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完熟堆肥とは?利点や注意点、入手方法を紹介

完熟堆肥とは、有機物が微生物の作用によって分解され、十分に腐熟化した状態の堆肥のことです。家畜ふんなど有機資源を再利用するため、環境負荷の軽減および持続可能な農業の実現、化学肥料の低減などに寄与します。さらに、国内での肥料調達が促進されるため、農家が注目しているのはもちろん、 農林水産省も完熟堆肥の活用を後押ししています。

そこで本記事では完熟堆肥について、基本情報や利点、注意点を紹介します。その上で、完熟堆肥と未熟堆肥の見分け方、完熟堆肥の入手方法もあわせて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

01完熟堆肥とは

完熟堆肥とは、有機物が微生物の作用によって分解され、十分に腐熟化した状態の堆肥のことです。腐熟化とは、家畜ふんなどの有機資材を作物栽培などに用いる際、有機資材を微⽣物の働きによって堆肥化し、施⽤しても⼟壌および作物に悪影響を及ぼすことがなくなるまで熟成することを指します。

また、完熟堆肥は土壌の肥沃化や保水力の向上、作物の栄養補給などの効果を期待でき、持続可能な農業の実現にも寄与します。

なお完熟堆肥には、鶏・豚・牛など家畜の糞尿を利用した動物質堆肥と落ち葉・もみ殻などを利用した植物質堆肥の2種類が存在します。

02完熟堆肥の利点

完熟堆肥の主な利点は、以下の4つです。

作物に豊富な養分を供給できる

完熟堆肥には、窒素、リン、カリウム、マグネシウムといった多量要素だけでなく、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ホウ素などの微量要素も含まれており、作物に対して総合的な養分を豊富に共有することが可能です。これにより作物は健全に成長し、高収量を期待できます。

地力が向上する

完熟堆肥は、土壌の地力を向上させる効果があります。より具体的には以下の通り「物理性・化学性・生物性」の3つの側面における改善を見込めます。

物理性の改善
微生物のはたらきなどにより土壌が団粒構造となり、通気性や排水性を良くするとともに保水性が向上する

化学性の改善
土壌中の陽イオン交換能が増大することで、土壌中の養分が流されないように保持する能力が向上する

生物性の改善
有機物の分解にかかわる土壌生物や菌類が増えることで、病原菌を不活性化し、病害リスクを低減する

以上の働きによって土壌の劣化を抑制しつつ、長期的な肥沃効果を期待できます。

化学肥料を削減できる

完熟堆肥を使用することで、従来の化学肥料を削減できる点も利点です。特に化学肥料は、使用量が多くなると、土壌内における成分や微生物のバランスが崩れたり、病原菌や病害虫の発生リスクが高まったりしかねません。こうしたリスクの低減につながる点も利点といえるでしょう。

低コストかつ安定的に肥料を得られる

化学肥料と比較して低コストかつ安定的に肥料を得られる点もメリットです。副産物である鶏ふん等を原料とした完熟堆肥は、リン鉱石などを原料として生成する化学肥料と比べると比較的安価で入手できます。また完熟堆肥は、原料を海外輸入に頼る化学肥料と異なり国際的な需給動向に左右されづらく、価格面・供給面ともに高い安定性を望めます。

資源循環に貢献できる

有機廃棄物の作物栽培への再利用を通じて資源循環に貢献可能です。鶏・豚・牛・馬など家畜の糞尿や刈り取った雑草・落ち葉など本来は廃棄する資源を活用した完熟堆肥を活用して作物を栽培し、その過程で飼料用のとうもろこしや稲わらなどを育て、再び畜産業へ還元するというサイクルを回すことができます。

こうした一連の流れは、生態系への負荷を減らすことはもちろん、環境への関心・配慮が高まる現代において、作物ブランドに対するイメージアップにもつながるでしょう。

03完熟堆肥の注意点

完熟堆肥の活用において、注意すべき点が2点あります。

過剰施用を控える

土壌改良剤としても取り扱われる完熟堆肥は「多めに投入してもよい」と捉えられがちですが、現代の主流である動物質の完全堆肥を過剰施用するとリン酸過多やカリウム過多、土壌汚染などを引き起こします。

リン酸過多の場合、作物の生育悪化や収量低下、根こぶ症などの病害を発生させる要因となります。カリウム過多は、塩基バランスが乱れることによる石灰・苦土の吸収阻害を引き起こします。

完全堆肥を導入後、これまで同様に管理しているのに明らかに生育が悪くなった、収量が減少した、病害の発生頻度が増えたなどが見られた場合、過剰施用の可能性があります。土壌に混ぜ込んだ後に堆肥を回収することは困難であるため、適量を心掛けることが大切です。

様々なリスクを伴う未熟堆肥を使用しないようにする

完全に腐熟化した状態の堆肥を完熟堆肥と呼ぶのに対して、腐熟化が不十分な状態の堆肥を未熟堆肥と呼びます。未熟堆肥の使用は、以下の通り様々なリスクを伴うため、使用しないようにしましょう。

■未熟堆肥の使用に伴うリスク

病原性微生物や雑草による被害が生じてしまう
腐熟化が不十分な未熟堆肥には、病原微生物や雑草の種が死滅せずに残っている可能性があります。そのまま、土壌に混ぜられて使用してしまうと、残存した病原性微生物が活性化し、作物に感染して病害を引き起こすリスクがあります。また、種が残っている状態で土壌に混ぜられると、好ましくない雑草が繁茂することにつながります。

有害ガスが発生してしまう
未熟堆肥は腐熟化が進行する途中であるため、その過程でアンモニアガスのような有害ガスが発生するケースがあります。アンモニアガスは、作物の細胞から酸素を奪うため、作物に障害を発生させてしまいます。

土壌が窒素飢餓に陥ってしまう
未熟堆肥の腐熟化が進行する過程で有機物を分解する微生物が急速に増殖するため、微生物の体を構成する窒素も急速に吸収します。そして有機物の窒素が不足すると土壌中の窒素を吸収することになり、結果として作物が吸収できる窒素が減少し、生育低下を招いてしまいます。

衛生的安全性が損なわれてしまう
とくに家畜のふんを基にした堆肥の場合、腐熟化が不十分な状態では、衛生面での安全性が損なわれてしまいます。腐敗したような臭いが強いのはもちろんのこと、寄生虫や病原性微生物などの残存リスクも高いといえます。

なお、完熟堆肥と未熟堆肥の見分け方については、次の項目で詳細に解説します。

04完熟堆肥と未熟堆肥の見分け方

完熟堆肥と未熟堆肥の見分け方を紹介します。前項目にて述べた通り、腐熟化が不十分な未熟堆肥を使用してしまうと様々なリスクを引き起こしてしまいます。そこで、以下の評点法を基に完熟堆肥になっているかを見極めましょう。

以下で紹介する見分け方は、「腐熟度判定基準に基づく評点法」に基づくものであり、下記8つの項目を点数で評価して、その合計点により未熟(30点以下)・中熟(31~80点)・完熟(81点以上)を見極められる簡易な方法です。

嫌な臭いが無くなっているか

十分に腐熟化が進んだ完熟堆肥の場合、ふん特有のアンモニア臭がほとんどしません。鼻をつくような臭いはなく、土のようなやわらかい匂いに近い状態であれば、完熟堆肥であると判断できるでしょう。
また、少量の水に堆肥を入れ、数日間置いた後にその臭いを確認することも有効です。

■基準(点数)
ふん尿臭強い(2)
ふん尿臭弱い(5)
堆肥臭(10)

水分が少ない状態になっているか

完熟堆肥は未熟堆肥に比べて、水分量が少ない状態になっています。堆肥を手に取り強く握った際に、指の間から水が滴る場合は未熟堆肥の可能性が高く、堆肥を握った手のひらを開いた際にあまり付着しないくらいの水分量であれば完熟堆肥の可能性が高いと判断できます。

■基準(点数)
強く握ると指の間からしたたる(70%前後)(2)
強く握ると手のひらにかなりつく(60%前後)(5)
強く握っても手のひらにあまりつかない(50%前後)(10)

現物の形状が無くなっているか

手に取ってみた際に現物の形状をとどめている場合は腐熟化の途中であり、未熟堆肥です。ほとんど現物を認められず、どの堆肥も一定の形状になっているのであれば、完熟堆肥となっているといえるでしょう。

■基準(点数)
現物の形状をとどめる(2)
かなり崩れる(5)
ほとんど認めない(10)

堆積中の温度は高いか

目安として、完熟堆肥となっている可能性が高いのは堆積中の温度が60~70度の場合です。これ以上もしくは以下の場合は、未熟堆肥の可能性が増します。とくに50度以下の場合は、未熟堆肥である可能性が高いため注意しましょう。

■基準(点数)
50℃以下(2)
50~60℃(10)
60~70℃(15)
70℃以上(20)

黒褐色もしくは黒色か

完熟堆肥になっている場合、堆肥の色が黒褐色もしくは黒色になります。黄色や黄褐色、褐色程度の場合は、腐熟化が不十分であるといえます。

■基準(点数)
黄~黄褐色(2)
褐色(5)
黒褐色~黒色(10)

堆積期間は十分か

堆積期間は「家畜ふんのみ・作物収穫残渣との混合物・木質物との混合物」のいずれかで、評価基準が以下のように変わります。

■基準(点数)
家畜ふんのみ:20日以内(2)、20日~2カ月(10)、2カ月以上(20)
作物収穫残渣との混合物:20日以内(2)、20日~3カ月(10)、3カ月以上(20)
木質物との混合物:20日以内(2)、20日~6カ月(10)、6カ月以上(20)

切り返し回数

空気を堆肥全体に行きわたらせつつ成分を均一化するために、複数回にわたり「切り返し」を行うのが望ましいとされています。回数による評点は下記の通りです。

■基準(点数)
2回以下(2)
3~6回(5)
7回以上(10)

強制通気は行われているか

ブロワーなどの機械設備を用いて堆肥に「強制通気」を行うことで空気が全体に行きわたり、発酵が促進されます。

■基準(点数)
なし(0)
有り(10)

05完熟堆肥の入手方法

完熟堆肥の入手方法を紹介します。大きくは「肥料の製造・販売事業者から入手する」「自分で堆肥化する」の2つです。

肥料の製造・販売事業者から入手する

完熟堆肥は、肥料の製造・販売事業者から入手できます。

農林水産省は、輸入依存の肥料調達から国内資源を用いた肥料供給に転換するためには、肥料原料の供給事業者・肥料の製造・販売事業者・肥料の利用者の間での連携が不可欠としています。これを受け、各関係事業者の連携づくりの契機とすべく、肥料の需給に関するマッチングサイトが開設されました。

利用方法は、自身の事業者情報を登録し、完熟堆肥を提供しているなど希望条件にマッチする事業者を検索。その上で、連携を見込める事業者と直接相談を行い、両者の合意に至れば完熟堆肥を入手できます。

自分で堆肥化する

家畜のふんなどを利用して自分で堆肥化する方法もあります。堆肥化のポイントは「水分を適正に調整し、空気を十分に行き渡らせること」です。

家畜のふんは水分が多いため、おが屑やもみ殻などを用いて水分量を調整しなければなりません。牛ふんでは水分70% 程度、豚ふんや鶏ふんは水分60%程度に調整しましょう。なお水分70%は、手で握ると指の間から水がにじみ出る程度であるため、握って指の間から水がにじみ出るか出ないか程度が適正です。

次に仕込み堆肥の中に空気が十分入るように通気性のある被覆シートで覆います。水分を調整し、適度な通気があれば、堆肥を仕込んで 2 ~ 3 日のうちに 60℃以上の温度に達します。達しない場合は水分量あるいは通気性の改善が必要です。

その上で期間を置いて、腐熟化を進めます。期間の目安は以下の通りです。強制通気のない簡易施設などで行う場合はより長くかかる場合があります。

家畜ふんのみ:2カ月
作物残渣の混合:3カ月
木質物の混合:6カ月

06まとめ: 循環型農業の実現に向けて

完熟堆肥とは、有機物が微生物の作用によって分解され、十分に腐熟化した状態の堆肥のことです。完熟堆肥の主な利点としては「作物への豊富な養分供給」「地力の向上」「化学肥料の削減」「資源循環への貢献」の4つが挙げられます。

ただし、完熟堆肥を用いる場合は、「過剰施用を控える」「未熟堆肥を使用しない」といった点に注意しなければなりません。完熟堆肥と未熟堆肥は「腐熟度判定基準に基づく評点法」によって判別できます。作物の生育に様々なリスクをもたらしてしまう未熟堆肥を使用しないように見極めを行いましょう。

また、完熟堆肥の入手方法は2つあります。1つ目の方法は「肥料の販売・製造事業者からの入手」で、農林水産省が開設した事業者同士のマッチサイトの利用も有効です。2つ目の方法は「自ら堆肥化」で、水分調整と通気に留意すれば自ら完熟堆肥をつくることも不可能ではありません。

昨今、循環型農業を目指す動きが活性化しています。環境や生態系への配慮だけでなく、農家にとっては事業面・経済面での安定性を確保するために不可欠な取り組みといえます。今回紹介した完熟堆肥も循環型農業の一環として十分に有効ですが、なかには以下のようにソーラーパネルを導入して循環型農業を実現した事例もあります。今後も安定した農業を実現するためのヒントが満載ですので、ぜひあわせてご覧ください。

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【参考】

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