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2024.9.19

農泊とは?メリット・デメリット、手順、成功事例を紹介

農泊とは、 農山漁村での宿泊中に、地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ農山漁村滞在型旅行のことです。農家にとっての新たな収入源としても期待されています。

そこで本記事では、農泊について定義を明確にした上で、メリットとデメリット、始めるための手順を紹介します。さらに活用可能な交付金と成功事例も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

01農泊とは

農泊とは、 農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことです。農山漁村地域全体で旅行者を受け入れ、その地域でしか体験できない「食事」「宿泊」「農林漁業体験」を提供する旅行形態を指します。

いち農家として農泊に取り組む際、食事・宿泊・農林漁業体験をすべて個人で準備・提供する必要はありません。例えば、自らは農業体験の機会のみを提供し、食事と宿泊は他者に委ねるといったことも可能です。もちろん可能であれば、食事と宿泊まで自ら提供しても構いません。

いずれにしても地域内の宿泊施設や店舗、農家などが連携して「農泊」を提供できれば良く、そうした形式が一般的です。

また、農泊は近年特に注目されています。農林水産省による支援もあり、2023(令和5)年度までに全国47都道府県で計656の農泊地域が創出されました。農泊宿泊者数についても、コロナ禍で一時的に約3割減少したものの順調に回復し、2022年度にはコロナ禍以前の数値を約22万人上回り、610万人となっています。今後もインバウンドや再訪者を取り込み、2025(令和7)年度までの700万人泊達成を目指しています。

農家民宿や農家民泊との違い

農家民泊も農家民宿も「農泊の一つの要素」として位置づけられます。下記の農林水産省による図式で見ると分かりやすいでしょう。

農泊において宿泊施設は、食事、体験、交流を楽しむ拠点となり、また滞在時間の延長にもつながる重要な役割を担います。農家民泊および農家民宿を含む宿泊施設の定義は、以下の通りです。

  • 農家民泊
    旅館業法や住宅宿泊事業法に基づかず、自治体のガイドラインに準拠し宿泊料を徴収せず体験料等で人を宿泊させるものです。
  • 農家民宿(簡易宿所)
    農林漁業者を含む一般事業者が、旅館業法(簡易宿所営業)に基づき、居宅などで宿泊料を受けて人を宿泊させるものです。
  • 住宅宿泊事業(民泊)
    農林漁業者を含む一般事業者が、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、現に人の生活の本拠として使用されている家屋などで宿泊料を受けて人を宿泊させるものです。
  • 旅館・ホテル
    旅館業法(旅館・ホテル営業)に基づき施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させるものです。なお、2017年に「旅館業法の一部を改正する法律」により、旅館とホテルの区分は統一されました。

農泊インバウンド受入促進重点地域とは

農泊インバウンド受入促進重点地域とは、インバウンド誘客体制を重点的に強化していく対象となった地域を指します。これまで農泊に取り組んできた地域を公募し、40地域が選定されました(2024年8月現在)。各地域の資源を観光コンテンツとして活用し、訪日外国人旅行者(インバウンド)を農山漁村に呼び込み、地域の更なる所得向上と関係人口創出を図ります。

02農泊に取り組むメリット

農泊に取り組むメリットを、3つ紹介します。

新たな収入減を確保できる

農泊を取り入れることで、農業だけに頼らない新たな収入源を確保できます。農業は気候などによって収益を左右されるため収入が不安定になりがちですが、農泊を通じて観光客を受け入れることで、より安定的な収入を得ることが可能です。さらに、農産物の販売促進やブランド化にもつながり、収益の多様化を図れます。

体験提供のため初期投資は少なく済む

農泊の魅力は、自然環境や農業体験をありのまま提供することにあり、大規模な施設や高額な設備投資などを必要としない点も大きなメリットです。

具体的には、農作業体験や収穫体験、採れた食材を用いた料理教室など、農業の現場で日常的に行われている活動をそのまま観光プログラムとして提供することができます。これにより、初期投資を抑えつつ、魅力的な体験を提供できるコストパフォーマンスが高いビジネスモデルといえるでしょう。

地域活性化に貢献できる

農泊を通じて、地域全体の活性化に貢献できます。魅力的な体験を提供し、地域に外部からの観光客を呼び込むことができれば、地元の飲食店やお土産店、観光施設なども利用され、地域経済の活性化が促進されます。

また、農泊を通じて地域の伝統や文化、自然の魅力なども発信できるため、地域のブランド力が向上し、さらに観光客を呼び込む好循環につながります。地域住民同士の交流が盛んになり、地域の魅力を再発見する機会ともなり、地域全体の結束力が高まる効果も期待できます。

03農泊に取り組むデメリット|失敗を避けるために

農泊に取り組むデメリットについて、失敗を避けるための観点から3つ紹介します。

多額の収入は期待できない

農泊は、新たな収入源を確保するための手段として有効ですが、多額の収入を得ることは期待できません。これは、農泊では各自治体で料金の設定範囲やルールが定められているためです。例えば、食事や体験料などの受け取りは可能ですが、宿泊料を受け取れません。そのため、多額の収入とはならないのが実状です。

周辺住民とのトラブルが起こり得る

農泊の導入に際しては、周辺住民とのトラブルが発生する可能性があります。特に観光客の増加による騒音や交通量の増加などが原因で摩擦が生じるケースが散見されます。こうしたリスクを避けるためには、観光客への呼びかけも大切ですが、事前に周辺住民とのコミュニケーションを十分に取り、地域社会全体で農泊の運営を支持する体制を築くことが欠かせません。

各法令や規定の理解・遵守が必須となる

農泊の一環として体験コンテンツを提供する際などには、それぞれに関連する法令や既定を理解・遵守しなければなりません。例えば、道路交通法に則って軽トラックの荷台に人を乗せることは禁止されています。
その他、2018年の旅行業法の改正により、旅行業者の依頼を有償で受けて移動手段や宿泊先を手配する場合などには「旅行サービス手配業」の登録が必要です。こうした各法令や規定を理解および遵守するための負担が発生する点はデメリットといえるでしょう。

04農泊を始める手順4ステップ

農泊を始める手順を4ステップで紹介します。

各地域の協議会などに問い合わせる

農泊を実施する際には、自治体や観光協会といった地域のさまざまな組織や団体が参加する地域協議会が活動の基軸となっているので、まずは各地域の協議会など、農泊に関して取りまとめを行う団体に問い合わせましょう。具体的な問い合わせ先は、農林水産省が管理する「農家民泊ポータルサイト」にて探すことが可能です。

参照先:協議会 | 全国の農山漁村の体験・宿泊がさがせる、農泊ポータルサイト(農林水産省)

規定や安全管理などの基本事項を学ぶ

自治体および協議会が設ける規定や、各種体験や宿泊を提供する上での安全管理について学びます。協議会では研修会やセミナーを実施しているため、積極的に参加して必要な知識を習得することで、運営上のトラブルが発生するリスクを低減しましょう。

体験プログラムを準備する

規定の範囲内で、自らが提供可能な体験プログラムを準備しましょう。例えば、田植えなどの稲作体験、野菜の収穫体験、収穫した農産物を用いた料理教室など、さまざまな企画が挙げられます。参加者の期待を理解し、地域の特性や文化資源を活かした体験を提供することがポイントです。

受け入れを開始する

体験プログラムの準備が整ったら、受け入れを開始しましょう。料金については、体験料として協議会で定められた範囲内で徴収する点を理解しておきましょう。運営開始後も、参加者の反応を見ながら体験プログラムをよりブラッシュアップしていくことも大切です。

05農泊に活用可能な交付金

農泊を実施する地域協議会や市町村などが活用可能な交付金としては、農山漁村振興交付金(農泊推進型)が該当します。農山漁村振興交付金(農泊推進型)では、農泊に初めて取り組む地域向けに、事業期間の上限を2年間として、1年あたり500万円の交付を受けることが可能です。すでに農泊に取り組む地域も金額はさがるものの対象となります。加えて、人材活用事業として、人材を新たに雇い入れる際の経費についても支援を受けることができます。

さらに、施設設備事業として、古民家などの遊休施設を改修する場合などに交付率50%で、上限5,000万円の交付を受けることが可能です。詳細は、下記の農林水産省の管轄サイト内「農山漁村振興交付金の概要について」に掲載の資料をご覧ください。

参照先:「農泊」の推進について(農林水産省)

06農泊の成功事例

農泊の成功事例を3つ紹介します。

収穫から郷土料理作りまでを体験

秋⽥県⼤館市の「⼤館市まるごと体験推進協議会」は、地元農家のお⺟さん達を中⼼に構成する「陽気な⺟さんの店」を中核法⼈としてさまざまな体験を提供しています。もともとは、教育旅⾏の受け⼊れからスタートしましたが、現在はインバウンドの受け⼊れに注⼒することで地域活性化に大きく貢献しています。

「味」から地域を伝えるため、本場のきりたんぽ作り体験を提供しています。また、農作業などの体験も提供しており、さまざまな気候や天候に対応したメニューでいつ訪れても参加者に満足してもらえる体制を整えています。

海外個人旅行(FIT)をターゲットとした農泊を展開

北海道阿寒郡鶴居村の「NPO法⼈美しい村・鶴居村観光協会」は、既存の地域資源である酪農や美しい⾃然などを活⽤した農泊を展開しています。

特徴的なのは、海外から来る個人旅行客をターゲットとして、英語のホームページ、英語でのSNS投稿などを通じで広報に注力しつつ、Wi-Fiやキャッシュレス決済、外国⼈ボランティアによる支援などインバウンドを意識した態勢も整えている点です。実際に宿泊の5割がFITであり、地域の名物でもあるタンチョウヅルのシーズンである2月は、インバウンドが8割以上に及んでいます。

棚田を活かして収穫や石積を体験

岐⾩県恵那市には「⽇本の棚⽥百選」に認定された坂折棚⽥をはじめ、豊かな⾃然や特有の文化を有しています。その価値を広く伝え持続するために、NPO法⼈恵那市坂折棚⽥保存会を中心とした「中野⽅農泊推進協議会」を発足、農泊事業を展開しています。

棚⽥を活⽤した多様な体験プログラムに加え、地域の宿泊施設の開設や地元の米や野菜を使った食事の提供を⾏っており、旅⾏会社と連携しながら受⼊体制を整えています。具体的には、春から秋にかけて体験可能な野菜収穫とガイドウォーク、冬季の炭火焼体験、さらに6月には地元のお祭り、10月には棚田の石積み体験など年間を通じてさまざまな体験が可能です。

また、これまで宿泊施設のなかった同地域に農林漁業体験⺠宿を複数開設することに成功しています。さらに現在は、⺠宿開業に興味のある住⺠に対して、先⾏した⺠宿から開業⽅法を講義するなど、協議会を通じたサポートも行われています。

07まとめ|安定的かつ持続的な農業経営を実現するために

農泊とは、 農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことです。

農泊に取り組むメリットとしては「新たな収入源を確保できる」「少ない初期投資で始められる」「地域活性化に貢献できる」が挙げられます。ただ一方で、「多額の収入は期待できない」「周辺住民とのトラブルが起こり得る」「法令や既定の理解が必須」といったデメリットもあります。

本記事内では農泊をはじめるための4ステップを紹介しました。農林水産省が管理するサイトにて該当する協議会を特定して問い合わせることが第一歩目です。実施計画を検討する際には、農山漁村振興交付金の活用も視野に入れておきましょう。

農泊は、地域がもともと有する資源を活かすことで初期投資を抑えながら新たな収入源を創出できるコストパフォーマンスが高いビジネスモデルといえます。農泊の実施により、安定的かつ持続的な農業経営ひいては地域社会の確立を期待できます。

また安定的・持続的な農業経営という観点から、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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