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2024.9.5

アクアポニックスとは?メリット・デメリットや重要ポイントを紹介

アクアポニックスとは、水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)を合わせた造語であり、魚と野菜を同じシステム内で一緒に育てる生産手法のことです。

魚の排出物が微生物によって分解されて植物が栄養として吸収、きれいになった水が再び魚の水槽へ戻るという循環型農業を1つのシステム内で体現しており、環境保全や生産効率の面からも注目されつつあります。

そこで本記事ではアクアポニックスについて、注目される背景、育成可能な野菜と魚、メリットとデメリット、取り組む際の重要ポイントをそれぞれ紹介します。基本情報の理解から導入検討にまで役立つ内容ですので、ぜひ参考にしてください。

01アクアポニックスとは

アクアポニックスとは、魚と野菜を同じシステム内で一緒に育てる生産手法のことです。アクアポニックスという名称は、水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)を掛け合わせて造られました。魚の排出物を微生物が分解し、植物がそれを栄養として吸収、そして浄化された水が再び魚の水槽へ戻る仕組みになっています。

02アクアポニックスが注目される背景

アクアポニックスが注目される主な背景は、以下の2つです。

環境に優しい生産手法であるため

アクアポニックスは農薬や化学肥料を使用せず、魚の排泄物を肥料とします。また、微生物と植物の働きによって清潔に保たれた水を循環して利用するため、水の消費を抑えた栽培が可能です。そのため、環境への負荷が少なく、環境保全に対する関心が高まる昨今において注目されています。

生産効率が高いため

アクアポニックスは実施場所や規模の自由度が高い、路地栽培に比べ根への抵抗を受けにくいため野菜が短期間で育つ、天候や気候の悪影響を受けにくく安定した環境で栽培できるといった生産効率の高さから生産者からの注目を集めています。それぞれの特長については、後の項目で詳しく紹介します。

03アクアポニックスで育てられる野菜と魚

アクアポニックスで育てられる野菜と魚について、それぞれ紹介します。

アクアポニックスで育てられる野菜

アクアポニックスで育てられる野菜は、下記の通り多岐にわたります。

  • 葉物類:レタス、サンチュ、水菜、スイスチャードなど
  • 果菜類:トマト、キュウリ
  • 香草類:バジル、クレソン、ミント、ルッコラなど
  • 豆類:スナップエンドウなど

この他にもイチゴやパッションフルーツやブルーベリーといった果物、人参・大根などの根菜類、ナスタチウムやビオラなどの食用花(エディブルフラワー)も栽培事例があります。

アクアポニックスで育てられる魚

アクアポニックスで育てられる主な魚は、下記の通りです。
基本的に淡水魚であれば、養殖できます。

  • ティラピア(いずみ鯛)
  • チョウザメ
  • イワナ
  • ナマズ
  • マス
  • サクラマス
  • ドジョウ
  • コイ

04アクアポニックスのメリット

アクアポニックスのメリットを、5つ紹介します。

農薬や化学肥料を使用せずに栽培できる

農薬や化学肥料を使用せずに栽培できる点は、アクアポニックスのメリットのひとつです。具体的には、魚の排泄物をバクテリアなどの微生物が分解、それらを栄養分にして野菜が育ちます。そのため化学肥料を使用せずに、無農薬・無化学肥料の作物を育てることが可能です。
また、環境保全や健康への関心が高い消費者からの支持も期待でき、市場での優位性にもつながります。

野菜が土壌栽培よりも短期間で育つ

アクアポニックスは従来の土壌栽培に比べて、成長速度が速い点もメリットとして挙げられます。例えばレタスの場合、従来の土壌栽培では通常2~3か月ほど要しますが、約1か月で収穫可能なサイズにまで育つことが確認されています。これにより、年間を通じて複数回の収穫が可能となり、生産性が向上します。

実施場所や規模の自由度が高い

アクアポニックスは、実施場所や規模を選ばず自由度が高い点もメリットです。例えば、都市部の植物工場内や温室、ビルの屋上やフロア内、農場の空きスペースなど、たとえ限られた広さであっても運営できます。また、家庭向けの小規模な設備から商業用の大規模施設まで、目的や予算に応じて規模を調整できるのも魅力です。

天候や気候の悪影響を受けにくい

アクアポニックスは工場などの屋内や温室などでの運営可能なため、天候や気候の影響を受けにくいというメリットもあります。また、温度や湿度、光量などを人工的に制御できるため、季節を問わず安定した生産を行えます。これにより、豪雨や寒波、干ばつといった自然災害から作物を守り、一定の質を担保できるのです。

野菜・魚に加えてその他の収入源も期待できる

アクアポニックスは野菜と魚だけでなく、その他の収入源も期待できます。
例えば、以下のような企画が可能です。

  • エコツーリズムの一環としてのアクアポニックス見学ツアー
  • アクアポニックスの導入や運営に関する講座やワークショップの開催
  • アクアポニックスのノウハウを活かした栽培キットの販売

05アクアポニックスのデメリット

アクアポニックスのデメリットを、4つ紹介します。

初期投資が高額になりがち

商業としてのアクアポニックス導入には、水耕栽培の設備と魚の養殖のための設備が必要となるため、高額な初期投資が必要となりがちです。例えば、水槽やポンプ、配管、温度制御装置、照明など設備を一式揃えるためには相応のコストを要します。規模や設備形式によって具体的な価格は変動しますが、例えば10㎡程の小規模であれば約100万円、800㎡で約2000万円、4,000㎡程の大規模ともなれば1億円以上にも及びます。

淡水魚の販売単価が低い

アクアポニックスで養殖できる淡水魚の販売単価は、低い傾向にあります。可能な限り生産効率を高めるため、販売単価と飼育難易度の事前確認は欠かせません。例えば、チョウザメは多少の難易度はあるものの、魚肉とキャビアをどちらも取れるため、生産効率は高いといえるでしょう。

農業と養殖の知識がどちらも必要

アクアポニックスで成果を得るためには、農業と養殖の両方の知識が必要です。野菜の栽培には栄養管理や病害虫対策、水質管理が求められます。一方、魚の養殖では水温、酸素濃度、餌の質などを適切に管理しなければなりません。そのため両分野に精通している必要があり、相応の知識が必要な点はデメリットといえます。

国内での先行事例が少なく認知度が不十分

アクアポニックスは国内では今のところ先行事例が少なく、一般的な認知度も低いのが実状です。そのため、導入に関する情報や成功事例が限られており、参考にできる事例が少ないことが課題となります。一方、環境面や安全面、生産効率面におけるメリットが注目されている背景もあるため、今後認知度が高まる可能性は十分にあるといえるでしょう。

06アクアポニックスに取り組む際の重要ポイント

アクアポニックスに取り組む際の重要ポイントを、3つ紹介します。

利益の出やすい野菜を選択する

アクアポニックスの運営を安定させるためには、利益の出やすい野菜を選択することが重要です。具体的には、レタスなど葉物類の野菜を生産した方が利益を出しやすいといえます。例えば、トマトのような果菜類は種まきから出荷まで5か月ほど要しますが、レタスであれば約1か月で集荷可能です。その結果、同期間で得られる収益には相応の差が生じるのです。

なお、野菜と魚の利益割合は、一般的に「野菜7~8割:魚2~3割」ほどです。淡水魚の単価が低いことを勘案すると、野菜でいかに利益を上げられるかが重要といえます。

試験栽培を行う

アクアポニックスシステムを導入する前には、小規模な試験栽培を行うことを推奨します。具体的には、1~2年ほどの試験栽培を通じて稼働状況や作物の成長具合を確認し、「何をどのくらいの期間で、どれほど生産できるのか」を確認しましょう。あわせて、問題点や改善点を把握可能です。また、試験栽培の結果をもとに、コスト分析や収益予測まで行えば、経営計画をより現実的なものにすることができます。

補助金を活用する

アクアポニックスシステムの導入には高額な初期投資が必要ですが、補助金を活用することで負担を軽減できます。

具体的には、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」が挙げられます。これは、中小企業や小規模事業者等が革新的サービス開発や生産プロセスの改善等を行うための設備投資に対する支援を受けられる補助金制度です。例えば製品・サービス高付加価値枠の場合、750万円から最大2500万円の補助を受けることが可能です。上限額や補助率は事業規模によって異なるため、詳細は「ものづくり補助事業公式ホームページ」をご確認ください。

実際に、「アクアポニックス技術を活用した高付加価値野菜とエビの生産事業」が補助対象として採択されています。

参考:ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト (全国中小企業団体中央会)

07まとめ|持続可能な農業を実現するために

アクアポニックスとは、水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)を合わせた造語であり、魚と野菜を同じシステム内で一緒に育てる生産手法のことです。環境に優しく生産効率が高いなど持続可能性の高い生産手法であることを背景に注目を集めています。

アクアポニックスのメリットとしては、「農薬や化学肥料が必須ではない」「土壌栽培より短期間で育つ」「設置場所や規模の自由度が高い」などが挙げられる一方で、「初期投資が高額」「淡水魚の販売単価が低い」「農業と養殖の知識がどちらも必要」といったデメリットもあります。
記事内ではアクアポニックスに取り組む際の重要ポイントも紹介していますので、導入やその後の成果につなげための参考としてください。

また、アクアポニックスと同じく持続可能性の観点から注目されている営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)をご存知でしょうか。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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