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気候変動で「適地適作」が変化する?その影響と対応策を解説

適地適作とは、その土地の土壌や気候に適した品種の農作物を栽培することです。適地適作を実施すれば、高品質な農作物と豊富な収穫量を期待できます。ただ、近年では地球温暖化の影響により、農作物の栽培適地の移動が起きています。

本記事では、「栽培適地が変化すると農業経営に影響が出るのかどうか」を知りたい農家に向けて、適地適作の意味と概要、地球温暖化による影響、メリット、適地適作の難しさ・配慮すべきことなどを解説します。

一般的な良い土の条件や「適地適作の変化に対応するための取り組みへの補助金」についても解説していますので、「農業を始めたい」「農家として独立したい」と考えている方も、ぜひ参考にしてください。

01適地適作とは

ここでは、適地適作の意味と概要、日本での適地適作について解説します。まずは、適地適作の基礎的な知識を理解しましょう。

意味と概要

適地適作とは、農作物の品種の生育に適した気象条件・土壌条件で栽培することです。
例えば、湿地では小麦は栽培しにくいが稲や里芋は栽培しやすい、冷温帯地帯の露地では温州みかんは栽培しにくいがりんごは栽培しやすいなど、作物に適した環境で育てることをいいます。

栽培適地を判断する要素は次の通りです。

・ 気象:気温・日照・降水量など
・ 土壌:褐色森林土・灰色低地土・褐色低地土・黒ボク土・黄色土など
・ 土性:砂土・砂壌土・壌土・埴壌土・埴土など

近年、社会問題になっている地球温暖化により、気象条件の変動が生じて従来の栽培適地が変化しつつあります。

日本の適地適作

南北に細長い日本は、熱帯・温帯・亜寒帯・寒帯と多様な気候帯が特徴的です。この気候の特性を活かして、全国各地の地域に沿った適地適作が行われてきました。この気候帯のおかげで、多種多様な野菜や果実を生産できているため、世界的に見ても日本の気候は恵まれています。

しかし近年、地球温暖化の影響でこの気候帯に変化が起きており、気温上昇、大雨や猛暑日の発生数の増加などが見られ、各地域の農作物に影響が出始めています。

02地球温暖化の影響による適地適作の変化

日本の農業は、地球温暖化の影響により高温障害や栽培適地の移動が起き始めています。これから農業を始めようと考えている方は、気候変動による栽培適地の変化などを考慮して、生産する品種を選択する必要があるでしょう。また、すでに農業に携わっている方は今の土地でできる対策を検討する必要があります。

高温障害の影響とその対応策

地球温暖化の影響により、水稲・果樹・野菜などに高温障害が生じています。
高温障害の影響を受けている農作物と対策の一例をあげると次の通りです。

品目
農作物への影響
対策
水稲デンプンが十分につまらず白濁してしまう白未熟粒が発生高温に耐性のある品種を導入(きぬむすめ、つや姫、にこまるなど)
果樹みかん:果皮と果実が分離する浮皮が発生
ぶどう・りんご:着色不良が発生
みかん:成長調整剤の散布と反射シートの導入
ぶどう:黄緑系品種を導入
りんご:着色能力の高い品種を導入
野菜トマトの赤色色素が抑制されて着色不良が発生する遮光資材を導入
高温に耐性のある品種を導入

農林水産省によると、このまま地球温暖化が進行していくと2040年代には、十分に成長していない乳白米の割合が増え、一等米面積の減少が予想されています。

高温対策の一つとして、農地の上に太陽光発電設備を設置するソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を導入して直射日光を遮る方法もあります。詳細を知りたい方はこちらを参考にしてください。

関連記事注目のソーラーシェアリング。導入件数増加の理由とは?

栽培適地の移動が予想される

下記の図は地球温暖化による栽培適地の移動マップです。図の左側を見てもらうとわかるように、温州みかんの栽培適地は現在から2060年代にかけて、北上して内陸部に広がっていくと予想されています。

右側のりんごに至っては、現在から2060年代にかけて中国、四国、中部、東北地方での栽培適地が縮小し、北海道へと移動する可能性があります。

文部科学省・気象庁によると、日本の年間平均気温は20世紀末(1986年~2005年)から21世紀末(2081年~2100年)にかけて、1.4℃~4.5℃上昇すると予測されており、今後さらに栽培適地が移動する可能性があるでしょう。

03適地適作の重要性

適地適作が重視される理由には次の4つがあげられます。

・ 高品質な作物が生産できる
・ 管理作業を減らせる
・ 農薬・肥料コストを抑制できる
・ 環境保護につながる

農作物の品種に適した土地であれば、サイズや形などの品質の向上に加えて収穫量のアップも期待できます。これは前述した通り、気候・土壌・土性などの条件が揃うことにより、農作物本来の成長する力を発揮できるためです。

適地適作により、高品質な農作物の生産に成功している一例は次の通りです。

品目
農地条件
品質
三島馬鈴薯水はけが良く肥沃な火山灰土壌を活かして栽培をしている生産者も驚くほど見た目がきれいで味も甘味が強い。保存性にも優れている
鳥取砂丘らっきょう保水力や保肥力が乏しい土壌である歯応えのある食感と色白で大きいのが特徴である 痩せた土地で育つ性質がある

出典:三島馬鈴薯(三島市役所)
出典:鳥取砂丘らっきょう、 ふくべ砂丘らっきょう(地理的表示産品情報発信サイト)

鳥取砂丘らっきょうのように、豊かな土地ではなく痩せた土地のほうが適している場合もあります。つまり、必ずしも農作物にとって豊かな土地がベストというわけではなく、各品種の特徴を捉える必要があります。

農作物の品種に気候や土壌が適していれば、高温障害などの病気が生じづらく、成長調整剤の使用や反射シートの導入などの管理作業を減らすことが可能です。また、農薬・肥料などの投入を抑えることができるため生産資材コストを削減できます。不要な化学肥料や農薬の使用を抑えることは、土壌汚染や生態系の破壊を防ぐことにつながるでしょう。

04適地適作の難しさ・配慮するべきこと

品種ごとの栽培適地を見極めるには、気候・土壌・土性などその土地の状況を理解することが必要です。

一般的に良い土の条件として「団粒構造」があげられます。団粒構造は小さな穴を無数にもっていて、通気性・保水性・水はけが良く、外部の乾燥や過湿などの変化から農作物の根を守ってくれます。さらに柔らかい土質であるため、農作物が根を広く深く伸ばしていくことが可能です。

他にも、次のような配慮すべきことがあります。

・ その土地のもともとの気候・土壌・土性
・ 生産予定の農作物に適した気候・土壌・土性
・ その土地でどのような農作物を栽培してきたか

農作物にとって栽培適地であったとしても、土壌は長い時間をかけて変化することもあります。日頃から土の状態を観察しながら、常に土壌改良を行っていく必要があります。

適地適作で農業を実施するには、気候・土壌・土性に加えて、農作物に対する知識、農業技術などあらゆるノウハウを必要とします。しっかりと土壌を診断してから農業をしたいという方は、専門機関の土壌診断を受けてみても良いでしょう。

05適地適作の変化に対応するための取り組みへの補助金

国から公募されている「生産体制・技術確立支援事業」という取り組みのなかで、地球温暖化に対応する新品種・技術の開発を支援する制度があります。

実際に行われた取り組み事例をあげると次の通りです。

【気候変動対応型次世代温州みかん栽培技術体系の確立】

取り組みの経緯気候変動に対応できる温州みかんの栽培技術体系を確立するために実施する
取り組み内容マイクロスプリンクラーと点滴かん水装置を組み合わせて、厳しい気象条件のなかでも、安定的かつ高品質な果実生産を実現した

出典:気候変動対応型次世代温州みかん栽培技術体系の確立(農林水産省)

【昇温抑制技術による夏期の施設野菜栽培の生産安定】

取り組みの経緯夏季の高温障害が原因で施設野菜の生育・収穫の遅延が発生した。施設野菜の生産安定のために実施する
取り組み内容ICTバルブを活用した葉水散水や遮熱資材の塗布、屋根散水、昇温抑制フィルムの展張などを導入する

出典:昇温抑制技術による夏期の施設野菜栽培の生産安定(農林水産省)

気になる方は、農林水産省の補助事業参加者の公募ページをチェックしましょう。

06まとめ|農業を始めるなら農作物の適地適作を調べよう

適地適作は品質と収穫量を確保していくには重要な取り組みです。しかし、近年では、地球温暖化により栽培適地が変化しつつあり、高温障害や収量低下がみられています。

その対応策として、気候の変化に応じた品種改良、設備導入などの取り組みが進んでいます。これから適地適作で農業を始めたい方は、補助金の活用なども視野に入れて計画を進めましょう。

【参考】
適地適作のための作物栽培適地条件知識ベースの構築(J-STAGE)
農業分野における気候変動・地球温暖化対策について(農林水産省)
三島馬鈴薯(三島市役所)
鳥取砂丘らっきょう、 ふくべ砂丘らっきょう(地理的表示産品情報発信サイト)
気候変動対応型次世代温州みかん栽培技術体系の確立(農林水産省)
昇温抑制技術による夏期の施設野菜栽培の生産安定(農林水産省)
補助事業参加者の公募(農林水産省)

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