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2023.2.27

「売電収入以上の価値」小山田大和さんが見つけたソーラーシェアリングの真価【前編】

香川県でソーラーシェアリングを実践する14代目農家の森岡さんが全国のソーラーシェアリング実践者(空シェア人)を訪ねる「森岡さんの空シェアめぐり旅」。

今回訪ねたのは、神奈川県小田原市にある合同会社小田原かなごてファームの代表 小山田大和さん。地域づくり、耕作放棄地、農業、自然エネルギー、SDGsといったテーマが抱える問題や課題を、ソーラーシェアリングを通じて線で繋ぎ、持続可能な社会の実現に向かって進む「空シェア人」です。

小山田さんは、2014年から耕作放棄地問題に取り組みソーラーシェアリングの建設を推進。その後法人化し事業として更なるソーラーシェアリング施設の建設を進めてきました。2020年には日本初となるオフサイト型自家消費モデルで運営する「農家カフェ SIESTA(シエスタ)」をオープンしました。     

前編では2014年から現在にいたるまでの取り組みや、その過程でのできごとについて伺いました。

01持続可能な社会を実現する手段として

森岡:小山田さんがソーラーシェアリングを始めたきっかけを教えていただけますか?

小山田:小田原は瀬戸内海周辺と気候が似ていてみかんの栽培が盛んな土地なのですが、その分耕作放棄地も多く存在します。もともと僕は農家ではないのですが、学生の頃から地域づくりの活動をしていた関係で農家の方と一緒に勉強会をする機会がありました。そこにいたある農家の方が、もう10年以上も前から耕作放棄地の深刻な状況を訴えているのを聞いていて。やがて農業の問題をひょんなことから考えるようになると、地域づくりの観点からもやはり放棄地は衰退の象徴のようになってしまうのでどうにかしたいと思うようになりました。

一方で、違った地域活動を通じて自然エネルギーにも震災前から関心は持っていました。ただ当時は、例えば用水路に水力発電機を設置してLEDの街路灯をつけられたらなど今ほどの規模では考えていなかったんです。そこに東日本大震災、そして原発事故が起こり、それ以降は再生可能エネルギーも本格的にやろうと思うようになりました。そうするうちに耕作放棄地の活用と自然エネルギーを組み合わせて何かできないかと思い巡らすようになり、そこで辿り着いたのが土地を発電所としても農地としても活かせるソーラーシェアリングだったというわけです。僕は、再生可能エネルギーは目的ではなく、持続可能な社会を実現するための手段だと思っています。当時もそのような想いで始めました。

小田原かなごてファームのソーラーシェアリング
(2022年1月現在のソーラーシェアリング、左から竣工年月/面積/売電実績/作付作物)

1号機:2016年11月/約100坪(パネル容量15.12kW)/60万円(単価24円/kW)/さといも
2号機:2019年5月/約360坪(パネル容量58.24kW)/140万円(単価18円/kW)/米
3号機:2021年2月/約514坪(パネル容量78kW)/120万円(単価非公開)/大豆、落花生、さつまいも、さといも
4号機:2021年12月/約200坪(パネル容量41kW)/70万円(単価12円/kW)/みかん
5 号機:計画中

森岡:ソーラーパネルの下ではどのような取り組みをしていますか?

小山田:かなごてファームではソーラーパネルの下でさといも、さつまいも、米、落花生、大豆を作っています。これらは栽培時期があるので、作物がない季節はソーラーパネルの下の土地を農業にチャレンジしたい人たちに無償で貸し出して好きな作物を作ってもらっています。農業には農地法というものがあり、農家の資格がないと農地を自治体から借りられないのですが、僕としては作りたい人が自由に農業をできるようにした方が放棄地の活用にもなるし、それが農業のあるべき姿だと思っています。周囲にも農業を始めたいけど農地の確保で苦労している人がいて、そうした人から相談されることがあります。ですからソーラーパネルの下は無償で貸し出して、色んな人が自由に作っていいよ、というかたちにしています。

森岡:ソーラーシェアリングの下で作物が育つのかという疑問を持つ方もいるのですが、色々な作物ができているのですね。

小山田:彼らが作っているのは大根、ナス、トマトめずらしいもので言えばハッカやラベンダーまで。様々な品目が育てられていますね。

森岡:ソーラーシェアリングの申請時に、作物の品種を農業委員会に申請する必要があるかと思います。どのようにして科目を決めたのでしょうか。

小山田:1号機を作った当初はさつまいもで申請をして、後からさといもに変更しました。というのも当時は、神奈川県で他にソーラーパネルが建っていた農地は1件しかなく、情報がありませんでした。小田原かなごてファームの申請は6軒目だったのですが、その時建設を終えていたのが1件だけだったのです。そんな中でも収穫量が落ちないことを証明する必要があり過去の事例を探している時に目に飛び込んできたのがさつまいもでした。でも1号機となる場所は、もとは田んぼだったのを畑にしたので水分がすごく多い土地です。さつまいもは水分が多いところでは育たないのは分かっていたのですが、ソーラーシェアリングを始めるためにはそれで申請してみるしかありませんでした。今であればインターネットで調べればいろいろな情報が出てきますが。結局さつまいもは育たず、しばらくしてさといもへ変更申請をしました。

2号機の下では米を育てています。米にしたのは、畑もいいけどやはり日本は水田文化、稲作文化ですから、太陽光発電の下で水稲ができるということを証明すればソーラーシェアリングが広がっていくだろうなという想いが自分の中でありました。

2018年に小田原に大型台風が直撃した時に2号機のソーラーパネルが倒れてしまったことがありましたが、それは土地が水稲だったからではなくてソーラーパネルの構造に問題があったからだと原因が分かっています。今は再発防止策を講じて2号機を建て直し、それ以降は問題なく、稲も育っています。

02無理のない資金計画をたてること

森岡:今5号機をオフサイトPPAで作ろうとしていると聞きました。ここまでの経緯をお聞かせください。

小山田:オフサイトPPAのソーラーシェアリングは3号機目からで、1, 2, 4号機はFIT制度を利用していました。ところが次第に周囲からはFIT制度終了後の太陽光事業を心配する声が聞こえていました。「FIT制度がなくなったら太陽光発電は終わりなのではないか」と。

でも僕はそうではない、むしろ固定価格買取制度がなくなった後こそ、もっともっと伸び代があるのだと思っていました。僕は自分がソーラーシェアリングのパイオニアだという自負があるので、「FITが終わったって、Non-FITに新しい市場があるから皆でやろうよ」と言える状況を自分が作らなきゃいけないなと思ったのです。ですからやはり次にソーラーシェアリングをするときにはNon-FITを開拓したいなと思いました。

森岡:資金はどのようにして調達されましたか。

小山田:そういった経緯でNon-FIT3号機を検討していた矢先に、たまたま小田原市から自家消費モデルであれば環境省から1/2の補助金がでるとの話を聞き、利用することになりました。今は5号機を作ろうとしていますが、今度は小田原市が独自に用意した同じような補助金を利用しています。

森岡:これからソーラーシェアリングをやりたい方に、資金調達面でアドバイスはありますか?

小山田:銀行から融資を受ける手段もありますが、なかなか融資が降りないこともあります。そこは上手く工夫して、例えば1/2は補助金を利用し、1/4は自己資金、最後の1/4を融資してもらい、その1/4の融資を10年で返済する計画を立てるなど、金融機関が貸しやすい環境を自ら整えることが重要だと思っています。また、自己資金はクラウドファンディングなどの直接金融を使ってもいいと思います。

日本が脱炭素を掲げる中で、ソーラーシェアリングは再生可能エネルギーの比率を高めるための切り札で、SDGsとしても素晴らしいことです。そしてそのソーラーシェアリングがこの先普及していくかどうかはこの数年で決まってくる、今が過渡期だと思っています。

今は資材費が高騰していますし、民間の事業者が全てを自前で用立てして建設するのは難しいです。うちも補助金があったからこそ3号機、5号機の建設に取り組めました。ソーラーシェアリング普及に向けた過渡期だからこそ、国や地方政府のこうした補助金制度やインセンティブが非常に重要だと思います。

インタビュー後編では、日本初のオフサイト型自家消費モデルで運営する「農家カフェ SIESTA」の取り組みや小山田氏が目にしたソーラーシェアリングの価値についてお話いただきました。

関連記事「売電収入以上の価値」小山田大和さんが見つけたソーラーシェアリングの真価【後編】

取材日:2023年1月
※掲載情報は取材時点のものです。

写真:focus tart 高橋善希(東京都)

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