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「売電収入以上の価値」 小山田さんが見つけたソーラーシェアリングの真価【後編】

香川県でソーラーシェアリングを実践する14代目農家の森岡さんが全国のソーラーシェアリング実践者(空シェア人)を訪ねる「森岡さんの空シェアめぐり旅」。

今回訪ねたのは、神奈川県小田原市にある合同会社小田原かなごてファームの代表 小山田大和さん。地域づくり、耕作放棄地、農業、自然エネルギー、SDGsといったテーマが抱える問題や課題を、ソーラーシェアリングを通じて線で繋ぎ、持続可能な社会の実現に向かって進む「空シェア人」です。

小山田さんは、2014年から耕作放棄地問題に取り組みソーラーシェアリングの建設を推進。その後法人化し事業として更なるソーラーシェアリング施設の建設を進めてきました。2020年には日本初となるオフサイト型自家消費モデルで運営する「農家カフェ SIESTA(シエスタ)」をオープンしました。    

後編ではカフェでの取り組みや今後の展望を伺いながら、小山田氏が目にしたソーラーシェアリングの価値について話していただきました。

01自家発電は「見える化」すれば伝わる

森岡:「農家カフェ SIESTA」はどんな経緯で開店したのでしょうか。

小山田:もともと小田原かなごてファームでは耕作放棄地を「お昼寝していた畑」と捉えていて、その土地でできた作物を商品化して販売しています。『おひるねみかんジュース』などの商品がそうです。そうした取り組みの中で「おひるね」の精神を広げていく活動もやるべきだ、その想いと価値を共有する場をどこかに作りたいと考えていました。そして場を作るならば、農産物を作っているのでやはり「食」を通じてコミュニケーションやコミュニティが生まれる場がいいのではないかと思っていました。

そんな想いの中ソーラーシェアリング4号機を始めるとき、自家消費モデルであれば環境省から補助金がでるということを知りました。その自家消費モデルの定義として「農業関連施設もしくは地方公共団体の公共施設へ電気を充填すること」とあり、農家カフェへの送電なら補助金対象として認められるということだったので、「農家カフェ  SIESTA」を始めるに至りました。

農家カフェSIESTA

森岡:販売している商品についても聞かせてください。

小山田:ソーラーシェアリングの下でできたみかんやお米を使った『おひるねみかんジュース』や、日本酒『推譲』を販売しています。

商品名の『推譲』は、小田原が生んだ偉人二宮金次郎が掲げた「至誠・勤労・分度・推譲」から来ています。『推譲』には、利益が出たら今のためだけに使うのではなく、将来のために使おう、そして、その利益を広く社会のために還元しようという意味が込められています。これから持続可能な社会にするためには自分本位の価値観から脱して、『推譲』の精神が大事なのだという想いで名付けました。

この『推譲』は、小田原かなごてファームが作った米を使って井上酒造という神奈川県の酒造で作っています。さらに、かなごてファームで発電した電気を井上酒造に送電しています。ソーラーシェアリングの下でできたお米が、ソーラーシェアリングの電気で日本酒になっているというわけです。

電気には色も形も匂いもないので、電気を自家消費していると言ってもいまいちピンとこないですよね。だけど、こうしてものづくりに活かせば電気を視覚化することができる。「電気の見える化」をすることが大事だと思っています。ですからゆくゆくは『おひるねみかんジュース』も『推譲』も、「全部うちの電気でやっています」と言えるようにしたいなと思っています。

 

02エネルギーの選択は生き方そのもの

森岡:今後の展望について聞かせてください。

小山田:エネルギーって、自分たちが暮らしていく時に必ず必要になるものですよね。ですからエネルギーを考えることは、それを使ってどういう社会をつくりたいか、どういう生き方をしたいかということが問われていると思っています。原発や石炭火力の問題がありますが、やはり子や孫の世代に負の遺産を残してまで今の自分の生活を充足させたいかというと、そうではないと思うのです。せっかく技術があるのだから、再生可能エネルギーに転換していく。それを阻む既成の仕組みがあるのならしっかり意見を言う。そうやって変えていきたいと思います。

ただ、言うのは簡単ですがやはり実践をするべきですので、毎年、毎年、自分の体力が続く限りは発電所を増やして行きたいと思っています。この取り組みを続けていくことによって、結果的に仲間も増えてくると思っています。

仲間といえば、今年の4月から地域の商業高校、農業高校の生徒さんと一緒に『かなごて農学校』を始めようと思っています。今、地域外からも若い人たちが本当にたくさん小田原かなごてファームに来てくれています。僕が人を育てるのはおこがましいことですが、経験が少ない若者に経験を、そして今まで十数年やってきた想いを継承させていくことが目的です。僕も彼らから学ぶことがたくさんありますし、彼らに仕事のやり方をしっかり伝えていけば、よりよい世の中を作ってくれると期待しています。

03ソーラーシェアリングがもたらした真の価値

森岡:素晴らしい取り組みにワクワクします。ここで改めて、ソーラーシェアリングのメリットを挙げるとしたら何でしょう。

小山田:耕作放棄地を活用しながら農業と電力でダブルインカムになるということもありますが、やってみて分かったんですが、他の発電方法と決定的に違う点は、ソーラーパネルの下で人と人とが関わり合うということでした。

小田原かなごてファームではソーラーパネルの下の土地を農業に関心がある人たちに貸しています。するとそこに様々な人が集まり、その人たち同士がソーラーパネル下の農地で共同作業をして、一緒に汗をかいて、そこで様々な価値を共有して、新しいものづくりにつながっていく、そんな様子を目の当たりにしています。

コロナ禍で人間関係が希薄になっている中、こうしたソーラーシェアリングの活用は人とのつながりを再構築できるものだろうなと。これはソーラーシェアリングをやっている他の人も言っていないので声を大にして伝えたいです。単に売電収入を得るだけでなく、これからの社会が本当に必要としている人間関係やコミュニティを再構築する機能があるという意味で大きな役割を果たしているのがソーラーシェアリングだと考えています。

森岡:逆にデメリットはありますか?

小山田:今まで農業をやっていた人ほど、ソーラーパネルの下で農業をやることに対して抵抗感を抱く人がいます。「あれは農業じゃない」と言う人もいるし、ソーラーパネルの金属むき出しの状態を認めるのはどうかと言う人もいます。なかなか農業経験者の人たちが参入するところにまで至っていないのが課題でありデメリットかなと感じています。

森岡:2014年にソーラーシェアリングを始めてから約10年、変化を感じることはありますか?

小山田:先ほどもあったように、最近は持続可能な社会を作るという想いに共感した若い人が多く参加しに来てくれています。僕は、ソーラーシェアリングはもっと広がるべきだし、ちゃんと伝えていけば爆発的に広がるポテンシャルをもっているものだと思っています。日本が脱炭素を実現するためにソーラーシェアリングは欠かせない手段だから、広がるべき条件は揃っている。それでもまだ導入者が少ないのは、「日陰では作物はできない」といった既存の常識がハードルになっていることが多いのだろうと思います。そこへ同じ価値観を持った若い人たちがたくさん参加して、持続可能な社会の実現に向けての行動を起こしてくれることによって、自分の事業も背中を押してもらっていると感じていますね。

森岡:神奈川県のソーラーシェアリング導入状況についてはいかがでしょうか

小山田:神奈川県は2020年までに100件のソーラーシェアリングを作るという目標を掲げていました。今はまだ70件から80件ほどですので達成はしなかったものの、県が目標を決めて動き出したことに意味を感じています。他県が土地区画改良をして作ったようなメガソーラーシステムはたしかに規模的にはインパクトがありますが、時間も費用もかかります。その点僕は、小さな発電所も20件集めればメガソーラーだと思うのです。発電所が無数に点在していて、あちこちで融通し合う社会にする方が、地域は豊かでしなやかになるだろうなと思っています。小田原は一つ一つの土地が小さい場所です。ですから小さいものにこだわりながら、小さい中で大きくしていくというかたちを目指してやっていこうという想いでいます。

04常識が変わる瞬間に立ち会える

森岡:これからソーラーシェアリングを始める方々へメッセージをお願いします。

小山田:ソーラーシェアリングに取り組んでいて一番おもしろいと思うのは、人の常識が変わる瞬間に立ち会える時です。「日陰では作物は育たない」「そんなところで作物が育つのか」と言っていた人から「本当に育つんだね」と声をかけてもらい、さらに応援してくれるようになったことが一例ですが、そういった瞬間に立ち会えるのが地域づくりの最大の面白みだと思っています。人が集まって関わり合うソーラーシェアリングや農家カフェの取り組みは、損益だけではない価値を作ったなと思います。

Morioka's comment
小山田さんからは熱い信念と地域愛が溢れており、これほど言葉と行動に説得力のある人間が居る地域をうらやましく思いました。
今後のソーラーシェアリングの展開に必要な要素として、『地域の理解』と行政を動かすエネルギー元となり得る『未来を切り拓く志』といった強い意志が必要と再認識しました。

【小山田大和さん プロフィール】
1979年神奈川県生まれ。合同会社小田原かなごてファーム代表、早稲田大学招聘研究員、行政書士。学生時代から地域の活動に関わる。東日本大震災と原発事故を経て、「持続可能な社会」を創るべく、当時勤めていた郵便局を退職。小田原かなごてファームを創設し、代表に就任。

著書:「食エネ自給のまちづくり」(20223月)
小田原かなごてファーム Webサイト  
農家カフェSIESTA Webサイト

取材日:2023年1月
※掲載情報は取材時点のものです。

写真:focus tart 高橋善希(東京都)

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