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営農型太陽光発電の種類|それぞれの特徴と事例を紹介

営農型太陽光発電が、農業経営の安定化や環境貢献、新たな付加価値の創出といった観点から注目されています。ただ一方で、「いくつか種類があるようだが、どのようなタイプがあるのか知りたい」「それぞれのタイプの特徴を整理して理解したい」といった方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、営農型太陽光発電の主要3種類を紹介した上で、それぞれの特徴、事例を紹介します。

01そもそも営農型太陽光発電とは

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農業・畜産・酪農業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、農業・畜産・酪農業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。

自らの電力を賄うことで、高騰するエネルギーコストの削減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の創出を図りながら、収益の安定化が得られることもメリットとしてあります。

また、不作や市場価格の変動による収益のリスクや不安を軽減できるため、農業離れの抑制にもつながると期待されています。こうした背景から、農林水産省による推進支援が行われており、全国的に広がりを見せています。

営農型太陽光発電についての基本を知りたい方は、こちらの記事もあわせてお読みください。

関連記事営農型太陽光発電とは?取り組みや課題、導入事例を解説

02営農型太陽光発電の種類

営農型太陽光発電にはいくつかの種類がありますが、その中で主要な3種類について紹介します。

藤棚式

藤棚式は、格子状に組み上げられた梁に太陽光パネルを規則的に設置し、支柱で支える営農型太陽光発電における一般的な方式です。藤棚に似た構造をしていることから、このように呼ばれています。支柱で約3mの営農可能な高さを確保し、間隔を空けて配置された太陽光パネルの屋根の下で、農作業を行います。

垂直式(縦型)

垂直式は、太陽光パネルを地面に対して垂直に設置する方式の営農型太陽光発電です。この方式では、 農機や農地の形状に併せてパネルの間隔を設定でき、垂直式の太陽光パネルが立つ場所以外は広く作業スペースを確保できるため、農作業の動線を妨げにくく、大型の農業機械での作業が必要な農地への導入にも適しています。

追尾式

追尾式は、太陽の位置を追跡し、パネルの角度を自動的に調整する機械式の営農型太陽光発電です。この方式には、モーターやセンサーが組み込まれており、太陽の動きに合わせてパネルが常に最適な角度を維持してくれます。そのため、日中の太陽光をより効率的に活用することができます。

なお、ここまでに紹介した3種類以外にも、野立て式の太陽光パネルの足を高くしたシンプルな構造のもの(足高式)を農地に採用するケースも見受けられます。

03営農型太陽光発電3種類の特徴

営農型太陽光発電3種類について、それぞれのメリットや導入する際の注意点・デメリットを紹介します。

藤棚式の特徴

藤棚式の特徴は以下の通りです。

藤棚式のメリット

  • 作物に対する過度の日照を防ぎ、人の避暑にもなる
    藤棚式は、農地の上部に棚状の構造を設けられることで、作物に対しては適度な日陰を提供します。また、棚の下は人にとっても避暑効果があり、夏場の農作業を行いやすくなります。このように、藤棚式は作物と作業者の両方に対して、過酷な日照条件を和らげる点がメリットです。
  • 事例が多い
    藤棚式は、現状としては最も一般的な方式であり、多くの農家や地域で導入されています。そのため導入を検討する際に参考にできる事例が多く、他の方式と比較して「リスクを低減しやすい」「適切な設計や運用を把握しやすい」といった点はメリットです。

導入の際の注意点としては、藤棚式の場合、上部に屋根のように配置された太陽光パネルや一定間隔で支柱が並んでいるため、大型の農業機械の導入が難しい点が挙げられます。高さや幅に適した農業機械を導入したり、支柱をうまくよけながら作業する必要があります。
また、積雪地では、雪によってパネル表面が覆われてしまうと発電ができない場合があることや、雪の荷重を受けやすいことも留意する必要があります。

垂直式(縦型)の特徴

垂直式の特徴は以下の通りです。

垂直式のメリット

  • 限られたスペースでも設置可能
    垂直式は、太陽光パネルを農地に対して垂直に設置します。そのため、限られたスペースでもパネルを配置しやすく、農地全体を占有することなく発電可能です。
  • 積雪に強い
    垂直式は、太陽光パネルが垂直に設置されているため、雪が積もりにくいというメリットがあります。パネルが雪で覆われにくく、冬季でも安定した発電が可能です。また、地面に雪が積もったとしても、上部に設置されたパネルは影響を受けにくい構造のため、積雪が多い地域でも導入が可能です。
  • 地面反射光による発電を期待できる
    垂直式であれば、地面からの反射光による発電も期待できます。地面に降り注ぎ、照り返された光がパネルに当たることで、追加の発電が行われるのです。このように直接受ける太陽光だけでなく、反射光も利用することで、特に積雪時には高い発電効率を発揮します。

導入の際の注意点としては、垂直式の太陽光パネルは固定された角度で設置されているため、パネルに当たる太陽光の量が減少する時間帯・季節では、発電効率が低下することがあります。このため、設置向きは十分に留意する必要があるといえるでしょう。

追尾式の特徴

追尾式の特徴は以下の通りです。

追尾式のメリット

  • 太陽の動きを追尾するため発電効率を最大化できる
    追尾式の最大のメリットは、太陽の動きを追って常に最適な角度で太陽光を受けるため、発電効率を最大化できる点です。朝から夕方まで太陽の移動に合わせてパネルが動くことで、固定式のものと比べて、高い発電効率を発揮できます。
  • 1本足タイプが主流のため、農作業への支障が少ない
    追尾式は1本足タイプが主流であり、農地内に設置する際に支柱の数が少なく済みます。そのため、支柱が導線を妨げることが少なく、効率的に作業を行えます。

導入の際の注意点としては、追尾式のシステムは、構造の複雑さや高性能な部品を必要とするため、他の方式に比べて導入コストがより高額になる点が挙げられます。また、その分メンテナンス費用も増大するため、総合的なコスト負担が大きくなる点も留意する必要があります。

04営農型太陽光発電3種類の事例

営農型太陽光発電3種類について、それぞれの事例を紹介します。

藤棚式の事例:株式会社讃岐の田んぼ(香川県丸亀市)

同社は藤棚式を3基導入し、下部では水稲や麦、ズッキーニ、ホウレンソウなどを栽培しています。採算面を心配していましたが、予想よりも高い利益が出るという見積りを得られたため、導入を決意します。

導入後は、安定した収益を確保できた点、自然に優しい再生可能エネルギーの利用を拡大できた点にメリットを感じています。一方で、草対策のために隙間なくトラクターを走らせたい時などは、支柱に当たらないよう注意を要するとのことでした。

同社は、営農型太陽光発電とスマート農業を組み合わせた取り組みを実践しています。こちらの記事では、同社の取り組みをインタビュー形式で詳しく紹介しています。ぜひあわせてお読みください。

関連記事ソーラーシェアリング×スマート農業で難易度の高い米麦の生産に成功!讃岐の田んぼ 監崎さんの挑戦

垂直式の事例:酪農学園大学(北海道江別市)

同大学は自然電力株式会社および北海道自然電力株式会社と連携の上、ほ場に垂直式太陽光発電設備を設置。垂直式太陽光発電設備の有用性を評価するとともに、営農との共存について実証実験を行っています。

酪農経営においては、牛乳の売値はあまり上がらない一方、エサ代や光熱水費は高騰しているという厳しい状況があります。こうしたなか自然電力から、農地で牧草の栽培を継続しながらエネルギーも生産できるという提案を受け、「今の酪農にマッチした取り組みである」と考え、実証研究の実施に至ります。担当教授は「本来、冬場は何も生産できない土地でエネルギーを生み出せるのは、大きな転機になり得る」と評価しています。

また垂直式は、積雪時の地面からの照り返しによって、より高い発電効率を発揮します。事実として、積雪時には、通常の野立て式太陽光発電設備と比較して高い発電量を記録しています。

本事例の詳細については、下記ページの「実証実験と導入事例」をご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

追尾式の事例:個人農家(福井県坂井市)

福井県で稲作を営む個人農家のNさんは、2014年に追尾式の太陽光発電を8基導入しました。Nさんは以前より再生可能エネルギー発電設備に関心があり、自宅屋根に太陽光発電設備を設置していたことから、特に不安を感じることなく追尾式の営農型太陽光発電を導入します。

道路沿いに一本足タイプを並べて設置しているため、下部農地における農作業への支障は少なく、また、パネル下部で栽培している水稲についても品質・収量ともに問題がなく効率的に営農と発電を行うことができているとのことです。ただ以前に、パネル1枚が田んぼに落下したことがあり、対人・対物の保険にも加入。年間維持費として、メンテナンスの他に保険料も要しています。

05まとめ|最適な方式を選定してメリットを最大化

営農型太陽光発電の種類は主に「藤棚式」「垂直式」「追尾式」の3種類であり、それぞれ特徴があります。

例えば「藤棚式」は、「作物や人に適度な日陰を提供する」「導入事例が多い」といったメリットがある反面、「大型の農業機械の導入は難しい」「積雪の影響を受けやすい」といったデメリットがあります。「垂直式」や「追尾式」も同様にメリットとデメリットがあるため、それぞれを比較して自らに適した方式を選定しましょう。

また、3種類の事例も紹介しました。とりわけ下記ページでは、自然電力が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力

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【参考】
営農型太陽光発電について(農林水産省)
営農型太陽光発電について:資料版(農林水産省)

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