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馬上丈司さんに聞く!自らソーラーシェアリングを実践する理由とは?

生産現場の人手不足や後継者不足、さらには近年の燃料高騰によるコストの増大など、複合的な課題に悩みつつ、打開の糸口を探している農家は多いのではないでしょうか。一筋縄ではいかない課題ですが、ソーラーシェアリングの導入が一つの切り口になるかもしれません。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは、農地に支柱を立ててソーラーパネルを設置することで、1カ所の農地で農作物の栽培と発電を同時に行う取り組みです。農作物の販売と売電による2つの収入を得ることができ、また作ったエネルギーを農業利用したり、災害時の非常電源として利用したりするなど多様な使い方がされています。さらに昨今社会問題になっているエネルギー不足の切り札になることも期待され、改めて注目され始めています。

今回は千葉大学で公共学の博士号を取得後、大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社(以下、千葉エコ)を設立し、各地で自然エネルギーによる地域活性化事業に携わっている馬上丈司さんに、同社がなぜソーラーシェアリングの普及に取り組むのか、農家のメリットや普及に向けた課題、近年の国内外の動向などについてお話しいただきました。

01ソーラーシェアリング推進者として、自ら実践

―ソーラーシェアリング事業を開始した経緯を教えてください

2012年の千葉エコ設立時点では、再生可能エネルギー全般の事業化を支援する中で、大規模な太陽光発電所を設置するいわゆる野立てのメガソーラーへの支援が事業の中心でした。

しかし、将来的に野立てのメガソーラーという形が必ず頭打ちになることも見えていました。まずFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格での買い取りを国が保障する制度)に頼った収益構造では、20年間のFIT期間が終われば事業として成り立たなくなります。

さらに、メガソーラーは山を切り崩すなど自然環境を大きく変化させて設置することが多いため批判が高まりつつありました。そのため将来に亘って同じ手法でソーラーパネルを並べ続けることはできないだろうと考えていました。

そのような中、2013年に千葉県でソーラーシェアリングを行っていた農地を見に行く機会があり「これなら合理的にソーラーパネルを広げられる」との思いに至りました。全国に広めやすい再生可能エネルギーということで注目したことが、ソーラーシェアリング事業を開始したきっかけです。

―今年設立10年とのことですが、これまでソーラーシェアリング事業を発展させてきた中での節目を教えてください

2016年3月に自社で初めてソーラーシェアリング設備を持ったことは一つの節目になりました。翌2017年には千葉県の匝瑳市で地元の方と一緒に1.2MWの大規模なソーラーシェアリングを完成させたことで、業界的なインパクトを与えられたのではないかと思います。さらに1年後の2018年3月に自社農場となる「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」が完成しました。

ソーラーシェアリングを推進する中で、説得力を持たせるためには「自らが実践者である」ことが大事だと考えています。最初のソーラーシェアリング発電所を設置した時は、まだ自分たちで農業までできていませんでしたが、大木戸アグリ・エナジー1号機ができて農業も手がけることで初めて「自分達の農場でソーラーシェアリングをしている」といえるようになりました。

02注目されつつあるソーラーシェアリングと普及に向けた課題

―国内でのソーラーシェアリングの普及状況についてどう感じていますか

普及のスピードの遅さには正直危機感を持っています。2013年度は100件弱しかなかったのが、2022年では累計4,000件くらいまで増えていますので、伸び率としてはいい印象ですが、絶対数で見ると太陽光発電所が全国に60〜70万カ所あるのに対してソーラーシェアリングは4,000件ですから、社会全体で必要とされている電力を賄うにはまだまだ遠いです。

例えば韓国では、国や大手電力会社が主導してソーラーシェアリングを普及させています。しかし日本の場合は逆に2016年に政府が電力自由化をして「全部市場に任せた」と言わんばかりに自由化したことにより、結果としてわかりやすく儲かる方にお金が流れます。つまり、同じ太陽光発電にしてもFITによる野立てのメガソーラーの方が儲かるから、手間のかかるソーラーシェアリングの普及が進まなかったのです。

―このまま普及が進まないとどうなるのでしょう

自国で賄えるエネルギーが増えず、輸入に頼る状況がこれからも続きます。そうなると、現在のように輸入する資源の値段が上がれば電力料金も上がります。実際家庭の電気代が大きく上がっているのはわかりやすい変化ですよね。もちろん農家が使う電気代や燃料費などのコストも上がっています。

農業面でいえば、私が小学生だった30年前から耕作放棄地や減反の問題が教科書に書いてありました。結局、そうした問題が何も解決していない状態でここまで来てしまった。戦後日本の農業を支えてきた人たちは徐々に引退される年齢ですから、その世代がこのまま抜けられたら本当に農業を担う人がいなくなってしまいます。

こうしてエネルギーも食糧も自給できなくなっていくと、高いお金を出して外国から買い続けるしかなくなってしまいますが、それも売ってくれる相手があればこそです。

一方で、こういった危機的な情報が浸透して「解決策としてソーラーシェアリングをやろう」と気付く人が増えたのは間違いありません。最近、農林水産省がソーラーシェアリング事業をしやすいよう制度を整えてくれたことも影響しているでしょう。

03農家の持続的な収入増につなげる一石に

―当事者である農家にはソーラーシェアリング導入でどのようなメリットがありますか

まず一つに、農家の収入は確実に増えます。これはソーラーシェアリングの普及に向け、当初から当社が強く訴えていたところです。

例えば、ここ大木戸アグリ・エナジー1号機は1haの農地でソーラーシェアリングを行っていますが、農産物の売上としては最大でも年間300万円程度、手元に残るのは150万円程度です。対して売電売上は2400万円程度(※注)あり、1,200万円程度が手元に残ります。通常1haの畑は0.5人程度で管理するものなので、これを1人でやれば電力収入と農産物収入を合わせて年間1,400万円の収入を得られる計算です。農家としての収入が増えて職業として食べていける見込みが高ければ、後継者になる若手も増えるかもしれません。

もう一つのメリットは農業に使うエネルギーをソーラーシェアリングで発電した電力で賄えることです。農地が多い農村部ではガソリンスタンドの減少で街中に燃料を買いに行くのも一苦労ですし、ガソリンや軽油をその都度補給するのも労力がかかります。これを全部農地で自家発電した電気で自給できるとしたら大きなメリットですよね。もちろん外からエネルギーを購入するコストも必要なくなります。

※注 大木戸アグリ・エナジー1号機の場合(FIT価格27円/kWh 税抜き)
参照:日経BP「「太陽光で成り立つ次世代農業」を模索、千葉の営農型太陽光ベンチャー」

―一方で導入に二の足を踏む方はどのようなことを懸念されているのでしょうか

よく言われるのは、設置した柱などによって農作業がしづらくなるという点です。例えばトラクターが通りづらくなることや、鍬を振り上げた時にぶつかってしまわないかと懸念されることがあります。

実際には作業する上での圧迫感や電気的な危険性がないように設計しています。例えば地面に直接柱を支える鉄板を埋めるのではなく、あえて少し浮かせたような構造にすることで、トラクターが通る際に鉄板を踏んで引っ掛かったり、人や機械を傷つけたりするリスクを減らしています。

大木戸アグリ・エナジー1号機でも農業機械を用いた農作業との両立を突き詰めて設備を作っているので、作業する上での圧迫感や電気的な危険性がないように作っているので、ぜひ現地をご覧になっていただければ正確なイメージが掴めるのではないかと思います。

また、支柱がある分作付け面積が減るので、その分農産物の生産量も少し減ります。全体を見れば、生産量が若干減少したとしても売電収入が入るので収入でいえば明らかに増えるんです。

ソーラーパネルを設置することで農作物にいい影響もあります。近年は特に気候の変化で夏の気温が上がっているので、日光が強すぎて将来的にこれまでのようには夏野菜が作れなくなる可能性があるのです。この点では、ソーラーパネルが落とす影は、農作物にとっても営農者にとってもいい日陰になります。

―ソーラーシェアリングが普及することで社会にどのようなメリットがありますか

まずは農業の持続可能性が高まります。安定した収入を得られるようになることで農業を生業として続けやすくなりますし、さらにソーラーシェアリングで作った電力を農業に使えるので、燃料などを輸入できなくなっても農業を持続できます。

農業が持続しやすい状況になれば後継者不足が解消したり、地理条件が悪く人口が減っていきそうな地方の農村部でも農業生産を維持できるかもしれません。

また、農地が維持されていれば、国全体として再生可能エネルギーを増やさなくてはいけないときに、エネルギーを生むポテンシャルとして農地を活用できます。農地は大都市の周辺にも存在しており、東京都内にも埼玉、神奈川など隣県にもありますので、都市部のソーラーシェアリングの導入が増えれば再生可能エネルギーで一部自給できるようになります。

04自治体、企業が事業主体として取り入れられ始めた

―ソーラーシェアリングの普及に向けて国や企業はどう動いていますか

環境省が温室効果ガスの削減とカーボンニュートラルの達成に向け、2022年の初頭に一回目の脱炭素先行地域を公募しました。そこで26の自治体が採択され、そのうち6の自治体がソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入を計画に入れています。自治体の施策の中で具体的に導入され始めたことは、普及を後押ししてくれるでしょう。

また、RE100(事業運営を2050年までに100%再生エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ)に参加しているような大企業においては再生可能エネルギーの生産は急務です。もし100%の再生可能エネルギーを実現できなければ、サプライチェーンから外されてしまうかもしれません。

このような状況の中、短時間で集まる再生可能エネルギーを探すと結局太陽光発電しかないんですよね。

例えば、東急不動産は埼玉県でソーラーシェアリングの大規模実験場を作る計画を発表しましたし、ENEOSは数年前からソーラーシェアリングを行うベンチャーに出資をしています。そういった大企業の取り組みがソーラーシェアリングの普及を牽引して、農家が導入する機運が高まっていくことを期待しています。

―最後に、ソーラーシェアリングを始めてみたい方にアドバイスをお願いします

「お得そうだからやってみよう」くらいの気軽さでまずは始めてみると良いと思います。さらに「農業に使うエネルギーコストが高過ぎて困っているから再生可能エネルギーに取り組んだ方がいいんじゃないか」と悩んでいる方なら、間違いなく取り組むべきです。

電力や燃料はコストがここからさらに上がる可能性が高いので、早めに導入しておくに越したことはありません。設備としては30年以上使える持続性も魅力です。

新しい農業のスタイルとして、電動トラクターの導入など農業機械の電化も現実に見えていますし、既存エネルギーの電力への転換も進むでしょう。電気を使う場面が増えていくイコールそれを作れる設備を保有していることは確実にこれからの社会で有利になります。そのあたりを念頭に置いて、是非ソーラーシェアリングに取り組んでもらいたいですね。

【プロフィール】
馬上丈司(まがみ たけし)
1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟 専務理事。一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟 代表理事。
千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

【参考】
営農型太陽光発電について(農林水産省)
営農型の太陽光発電施設「ソーラーシェア」 埼玉県東松山市内に再生可能エネルギーの実証施設を開発 ~エネルギー問題、農業問題双方の解決目指す~(2022年4月27日)
営農型太陽光発電事業に取り組むベンチャー企業 株式会社アグリツリーへの出資について(2019年8月20日)

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