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2024.6.27

【農家向け】飼料用米とは?品種や交付金、生産するメリットなどを解説

飼料用米とは、牛や豚などの家畜の飼料として用いられる米のことです。主食用米の需要減少や国による推進などを背景に関心を持っている方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、飼料用米について、栽培に用いられる具体的な品種や注目されている背景、生産するメリット、生産時のポイントを解説します。あわせて、活用できる交付金と注意点についても紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

01飼料用米とは

飼料用米とは、牛や豚などの家畜の飼料として用いられる米のことです。玄米の形態で利用される飼料用米の栄養価は、家畜飼料として主に用いられているとうもろこしと同程度であり、家畜にとって優れたエネルギー供給源といえます。

02飼料用米として栽培される品種

飼料用米として栽培される主な品種としては、国が指定した「多収品種」が挙げられます。多収品種には、国の委託試験などで飼料向けとして育成された子実の収量が多い22品種が該当します。具体的には、以下の通りです。

■多収品種一覧

推奨地域 品種名
北海道 きたげんき、北瑞穂(きたみずほ)、たちじょうぶ
東北(青森) えみゆたか
東北(青森以外)・中部・関東・近畿・中国・四国・九州 いわいだわら、ふくひびき、べこあおば、べこごのみ、夢あおば
中部・関東・近畿・中国・四国・九州 あきいいな、亜細亜のかおり、オオナリ、もちだわら、モミロマン、ホシアオバ、みなちから、北陸193号、クサホナミ、ふくのこ、笑みたわわ
主に九州 ミズホチカラ、モグモグあおば

また、下記の要件を満たした上で、知事の申請に基づき地方農政局長などが認定した品種は「特認品種」として、多収品種と同等に扱われます。

  • 一般的な品種と比べて子実の収量が多い
  • 各都道府県内で主食用以外の用途向けとして生産されている
  • 全国的にも主要な主食用品種ではない

以下は、主要な特認品種の一覧です。

■主要な特認品種一覧

県名 品種名
北海道 そらゆたか
青森県 ゆたかまる
岩手県 つぶゆたか、つぶみのり、たわわっこ
秋田県 秋田63号、たわわっこ
福島県 たちすがた、アキヒカリ
長野県 ふくおこし
富山県 やまだわら
新潟県 新潟次郎、アキヒカリ、亀の蔵、ゆきみのり、いただき、ゆきみらい
兵庫県 兵庫牛若丸、あきだわら
島根県 みほひかり
福岡県 タチアオバ、ツクシホマレ、夢一献
宮崎県 タチアオバ、み系358号、宮崎52号

03飼料用米が注目される背景

飼料用米が注目される背景は、以下の3つです。

主食用米の需要量が低下している

国内における主食用米の需要量は、一貫して減少傾向にあります。農林水産省の調査によると、1996年時点では年間944万トンだったのに対して、2022年には年間691万トンまで減少しています。また、人口減少などに起因して、需要量の減少幅も年間8万トン減から年間10万トン減にまで拡大しているのが実状です。

そのため、農家の経営安定の観点から飼料用米が注目されているのです。

輸入飼料の価格が高騰している

輸入飼料の価格高騰も、飼料用米が注目されるようになった背景の一つです。輸入飼料の価格高騰の要因は、大きく2つあります。

一つ目の要因はウクライナ侵攻に起因する飼料の価格高騰です。ウクライナは穀物輸出国であり、小麦やトウモロコシなどの生産を担っていました。しかしロシアによるウクライナ侵攻以降、穀物の作付けが進まず、世界的な穀物価格の上昇を招いています。その結果、輸入飼料に頼る日本は大きく影響を受けてしまったのです。

二つ目の要因は、日本と外国(主に米国)の金利差により生じる円安です。コロナウイルスの流行により落ち込んだ景気を回復するため、世界的に金利を下げる政策がとられました。ただ、日本においては下げた金利を再び上げる動きが他国と比べて緩やかなため、円からより金利の高いドルなどへの買い替えが進み、円安を引き起こしています。

以上のような背景から、輸入飼料の価格は高騰しており、国内では代替のために飼料用米の活用が注目されています。

国が生産拡大を推進している

国が飼料用米の生産拡大を推進しています。2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」のなかで、2030年度における飼料用米の生産努力目標を70万トン(2018年時点で43万トン)に設定しています。

農林水産省の公式ページにおいても、飼料用米は主食用米からの作付け転換が比較的容易であり、国内生産による安定的な畜産経営にも寄与できるため、更なる生産・利用拡大を進めていく旨を公表しています。

また具体的な施策として、飼料用米の生産技術向上を目的とした「飼料用米多収日本一コンテスト」を農林水産省の主催で毎年開催していることからも推進の姿勢が伺えます。

04飼料用米を生産するメリット

飼料用米を生産するメリットを、3つ紹介します。

安定した収益を期待できる

先述した通り、主食用米の需要および価格が低下する一方で、飼料用米は国によって生産・利用拡大を推進されています。そのため農家としては、飼料用米を生産することで、収益の安定化や経営リスクの分散を図れるでしょう。また、WCSと違って既存の農機具があれば低コストで切替できることもメリットの一つとなり得ます。

環境保全に貢献できる

主食用米の需要減少を受けて米の作付面積が縮小されると、水田が減少します。水田は、米の生産だけでなく、「水資源の確保」「洪水や地滑り防止」など環境や国土を守る機能も有しています。そこで、主食用米の生産を辞めて水田を無くしてしまうのはなく、飼料用米の生産に切替えて機能を維持させることで、環境保全に貢献できるのです。

耕畜連携を行える

飼料用米の生産を通じて耕畜連携を行うことで、新たな販売先を開拓できたり、希望に応じて堆肥の供給を受けられたりといったメリットを得られます。また、「お米で育った畜産物」と呼ばれる畜産物のブランド化や、生産から消費までを国内で循環させる循環型(持続型)農業の実現にも貢献可能です。

05飼料用米を生産する上でのポイント

飼料用米を生産する上で、おさえるべきポイントは以下の4つです。

「新規需要米取組計画書」を提出する

新たに飼料用米生産に取り組みたい場合は「新規需要米取組計画書」を生産年の6月末までに地方農政局または地域センターへ提出する必要があります。期日までに取組計画書を提出しなければ、飼料用米を栽培できないため注意しましょう。

計画書は「1.用途」「2.取組の概要」「3.取組計画」「4.適正流通に関する事項」の4項目で構成されており、農林水産省ホームページの「米政策関連」からExcelファイルをダウンロード可能です。
参照先:米政策関連(農林水産省)

飼料用米栽培に関する各種マニュアルを活用する

飼料用米栽培に関しては、農林水産省が「多収品種の栽培マニュアル」や「飼料用米生産コスト低減マニュアル」を公表しており、栽培・保管・販売における留意点や多収栽培のポイントなどが掲載されています。また、農研機構の「飼料用米の生産・給与技術マニュアル」では、品種の選定や栽培管理のポイント、具体的な事例などが紹介されています。

いずれの資料も、下記ページから参照可能です。
参照先:飼料用米関連情報(農林水産省)

「耕畜連携マッチング」に参加する

耕畜連携マッチングとは、農林水産省と各都道府県の連携により、飼料作物を栽培する耕種農家の供給と畜産農家の需要を結び付ける仕組みです。耕種農家にとっては、以下のような利点があります。

  • 新たな供給先を見つけられる
  • 希望に応じて堆肥の供給を受けられる
  • 畜産農家との直接契約により販売価格を決定できる

交付金制度を活用する

飼料用米を栽培する際には、補助金制度を活用することでより収益性の高い生産を行えます。飼料用米の生産開始に向けた準備とあわせて、補助金制度の利用手続きも進めるようにしましょう。具体的な制度については、次の項目で紹介します。

06飼料用米の生産に活用できる交付金と注意点

飼料用米の栽培に活用できる交付金として「水田活用の直接支払交付金」があります。本制度は、食料自給率の向上に向けた飼料用米を含む戦略作物の本作化や、地域の特色を活かした産地づくり、低コスト生産の取り組み、畑地化による高収益作物等の定着などを目的としています。

販売目的で飼料用米などの対象作物を生産する農家であれば、交付を受けることが可能です。上限はあるものの収量に応じて交付単価が上がる仕組みになっています。

ただし、以下の通り2024年度(令和6年度)から、多収品種に該当しない「一般品種」への交付額が段階的に引き下げられる点は、注意しましょう。

  • 2024年(令和6年)産:数量に応じて5.5~9.5万円/10a(標準単価:7.5万円/10a)
  • 2025年(令和7年)産:数量に応じて5.5~8.5万円/10a(標準単価:7万円/10a)
  • 2026年(令和8年)産:数量に応じて5.5~7.5万円/10a(標準単価:6.5万円/10a)

07まとめ|収益性がより安定した農業経営を実現するために

飼料用米とは、牛や豚などの家畜の飼料として用いられる米のことです。飼料用米として栽培される主な品種としては、国が指定した22種類の多収品種が挙げられます。主食用米の需要低下や輸入飼料の価格高騰に加えて、国が飼料用米の生産拡大を推進していることから注目されています。

農家にとっても、収益の安定化や環境保全、耕畜連携につながるため取り組むメリットがあるといえるでしょう。飼料用米の生産に取り組む上でのポイントについても本文内で紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

また、農業における収益の安定化という観点から、昨今注目を浴びているのが、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)です。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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