく作業できましたね。

菅谷:農作業以外だと、農業委員会の方から賛同を得るのに最初は時間を要しました。栃木県で始めた時には、賛同を得るために勉強会などを開いて取り組みの説明をしてきましたが、それでもどうしても「営農型太陽光発電は本当にできるの?」とか、「影になって収量が落ちるんじゃないの?」という疑問はありました。そこは1年目、2年目、3年目…と作物を作って実績を積んでいくうちに、だんだんと「これは素晴らしい」と評価してもらえてきたかたちです。今では本当に協力的になっていただいています。やはり最初ですね。これは今後展開していく他県でもあると思うので、積極的に地元の方と情報を共有してやっていきたいなと思っています。

02ソーラーパネル下を家畜が歩く!

森岡: グリーンウィンドでは米や小麦、大豆以外にブタも飼っているそうですが、ソーラーパネルの下で牧草を育てているのでしょうか?

菅谷: ソーラーパネルの下を歩かせて、草を食べさせています。ソーラーパネルの下は作物を植えていない時には草が生えるので、そこにブタを放すことによって、その雑草をブタに食べてもらっているんです。もともとは人の手で除草をしていたのですが、放牧をするとブタがあっという間に草を食べきってしまうので、除草の手間がなくなりました。

ソーラーシェアリングの下を自由に歩き回るブタ

森岡: 全く手間がなくなるほどですか!

菅谷: そうです。以前は代行業者に草刈りを依頼することもありましたが、その必要もなくなったのでメンテナンス費の削減になりました。それに、人の手でやろうとすると除草剤を撒いて土の質を下げてしまうことがあります。除草剤を使っておきながら「太陽光発電で自然に良いことを…」と言うのは矛盾があると思いまして、うちでは草を家畜に食べさせ、そのフンがまた堆肥になって、と循環させることにしました。

森岡: そうなるとエサ代削減にも影響がありそうですね。

菅谷: 今はまだそれほど削減されていないですが、本当にあっという間に食べきってしまうので…。現在はブタだけでなくウシ・ヒツジも放牧させて、食べきったら別の場所へ移動させています。農薬、化学肥料 不使用の肥料でなるべく自給したいです。

森岡: 夢がありますね。

03クリーンな農業で自然が蘇った

森岡: ところで、牛舎の上にソーラーパネルをつける場合はウシのアンモニアによって機材が傷みやすいと聞いたことがあります。ソーラーシェアリングではそういった影響はありましたか?

菅谷: うちの場合は牛舎ではなく、数ヘクタールある広い土地にソーラーパネルを建て、その下で放牧しています。そのためウシがフンをする場所もまちまちで決まっていないんです。そしてそのフンをウシが踏むことで種が土の中に入り、また草が生えてくると。牧草地でのソーラーシェアリングでは、アンモニアの影響は今の所ないですね。昨今エサ代も高騰していますから自分たちで育てている麦や大豆をエサにして、さらにフンを堆肥にすることで循環型の農業をやっていこうとしています。

森岡: 僕も無農薬の農業をやっているのですが、麦には赤カビ病のリスクが大きいと思います。どう対策されているのでしょうか。

菅谷: 麦同士を50センチ程度の間隔を空けて植え、風通しがよくなるようにしています4年ほど麦を作っていますが、赤カビ病の発生は今の所ないです。

森岡: 風通しは重要ですね。しかしそれをすると収量は減るのでしょうか。

菅谷: そうでもないですね。慣行栽培より多く採れているところもあります。害虫についても、トンボやカエルが害虫をエサにしてくれるんです。7、8年くらい前は イナゴも減り、トンボも減り、ドジョウなんて見かけもしなかった。でも農薬を使わない農業を続けたことによって、始めて3年目くらいから太いドジョウや、 準絶滅危惧種のヤマアカガエル 、タガメやメダカ、イナゴも帰ってきました。虫をエサにするシラサギもクモも。それだけ薬剤は影響が強かったのかなと思っています。農薬を使わない農業を始めて自然環境が変わりましたね。

森岡: 昔はよく見かけていましたものね。素晴らしい取り組みです。

04社員にも子どもにも農薬を使用しない野菜を

森岡: グリーンウィンドで発電している電気はどのように利用されているのでしょうか?

菅谷: 売電している他は自社のビニールハウスで使って、そして災害時には地域の方に提供するようにしています。将来的にはビニールハウスのエアコン、保温や遮光のためのカーテン、冠水のモーターなどに使っていこうと考えています。これから建てる発電所については、大手の需要家などに電気を使っていただいて、そこで得られた販売の利益で農機を増やしたり、次の農地に投資したりしていこうと考えています。

森岡: いいですね。自分の畑で電気を作って、またその電気で農機も動かせて、となったらとても効率良さそうですね。福島県にある貴社の「風弥農園~羊の里」では6次産業化として採れた野菜や肉を施設内のレストランなどで提供していますよね。

菅谷: はい、自社生産の羊肉をビュッフェで提供しています。パスタやピザ生地の小麦もソーラーシェアリング農場で栽培された小麦を自社の栽培小麦専用の製粉所で小麦粉にしたものを使用しています。その他にも、社員の福利厚生のために収穫した 野菜を毎月社員に提供して、腸内環境をよくして元気に働いてもらいたいと思っています。

栽培した小麦は自社の「風弥農園製粉所」で製粉している

森岡: この6次産業化や福利厚生をはじめようと思ったきっかけはありますか。

菅谷: もともとは社長がアトピーの皮膚症状に苦しんで入院したことがきっかけでした。シャツに血が滲むほど症状が深刻な中、出会った医師がストレスフードではなく有機食品を食べることで腸内環境を良くしてデトックスするという治療法を提案してくれたそうです。そのお陰で社長自身は今すっかり元気になっているのですが、入院時に同じような症状で苦しむ子どもたちを目にしたことで、子どもたちにも社員にも農薬をしようしない作物を広めていかないといけないと、思い至りました。そこから6次産業化の取り組みや社員への福利厚生が始まりました。近年では、近隣の小学校給食への野菜の提供も始めています。

森岡: 素晴らしい取り組みです。

05若手人材がもたらした快挙

森岡: これからの取り組みや展望についてお聞かせください。

菅谷: 現在栃木県内で20数カ所営農型発電所があるんですが、今後は福島県と宮城県でもソーラーシェアリングを広めていく計画です。実際に計画は進んでいて、福島でも20ヶ所、仙台でも20ヶ所、今後は100ヘクタール規模で両県とも増えていきます。どうしても人手が必要なので、地元の方を雇って地元に貢献していくようなかたちで進めていこうと思っています。

森岡: 100ヘクタールはすごいですね!やはり今は担い手不足で、農業をされる方がそもそもいない話を聞くので、雇用で農業に携われるのは魅力的ですね。

菅谷: 後継者不足の問題は、農業の収入が少ないということが原因で起こっているのだと思います。そこで私達が魅力的な農業を提供することによって、農業の担い手が夢を持って農業を始められるようにしていければなと思っています。実際求人募集を出すと、若い世代からの応募が多いです。グリーンウィンドにも今年9名の新卒社員が入社したのですが、必ずしも農業大学出身ではなく、大学で環境問題に興味を持って、農業経験はなくとも入社したいという人が多かったんです。希望者が多くてこちらからお断りするくらいの状況でした。今そうした若手社員が全くの未経験から勉強して、土壌分析や設計といった業務で活躍しています。先日は日本有機農業普及協会主催の「オーガニック・エコフェスタ2023」の栄養価コンテストで最優秀賞をいただけたくらいです。

グループ会社の(株)グリーンシステムコーポレーションは「サステナアワード2021 脱炭素賞」を受賞

森岡: 農家の高齢化と耕作放棄地の問題は10年、20年も前から変わらずあって…という印象でしたが、今のお話を聞くと未来に希望が持てますね。

06これから営農型発電を始める方へ

森岡: 栃木県はソーラーシェアリングの許可実績が67件(2021年)で全国14位のようですが、今後もっと普及していくために必要なことはどんなことでしょうか。

菅谷: 私たちが営農型太陽光発電所を立てたのが4年前です。その頃は本当に周辺に米や麦を育てるソーラーシェアリングがありませんでした。あれから4年が経ち、栃木県で一気に広がってきたなという実感があります。必要な支援があるとすると、やはり国の支援ですね。一般的に太陽光発電の融資期間は20年。一方で農地の貸し借りは、認定農業者で10年、普通の農家だと3年が基本です。銀行から20年分の融資を受けようと思うと、普通の農家なら6回分の農地の許可証が求められてしまいます。そこまで先の許可証などは当然用意ができませんから、そこで融資が滞りやすいということがよく起こっています。太陽光発電はやはり日本が国として推し進めている事業でもありますから、このあたりのルールが変わっていくとよいと思います。あとは私の場合は個人ではなくグループ会社の株式会社グリーンシステムコーポレーションがソーラーシェアリングを建てて、それを個人が購入するというシステムです。このように法人を巻き込んで行えれば、ある程度、個人負担を少なくすることもできると思います。

森岡: 最後になりますが、新しくソーラーシェアリングを導入したいと思っている方へのメッセージやアドバイスがあればお願いします。

菅谷: 日本は脱炭素を掲げていますが、グリーンウィンドとしてもクリーンなエネルギーを発電しながら、その下で農薬を使わない農業をすることで、土壌や川の水、空気を再生して、次世代の子どもたちにもっと安心・安全な食料や仕組みを残したいと思って進めています。これから始める方にも、環境と若い世代のために、是非ソーラーシェアリングを導入してほしいと思っています。

森岡: どうもありがとうございました。

Morioka's comment
社員の福利厚生始め子供たちや環境の将来を考えた経営理念には深い感銘を受けました。
また、畜産系は法律等ハードルは高いものの『ソーラーシェアリング×アニマルウェルフェア』の考え方は非常にメリットが多く、様々な圃場形態に適応可能だと感じとてもワクワクします。

【株式会社グリーンウィンドについて】
「持続可能な農業で食環境を守る汚すものは使用しない」をモットーに、ソーラーシェアリングを活かした農薬、化学肥料、除草剤を使用しない農業や、放牧飼育で家畜のストレスを減らすアニマルウェルフェア、採れた野菜や肉を消費者へと届ける農業6次産業化などに取り組む。
https://green-wind.jp/

取材日:2023年4月
※掲載情報は取材時点のものです。

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