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ソーラーシェアリングの環境下でも育つ作物とは?

近年、次世代農業の取り組みの一つとして、農地を有効活用して発電も行うソーラーシェアリングが注目されています。

この記事では、ソーラーシェアリングでどのような作物が栽培可能なのか、導入にあたりどのように作物を選ぶべきなのかについて解説します。

01ソーラーシェアリングとは?

ソーラーシェアリングとは、太陽光を農業と発電でシェアする取り組みで、農地で従来通り作物栽培をしつつ、同じ土地で太陽光発電も行うものです。従来からあるメガソーラーなどの太陽光発電と異なり、太陽光パネルを地上から数メートルほど高い位置に設置し、さらに、間隔も空けることで、パネルの下で農業を行うことができるのです。

近年のエネルギー問題や脱炭素の動きなどを背景に再生可能エネルギーを普及させる仕組みとして政府も力を入れているほか、農家にとっても農地の有効活用により収入を増やせる可能性があり、次世代農業の取り組みの一つとして2013年の制度開始以来導入が進んでいます。

02ソーラーシェアリングに適した作物を選ぶ際のポイント

ソーラーシェアリングは従来通り農業をしながら発電ができるといっても、農地の上にパネルを設置する以上、作物に全く影響が無いというわけではありません。そのため、どのような作物なら育つのか、どのように作物を選ぶべきなのかを理解する必要があります。

陽生植物・半陰生植物・陰生植物の違いを理解する

ソーラーシェアリングに適した作物選びにおいて重要なのが、

● 陽生植物
● 半陰生植物
● 陰生植物

という3種類の違いです。陽生植物とは、陽の光を特に好み、日陰では育ちにくい作物を指します。イネやダイコン、トウモロコシはその代表例といえるでしょう。

半陰生植物は、陽生植物ほどの日光は必要ないものの、陽の光が必要な植物です。ネギやホウレンソウ、ジャガイモがこれにあたります。

陰生植物は、基本的に陽の光を必要とせず、暗がりでの栽培に適している植物です。湿度管理も必要になることが多く、陽生植物とは異なる手間をかける必要があります。陰生植物の例としては、キノコ類やニラ、ミョウガなどが挙げられます。

光飽和点の影響を考慮する

ソーラーシェアリング向けの作物選びでは、光飽和点の影響も考慮する必要があります。光飽和点とは、植物が最も生育する光の強度を示すもので植物ごとに異なります。

一般的に、日光が強ければ強いほど農作物はよく育つと考えられがちですが、実際は必ずしも光が強く当たれば良いという訳ではありません。植物ごとに必要とする光の最大強度は決まっており、それ以上の光を浴びても光合成が加速することはないからです。そのため、ソーラーシェアリングによって100%の光が当たらなくても、植物によっては生育にあまり影響がないのです。

ソーラーシェアリングの遮光率はどれくらいか

遮光率とはその名の通り、どれだけ陽の光を遮るかを表した割合です。ソーラーシェアリングにおける遮光率は

太陽光パネルの合計面積÷架台を設置した農地面積×100

で算出します。ソーラーシェアリングを導入する場合は、遮光率は30~40%を目安にパネルを設置することが多いようです。

上で挙げた例に当てはめると、反陰生植物か、陰生植物がソーラーシェアリングに適しているといえます。実際に栽培する作物は、これらから選ぶことになると考えておきましょう。

03栽培する作物を検討する際に確認しておきたいこと

栽培する作物は頻繁に変更できるものではないため、実践の前にはあらかじめ検討しておくべきポイントもあります。

農業主体であることを前提とする

そもそも、ソーラーシェアリングは「太陽光発電ができる土地を開拓する」ために行うのではなく、「農地を有効活用する」ための方法として提唱されています。

そのため、ソーラーシェアリングにおいてはあくまでも農業が主役であり、適切な営農が実現できる環境の整備を念頭に考える必要があります。そのため、栽培ノウハウがあるか、継続的に栽培可能か、販路はあるのかという視点が不可欠です。

農地の一時転用許可取得の要件を考慮する

農地を農業以外に活用する場合は転用許可を取得する必要があります。ソーラーシェアリングの場合は、農業を続けるから許可取得は必要ないと思われるかもしれませんが、パネルを設置するための支柱を立てる部分について農地転用許可取得が必要です。

この際クリアしなければならない条件は主に、

● 撤去可能な設備であること
● 設備撤去費用の支払い能力があること
● 必要最小限で適性であること
● 作物に適した日照量を確保できていること
● 農業機器が利用できる高さであること

などが挙げられます。ここで注目すべきは「作物に適した日照量を確保できていること」という点で、この条件をクリアするためにも、ソーラーシェアリングに適した農作物を確実に選ぶ必要があります。許可取得の際には収量証明を求められることが多いので、ソーラーシェアリング環境下での実績例などがあると許可取得しやすいようです。

04ソーラーシェアリングを導入しやすい作物

ここで、ソーラーシェアリングに適した作物、あるいは一時転用許可が下りやすい作物について確認します。ソーラーシェアリングは農作物を確実に育てられることが重要であるため、以下の例を参考にしながら作物を選びましょう。

ソーラーシェアリングで育てやすい作物

ソーラーシェアリング環境でも育てやすい作物は、上でも紹介した通り半陰生植物か、陰生植物に分類される作物です。ソーラーパネルの影響で、100%の光量を確保することはできないため、日照時間が少なくても問題なく育つ農作物が理想的です。

具体的な例としては、半陰生植物であればイチゴやコマツナ、ホウレンソウ、カブ、アスパラガスといった作物が挙げられます。

陰生植物の場合、ミツバやクレソン、シソ、フキなどの作物が挙げられます。

ただし、陽生植物は不可能という訳ではありません。遮光率の設定や栽培方法を工夫することで十分生育している例もありますので、ご自身で栽培されている作物については、是非情報を集めてみてください。

実際にソーラーシェアリング下で栽培されている作物

農林水産省が2022年8月に発表した資料「営農型太陽光発電設備設置状況等について」によると、実際に様々な作物がソーラーシェアリング下で栽培されていることが分かります。全体に占める割合では、野菜等(小松菜、白菜、ネギ、など)・イモ類が35%と最も高く、次いで観賞用植物が30%、果樹(柑橘、ブルーベリー、柿、ブドウ、など)が14%、穀物(米、麦、大豆、そば、など)が9%と続いています。

図1:下部農地での栽培作物
出典:「営農型太陽光発電設備設置状況等について」(農林水産省)

05200種類以上の作物を栽培する「森のそら」の取り組み

実際に早くからソーラーシェアリングを導入し、これまでに200種類以上の作物を栽培している農家さんがいます。

香川県観音寺市にて農業を営み、農園で収穫した作物を直売するカフェを併設する「森のそら」を運営する森岡秀誠さんは、次世代農業へ向けた取り組みの一つとしてソーラーシェアリングに魅力と可能性を感じ、多くの作物でソーラーシェアリングが導入できることを半ば実証するための取り組みをし、話題となっています。

半陰生植物、陰生植物の栽培はもちろん、トウモロコシやトマト、ヒマワリといった陽生植物の栽培にも成功しています。

また、同じく陽生植物であるイチジクにおいては、幹の直径が20㎝を超えるものも出てきているなど、実に健康的かつ商品価値の高い栽培にも成功しており、工夫次第で農業経営の可能性が広がることを証明しています。

森岡さんのソーラーシェアリングの取り組みの詳細については、以下のインタビュー記事からご確認ください。

関連記事次世代農業で注目されるソーラーシェアリング~200品種を栽培する先駆者の森岡氏が成功のポイントを大公開

06まとめ

本記事ではソーラーシェアリングに適した作物の選び方や、ソーラーシェアリングの認可が下りやすい作物を中心にご紹介しました。ソーラーシェアリングの運営を確実なものにするためには、なぜその作物の認可が下りやすいのか、育ちやすい作物の条件は何かを知ることが大切です。

また、ソーラーシェアリング環境では必ずしも栽培できる作物が限定されるとは限らず、森岡さんの例のように、工夫次第で様々な作物を育てられる可能性があります。

ソーラーシェアリングへの理解を深め、テクノロジーを活用した豊かな農業経営をご検討してみてはいかがでしょうか。

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