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【導入事例】山間部の耕作放棄地を蘇らせるソーラーシェアリング。導入のポイントと効果とは?

耕作放棄地は増加を続ける一方であり、特に地方や山間部では深刻です。農林水産省の調査によれば、中山間地域の全体の耕地面積のうち14.5%が耕作放棄地となっています。もちろん他のエリアでも後継者・人手不足などで耕作放棄地は増え続けており、農家のみならず自治体などの行政にとっても大きな問題です。耕作放棄地が増えることで農業生産量が減ることに加え、獣害やゴミ投棄の温床になり、元の農地に戻すのが大変といったリスクも生じます。このような課題を抱える中で、解決策の一つとしてソーラーシェアリングが注目されています。

今回は鹿児島県志布志市でソーラーシェアリングを導入した株式会社たかとみファームの追立晃樹さんに、導入までの経緯と苦労したポイント、導入の効果と今後の展望について伺いました。

01新しい収益事業としての期待

―全国で耕作放棄地の増加が問題となっていますが、たかとみファームさんとしては課題を実感されていますか

後継者がおらず耕作放棄地になっている土地はよく目にしますし、農業の大きな課題だと思います。特に田舎の山間部になると都会から帰ってくる方はもちろん農業法人でもなかなか参入が進みません。こうした耕作放棄地は農業委員会が貸し先を探すのですが、かなり苦労しているはずです。ソーラーシェアリングという新たな切り口で耕作放棄地の活用が進むことで、農業に関わる多くの方にとっての課題解決になると思います。

―たかとみファームさんがソーラーシェアリングに携わることになったきっかけを教えてください

多くの農家さんや農業法人と同様に、当社も農作物の販売による収益が安定しないという課題を抱えていました。気候変動、気象条件や病気、害虫などで収穫量が変わるのに加えて、別産地の収穫量次第で市場価格が変化します。

例えば当社で今一番売上が大きいゴボウ。一大産地として有名な青森が豊作になると市場価格が下がってしまうため、それに比例して当社の売り上げも下がってしまいます。

そのため、毎年売上が大きく変動する一方で、人件費や経費は変わりませんので、どうしても収入が不安定になります。つまり、作物が売れる時期になるまで黒字になるか赤字になるかわからないという状況で、経営面で大きな問題と捉えていました。何か安定した収入の柱になるものを必要としていたんです。

そのような中で農業委員の方からソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を手がけている自然電力を紹介するのでぜひ会っていただけませんかという話がありました。太陽光発電と聞いて想像していたのが一般的なメガソーラーで、営農型にいたっては聞いたこともなく全く知らない状態でした。当初は、正直ソーラーパネルの下で農作物を育てるのは、機械の動くスペースや日射量を考えると無理だろうと思っていました。

ただ、実際に話を聞いてみると、農作物を育てながら発電も行うソーラーシェアリングは既に導入されている例があり、安定した収入が見込めることも魅力的に感じました。そこで、インターネットで全国の作付けや設備の事例を調べたり、取引先などに相談したりして導入を決めました。特に太陽光を作物に届かせるためにパネル間隔を空けて設置したり、農機具に合わせて柱の高さや間隔を調整しているのを画像で見たときに「これならできる」と感じました。

―ソーラーシェアリング導入による収入や費用はどのような試算をされたのでしょう

今回は発電事業者から営農の委託料を受け取る契約で、ソーラーパネルを設置する土地面積でサツマイモを作った時の売上と同じくらいの収入です。サツマイモを栽培した場合はここから経費が引かれますが、委託料はほとんど利益になります。当社としては設置する場所を整えて営農をして20年間管理するだけなので、大きな手間も費用もかかりません。設置にあたっての初期費用も自然電力に負担いただきました。不安要素は、パネル下の日射量が少ない条件で作物の収穫量と品質が著しく悪くならないか、柱などの障害物が作業効率に影響しないかでした。

02農業委員会の審査落ちを経験、徹底してデータ集めをし無事通過

―実際に導入を決めてからどのように動きましたか

基本的にソーラーシェアリングを導入するには、農業委員会に届け出て、農地の一時転用許可を取得する必要があります。ただ、1回目の書類を農業委員会に提出するまでは、ほとんど自然電力にお任せしており、当社の負担は小さかったです。

また、書類提出前の農業委員の皆さんをはじめとする地元への説明も自然電力がやってくれました。そのままスムーズに進めば最高だったんですが、提出した書類が審査落ちしてしまったんです。これは正直予想外でした。

―審査落ちした理由はなんだったのでしょう

ソーラーシェアリング自体の認知や理解が進んでおらず、農業委員会の皆さんも十分な情報をお持ちでなかったために、「本当にできるの?」となってしまったのが理由です。理論的にということではなくて、もっと感覚的な部分ですね。「そもそもそんなものはできない」と思い込んでいらっしゃる方が多かったのを覚えています。当初の私と同じだったのだと思います。

―そこからどのように審査を通したのでしょうか

農業委員会の皆さんが感覚的に判断されてしまっていることははっきりしていましたし、当初の私も同じ判断をしていました。それなら、視覚的・数値的にも具体的に説明しようと思いデータを徹底的に出し資料にまとめようという方向になりました。

そこで、一緒にプロジェクトを進めていた牧草の種苗会社である雪印種苗さんからは遮光率50%くらいで育つ牧草のデータを、ソーラーシェアリングのアドバイザーである千葉エコ・エネルギーさんからは予定地の緯度経度で想定している日射量や牧草の品種が育つかどうかの論文を提供していただきました。また、想定している収穫機械を持っている農家さんに協力してもらい、仮想ソーラーパネルの柱を畑に立てて、トラクターに実際使うアタッチメントを付けたら問題なく作業できるのか写真と動画を撮影させていただいたりもしましたね。

それらデータを全て農業委員会に提出したら具体的なイメージも湧き、スムーズに承認していただけました。いかにわかりやすく伝えるか、そのためにデータや視覚的にわかるような動画や写真を用意することが重要だと学びましたね。

―準備から導入にはどれくらいの時間がかかりましたか

1年半くらいでソーラーシェアリングの設備導入まで進みました。自然電力と最初にお話したのが、2019年11月頃です。そこから導入検討や許可取得準備を行い、ほぼ1年たった2020年10月頃に第1回目の審査があったのですが、その時は審議が通らなかったため、そこから1ヶ月で自然電力と当社で手分けしていろいろデータを集め再提出したところ、2020年11月に第2回目の審議に通過。その後、県に申請を出してこれもすぐ通りましたので、2021年2月頃から畑の整地を終えソーラーパネルの柱が立ち出したという流れです。

―牧草にした理由を教えてください

ポイントは二つあります。まずは遮光率50%ぐらいで育つ作物であること。もう一つは必ず売れる作物かどうかです。

全国的に営農型発電でどんな作物が育てられているのか調べたところ、米や芋、椎茸、榊が多く、牧草も5%くらいありました。当社で既に作っていてかつ売れそうな作物と言うことで、サツマイモと牧草が候補に残りました。

ただ、サツマイモに関しては、当時焼酎ブームが過ぎてしまってサツマイモの減産が始まっていたこと、また、サツマイモの伝染病である基腐病(もとぐされびょう)が2、3年前から拡大して国から補助金が出るレベルになっていたので、そのリスクは負えないなと。

一方牧草は、2020年に鹿児島が肉用牛生産量日本一になっていますし、既存の取引先も牛を育てている農家がかなりあります。そのような理由から牧草をやろうと判断しました。

牧草はいろんな草種があり、種子単価が少し割高ですが影に強かったり湿地に強い草種があります。実際に影に強い牧草をソーラーパネルの下で育ててみると、想定以上の収穫量でした。ソーラーシェアリングをするにあたっては周辺近隣の平均の80%以上の収穫量という条件がありますが、ほぼ平均の100%の収穫量を取れています。

03普及には作物生育データベースを含めた支援の枠組みが必要

―実際にソーラーシェアリングを始めてみて農作業での課題はありますか

今のところ大きな問題は起きていません。小さいものだと、例えば柱の出っ張りがトラクターのタイヤに当たってタイヤを傷つけるかもしれないとか、盗難防止フェンスとソーラーパネルの支柱との距離感が近くてちょっとトラクターが回りにくいというようなことありますが、こういった設備関係のことはその都度自然電力と相談して解決しています。

―今後取り組みたい農作物があれば教えてください

利益率の高いサツマイモに挑戦したいと考えています。焼酎用サツマイモの減産や基腐病の問題はあるのですが、一方で焼き芋用のサツマイモニーズが増大しています。背景には、コンビニエンスストア等で50%が廃棄になるホットスナックのおでんを焼き芋に差し替えようというSDGs的な動きがあるようです。全国のコンビニチェーンでこの動きが進むことで焼き芋の原料が不足しつつありますし、基腐病によって収穫量が減っているので各社からの引き合いが強くなっています。そこでまたソーラーシェアリングでサツマイモを作ろうという計画が再燃してきたところです。

―導入を実際にしてみて実感した、必要な支援策などはありますか

やはり導入に対して課題を解消しながらステップを一つずつ進めていくのが大変なので、そこは支援の枠組みが確立されていると助かります。特に、農業委員会を説得する上でデータは必要不可欠です。当社は 雪印種苗さんや親会社のネットワーク、千葉エコ・エネルギーさんや自然電力から様々なデータを提供いただくことで解決できましたが、一般の農家さんがそれをできるのかというと単独では難しいと思います。だから、営農型発電をやる上での主要品目の生育データみたいなものを誰でも見ることができるデータベースがあればハードルが一気に下がるように思います。

実際には各地域で主要作物は異なるので、膨大なデータ量をどこまで揃えられるのか、各農業委員会の判断基準にデータの様式をどこまで合わせるのかは判断が難しいでしょう。でも、当社がソーラーシェアリングを導入する際にデータ集めにはかなり苦労したので、ソーラーシェアリング普及のためにはぜひともご尽力いただきたいです。

―最後にソーラーシェアリングを検討されている農業者や行政の方に対して、改めて導入メリットを伝えてください

まず一つは耕作放棄地をはじめとする農地の有効利用になることです。最初にも申し上げましたが、就農が難しい山畑でも、ソーラーシェアリングなら新規就農者を呼び込みやすいというのは、農業委員会をはじめとする行政や自治体にとってもメリットとして感じやすいと思います。

次に収入の安定した柱になること。農作物の市場価格や収穫量の上下に関わらず、安定して得られる収入があることで、事業も生活も中長期的視点から考えられるようになるはずです。

最後に災害時や停電時の電気動力源として使えること。行政との協力も必要ですが、今後活用方法として増えてくると思います。農業委員会が災害時の緊急用電源として使えるようにして、役場まで通電できるようなスキームを用意すれば、行政、地域住民にとっても大きなメリットになると思います。

【取材協力】
株式会社たかとみファーム https://takatomi-agri.com/company/

【参考】
中山間地域等直接支払制度の最終評価-参考資料-「中山間地域農業をめぐる情勢」(農林水産省)

写真:focus tart 高橋善希(東京都)

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