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【農家向け】農福連携とは?メリットやデメリット、手順、事例を紹介

農福連携とは、障がい者などが農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいをもって社会参画を実現していく取り組みです。農業における労働力不足の解消や、障がい者の社会参画など様々な利点から着実な広がりを見せています。

そこで本記事では、農福連携についてメリット・デメリット、実施手順、活用可能な助成金・交付金、成功事例を紹介します。

01農福連携とは

農福連携とは、障がい者などが農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいをもって社会参画を実現していく取り組みです。

農福連携に取り組むことで、障がい者などの就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。

02農福連携のメリット

農福連携のメリットを4つ紹介します。

新たな人材を確保できる

農福連携により、福祉施設や障がい者支援団体と連携することで、新たな人材の確保が可能になります。収穫・草むしり・種まき・袋詰め・箱の組みたてなど、状況に応じて任せられる作業は異なりますが、人手不足に悩まされがちな農家にとっては、頼れる労働力となるでしょう。

農業の維持や拡大につながる

農福連携は、農業の維持と拡大につながります。まず「維持」に関しては、農福連携によって、労働力が不足するゆえに手が回らなかった農地での栽培を諦めずに済むため、耕作放棄地の抑止につながります。次に「拡大」については、新たな労働力を確保できることで、生産規模の拡大や新事業への着手など更なる事業展開を期待できるのです。

また、農林水産省の調査によると、農福連携に取り組む農業経営体の76%が「障がい者を受け入れて貴重な人材となった」、57%が「労働力確保により営業等の時間が増加した」と回答。さらに78%が、5年前と比較して年間売上が増加したと報告しています。こうした結果からも、農福連携を通じた労働力の確保が、経営拡大につながることが示唆されます。

農産物の付加価値向上を期待できる

障がいの特性に応じた分業体制や丁寧な作業の特長を活かすことで、農産物の付加価値向上を期待できます。

障がい者の個々の能力や得意分野に合わせた作業分担を行うことで、効率的かつ高品質な農産物の生産が可能になります。例えば、繊細な手作業を得意とする人には収穫や選別、袋詰めなどを、体力を活かせる人には耕作や運搬など、適材適所の配置を行います。こうした分業体制により、生産効率および農産物の品質が向上すれば、市場での評価向上を期待でき、またブランド化にもつながるでしょう。

自立支援によって地域や消費者からの支持につながる

農業を通じて障がい者の自立支援を行い活躍の場を拡大することで、地域や消費者からの支持を得ることができます。

障がい者が社会的な自立を果たし、社会に貢献する姿は、地域住民の共感・支持につながります。また、社会的な意義を持つ農産物として認識してもらうことで、消費者は単なる商品以上の価値を感じ、社会貢献の一環としてより積極的な購入につながるでしょう。

03農福連携のデメリット|失敗を避けるための理解

農福連携のデメリットを3つ紹介します。農福連携での失敗を避けるために理解すべきポイントとして理解しておきましょう。

定着までは業務負担が増してしまう

農福連携を開始する際に、福祉施設の担当者とのやり取りや、雇用条件の検討、指導など一時的な業務負担の増加が生じる点はデメリットといえます。

例えば、福祉施設との連携を円滑に進めるためには、事前の打ち合わせや書類のやり取りが必要です。これらは農作業の合間をぬって行わなければならないため、どうしても負担は増加します。

また、障がい者の特性に合わせた雇用条件の設定や、適切な指導方法の検討も欠かせません。これらの準備が整うまでの間は、農家側の負担が一時的に増加することを理解しておく必要があります。

特性に応じた適切な業務分担や技術指導が求められる

障がい者の特性に応じた適切な業務分担や技術指導は、農福連携を成功させるための鍵となる一方で、作業の向き不向きを把握して各個人に最適な作業を見つけるのは容易ではありません。例えば、繊細な作業が得意な人もいれば、体力を要する作業に適した人もいます。そのため、それぞれの特性を見極めた上で、適切な業務分担を行うことが求められます。

また、作業手順などについて指導する際には、分かりやすくかつ丁寧な説明が必要です。こうした技術指導には時間と労力がかかるため、事前の計画と準備も必要となるでしょう。

安全面には細心の注意や配慮が必要となる

農福連携においては、農機具や農薬の取り扱いなど安全面に細心の注意を払わなければなりません。とりわけ障がい者が農作業に従事する際には、通常以上に安全対策を強化することが求められます。

例えば、農機具の使用方法については実演などを交えながら丁寧に教え、安全性の確保を最優先にした指導を心がけましょう。同様に、農薬の取り扱いに関しても、適切な防護具の着用や散布方法など徹底した指導が不可欠です。いずれにしても、不安が残るようなら分担を再検討しましょう。また、作業中の見守り体制を整え、万が一に備えた緊急対応策を準備しておくことも重要です。

04農福連携の手順|農家向け

農福連携の手順を解説します。

農家が農福連携を行うための手順には、下記の2パターンがあります。

A) 障害福祉サービス事業所による農作業請負
B) 障がい者を直接雇用

まずは、農作業を請け負う「障害福祉サービス事業所」を見つけて契約する比較的シンプルなAパターンがおすすめです。Aパターンでは、作業日程や内容の調整に加え、作業員の能力把握、作業指示やサポートも含めて福祉サービス事業所の指導員が行うので、農業者側の福祉的な知識や経験が十分でない場合でも取り組みやすいでしょう。農福連携のノウハウが蓄積されて慣れてきたら、Bパターンの直接雇用を行うと良いでしょう。

以下では、Bパターンの手順を簡潔に解説します。

農福連携の概要を理解する

まずは、農福連携の概要について理解しましょう。もし先述したAパターンを既に実施済みで概要を理解できている場合は、この手順は不要です。

農福連携の概要を理解する上では、農林水産省公認の下記Webサイトがおすすめです。これからノウフクに取り組みたい人に向けた各種マニュアル、人材育成、調査・研究資料などの情報を一括で確認できます。
ノウフクに取り組みたい方へ | ノウフクを知る (ノウフクWEB)

障がい者へのアプローチを行う

次に、候補者となる障がい者へのアプローチを行いましょう。
具体的には、以下のような手法が挙げられます。

  • ハローワークへの求人申込み
  • ハローワーク主催の障害者就職面接会に参加
  • 無料職業紹介事業を実施している自治体や JAなどに相談
  • 民間の有料職業紹介事業者に相談
  • 特別支援学校の職場実習を受け入れ
  • 近隣の障害福祉サービス事業所を訪問

障がい者を試行的に雇用してみる

候補者が見つかったら、「障害者トライアル雇用制度」を活用して試行的に雇用してみましょう。

障害者トライアル雇用制度とは、事業主(農家)が、雇い入れた障がい者の適性や仕事を行える可能性を見極め、本採用前に障がい者との相互理解の機会を創出するために原則3か月間の期間を定めて、試行的に雇用できる制度です。事業主は、支給要件を満たせばトライアル終了後に、国から月額最大4万円を一括して支給してもらえます。

なお精神障がい者の試行期間は原則6か月~最大12か月間であり、助成金は雇用受け入れから3か月間は月額最大8万円ですが、支給期間は6か月に限られます。

申込みは、最寄りのハローワークにて行えます。ただ同制度の対象は、ハローワークや職業紹介事業者などの「障害者トライアル雇用専用求人」によって雇い入れた場合のみである点に注意しましょう。例えば、親族や知人からの紹介で雇った場合は対象外です。

必要に応じてサポート制度を活用する

トライアル中に支援や助言が必要となった場合、以下のサポート制度を活用可能です。

職場適応援助者(ジョブコーチ)
職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障がい者の職場適応が難しい場合に、事業主(農家)を訪問して障がい者が職場に馴染めるよう専門的なアドバイスを行ってくれます。無料で依頼することが可能です。

職場適応援助者(ジョブコーチ)は、独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が全都道府県に設置している「地域障害者職業センター」から派遣されます。
地域障害者職業センター(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)

障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障がい者に対して窓口での相談や職場訪問などにより指導・相談を行い、事業主に対しても雇用管理に関するアドバイスを提供している施設です。全国で300か所以上に設置されています。障がい者雇用について迷うこと・困ったことがあれば、当該センターへ相談しましょう。
障害者就業・生活支援センターについて(厚生労働省)

正式に雇用する

トライアルや各所からのサポートを通じて問題なく雇えそうと判断できれば、正式に雇用しましょう。
職場適応援助者(ジョブコーチ)や障害者就業・生活支援センターは障がい者を正式に雇い入れた後でも利用できるため、必要に応じて活用しましょう。

また、障がい者を正式雇用した後に助成を活用可能です。
詳しくは、次の項目で解説します。

05農福連携に活用できる助成金

農福連携に活用できる助成金を紹介します。

特定求職者雇用開発助成金

障がい者を継続して雇用する労働者として雇い入れた場合、「特定求職者雇用開発助成金」を活用できる可能性があります。

助成内容は多岐にわたり、例えば「特定就職困難者コース」では、重度障がい者などを除く身体・知的障がい者(週あたり所定労働時間が 30 時間以上)については2年間で最大120万円の助成を受けられます。

申込みは、最寄りのハローワークで可能です。ただし同助成金の対象は、障がい者をハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介により雇い入れた場合に限ります。

詳細はこちらをご覧ください。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(厚生労働省)

雇用就農資金

就農を希望する 49 歳以下の障がい者の方を新たに雇用する農業法人などに対して、新規雇用の就農者1名あたり年間最大75万円(最長4年間)の助成を受けられます。なお、1週間あたりの所定労働時間について、通常は年平均 35 時間以上ですが、障がい者の場合は20時間以上から認められます。

ただし、特定求職者雇用開発助成金との併給は認められません。 雇用就農資金の募集は全国農業会議所が行っており、申請や問合せは各都道府県農業会議などで受け付けています。

詳細はこちらをご覧ください。
応募する | 雇用就農資金 | 農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター)

06農福連携に活用できる交付金

農福連携に活用できる交付金を紹介します。
ここでは概要を紹介しますので、活用を具体的に検討したい場合は、下記の農林水産省のサイトで詳細をご確認ください。
農福連携に関する支援制度(農林水産省)

農山漁村発イノベーション推進事業(農福連携型)

①農福連携支援事業
障がい者などの農林水産業に関する技術習得、作業工程のマニュアル化、ユニバーサル農園の開設、移動式トイレの導入などを支援するための交付金です。

  • 事業期間:上限2年間
  • 交付率:定額(上限150万円など)
    簡易整備、高度経営、介護・機能維持の場合は上限150万円
    経営支援の場合は上限300万円

②普及啓発・専門人材育成推進対策事業
農福連携の全国的な横展開に向けた取組、農福連携の定着に向けた専門人材の育成など等を支援するための交付金です。

  • 事業期間: 1年間
  • 交付率:定額(上限500万円 など)

農山漁村発イノベーション整備事業(農福連携型)

障がい者などが作業に携わる生産施設、ユニバーサル農園施設、安全・衛生面にかかる附帯施設など の整備するための交付金です。

  • 事業期間:上限2年間
  • 交付率:1/2
    簡易整備の場合は上限200万円
    高度経営の場合は上限1,000万円
    経営支援の場合は上限2,500万円
    介護・機能維持の場合は上限400万円

07農福連携の成功事例

農福連携の成功事例を2つ紹介します。

農作業を細分化して強みを活かした作業を実現したW社

W社は、農福連携を通じた障がい者の工賃向上を目指して農業へ参入。りんごなどの果樹やたまねぎなどの野菜の生産・販売、りんごジュースの委託加工・販売も実施しています。

農作業を細分化することで、障がい者がそれぞれの強みや得意なことを活かして作業を行えるようにしています。その他にも、りんごの木を低く仕立てたり、にんにくの畝間を広くしたり、障がい者が農作業をしやすい環境も整備しています。

その結果、障がい者雇用の枠の増加や、県の平均工賃月額を上回る金額を実現しました。また、2019年に制定された日本農林規格「ノウフクJAS」の認証を全国で初めて受けた事業者として、農福連携の認知度向上や販路拡大にも貢献しています。

リーダー任命や業務効率化、安全配慮など様々な取り組みを行ったL社

機械設計業や人材育成業を営む企業の農業部門として農業参入したL社は、農業や加工品の製造などの作業に障がい者を雇用しています。さらに、作業ごとに障がい者メンバー内からリーダーを任命したり、商品開発にも参画してもらったりすることで、人材育成に注力しています。

また、県の平均賃金を上回ったことや、農業や販売を通じて地域住民と交流する機会が増えたことで、働くモチベーションが向上。これまで6名が農業に関連する一般就労に移行しています。

08まとめ|社会貢献度や付加価値の向上を実現できる農業へ

農福連携とは、障がい者などが農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいをもって社会参画を実現していく取り組みです。

農家にとっての農福連携のメリットは、「新たな人材を確保」「農業の維持や拡大」「農産物の付加価値向上」「外部からの支持獲得」が挙げられます。一方で、受け入れの手続きや適切な指導、安全管理など、一時的な負担増加によるデメリットも存在します。

本記事では、農福連携の実施手順と合わせて、活用可能な助成金・交付金も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

また農福連携と同様に、社会貢献度や付加価値を高める観点から、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されていることはご存知でしょうか。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

また、安定的かつ持続的な農業の実現に役立つ新着記事やセミナー、トレンドなどの最新情報を受け取れるメールマガジンもお勧めです。下記ページにて簡単に登録できますので、ぜひご活用ください。
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【参考】
農福連携とは(農林水産省)
農林水産省における農福連携の推進について(農林水産省)
はじめよう!農福連携 — スタートアップマニュアル —(文科省・厚労省・農水省)
ノウフクに取り組みたい方へ | ノウフクを知る (ノウフクWEB)
地域障害者職業センター(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)
障害者就業・生活支援センターについて(厚生労働省)
特定求職者雇用開発助成金:特定就職困難者コース(厚生労働省)
応募する | 雇用就農資金 | 農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター)
農福連携に関する支援制度(農林水産省)

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