2022.11.10
注目のソーラーシェアリング。導入件数増加の理由とは?
ソーラーシェアリングを導入する農地が増加中です。荒廃した農地の活用や収入増などのメリットがあるソーラーシェアリングですが、そもそもどういったものなのでしょうか。今回はソーラーシェアリングの仕組みを理解する基本の情報を整理してご説明します。
CONTENTS
011. 注目されているソーラーシェアリングとは?
ソーラーシェアリングとはそもそもどういった仕組みなのでしょうか。また、農地をソーラーパネルで覆って作物の生育に影響がないのかなど、まずはソーラーシェアリングの基礎知識を説明します。
農業と発電で太陽光をシェア
ソーラーシェアリングとは読んで字の如くソーラー(太陽光)をシェアすることです。太陽光を農業と発電の2つで分け合い、それぞれに活かすことで様々な恩恵を受けられます。
太陽光が農業に不可欠なのはもちろんですが、同時に太陽光で発電をすることで農家の収益増やエネルギーの確保、耕作放棄地の再活用につながることが期待されています。農業を行なっている土地の上に太陽光パネルを並べ、農業と発電を同時に行うため「営農型太陽光発電」とも呼ばれています。
ソーラーシェアリングで作物は育つのか?
多くの農家が懸念しているのが農地の上にソーラーパネルを並べることで太陽の光が作物に当たらなくなり生育に悪影響があるのではないかという点です。
ポイントは2つあります。まず1つ目は遮光率。これはソーラーパネルによってどの程度太陽光を遮るかという割合です。ソーラーシェアリング協会によるとソーラーパネルを置かない状態の30%程度が目安とされることが多いようです。 30%程度であればどの作物でもそれほど大きな影響はありません。
2つ目は光飽和点です。植物は光合成で使う太陽光の強さが決まっています。この太陽光の強さの最大値を光飽和点といい、光飽和点を超えて太陽光が当たっても作物の生育に良い影響がないばかりか、強すぎる太陽光がストレスになることもあります。
作物によっては、遮るものがなく太陽光が降り注ぐ環境よりも、何かでガードしてあげた方が作物の生育に良い影響があります。ソーラーパネルでガードすれば同時に発電もできるので一石二鳥というわけです。
以上の2つから、ソーラーシェアリングはやり方次第では作物の生育に悪影響を与えるどころか、むしろ良い影響を生むともいえます。もちろん、環境や選ぶ作物によって条件は異なりますので慎重に検討する必要があります。
02なぜ、ソーラーシェアリングが注目されているのか?
ソーラーシェアリングは農業の課題とエネルギー問題を両方解決する手法として注目を集めています。農業もエネルギーも農家や行政のみならず一般の生活者にも密接に関わる要素です。どのような課題解決につながるのでしょうか。
農業の課題
農業生産は気候や他産地での収穫状況によって、収益が大きく左右されます。毎年安定した収入を計算することが難しい側面があり、そのためより安定した職業に人が流れてしまい後継者不足が発生しています。後継者がいなくなった農地は耕作放棄地となり地域は衰退、さらに国内の農業生産量が落ち食料自給率が低下します。
ソーラーシェアリングの活用によって、手離れよく安定した収入を計算できるようになります。安定した収入が得られる職業であれば農業従事者も増えます。地域は活気を取り戻し農作物の生産量が増えれば、食料自給率の上昇につながります。
エネルギー問題
世界では化石燃料の枯渇が問題となっており、近年SDGsが叫ばれるようになった大きな要因となっています。CO2の削減は急務で、日本政府は「2030年における温室効果ガス削減の目標を46%とする(2013年度比)」「さらに50%に向けて挑戦を続ける」との目標を定めています。
さらに、日本はもともと資源に乏しく燃料のほとんどを輸入しているため、様々な外的要因によってエネルギーの供給が左右されやすいリスクを抱えています。
太陽光発電は、ソーラーパネルを設置すればエネルギーを生み出せるため、資源が枯渇する心配がなく、日があたる場所であればどこでも発電可能です。ソーラーシェアリングは陽当たりが良い農地を活用するため、太陽光発電に適した方法といえるのです。
03ソーラーシェアリングのメリット
ソーラーシェアリングにはどのようなメリットがあるのでしょうか。農家と社会の2つの立場に分けて整理していきます。
農家のメリット
農家のメリットは収入に関わる部分が大きいです。従来の農地にソーラーパネルを設置するだけで安定した追加収入が見込めます。或いは、発電した電力をそのまま農業で自家消費できるため、燃料代などのコストの削減も実現できます。採算が合わなく、農業を諦めてしまった耕作放棄地などがある場合は、ソーラーパネルを設置することで農地の再活用も検討できるでしょう。
また、近年は猛暑日が増え農業従事者にとっては生産性が落ちるだけでなく、健康被害の懸念もあります。ソーラーシェアリングを導入することで、日陰ができれば、農業従事者の負担が減り作業効率のアップにもつながります。遮光がされることでこれまで行なっていなかった新たな作物の検討もありえるでしょう。
社会のメリット
耕作放棄地にソーラーパネルが設置されることで農地の有効活用が進むのは、地域や行政にとってもメリットがあります。さらに安定した収益が上がることが分かれば、後継者になることを選ぶ若者の増加や新規就農者の増加も期待できます。その結果、日本の農業生産量が増加し食料自給率の向上が期待できます。
04ソーラーシェアリングのデメリット
ソーラーシェアリングはデメリットがあるのでしょうか。ソーラーシェアリング自体というより、設置準備にかかるコストや手間はデメリットと捉えられるかもしれません。
農家のデメリット
ソーラーシェアリングは太陽光パネルを自由に置けば開始できるわけではありません。農地の一時転用手続きのための農業委員会への申請、行政の許可取得、設備の手配など導入までのハードルがあります。また、初期投資費用は設置する広さにもよりますが数百万円〜数億円程度になるため、個人の農家の自己資金だけでは厳しいかもしれません。
また、農業は地域住民との関わりも強いため、周囲に理解してもらうための十分な説明 も重要です。理解を得られないまま進めてしまい後々問題になってしまった、ということがないように、事前に周囲の理解を得ることは不可欠です。
05ソーラーシェアリングの普及状況
ソーラーシェアリングは農業やエネルギーの課題解決につながるため、国も導入促進に力を入れており、件数は右肩上がりに伸びています。
2013年度の100件から2020年度には3,500件弱にまで成長
農林水産省のデータによれば2013年度に100件程度だったソーラーシェアリングの導入は2020年度には3,500件弱にまで成長しています。2014年度には351件だった新規導入数は2020年度には779件と2倍以上の伸びを見せています。
図1:営農型太陽光発電設備を設置するための農地転用許可件数
出典:営農型太陽光発電について(農林水産省 )
普及促進に向けた制度の変更
ソーラーシェアリングの新規導入を増やし普及を促進するために、政府は制度の変更を行いました。
まずは農地一時転用許可の申請更新期間延長です。従来は3年ごとに許可申請が必要でしたが、ソーラーシェアリングは長期的な取り組みですので許可が更新されなかった場合のリスクから金融機関の融資を受けにくいという状況がありました。これが緩和され、現在は一定条件を満たした場合のみ、10年ごとの許可申請に緩和されています。
一定条件とは
・認定農業者等の担い手が下部の農地で営農を行う場合
・荒廃農地を活用する場合
・第2種農地又は第3種農地を活用する場合
つまり、甲種農地や第一種農地で一時転用許可を受けている場合は、従来通り3年ごとの許可申請が必要になります。
また、「営農の適切な継続」も重要な条件です。具体的には
・営農が行われていること
・生産された農作物の品質に著しい劣化が生じていないこと
このようにあくまで農業が成立している実態があるかは厳しく見られます。
さらに、荒廃農地以外で農地の一時転用許可を受けている場合は「同年の地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減収しないこと」も求められます。
しかし、この条件はすでに生産環境が失われている荒廃農地の実情には沿いません。せっかく土地があっても農業単収8割以上が難しいため、ソーラーシェアリングを諦めていた荒廃農地が多く存在しています。そこで、荒廃農地に関しては単収8割以上という条件が撤廃されました。
06ソーラーシェアリングで栽培可能な作物
ソーラーシェアリングで育てることができる作物について具体的に紹介します。自分の農地にあった作物を選びましょう。
陽生植物、半陰生植物、陰生植物とは?
植物には必要な太陽の光に応じて3種類の分類があります。
陽生植物は1日あたり6時間の直射日光が必要なため、基本的に日影を必要としません。つまり、ソーラーシェアリングで陽生植物を選ぶ場合は必要な日照が得られるか慎重な検討が必要です。
半陰生植物は1日あたり3〜4時間の直射日光が必要で、直射でなくてもネット越しなどの間接的な日照が1日あれば生育可能です。ソーラーシェアリングにおいては比較的選びやすい作物といえます。
陰生植物は直射日光が当たらない半日陰~日陰を好む植物です。日照が必要な場合でも1日あたり1〜2時間で十分なので、逆にしっかり日影を作る工夫が求められます。
代表的な作物
陽生植物:イネ、ムギ、ダイズ、ラッカセイ、トウモロコシ、カボチャ、ダイコン、キャベツ、ハクサイ、タマネギ、クリ、アサガオ、チューリップなど
半陰生植物:レタス、ホウレンソウ、ネギ、ワサビ、ジャガイモ、サトイモなど
陰生植物:キノコ類、ミョウガ、シソ、ミツバ、ニラ、フキ、サカキなど
詳しくは下記の記事もご覧ください。
07ソーラーシェアリングの始め方
ソーラーシェアリングをどのように始めたらよいか手順のイメージを紹介します。周囲に協力してもらい支援を受けながら進めることが大切です。
導入のステップ
ソーラーシェアリングの導入のステップは、以下の流れになります。
特に、ステップ6の各自治体の農業委員会への農地の一時転用許可申請は重要です。
まずは農業委員会を通過しないとその先の行政からの許可が受けられません。書類をしっかり記入するのと同時に農業委員や地域住民への事前説明や折衝が欠かせません。農業委員であってもソーラーシェアリングがきちんと理解されているとは限らず、それが故に申請が却下されるケースもあります。
費用目安
ソーラーシェアリング設備の設置費用は1KWの発電設備ごとに30〜40万円程度になることが多いです。農地である程度の規模にする場合は数百万円〜がスタートというイメージ。数ヘクタールにもなるような規模の場合は億単位になることもあります。ただし、最近は費用を抑えて導入できるサービスも出てきていますので、興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか。
補助金制度
上記のような費用を個人で賄うことは難しいので、補助金制度をうまく利用しましょう。
現在一旦受付は終了していますが、農林水産省が提供する補助金だと「地域における太陽光発電の新たな設置場所活用事業 Ⅰ.営農地事業」が挙げられます。補助率 2分の1(補助金の上限は3億円)という大型の補助金なので、公募が始まった際には是非検討したいところです。
また、環境省が提供する補助金として、「PPA活用等による地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業、 (2) 新たな手法による再エネ導入・価格低減促進事業」というものがあります。例えば、営農地・ため池・廃棄物処分場を活用した太陽光発電について、設備等の導入費の1/2の補助金を受けられます(コスト要件あり)。
参考:PPA活用等による地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業(環境省)
さらに、各自治体でもさまざまな補助金をリリースしています。詳しくは下記をご覧の上、該当する自治体窓口にお問合せください。
参考:営農型太陽光発電に係る地方自治体の支援施策(農林水産省)
08ソーラーシェアリング導入事例
山間部の耕作放棄地でソーラーシェアリングを導入!
「たかとみファーム」(鹿児島県志布志市)
実際にソーラーシェアリングを導入して新たな収入の柱を得、事業の可能性を広げたのがたかとみファームです。導入時の苦労や抱えていた課題、導入後の実態などをインタビューしました。下記リンクからご覧ください。
【参考】
・ソーラーシェアリングとは?(ソーラーシェアリング協会)
・ 気候変動・日本の排出削減目標(外務省)
・ 再生可能エネルギー発電設備を設置するための農地転用許可(農林水産省)