人・企業・自治体を
応援するメディア「リプラス」

農業のAI化とは?メリット・デメリットや新技術を紹介

農業のAI化とは、AI(人工知能)に基づく技術を活用して農作業や農業経営の効率化・付加価値向上を図ることです。農業従事者の減少や低い食料自給率などが懸念されるなか、農業のAI促進が期待されています。

ただ一方で「農業のAI化に関心はあるがよく分からない」「導入した際のメリットとデメリットが気になる」「具体的に何ができるのかを知りたい」といった方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では農業のAI化について、注目される背景、メリット・デメリット、新たにどのようなソリューションがもたらされるのかを紹介します。

01農業のAI化とは

農業のAI化とは、AIArtificial Intelligence:人工知能)に基づく技術を活用して農作業や農業経営の効率化・付加価値向上を図ることを指します。これにより、作業負担の軽減、作業や精度の向上、後継者の教育などが可能となります。農業従事者の減少や安定した食料供給の必要性などを踏まえて、政府も普及を後押ししています。

また、AIに加えて、IoTInternet of Things:モノのインターネット)やロボティクス(Robotics:ロボット工学)の技術を活用した農業を「スマート農業」と総称します。スマート農業に関しては、以下の記事をご覧ください。

関連記事これからを変える「スマート農業」とは?導入の目的と事例

02農業のAI化が注目される背景

農業のAI化が注目される背景は、以下の3つです。

農業従事者の減少

農業労働者数は年々減少の一途をたどっています。農林水産省の公式統計によると、仕事として主に自営農業に従事する基幹的農業従事者(個人経営体)の人数が、2015年には175.1万人だったのに対して、2023年では概算で116.4万人にまで減少する見込みです。高齢化や後継者不足が主な要因であり、農業のAI化による農作業の負担軽減および効率化が期待されています。

安定した食料供給の必要性

日本の食糧自給率はカロリーベースで38%(2022年時点)であり、先進諸国と比較しても低い数値と言わざるを得ません。また、食料の生産や供給をめぐる国内外の状況は刻々と変化しており、食料安全保障上の懸念は高まりつつあります。

こうした状況を鑑みると、食料を今後も継続的かつ安定的に輸入できるとは限らないため、国内での生産量を高める必要があります。こうした背景から、農業のAI化による生産性の向上が注目されています。

政府による推進

上記の状況を踏まえ、政府は食料安定供給・農林水産業基盤強化本部において農業のAI化を含むスマート農業の推進を「食料・農業・農村政策の4本柱」の一つして掲げています。

「食料・農業・農村政策の4本柱」

  1. 食料の安全保障の強化
  2. 農林水産物・食品の輸出促進
  3. 農林水産業のグリーン化
  4. スマート農業

      こうした背景から、農業のAI化の技術開発や関連サービス事業の育成が促進されつつあります。

      03農業をAI化するメリット

      農業をAI化する主なメリットは、以下の3つです。

      作業負担が軽減される

      AI技術を用いた自動化やロボット化は生産効率を向上し、作業者の負担を軽減します。重労働や繰り返し作業、長時間の監視などの負担軽減により、労働環境の改善や健康維持にも寄与します。また、作業の効率化により、労力や時間の節約にもつながります。

      作業や判断の精度が高まる

      農業のAI化により、作業や判断の精度が向上します。AI技術によるセンサー感知やデータ解析を活用することで、作物の生育状況や土壌の状態などの情報を正確に把握することが可能となります。最適な生育状況の維持により市場評価の高い作物を安定的に生産できることで、収益性向上にもつながります。

      後継者を育成しやすい

      後継者の育成やノウハウの継承を行いやすくなる点も農業のAIによるメリットです。AI技術を用いることで例えば収穫時期の見極めや病害による兆候の発見など、従来は農家の熟練した目利きや技術によって成り立っていた作業工程データ化によって再現精度を高めることが可能となります。再現性が高く、成果も得やすくなれば、次世代の担い手への技術の継承がしやすくなり、農業人材も育ちやすくなるといえるでしょう。

      04農業をAI化するデメリット

      農業をAI化する主なデメリットは、以下の2つです。

      導入にまとまった費用がかかる

      農業のAI化には、高度なセンサーなどを搭載した専用機器、データ解析ソフトウェアなどを導入するための初期費用がかかります。特に小規模な農業者にとっては、これらの費用は大きな負担となりかねません。導入後のメンテナンスやアップデートにもコストがかかる場合があります。

      AI活用についての知識を要する

      AI技術を活用するためには、システムの運用やデータの解釈・管理に関する知識が必要となります。そのため、新しい概念や操作方法を習得するために時間と労力を求められます。多くのユーザーがスムーズに活用できるよう、より使いやすい技術の研究開発やソリューション開発が進むことが期待されています。

      05農業のAI化による新ソリューション

      農業のAI化によってもたらされる新しいソリューションを5つ紹介します。

      収穫時期予測

      収穫時期を予測するAIの研究が進んでいます。データを端末で処理するAIカメラおよびセンサーを用いて、農作物の収穫日を予測します。

      具体的には、センサーデータと実際の生育状況のデータを組み合わせて成長の予測モデルを作成する技術です。30分ごとに撮影される写真から成長の違いを分析し、遠隔で農作物の生育状況や収穫時期を把握することが可能になります。これにより、農業の省人化を推進でき、効率的な出荷にもつながります。

      自動収穫機

      AIを活用した自動収穫機の開発が進んでいます。具体例として、キャベツの自動収穫機が開発されており、AIカメラおよびセンサーを用いて作物を認識し、自動で収穫作業を行います。コンテナへのキャベツ収納、コンテナ交換まで自動で行うことができ、収穫・運搬作業にかかる時間と人手を大きく縮減することが可能です。

      収穫機の運転には熟練者の技術が必要とされていましたが、収穫機を無人化することで農業の担い手不足解消が期待されています。

      技術の見える化と新規就農者の支援

      農業のAI化により、熟練者の技術の見える化と新規就農者の支援が推進されています。具体例として、シャインマスカット栽培における技術継承のための取り組みがなされています。「房づくり・摘粒・収穫時期の判断」といった熟練者の技を、農業者が装着したスマートグラス(メガネ型のウェアラブル端末)で撮影し、データ化。AI解析などにより、新規就農者が装着するスマートグラスに作業のポイントを投影して、表示される指示を参考にすれば熟練者並みの的確な判断が可能となります。

      病害虫診断アプリ

      作物が病害虫による被害を受けていないかを自動診断するアプリが開発されています。スマートフォンに当該アプリをインストールし、診断したい作物を撮影すると、AIが病害虫を診断し、詳細結果を画面上に提示します。

      早期診断や早期対応を可能とすることで病害虫による被害を最小化できるのはもちろんのこと、新規就農者や非熟練者による作業や生産現場での病害虫診断の効率化を実現可能です。

      土壌病害診断アプリ

      土壌微生物による発病リスクを栽培前に診断するAIアプリが開発されています。全国14の道県で管理法の有効性を実証した上で土壌病害診断データ7,000件以上を収集し、システムに反映。ほ場での土壌病害10種の発生しやすさを診断し、対策情報などを提供してくれます。

      熟練者でなければ困難だった土壌病害の管理が、新規就農者や非熟練者でも可能です。また、土壌消毒剤の使用量を低減することにもつながります。

      【参考】スマート農業をめぐる情勢について p22(農林水産省)

      自動運転農機

      AI技術を搭載した自動運転で稼働する農機(トラクターやコンバインなど)の開発が進んでいます。すでに自動操舵のトラクターなどは稼働していますが、人工知能(AI)カメラを通じて人や障害物を認識できるより安全性の高い農機が新たに販売される予定です。

      これにより、複数の農機を同時に管理でき、作業負担が軽減されます。作業効率や生産性の向上により、担い手不足の解消や、新規就農のハードルを下げることが期待されています。

      06まとめ:生産効率を高めて持続可能な農業へ

      農業のAI化とは、AIArtificial Intelligence:人工知能)に基づく技術を活用して農作業や農業経営の効率化・付加価値向上を図ることを指します。また、農業従事者の減少・安定した食料供給の必要性・政府による推進を背景に、注目度が高まっています。

      農業をAI化するメリットは「作業負担が軽減される」「作業や判断の精度が高まる」「後継者を育成しやすい」の3点。対してデメリットは「導入にまとまった費用かかる」「活用についての知識を要する」の2をご説明しました。両者を比較して、導入判断にお役立てください。

      そして、農業のAI化により、新たなソリューションがもたらされています。本記事では、収穫時期予測・自動収穫機・技術の見える化と新規就農者の支援・病害虫診断アプリ・土壌病害診断アプリ・自動運転農機を紹介しました。

      今後も持続可能な農業を実現するためには、生産効率の向上が欠かせません。そのためには、本記事で紹介したAI技術はもちろん、ICTやロボット技術を用いた「アグリテック」ひいては「スマート農業」の理解と活用が重要です。ぜひ、以下の記事もあわせてご覧ください。

      関連記事アグリテックとは?実現している最新農業テクノロジー9選

      【参考】

      SHARE シェアする
      • LINE
      • Twitter
      • Facebook
      KEYWORD この記事のキーワード