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次世代農業で注目されるソーラーシェアリング~200品種を栽培する森岡氏が成功のポイントを大公開

農業関係者が抱える様々な課題を打ち破り、次世代型の農業を打ち立てようとチャレンジしつづける篤志家たちがいます。香川県観音寺市で農業を営み、農業の高付加価値化や販路拡大に取り組んでいる森岡秀誠さんもその一人です。取り組みの一つとして、農業と太陽光発電を同じ場所で行う「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」を実践。約200品種を栽培しています。新たな農業形態を模索する農家はもとより、農業分野で起業を検討しているアントレプレナーも注目のソーラーシェアリング。社会への普及も目指している森岡さんに、実現・持続に至るまでの経緯と秘訣を聞きました。

01もっと農業の可能性に気が付いて欲しい

―森岡さんはいつから農業に関わっていらっしゃいますか?

うちは14代続く農家で、農業は生活の一部として育ってきました。進学や就職で一時は離れていたものの、僕にとってのルーツである農業の手伝いは続けていましたが、自身で作業をしたり、他の農家さんとお話ししたりするなかで様々な課題が見えてきました。そこで、本格的に農に関わる覚悟を決めて地元香川に戻りました。

―どのような課題でしょうか?

例えば、慣行農法ベースでお米作りの事業計画書を作成したところ、補助金等の制度を一切使わずに営農した場合赤字になるという試算がでました。これは健全な状況とはいえません。それに、農家の大半は作った作物を農協に出荷するか安価で朝市に出品するのみで、農家自身が社会的循環の輪の中に入れていないように感じていました。
このままでは次の世代や子供たちに農に魅力を感じてもらえなくなるのではといった危機感から、「小さな農家でもしっかり成り立つ状況を作っていきたい。」と思うようになったのです。

―具体的にどのようなことに着手しましたか?

まずは農協に卸す以外の選択肢を求めて自ら販路開拓を始めました。お客様の意見や需要を柔軟に取り入れ、お客様にも農の楽しさや厳しさを感じてもらえる仕組みづくりや、6次産業化の一環として古代米やハーブを加工してパッケージ化したり、お米を米粉に加工して小麦粉の代替品として販売したりもしています。

もう一つ、農業が成り立つ状況をつくるための現状打破の手だてとしたのが、ソーラーシェアリングでした。

02農業と発電の「両立」という理想像を描く

―ソーラーシェアリングはどのようにして知ったのですか?

実はソーラーシェアリングという言葉に出合う前から、頭のなかで同様の仕組みを描いていたんです。太陽光発電については、僕自身ドラえもんが好きでエネルギーを創りだす道具に憧れていたことなどから興味を抱いていました。「農業と太陽光発電を両立できないだろうか」と、いろいろ調べはじめたんです。

するとインターネットで、「ソーラーシェアリング」という仕組みがあるということ、すでに実践している人がいることを知りました。そこからは、「どうすればできるだろう」と、実現化を念頭に調べていきましたね。

―農業と太陽光発電を“両立”させることに意義を感じたのですか?

はい。地球環境の改善をしたいといったほかの理由も色々あるのですが、電気というエネルギーを利用することで色々なことに挑戦できますよね。食をつくる農業にも生かせるのではないかなと。両立できれば最高の仕組みになると確信していました。

―ネット以外では情報収集をどうされましたか?

ソーラーシェアリングについては当時四国ではほぼ情報が得られなかったため、情報を求めて最終的に東北方面まで足をのばしました。対象農地を絞ってからは、地元農家の方々の話を伺うことから始めました。それぞれの土地や気候に合う作物や農法があるので、ローカルな情報を吸収することは大切です。井戸端会議的に「水はどうしているのか」「農道はどう管理しているのか」など、農家の方々が長年培った知恵やルールに敬意を払いながら情報収集をした上で、ソーラーシェアリングがこの地域とどう融合していくかイメージしました。

こうした地元の方々とのやりとりには、別の効果もありました。なんの前触れもなくソーラーパネルを設置したら、みなさんを驚かせてしまったことでしょう。後出しで「実はこんなことを始めることにしまして」と伝えるより、理解を得てから事業を開始する方がはるかに得策だと思います。

03手順で重要となるのは許可取得

―ソーラーシェアリング開始まではどのような手順で進めましたか?

まず、市町村自治体の農業委員会に「営農型発電設備の設置に係る農地の一時転用」を申請し、許可を得ることが必要です。農地に設置する架台部分について農地を一時転用することになります。僕の場合、最初は10アール(1000㎡)の農地に対して約0.0008アールの一時転用を申請しました。申請では事業計画書などを提出します。

その後は県の許可を得ることになります。農業委員会から県担当者に申請内容を伝えていただき、県担当者から「この部分はどうなりますか」「排水は大丈夫ですか」などと聞かれたので、一つ一つ答えていきました。

農業委員会と県から許可を得られると工事可能となります。並行して太陽光発電施設の施工業者に設置依頼をしたり、事前に電力事業者と売電契約をしたりしましたが、やはり手順で重要なのは農地の一時転用許可取得ですね。

―許可取得の際に特に重視したことはありますか?

「発電でなく農業がメイン」と農業委員会に真摯に伝えることが、許可取得においては最重要と考えられます。一時転用の許可申請は3年ごとの更新を基本としていますが、太陽光発電設備はメンテナンスすれば20年以上は使い続けることができます。つまり、長く農業を続けることを踏まえると、「お米だけ」「モモだけ」のような単一品目の栽培よりも、複数種の栽培を想定して計画するほうが農業委員会の理解も得やすくなりますし、実際に営農する場合も、将来に対するリスクを低減することが可能です。

04ソーラーパネルの下で200品種以上を栽培、トウモロコシも育つ

―ソーラーシェアリングの状況をお聞きします。

2016年に10アールから始めて、現在は30アールとなっています。ソーラーパネルで日影ができるわけですが、その遮光率は30〜40%で藤棚のような感じです。

栽培している作物は、野菜・果樹・ハーブ合わせて200種類を超えます。実証実験は何年も重ねないと結果が出ないものなので、品種は緩やかに交代しながら少量多品目栽培を行っています。植物同士の相互作用といった自然のポテンシャルをうまく発揮させながら、独自の自然循環農法も理想に向かって実験中です。

―栽培されている作物は順調に育っていますか?

はい。例えば、C4型のトウモロコシを試しましたが、自然農法にこだわらなければ、通常の栽培と同様に大きく成長するとわかりました。トマトやヒマワリなどは農法に関わりなく成長しています。無花果は幹の直径が20㎝を超えるものも出てきています。

―収支状況はいかがでしょうか 。

初期費用として1,200万円を投じました。ソーラーパネル設置まで少し時間がかかったので回収はまだですが、目処は立っています。現状では、電力会社と契約が続いている分は売電をしていますが、仮に契約が切れたとしても、農業での利益と太陽光エネルギーを農機具や設備に利用することによるコストカットで十分にカバーできる計算です。

―デメリットはありませんか?

私が主に提案するモデルは5メートルおきに支柱を立てるので、組み方によっては農機具を入れづらくなることはありえます。構造計算できる業者に相談しながら、使用する農機具のサイズや動作を踏まえて設計する必要はありますね。

けれども、支柱やパネルは邪魔者かというと、そうでもありません。真っ直ぐ畝立てしようとするとき支柱を指標に使えます。また防鳥ネットを張ることもできます。なにより、パネルで日影ができるので、農作業中に涼をとることもできます。

05人・金・土地 …ソーラーシェアリング実現のための3つのポイント

―あらためて、ソーラーシェアリング実現のポイントを伺います。

まず、協力者です。仲間はいたほうが良いと思います。僕の場合、農業委員会に申請した時、「遮光率35%の場合、収量はこのくらいになるといったデータを示してほしい」と言われました。当時は前例がなく困り果てていましたが、香川大学の准教授の方に興味を持っていただくことができ、協力者になってくださいました。実証実験を共同で行うことができ、最終的に許可を得ることができました。

現在なら、都道府県の農業試験場なども協力してくれるでしょうし、僕も今後の普及のためにできるかぎりの協力をしたいと思っています。

―資金面はいかがでしたか?

資金調達も重要ですよね。貯金を資金に充てられるという方はいいですが、僕も含め銀行からお金を借りる必要のある方もいます。僕の場合、1,200万円が必要でした。銀行をどう説得したかというと、理詰め作戦でしたね。農業と発電での収益予想をそれぞれシミュレーションし、回収できることを理論的に伝え、お金を借りられることになりました。

最近はクラウドファンディングも盛んになっていますし、資金調達の選択肢は増えてきていると思います。

―他にポイントはいかがですか?

もう一つ挙げるなら土地選定についてです。あえて耕作放棄地を選ぶことで、申請の要件が緩和されたり、補助金を受けられるケースがあります。農地の一時転用の申請では通常、収量として周辺農家の8割以上に達することが要件なのですが、耕作放棄地ではそうした要件はなくなる可能性があります。また、耕作放棄地の再生利用することで完全な荒廃農地化を防ぎ、景観が改善すると地域の活性化に貢献出来るメリットが少なからずあると考え、僕自身率先して行っています。

ただし、耕作放棄地には放棄された理由があるものです。土質が悪かったり、進入路がなかったり理由は様々です。その土地についてよく調べて、ソーラーシェアリングに向いているか、自身で本当に管理できるか検討することが大切です。

06みんなでワクワクしながら新しい農業を!

―今後のソーラーシェアリングに期待することは?

電気にも選択肢が増えていくといいなと思っています。例えば発電で得た電気の活用法は、現状では売るか自分で使うかぐらいです。そこで、野菜の物々交換のように近隣の方と電気を気軽にやり取りすることが可能になると、さらにおもしろいシステムになるのではと考えています。また、太陽光パネルの開発が進んで形状が多様化すれば、ビニールハウスなど既設の施設にもフレキシブルな太陽光パネルを貼って新しい価値を作り出せると思っています。

―最後にソーラーシェアリングの興味を持っている方にメッセージをお願いします。

農業に限らず、新しいことを始めるには困難がつきものですが、必ず実現できます。むしろ営農を開始した後も、様々な課題や壁にあたるかもしれません。しかし、「課題」を「未来への希望」に置き換え、皆さんと気軽に情報交換できる場を作り、打開策を見出しながらより高みを目指していくことで、持続可能な新しい農業が発展していくと考えています。
皆さんとワクワクしながら農に関われる未来を楽しみにしています!

【プロフィール】
森岡秀誠(もりおか しゅうせい)
1984年、香川県生まれ。観音寺市内で14代続く農家で育つ。同市内で森岡家が経営する「森岡不動産」を承継。一部門として農園事業部を立ち上げる。農業の6次産業化を目指し、農園で収穫した作物を直売するカフェ併設の「森のそら」を営む。ソーラーシェアリングの実践家として普及のための活動も積極的におこなう。三豊市在住。

「森のそら」のウェブサイト
https://morisora-lab.com

【参考】
「営農型太陽光発電について」(農林水産省)

写真:Fizm LLC. 藤岡優(香川県三豊市)

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