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2024.10.31

高温耐性品種とは?米や野菜の品種一覧、高温障害のメカニズムを紹介

高温耐性品種とは、高温状況下でも品質・収量が低下しにくい品種のことです。昨今、国内においても記録的な暑さや気温上昇が観測されており、農作物の栽培へも悪影響を及ぼしていることから、高温耐性品種への関心が高まっています。

そこで本記事では、高温耐性品種が必要とされる背景、高温障害のメカニズムと耐性品種の開発、高温耐性品種の具体例を紹介します。また、導入に活用可能な補助金や、導入以外でも可能な高温障害対策も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

01高温耐性品種とは

高温耐性品種とは、高温状況下においても品質・収量が低下しにくい品種のことです。米をはじめ、さまざまな野菜や果物の高温耐性品種の開発・普及が進んでいます。高温耐性品種の採用により、農家は気候変動による収量減少や品質低下のリスクを軽減でき、食料の安定確保にも寄与することが期待されます。

02高温耐性品種が必要とされる背景

高温耐性品種が必要とされる主な背景は、温暖化に代表される気候変動です。具体的には、2023年6~8月の主要15地点の観測値による日本の平均気温偏差は+1.76℃となり、1898年の統計開始以降で最も高かった2010年の+1.08℃を大きく上回りました。夏としての気温が最も高くなり、水稲においては白未熟粒、吸汁カメムシ被害の多発、野菜や果樹においては果実障害や肥大不良などが発生しています。

気象庁の報告によると今後も温暖化傾向は続き、21 世紀末の日本の年平均気温は、世界的な温暖化緩和策を講じた場合でも約1.4℃上昇、緩和策を講じない場合だと約4.5℃上昇するという試算が出ています。

こうした背景により、農産物の収量や品質の保持、農家の収益安定化、食料の安定確保といった観点から高温耐性品種が必要とされているのです。

03高温障害のメカニズムと高温耐性品種の開発

高温障害が生じるメカニズム(しくみ)と高温耐性品種の開発について、米を例として解説します。

高温障害のメカニズム

米の高温障害としては「胴割粒の発生」や「白未熟粒(シラタ)の発生」が挙げられます。

「胴割粒の発生」は、胚乳部に亀裂が入ってしまう障害です。登熟後期および収穫後の玄米水分変化に加え、登熟初期の高温による影響が指摘されています。籾が急激に成長することで、内部構造やデンプン蓄積に影響を及ぼして、胴割れしやすくなると考えられています。

一方の「白未熟粒の発生」は、米粒に白濁部位が生じてしまう障害です。白濁する部位によって、心白、腹白、背白、乳白粒と呼ばれており、白未熟粒はそれらの総称です。白未熟粒は主に高温の影響により、胚乳細胞へのデンプン蓄積が阻害されて発生します。白く見えるのは、デンプン粒間に空隙が生じ、そこで光が乱反射するためです。

高温耐性品種の開発

上述の高温障害へ対処するため、高温耐性品種の研究開発が行われています。例えば、高温耐性に優れた多収・良⾷味⽶品種の「にじのきらめき」が開発され、普及しています。高温耐性はコシヒカリよりも高く、高温条件の栽培でも玄米の外観品質に優れています。倒伏に強く、収量性もコシヒカリより優れていながら、米飯の食味はコシヒカリと同等とされています。

こうした高温に対する耐性をもった品種の開発と普及は、米(水稲)をはじめ、野菜においても進んでいます。具体的な品種については次の項目で紹介します。

04高温耐性品種の具体例|米(水稲)と野菜

高温耐性品種の一覧について、米(水稲)と野菜のそれぞれを紹介します。

高温耐性品種の米(水稲)

高温耐性品種の米(水稲)の具体例を紹介します。米(水稲)の高温耐性品種は非常に多いため、都道府県および農研機構が開発した主な品種のうち、検査数量が高いものから上位5品種を紹介します。

品種名 特徴
こしいぶき
  • コシヒカリよりも約10日早く収穫できる
  • 暑い夏での実りでも品質が落ちにくい
  • コシヒカリと同等の食味をもつ
つや姫
  • コシヒカリよりも収量性が高い
  • コシヒカリよりも高温耐性が高い
  • 食味の総合評価はコシヒカリよりも優れている
きぬむすめ
  • 収量性はコシヒカリを上回る
  • 高温耐性は比較的高い
  • 食味はコシヒカリと同等か、栽培地域によっては上回る
ふさこがね
  • 籾が成熟する時期の高温による障害を受けにくい
  • 台風などでも倒れにくいため、安定した生産が可能
  • コシヒカリと同等の食味をもつ
あきさかり
  • 玄米の外観品質はコシヒカリより優れ、高温条件下での登熟でも劣化が少ない
  • 稈長はコシヒカリに比べて短く,耐倒伏性は強い
  • コシヒカリと同等の食味をもつ

高温耐性品種の野菜

高温耐性品種の野菜の具体例として、計3つ紹介します。

品種名 特徴
桃太郎ネクスト(トマト)
  • 低温・少日照下での生育安定性と耐暑性を併せ持つ
  • 安定した栽培性により多収を期待できる
  • 花数が多く、安定した着果性を有する
PC鶴丸(ナス)
  • 高温期や厳寒期でも安定的に単為結果性を発揮
  • 高温期の色ボケ果の発生が少ない
  • 曲がり果や奇形果が少ない
藍天(キャベツ)
  • 高温期でも腐れや裂球が遅いため、大玉での収穫が可能
  • 暑さに強いため、高冷地の夏どりや一般地・暖地の初秋どりに適している
  • 石灰欠乏症などの生理障害に強く、高温期に栽培しやすい

05高温耐性品種の導入に活用可能な補助金

高温耐性品種の導入に活用可能な補助金として「高温対策栽培体系への転換支援」があり、「高温対策栽培技術等の実証支援」および関連事業である「産地生産基盤パワーアップ事業」の2施策で構成されます。以下でそれぞれを紹介します。

高温対策栽培技術等の実証支援

本支援策は、高温環境に適応した栽培体系への転換に向けて、高温耐性品種や高温対策栽培技術の導入に向けた実証(新品種への切り替えや土づくり)などを支援するためのものです。2023年に記録的な猛暑に見舞われ、今後も継続が予測されることを背景に施行されました。

より具体的には、高温対策栽培技術の実証に伴う以下のような取り組みが支援対象となっています。

  • 栽培実証圃場の確保(農業者からの実証圃場借上げ)
  • 土壌分析、堆肥施用等の土づくり
  • 種子・苗の確保、播種・定植
  • 肥料の施用
  • 農薬の散布
  • 遮光資材、細霧冷房の導入
  • 生育調査、病害虫発生状況調査
  • 収量・品質・病害虫被害調査
  • 食味試験・実需者による品質評価
  • その他栽培実績に直接必要な取り組み

なお、補助率は対象経費の2分の1、事業実施主体ごとの補助上限額は600万円です。

産地生産基盤パワーアップ事業

本施策は、収益力強化に計画的に取り組む産地に対し、高温対策に必要な農業機械・設備の導入などを支援するためのものです。対象となるのは、追肥用のドローンや色彩選別機、農業用ハウスの細霧冷房、園地の遮光対策などです。補助率は1/2以内であり、上限額は設けられていません。

06高温耐性品種の導入以外で可能な高温障害対策

高温耐性品種の導入以外で可能な高温障害対策について、品目別に紹介します。

水稲の高温障害対策

水稲の高温障害対策としては、以下が挙げられます。

  • 根の活性化を図るため、出穂前30~50日にケイ酸カリ等の中間追肥を実施する
  • 登熟期の窒素不足は高温障害を助長するため、葉色や幼穂などを確認して適正な穂肥を実施することで被害の軽減を図る
  • 生育ステージに応じて、間断かん水、中干し、湛水管理などを実施し、根の活力維持を図る
  • 登熟前期に高温・乾燥・強風条件が重なった時は、風がやむまで湛水を保つ
  • 落水は出穂後30日以降とし、ほ場の乾燥状態に応じて走水を行う

野菜の高温障害対策

野菜の高温障害対策としては、以下が挙げられます。

  • かん水は地温が低下している早朝・夕方に実施する
  • 敷きわらやもみ殻で土壌を覆い、地温上昇の抑制と土壌水分の蒸発抑制を図る
  • 園芸用施設は妻面・側面を開放するとともに、寒冷紗などを使用して施設内の温度上昇を抑制する(寒冷紗による遮光は、日焼けや葉やけの防止にも有効)
  • こまめな除草や側枝、弱小枝、下葉を除去し、風通しを良くする
  • 育苗箱は、コンテナやブロックでかさ上げし、風通しを良くする
  • ハダニ類、アブラムシ類、うどんこ病など干ばつ時に発生が多くなる病害虫は、発生動向に十分注意して適期防除に努める

果樹の高温障害対策

果樹の高温障害対策としては、以下が挙げられます。

  • 収穫期を迎えるモモやブドウなどの果実は、樹冠内光環境の改善、反射シートの活用によって着色不良を防ぐ
  • 着色の遅延に伴い収穫時期が遅れて果実が過熟とならないよう、適期収穫に努める
  • 灌漑用水を可能なかぎり確保し、細根部分にスポット的に集中して灌水する
  • 土壌水分の蒸散を抑えるため、しきわらや草刈りを早目にしてマルチする(マルチ材料のない裸地では地表面を軽く中耕する)
  • 高温によって果実の日焼けが発生しやすい園地においては遮光対策を講じる
  • 高温による日焼けを防ぐため、日焼け防止剤を塗布する

花きの高温障害対策

花きの高温障害対策としては、以下が挙げられます。

  • 露地、施設栽培とも高温が続くと乾燥しやすいため、十分にかん水をする
  • かん水量は少量を多数回行うのではなく、1回に 20mm以上の水量で十分に与える
  • 干ばつ傾向にある地域の露地栽培の花きは、敷わらなどマルチを用いて土壌水分の蒸発防止を図る
  • 施設栽培の花きは、寒冷紗や遮光資材を用いて「気温・地温・植物体温」の上昇を抑える
  • 妻面・側面を開放することで施設内に風を通し、室温の上昇を抑える
  • ハダニ類、アブラムシ類、うどんこ病など高温・乾燥時に発生が多くなる病害虫は、発生動向に十分注意して適期防除に努める

07まとめ

高温耐性品種とは、高温状況下にあっても品質・収量が低下しにくい品種のことです。昨今、国内においても記録的な暑さや気温上昇が観測されており、各地で必要性が増しています。

高温障害のメカニズムを踏まえた上で、それらに耐性をもつ品種の開発も進んでいます。本記事内では、米(水稲)と野菜の高温耐性品種の具体例を紹介していますので、補助金とあわせて導入を検討してみてはいかがでしょうか。

以上の通り、農産物の収量や品質の保持、農家の収益安定化による持続可能な農業の実現、ひいては食料の安定確保といった観点から高温耐性品種が必要とされています。

また、持続可能な農業の実現という観点から、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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