2024.12.12
農業版BCPとは?効果や策定手順、計画書の記入例をポイントと共に紹介
農業版BCPとは、災害や異常気象のような予期せぬリスクに備え、事業が止まらないように立てておく計画のことです。すべての農業従事者に関わるテーマである一方で、「確かに重要だけど難しそう」「具体的に何をすれば良いか分からない」といった方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、農業版BCPについて効果や策定手順、計画書の記入例を紹介します。農林水産省が推奨するフォーマットも用いて具体的かつ分かりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
CONTENTS
- 01 農業版BCPとは
- 02 農業版BCPに取り組むべき背景
- 03 農業版BCPに取り組むことによる効果
- 04 農業版BCPの策定手順と計画書の記入例
- 05 農業版BCPの重要ポイント
- 06 まとめ
01農業版BCPとは
農業版BCPとは、災害や異常気象、感染症の流行など予期せぬリスクに備え、事業が止まらないように立てておく計画のことです。そもそもBCPとは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略称です。BCPは業界を問わず各事業者が取り組むべき計画とされており、その農業版にあたります。
「何が起きても早期に復旧し、農業を継続できるようにしておくこと」と理解しておくと分かりやすいでしょう。
02農業版BCPに取り組むべき背景
農業版BCPに取り組むべき主な背景は、以下の2つです。
農業経営は自然災害の影響を受けやすい
農業はその特性上、台風や豪雨、洪水、干ばつ、地震といった自然災害の影響を受けやすく、被害規模が大きくなりがちです。特に、田畑の作物や施設栽培などは災害時に物理的な損害を受けやすく、復旧には相当なコストや時間を要します。また、温暖化が進むことで自然災害の発生頻度が増加し、被害も深刻化しています。
これらの災害が収穫前の作物や苗に直撃した場合、出荷できる作物は激減し、農業経営の安定を大きく揺るがすことになります。そのため農業版BCPを策定し、災害時にも最小限の損害で済むよう備えることは、持続可能な農業経営において重要です。
農業経営は自然災害以外のリスクもある
農業経営には自然災害以外にも様々なリスクが存在します。例えば、感染症の流行や原材料・資材の価格高騰、さらには物流の停滞や市場価格の急激な変動も大きな影響を与えます。
農作物を栽培・収穫するには、数ヶ月や場合によっては1年以上にわたる長期的な作業が必要であり、その間に発生するリスクが収益の減少に直結するケースも少なくありません。
また、病害虫の大量発生、家畜伝染病、農地汚染、貿易問題による輸出入規制などもリスク要因となり得ます。こうしたリスクに対してあらかじめ対策を講じておくことは、農業経営を安定させるために非常に重要であり、農業版BCPに取り組むべき背景です。
03農業版BCPに取り組むことによる効果
農業版BCPに取り組むことによる効果を、3つ紹介します。
廃業や事業縮小のリスクを低減できる
農業版BCPに取り組むことで、自然災害やその他のリスクに直面しても、廃業や事業縮小に陥るリスクを最小限に抑えられます。例えば、災害が発生しても迅速に復旧作業を行う手順が整備できていると、作業工程を大幅にずらさずに済み、収益の損失を減らせます。
また、事業縮小や休業を避けるための代替手段や支援体制も整備していれば、緊急時にも通常に近い運営を行い、安定した経営を継続できます。これにより、農業経営の持続可能性が向上し、長期的な事業継続が可能となるのです。
供給や雇用の責任など社会的使命を果たせる
農業従事者は、安定した食料供給を行う役割や従業員の雇用に関する責任といった社会的使命を担っています。
農業版BCPを導入すれば、災害や予期せぬ事態が発生しても早期に食料供給を継続・再開でき、食の安全と安定供給を支えられるようになります。また、地域での雇用も維持しやすくなるため、従業員やその家族を守り、地域経済への影響を最小限に抑えることも可能です。
このように農業版BCPは、社会的使命を果たすための基盤としても非常に重要といえます。
市場からの評価につながる
農業版BCPに取り組むことで、取引先や消費者からの信頼にもつながります。災害や不測の事態に備えた計画が整備されていれば、安定的な供給能力を持つ企業として市場からの評価が高まり、取引先からの信頼を得られるのはもちろん、ブランドイメージの向上にも寄与します。
また農業版BCPの導入は、企業のCSR(社会的責任)の一環としても評価され、その取り組みを公表することで、持続可能な農業経営を重視する市場ニーズにも応えられます。その結果、新たな顧客獲得や市場でのポジション強化が期待できるでしょう。
04農業版BCPの策定手順と計画書の記入例
農業版BCPの策定手順5ステップと、計画書の記入例について紹介します。
具体的には、農林水産省が作成した「農業版事業継続計画書(Excelファイル)」に記入していくことで策定可能です。同計画書は次の5項目で構成されており、以下で紹介する手順5ステップもそれぞれに沿っています。
- 基本方針
- 重要業務と目標復旧時間
- インフラ等の被害による重要業務への影響と対応(代替手段等)
- 事前対策の実施状況
- 緊急時の体制
■農業版事業継続計画書フォーマットのイメージ(Excelファイル記入式)
なお上記フォーマットは、こちらの農林水産省のwebサイトからダウンロード可能です。
自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCP(農林水産省)
基本方針(策定の目的)を定める
農業版BCPの策定においてまず重要なのは、基本方針を明確にし、策定の目的を定めることです。はじめに「何のために農業版BCPを策定するのか」を明確にしておくことで、目的や認識がぶれることなく以降のステップをより円滑に推進できます。
例えば、「人命を守る」といった根本的な目的や、「取引先への出荷を行えるようにする」といった事業継続に向けた目的などを3つほど挙げましょう。ここで定めた方針は、経営者や従業員にとっての目標や基準となり、全員がリスク管理の意識を共有する土台となります。
■「1.基本方針」の記入例
重要業務・目標復旧時間を決める
次に、災害発生後に優先的に復旧すべき重要業務と、その業務を再開するための目標復旧時間を設定します。
例えば、稲作であれば米の「栽培管理・収穫」を重要業務として挙げ、それをいつまでに復旧する必要があるかを具体的に定めます。目標復旧時間は現実的な数字を設定し、事前に試算やシミュレーションを行うとより実行可能な計画となります。
■「2.重要業務と目標復旧時間」の記入例
被害状況とその影響を想定する
被害の影響範囲や程度を想定し、起こりうるリスクごとの影響を評価します。
台風、豪雨、干ばつなどの災害が農地や施設に与える可能性のある被害、被害を受けた場合の作業の中断、収益への影響について具体的に想定します。
このプロセスでは、過去の災害事例を参考に各リスクの発生確率や影響範囲に基づいて影響度を分析します。また、損害を最小限に抑えるための対策もあわせて考慮しておくと良いでしょう。
■「3.インフラ等の被害による重要業務への影響と対応(代替手段等)」の記入例
事前対策を行う
被害を最小限に抑えるため、事前対策として可能な準備を実際に行います。
具体的には「ヒト・モノ・カネ・セーフティネット・情報・地域連携」の6分類それぞれの準備に取り組みます。例えば、「ヒト」であれば災害発生時の安否確認手段や避難場所の確定、「モノ」であれば設備が使用できない場合や必要物資を調整できない場合の対応などです。
■「4.事前対策の実施状況」の記入例
役割分担など緊急時の体制を決める
緊急時に迅速かつ効率的に行動するため、従業員や関係者の役割分担を決定します。
具体的には、発生直後の「初動対応フェーズ」と初動対応完了後の「事業継続フェーズ」に2段階に分け、事態発生時点から復旧、事業継続に向けて誰がどの作業を担当するかを定めて連携体制を構築しておきます。「備蓄品の状況」や「出勤・帰宅ルール」もあわせて確認しておきましょう。
■「5.緊急時の体制」の記入例
05農業版BCPの重要ポイント
農業版BCPに取り組む上での重要ポイントを、3つ紹介します。
初めから完璧を目指さず現状把握から始める
農業版BCPの策定は、初めから完璧を目指す必要はありません。まずは自分たちの農場や業務が抱えるリスクを整理する「現状把握」から始め、課題を洗い出すことが重要です。
そのためのチェックリストを農林水産省が提供していますので、ぜひご活用ください。
自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCP(農林水産省)
農業版BCPの策定は難しそうと感じるかもしれませんが、既に対策を行えている項目や現行業務の延長線上で行える項目もあるはずです。また、ここまでに紹介したようなフォーマットが多く提供されていますので、難しく考えずに取り組んでいきましょう。
最初の一歩を踏み出すことで、次のアイデアが自然に浮かび、策定の流れが見えてきます。小さな取り組みから始め、徐々に改善・拡充していくことが成功への鍵です。
従業員への周知と定着を徹底する
農業版BCPを策定した後、最も重要なのは計画を従業員全員に周知し、日常的な業務の一部として定着させることです。
計画書には、災害や緊急時に誰が何をするかの役割分担が記載されています。全員が各自の役割を理解し、実際の状況下でもスムーズな連携を可能にするためには、定期的な訓練やシミュレーションが欠かせません。また、策定段階から従業員に関わることで、計画書の精度や実践に対する意識の向上を図れます。
以上のような取り組みを通じて、緊急時でも動揺せずに行動できる態勢を整え、災害時の対応を円滑に進められるようにしましょう。
定期的な見直しを行う
農業版BCPは策定したら終わりではなく、環境や状況の変化に応じた見直しが不可欠です。気候変動によるリスクの変化や、技術の進歩、新たな従業員の加入など、時間の経過とともに農業版BCPに影響を及ぼす要因は増えていきます。こうした変化に適応するため定期的な見直しを行い、農業版BCPが常に最新の状態かつ有効に機能するようにしましょう。
06まとめ
農業版BCPとは、災害や異常気象のような予期せぬリスクに備え、事業が止まらないように立てておく計画のことです。
農業版BCPに取り組むことで、有事の際であっても廃業や事業縮小のリスクを低減でき、供給や雇用といった社会的使命を果たせます。取り組み姿勢そのものが消費者や取引先に評価されて、市場評価の向上にもつながります。
本文内では、農業版BCPの策定手順とあわせて、農林水産省が提供する計画書フォーマットの記入例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
また、農業版BCPとも関連の深い「持続可能な農業の実現」において、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。
下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力
また、安定的かつ持続的な農業の実現に役立つ新着記事やセミナー、トレンドなどの最新情報を受け取れるメールマガジンもお勧めです。下記ページにて簡単に登録できますので、ぜひご活用ください。
メルマガ登録 – Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつくるメディア「リプラス」
【参考】
BCP(事業継続計画)とは(農林水産省)
自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCP(農林水産省)