2025.2.27
バイオ炭とは?メリット・デメリット、J-クレジット制度の活用について解説
バイオ炭とは、木炭や竹炭など「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」を指します。バイオ炭は、土壌改良や環境保全に対する有効性、さらにJ-クレジット制度による収益化等により注目度が高まっています。
そこで本記事では、バイオ炭について、基本情報やメリット・デメリット、作り方を紹介した上で、J-クレジット制度の活用や、バイオ炭関連の交付金・補助金について解説します。
01バイオ炭とは
バイオ炭とは、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」です。バイオ炭の原料としては、木材や竹、家畜ふん尿、草本、もみ殻、木の実、下水汚泥由来のもの等があります。
バイオ炭に含まれる炭素は、農地へ施用すると、土壌の透水性、保水性、通気性の改善などに効果があるとされ、土壌改良資材として使用されてきました。
木材等に含まれる炭素は、そのままにしておくと微生物の活動等により分解され、二酸化炭素として大気中に放出されてしまいます。ただし、木材や竹などを炭化させて土壌に施用すれば、その炭素を土壌に留めることができ(炭素貯留効果)、先述した効果を発揮するのです。
02バイオ炭のメリット
バイオ炭のメリットを、3つ紹介します。
土壌の改良効果を期待できる
バイオ炭は、その多孔質な構造により土壌改良効果を発揮します。多孔質構造は、土壌中の水分や養分を保持する能力を高め、植物の根が必要な水分や栄養素を効率的に吸収できる環境をつくります。
また、保水性の向上により乾燥地や砂質土壌でも作物の成長を促進します。一方で、排水性も改善するため、過剰な水分が土壌に滞留することを防ぎ、根腐れなどの問題を軽減します。これにより、収穫量の増加や作物の品質向上を期待できます。
さらに、一般的にバイオ炭はアルカリ性(pH8~10程度)のため、酸性土壌のpH改善効果もあります。ただし過剰に施用すると土壌のpHが高まり、かえって生育に悪影響を及ぼすリスクがある点に注意しましょう。
環境保全に貢献できる
バイオ炭は、製造過程で炭素が固定化され、大気中に二酸化炭素として放出されるのを防ぎます。
また、農地に施用すれば、長期間にわたり炭素を土壌中に蓄積する「炭素貯留効果」を発揮します。こうしたプロセスは、カーボンニュートラルを実現する取り組みとして近年特に注目されています。
さらに施用されたバイオ炭は土壌微生物のすみかとなり、菌根菌など有用微生物の働きを活発化させます。土壌の生態系を健全に保ちつつ、農薬や化学肥料の使用量削減にもつながるのです。
また、本来ならば化石エネルギーなどを消費して廃棄処理されるはずだった木材を活用することにより、環境負荷を軽減できます。
堆肥等に比べて扱いやすい
バイオ炭は、堆肥や他の有機物資材と比べて、取り扱いやすい点もメリットです。一般的な堆肥は臭気や虫の発生が問題になる場合がありますが、バイオ炭はそうしたリスクが無く、保管時にも衛生的です。
また、腐敗しないため長期保存が可能で、使用時の取り扱いも簡単です。ほとんどの場合、粉末や粒状の形態で提供されるため、農地に均一に散布しやすく、作業効率の向上にも寄与します。さらに、他の肥料や資材と混ぜて使えば、相乗効果を得られるのも大きな利点です。
ただし、完全に炭化された炭自体には栄養価はなく、また分解されにくい点は留意しましょう。
J-クレジット制度による収益化を期待できる
バイオ炭の施用による炭素貯留量は、J-クレジット制度を通じて認証・売買が可能です。
J-クレジット制度とは、温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証して取引を行える制度であり、農林水産省・経済産業省・環境省が運営しています。民間企業・自治体等の省エネ・低炭素投資等を促進し、クレジットの活用で国内の資金循環を促すことで環境と経済の両立を目指しています。
具体的には、バイオ炭を農地に施用することで、土壌に固定された炭素量を計測し、クレジットとして登録できます。このクレジットを企業などがカーボンオフセットや温室効果ガス削減目標の達成に活用するために購入します。
これにより、農家や農業法人は環境貢献だけでなく、収益化のチャンスを得られるのです。特に、持続可能な農業経営を目指す場合、J-クレジット制度の活用は大きな魅力となるでしょう。
03バイオ炭のデメリットや問題点
バイオ炭のデメリットや問題点を、3つ紹介します。
過剰に用いると土壌がアルカリ性に傾く
先述の通り、バイオ炭は一般的にアルカリ性を示すため、日本の農場環境に多く見られる酸性土壌の改善に有効です。適量の施用であれば、作物の生育環境を整え、土壌改良効果を発揮します。
しかし、過剰に施用すると土壌がアルカリ性に傾きすぎ、特定の作物の生育に悪影響を及ぼす可能性があります。特に酸性土壌を好む作物では、成長不良や収量低下が起こり得ます。
初期投資を要する
自らバイオ炭を製造する場合、炭化設備の設置として初期投資が必要となる点も課題の1つです。とりわけ中小規模の農家にとっては、この初期費用が導入の障壁となり得ます。ただし、バイオ炭を購入して用いる場合には、石灰など他の資材との置き換えにより安くなる可能性があります。
J-クレジット制度を用いる場合は手間がかかる
バイオ炭を施用して得られる炭素貯留量をJ-クレジット制度で収益化するには、プロジェクトの登録やモニタリングなど一定の手間が伴います。
まず、プロジェクトの登録には、計画書を作成し、登録申請をする必要があります。また実際のプロジェクトの実施では、炭素貯留量を適切に計測し、データを記録する(モニタリング)必要があります。いずれの場合も 、認証機関による審査を受ける手続きが求められます。
こうしたプロセスは一度限りではなく、継続的に行う必要があるため、人的・時間的コストがかかります。小規模な農家ではハードルが高く、個別での参加が難しい場合もあります。そのため、中小規模の企業や農家は後述するような審査費用支援を受けることができます。
04バイオ炭の作り方
バイオ炭の作り方は様々です。ここでは設備式から簡易式まで4つの作り方を簡潔に紹介します。製造から行いたい場合に参考にしてください。
なお、いずれも製炭時に二酸化炭素が発生しますが、バイオ炭にすることでより多くの炭素が固定されるため、有効性が勝るとされています。
- 無動力炭化平炉
電力やガス等を使用しない無動力による炭化プロセスが特徴です。木材や農業残渣などの原料を投入・着火し、体積が減ったら再び原料を追加します。1回で約5tを製炭でき、 少人数でも作業可能です。 - 可搬型密閉式BC炭化ユニ ッ ト W&S
密閉型の設計で、炭化時のガスを最小限に抑えて高効率でバイオ炭を生産できます。炭化プロセスで発生する熱エネルギーを回収・利用する仕組みがあり、エネルギー効率が高いのが特徴です。仮設装置として搬送も可能です。 - 小型もみ殻炭化装置
廃棄にコストを要する「もみ殻」を活用して炭化するために設計された装置であり、連続投入・燃焼・炭出しを1台で行います。籾殻の燃焼時に発生する熱を利用して温風や温水を生み出し、ハウスの暖房用やかん水用水の温度を高めるのに活用可能です。 - 開放型の簡易炭化器
構造が非常にシンプルであり、安価かつ簡単にバイオ炭を生産できます。金属板で出来た炭化器を地面に簡易炭化器をセットして原料を投入し、着火します。炭化器上部まで炭が埋まってきたら、かき混ぜて全体を炭化できれば完成です。
05バイオ炭を用いたカーボンクレジット(J-クレジット)の活用
先述の通りJ-クレジット制度により、バイオ炭を農地に施用することで土壌に固定された炭素量を計測し、カーボンクレジットとして登録できます。そして企業などがカーボンオフセットや温室効果ガス削減目標の達成に活用するためにクレジットを購入します。
なお、J-クレジット制度の対象となるための条件は以下の通りです。
- 対象となる「バイオ炭」の種類
白炭、黒炭、竹炭、粉炭、オガ炭、家畜ふん尿由来(鶏ふん炭など)、木材由来、草本由来、もみ殻・稲わら由来(もみ殻くん炭など)、木の実由来、製紙汚泥・下水汚泥由来 - その他の適用条件
条件1 | バイオ炭を、農地法第2条に定める「農地」又は「採草放牧地」における鉱質の土壌に施用すること。 |
条件2 | 燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350度超の温度で焼成されていること。 |
条件3 | バイオ炭の原料は、国内産のものであること。 |
条件4 | バイオ炭の原料は、未利用の間伐材など他に利用用途がないものであること。(燃料用炭の副生物も条件を満たす) |
条件5 | バイオ炭の原料には、塗料、接着剤等が含まれていないこと。 |
条件6 | プロジェクト実施にあたり、環境社会配慮を行い持続可能性を確保すること。 |
また、クレジットの認証・発行には、「プロジェクトの登録」と「モニタリング(削減量や吸収量を算定するための計測等)」の2ステップが必要です。詳細は、以下のページをご参照ください。
申請手続の流れ | J-クレジット制度
06バイオ炭関連の交付金・補助事業
バイオ炭関連で活用可能な交付金や補助事業などの各種支援策について、概要を紹介します。
- 環境保全型農業直接支払交付金
化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減す取り組みと合わせて行う農業生産活動を支援する交付金です。バイオ炭の活用など地球温暖化防止に効果的な営農活動を対象とします。 - 農地耕作条件改善事業
農地中間管理機構による担い手への農地集積等に向けて、耕作条件の改善、高収益作物への転換や営農定着、麦・大豆の増産に必要な取り組みを支援します。支援事業内の土壌改良にバイオ炭を使用可能です。 - 産地生産基盤パワーアップ事業(うち全国的な土づくりの展開)
地力の向上を目的として、堆肥や土壌改良資材(バイオ炭)等を実証的に活用する取り組みを支援します。バイオ炭の購入費、運搬費、実証的な活用に必要な調査及び指導経費等の支援を受けられます。 - みどりの食料システム戦略推進交付金(うちグリーンな栽培体系への転換サポート)
「環境にやさしい栽培技術」と「省力化に資する先端技術等」を取り入れた「グリーンな栽培体系」の検証を支援する交付金です。バイオ炭の活用に取り組む際、検証に必要な簡易式炭化器、連続炭化装置等の導入支援を受けられます。 - 強い農業づくり総合支援交付金(うち産地基幹施設等支援タイプ)
産地競争力の強化に必要な施設の整備・再編を支援する交付金です。バイオ炭製造施設の導入が支援対象となります。 - 林業・木材産業循環成長対策(うち特用林産振興施設等整備)
地域経済で重要な役割を果たす特用林産物の生産基盤の整備や、生産・加工流通の施設整備を支援します。特用林産物生産施設として、木質のバイオ炭製造施設の導入支援を受けられます。 - 産地生産基盤パワーアップ事業(うち収益性向上対策)
産地の収益力強化に向けた取り組みを支援します。バイオ炭製造施設は、土壌機能増進資材製造施設として支援対象となります。 - みどりの食料システム戦略推進(緊急対策)交付金
みどりの食料システム法に基づく認定を受けた事業者が行う「バイオ炭等の生産」に必要となる機械・設備の整備等の導入支援を受けられます。
07まとめ
バイオ炭とは、木炭や竹炭など「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」です。
バイオ炭の主なメリットは、土壌の透水性や保水性を高めることで作物の成長を促進し、炭素を土壌に貯留することで温暖化対策にも貢献できる点です。また、堆肥に比べて取り扱いや保管が容易で、条件を満たせばJ-クレジット制度を利用して収益化も可能です。
一方、過剰使用による土壌のアルカリ化や製造を行う場合の設備投資、J-クレジット活用に伴う手続きの手間といった課題も挙げられます。いずれにしてもバイオ炭の活用は持続可能な農業経営の一環として有効といえます。
またバイオ炭と同様に、持続可能な農業経営の実現に有効な手段として営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。
下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力
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【参考】
バイオ炭について(農林水産省)
バイオ炭の施用量上限の目安について(農林水産省)
バイオ炭の農地施用をめぐる事情(農林水産省)
J-クレジット制度について(J-クレジット制度ホームページ)
バイオ炭の作り方(農林水産省)