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2024.8.1

農家が行える獣害対策|被害の背景や原因、具体策、利用できる交付金

野生動物による農作物被害額は減少することなく、農家を悩ませ続けています。さらに額面に現れる被害以外にも、営農意欲の減退・耕作放棄、離農の増加などの悪影響を及ぼしており、「獣害対策」の必要性が高まっています。

そこで今回は、獣害対策の重要性や、鳥獣被害が減らない背景と原因を解説した上で、農家が行える対策、活用可能な交付金について紹介します。

01獣害対策とは

獣害対策とは、主に農作物や家畜などへ被害を与える野生動物から農業資産を守るための方法や措置のことです。鳥類による被害も含まれるため、鳥獣被害対策と表現することもあります。

農村地域では、シカやイノシシ、カラス、サルなどの野生動物による農作物への被害が深刻な問題となっています。これらの被害を防ぐために、物理的な対策や生態系に配慮した方法を組み合わせることが求められます。

02獣害対策の重要性

野生動物による農作物被害額は年間156億円(2022年度/令和2年度)であり、全体の約7割がシカ、イノシシ、サルによる被害です。2018年までは徐々に減少し続けていたものの、以降は減少することは無く深刻な被害が継続しています。

出典:鳥獣害被害の現状と対策(農林水産省)

 

また、被害額として数字に表れる以外にも、下記のような悪影響を及ぼしています。

  • 営農意欲の減退、耕作放棄
  • 離農の増加
  • 森林の下層植生の消失などによる土壌流出
  • 希少植物の食害

こうした背景から獣害対策が重要とされているのです。

03獣害が減らない背景

先述した通り、対策は施しているものの鳥獣被害は減少していないのが実状です。
以下ではその背景について解説します。

耕作放棄地の増加

耕作放棄地の増加は、獣害が減らない背景の一つです。近年、農業の後継者不足や農村部の人口減少に伴い多くの農地が放棄されています。耕作放棄地には草や雑木が生え、野生動物の隠れ家となります。また、放棄農地に残る作物は餌となり、農地周辺に野生動物が集まる原因となってしまいます。

気候変動による生息域の拡大

気候変動による生息域の拡大も獣害が減らない背景として挙げられます。地球温暖化によって気温が上昇し、野生動物の生息域が拡大しています。例えば、温暖化によって暖冬傾向や降雪量減少などがみられると、活動域や活動時期の拡大、繁殖率の向上、幼獣の死亡率の低下などにつながり、結果として獣害も増加してしまうのです。

高齢化などによる狩猟者の減少

高齢化などによって狩猟者が減少していることも背景といえます。現狩猟者は高齢化により引退が相次ぐものの、次世代の狩猟者は増えていません。厳密には、狩猟免許の合格者(所持者)は増加傾向にあるものの、狩猟者登録数が増えていないのが実状です。狩猟者が減れば野生動物の個体数管理が難しくなり、結果として獣害が増加しています。

04獣害が生じる原因

獣害が生じる主な原因を5つ紹介します。

無意識にエサ資源を与えているため

無意識のうちに野生動物にエサ資源を与えてしまうことがあります。例えば、つるや茎、野菜くずなど作物残さをそのまま放置してしまうと、野生動物にとって格好のエサとなります。農家にとっては廃棄した残さであるため被害を察知しにくく、無意識に与えてしまうのです。

農地を正しく守れていないため

多くの農地ではフェンスや電気柵などの物理的なバリアが不十分であったり、正しく設置されていなかったりするケースが散見されます。

また、定期的な点検や修繕を行わなければ効果は低下します。例えば、電気柵が故障していたり、フェンスに穴が開いていたりすると、野生動物が簡単に侵入できてしまいます。このように、守っているつもりが獣害対策になっていないケースも少なくないのが実状です。

鳥獣が隠れられる場所があるため

耕作放棄地のように草や雑木が生い茂っている場所は、野生動物にとって絶好の隠れ場所となります。特に山と放棄地が隣接している場合、元々の生息地と集落との行き来が容易になり、獣害のリスクが高まってしまうのです。

有効な捕獲策がとられていないため

獣害対策として野生動物の捕獲は重要な手段の一つです。ただし、有効な捕獲策をとれていなければ鳥獣被害が続くことになります。例えばイノシシやシカについては、単純に捕獲頭数を増やせば良いわけではありません。防護柵で守った上で、それでも侵入してくる「加害個体」を捕獲することが求められます。

正しく追い払えていないため(サルの場合)

特にサルの場合、正しく追い払えていないケースが多くみられます。
具体的には下記の通りです。

・農作物を食べられた時だけ追い払う
・追い払う人が限られている(多くの人が見て見ぬふり)
・自分の農地だけ追い払う

こうした対処では、サルは人が怖いという学習をせず、少し隠れていればエサにありつけると学び、被害は継続します。

05農家が行える獣害対策

ここでは、農家が個人でも行える獣害対策を紹介します。

電気柵を設置する

電気柵は、低電圧の電流を流し、動物が触れると電気ショックを与えて侵入を防ぎます。効果的に用いるためには、周囲の草刈りや電線のたるみ改善などメンテナンスが欠かせません。また電気が流れることで野生動物に学習させる「心理柵」であるため、通電していない状態を学習させないように常に通電し続ける必要があります。

ネット・フェンスを設置する

ネットやフェンスの設置による物理的な防御です。物理的な防御策の場合、さまざまな種類のなかから獣種に応じた高さと強度をもつものを選択する必要があります。また、電気柵と同様に定期的な点検や補修が不可欠です。そのため、ネットやフェンスと林縁部の間に作業を行うためのスペースや道を設けるなどメンテナンス体制を整えておくことが大切です。

忌避剤を使用する

忌避剤で動物が嫌がる臭いを発して農地への侵入を防ぎます。獣種に合わせた選定や、雨や風によって効果が薄れるため定期的な塗布が必要です。

音響装置を設置する

音響装置は、大きな音や高周波を発生させて動物を追い払います。動物が近づくと自動的に作動するものが多く、昼夜問わずに農地を守ることができます。
ただし、動物が音に慣れてしまうことがあるため、定期的に音の種類や周波数を変更する工夫も求められます。また、音の大きさや設置場所によっては近隣住民からの苦情につながりかねないため注意が必要です。

防獣ライトを設置する

防獣ライトは、強い光を発して動物を驚かせることで追い払う装置です。動物が近づくとセンサーが作動し、発光・照射される仕組みになっています。副次的な効果として、対人の防犯対策にもなります。
ただし、動物が慣れてしまう可能性がある点や効果範囲が限られる点は理解しておきましょう。

進行防止装置を設置する

進行防止装置は、動物が農地へと向かう経路に設置することで侵入を防ぐ装置です。具体的には、地面に敷くタイプのものがあり、動物がヒヅメで踏むと不快感を与える特殊な構造になっています。フェンスのように経路を物理的に遮断するものではないため、人や車両はそのまま通過できるのが利点です。

エサとなる雑草を排除する

農地周辺に生えている雑草は、野生動物のエサとなります。雑草を除去することで、動物が農地に近づく理由を減らしましょう。雑草の生育を放置せず、定期的に除去を行うことが大切です。

野菜くずなどを畑の外などに廃棄しない

収穫後の野菜くずや果物の皮などの作物残さを農地周辺に放置すると、野生動物のエサ資源となってしまいます。そのため、コンポストを利用したり、残さを地中に埋めたりといった対処が欠かせません。

果樹は適度に剪定や収穫を行う

農地に柿などの果樹はないでしょうか。果実を放置してしまうと、鳥獣を引き寄せてしまいます。適度な剪定や収穫を行うことで、果樹に実を残さないように管理しましょう。放任されている果樹であれば、伐採することも必要です。

地域・集落との連携・協力

獣害対策は、一農家のみで行うには限界があるため、地域・集落と連携・協力することが大切です。

前提として、農林水産省は「鳥獣被害対策の3本柱」として以下を掲げています。

第1の柱「個体群管理」:鳥獣の捕獲
第2の柱「侵入防止対策」:侵入防止柵の設置、追払い
第3の柱「生息環境管理」:刈払いによる餌場や隠れ場の管理、放任果樹の伐採

いずれの柱も、農家をはじめ地域住民同士の情報共有と共同作業によってこそ、効果的かつ広範囲な獣害対策が実現します。個人で行える対策とあわせて、地域・集落内での連携・協力にも注力しましょう。

06獣害対策に活用できる交付金

獣害対策に活用できる交付金として「鳥獣被害防止総合対策交付金」があります。市町村が作成する被害防止計画に基づく「鳥獣の捕獲」「被害防除」「生息環境管理」などの取り組みを総合的に支援するためのものです。

より具体的には、下記の取り組みを対象に交付されます。

  • 捕獲活動の支援
  • 侵入防止柵の支援
  • 生息環境管理の支援
  • 処理加工施設や焼却施設等の整備への支援
  • ジビエ利活用への支援

とりわけ「侵入防止柵の支援」については、各農家も自治体を通じて申請・活用可能です。また、自治体によっては独自の補助金を設けているケースもあるため、各市町村のホームページを確認してみることをおすすめします。

07まとめ|獣害対策と省エネルギーを両立

耕作放棄地の増加や気候変動、狩猟者不足などを背景に鳥獣被害は継続しています。有効な獣害対策を講じるためには、直接的な原因を把握した上で、電気柵やフェンスの設置、忌避剤の使用などの対策を行う必要があります。

ただし、一農家として行える範囲には限りがあり、地域・集落で連携した方がより効果的に対処可能です。個人と地域連携の両面から獣害対策を施して、被害を最小限に抑えましょう。

また、どうしてもコストも手間もかかりがちな獣害対策ですが、例えば営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の架台を利用して、鳥獣被害対策のための防護ネットや防御柵を設置することも可能です。

なお、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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【参考】
鳥獣被害の現状と対策(農林水産省)
農作物被害状況(農林水産省)
鳥獣保護管理政策の現状と行政上の諸対策について(環境省)
野生鳥獣被害防止マニュアル(農林水産省)
行政担当者が知っておくべき獣害対策の基本(農林水産省)
だれでもできる獣害対策( 相生市ホームページ )
予算 鳥獣被害防止総合対策交付金の支援内容について(農林水産省)

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