2025.2.13
都市農業とは?現状やメリット・デメリット、事例を紹介
都市農業とは、「市街地及びその周辺の地域で行われる農業」のことです。昨今、都市部での地産地消や持続可能な社会の構築が注目されるなか、都市農業の重要性が再認識されています。
そこで本記事では、都市農業についての現状をまとめた上で、メリットとデメリットや課題、各地域における具体的な好事例について紹介します。
01都市農業とは
都市農業とは、「市街地及びやその周辺の地域で行われる農業」のことです。住宅地や商業地が広がる都市において、作物の栽培や酪農・畜産を行う活動を指します。
02都市農業の現状
都市農業の現状について、2つの側面から紹介します。
農地は限られるが販売金額は全国平均並み
農林水産省のデータによると、都市農業に用いられる農地面積(市街化区域内農地)は全農地の1.3%程度であるものの、都市農業の経営体数は全国の12.4%を占めており、農業産出額は6.5%に及びます。まとまった農地がないため個々の経営面積は小さい傾向にあるものの、温室等の施設を利用して年に数回転の野菜生産を行うことで経営を持続している農家が多く存在することを示しています。
■都市農業に関する指標
また下記の通り、農産物の年間販売金額において全国平均との大差は無く、販売金額500万円以上の農家が約15%存在しています。十分な需要を見込める消費地での生産という好条件も後押ししていると推察されます。
■農産物の年間販売金額(農業経営体数割合)
都市農業の保全を望む住民は7割以上
農林水産省が実施した都市住民を対象としたアンケート調査によると、都市農地の保全を求める意見が7割以上を占めています。これは、次の項目にて紹介する都市農業の多様な役割を評価してのことと推察されます。
■住民の都市農業・都市農地の保全に対する考え方
ただし、都市部市区町村(行政)を対象としたアンケート調査においては、人口密度が1㎢当たり5,000人を超える大都市の自治体においては都市農地を保全すべきとの意向が顕著であるものの、小規模な市町村においては、農地保全よりも宅地化を推進する意向が目立つのも事実です。
■都市部市区町村(行政)の都市農地保全政策に対する意向
03都市農業のメリット
都市農業のメリットを6つ紹介します。
都市部で地産地消を行える
都市部での地産地消が可能になることは都市農業の特に大きなメリットです。消費地に近い場所で農産物を生産するため、流通コストや輸送にかかるエネルギーを削減できます。
これにより、地元農家は出荷にかかる費用を抑えられ、都市住民もより新鮮な農産物を手に入れることができ、環境負荷の軽減にまでつながります。また、地域産品の消費は地域経済の活性化を促し、農家の収入向上にも寄与します。
緑化促進により環境保全に貢献できる
都市農業は、都市部での緑化促進に大きく貢献します。農地は都市に緑の空間を提供し、ヒートアイランド現象の緩和や空気の浄化に役立ちます。また、土壌が雨水を吸収することで洪水リスクを低減する効果も期待できます。これらの環境保全効果により、都市全体の住環境の向上が実現します。
教育やコミュニケーションの機会を提供できる
都市農業は、農業体験を通じた教育や地域のコミュニケーションの場としても機能します。子どもたちが農業を学びながら自然と触れ合える「食育」の場として活用されるほか、企業や地域住民同士が共同で農作業を行うことで、新たなつながりの創出や健康の増進にもつながります。
これにより、地域コミュニティの活性化や多世代間の交流が促進され、都市における孤立や人間関係の希薄化といった課題の解消にもつながります。さらに、農業に対する理解や関心度の向上につながり、新たな担い手の創出も期待できるでしょう。
食料供給の安定化を図れる
都市農業は、都市部における食料供給の安定化にも寄与します。特に輸送網が遮断されるような災害時には、近場で生産された農産物が重要な役割を果たします。
また、農産物を地元で生産・消費することで、輸入に頼る食料供給構造のリスクを軽減し、食料自給率の向上にもつながります。これにより、都市住民の食生活の安定化が図られるのです。
災害時の防災スペースの役割を担える
都市農地は、災害時には防災スペースとしての役割も果たします。広い空間が確保されているため、避難所や物資の集積場所として活用が可能です。平常時から都市農地を防災計画に組み込むことで、災害発生時に迅速に対応できる体制を整えられるでしょう。
都市住民に「やすらぎ」や「潤い」を提供できる
都市農業がもたらす緑の空間は、都市住民に「やすらぎ」や「潤い」を提供します。いわゆるコンクリートジャングルと化した都市環境のなかで、緑地は貴重なリラクゼーションの場となります。
都市農地で行われる季節ごとの農作業や収穫風景は、自然と触れ合う機会を住民に提供し、精神的なリフレッシュ効果をもたらします。また、都市住民が農作業を体験すれば、自然との共生や食のありがたみを再認識する場としても活用可能です。
04都市農業のデメリットや課題
都市農業のデメリットや課題を、4つ紹介します。
土地確保の難しさと利用コストの高さ
都市農業を行う上で、土地確保の難しさと利用コストの高さは大きな課題です。都市部では土地の需要が非常に高く、農業用途に利用可能な土地が限られています。
また、都市農地として活用するには、高額な地代や固定資産税の負担がのしかかることがあります。さらに、地域によっては住宅地や商業地などへの転用を推進する動きも活発であり、長期的に農業を継続するための土地の安定的な確保が難しいのが現状です。結果として、大規模な農地を用いた「大量生産」を行うのも困難です。
周辺住民からの理解獲得
都市農業を進める上で、周辺住民の理解と協力を得る必要がある点も課題です。農作業中に発生する騒音や臭気、農薬の使用などが原因で、住民から苦情が寄せられるケースがあります。特に都市部では住環境への意識が高い傾向もあり、これらの問題がトラブルに発展するケースも散見されます。
特に住民が農業活動に対して関心や理解を持っていない場合、地元との連携が難しくなることもあります。そのため、住民に対して都市農業の価値や意義を丁寧に伝え、信頼関係を構築することが重要となるのです。
労働力確保の難しさ
都市農業において必要な労働力を確保が難しい点も課題です。農業は労働集約的な産業であり、特に収穫期には多くの人手が必要です。
ただ、都市部では農業に従事する人材が限られており、他の産業に比べて労働環境や収入面での魅力が低いとみられがちです。また、農業未経験者が多い都市部では、熟練した農業従事者を確保するのが難しく、人材育成にも時間とコストがかかります。こうした要因が都市農業の持続可能性を低下させる要因となっています。
水や土壌など技術的なハードル
都市農業では、水や土壌、日照などの環境条件に関する技術的な課題もあります。例えば、都市部では農業用水の確保が難しく、水道水を使用する場合にはコストが高くなることも課題です。また、高層建築物が多い都市環境では、十分な日照を確保するのが難しいケースもあり、作物の成長に影響を及ぼします。
これらの課題を解決するためには、水資源の効率的な利用方法、人工照明や太陽光を活用した新しい技術が求められます。ただし、これらの技術を導入するには、初期投資や運用コストが伴う点は留意しましょう。
05都市農業の好事例
収穫体験で都市農業の魅力を発信(大阪府大阪市)
大阪市内の農地は、全て市街化区域に指定されており、都市住民の生活と関係の中で発展してきました。一方で、農作業にかかる堆肥などの臭い、農薬の飛散、農業機械の騒音などの課題があり、周辺住民からの理解が得にくいといった課題あります。
そこで地元NPO法人・大阪市と連携の上、都市住民を対象とした農業体験会や試食会を計7回開催し、多くの近隣住民から都市農業の機能について理解を得ることに成功します。
また「ロッカー式の無人販売機」や「収穫体験用のイチゴ狩り施設」を整備することで、日常的に新鮮な野菜や果物を都市住民に供給し、さらなる理解の向上を図っています。
地元学校と連携(愛知県知立市)
愛知県知立市の住宅が密集する都市において、農作業に対する苦情が多く、周辺住民からの理解が得にくい課題がありました。さらに、農業者の高齢化や担い手不足による都市での耕作放棄地発生のリスクもあります。
そこで、地元の教育機関・地域団体が連携し、学生・保護者を対象とした農業体験会や農産物の加工体験の開催を通じて、地域の多世代にわたって都市農業への理解を促進しました。具体的には、小中学生を対象とした農体験教室(畑de学校)を開校し、農に触れる機会を提供することで都市農地の持つ機能について周知を図りました。
また、耕作放棄地には対策作物(ローゼル)を試験栽培し、その加工品の活用方法を地元の高校と検討するなど、都市農業の継続モデルの実証実験を行っています。
農業体験や交流型マルシェを開催(福岡県福岡市)
福岡市においては、都市住民のほとんどは市内で貸し農園や農業体験ができることを知らず、都市農業の認知度は低い点が課題でした。また、近隣に農地がありながらも、地域の都市農業者と直接交流する機会が少なく、都市農業の多様な機能に関する情報発信も不足しています。
そこで、都市農業者と都市住民が直接交流できる「都市型マルシェ」を福岡市内の4拠点において約1年で計19回開催。マルシェでは農産物の販売だけでなく、子ども向けワークショップを開催するなど、多世代を対象に都市農業の魅力を発信しました。
また、マルシェ来場者を対象に、都市農業者の農園を訪問する農業体験ツアー(福ベジ部)も実施。その一環として、都市農業者の指導のもとベランダでのプランター栽培やオンライン交流会を行い、都市住民が自宅でも楽しめる企画にも取り組み、更なる理解促進を図っています。
都市住民が農業に触れる機会を創出(東京都江東区)
東京都江東区では、豊洲地区を中心に開発がすすみ、高層マンションが林立する都市景観となる一方で、「みどりの中の都市」をイメージしたまちづくりも進めています。
一方で、区内には身近な農地がなく、区民が農に触れる機会が限定的であり、農への関心づくりや組織体制が十分でないことが課題でした。
そこで、区民による地域協議会が主体となり、先例事例を持つ専門家や地域内の農業従事者等と協力して、マルシェやイベント出店を通して都市住民の農業への関心やニーズを把握するための調査を実施します。
その上で、都市住民や子どもが農に触れる農園「ハコ畑」を設置し、農園の形態や管理の仕組み等について実証を行っています。イベントでは様々なワークショップを行い、コミュニティによる種植え・苗植え体験会を実施しています。
06まとめ
都市農業は、地産地消の促進や環境保全、教育やコミュニケーション機会の創出といった多くのメリットを持ちます。一方で、土地確保の難しさや利用コストの高さ、住民理解の課題、労働力不足などのデメリットや課題も無視できません。
また事例からも分かるように、都市農業は持続可能な社会の構築や食料供給の安定化、防災面での役割など、多岐にわたる意義を持ちながらも、それらの実現には地域住民の理解や、行政・事業者の連携が重要です。
今後は、これらの課題解決に向けた取り組みを進めつつ、都市農業の価値をさらに高めるための新しいアイデアや制度が期待されています。地域との連携を図りつつ都市農業を推進することで、持続可能な都市および農業の未来が築かれるでしょう。
また持続可能性の観点から、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が注目されているのはご存知でしょうか。
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることで、高騰するエネルギーコストの低減や脱炭素への貢献、新たな付加価値の獲得などさまざまなメリットを期待できます。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。
下記ページでは、自然電力株式会社が持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを紹介していますので、ぜひご覧ください。
Re+Farmingプロジェクト powered by 自然電力
また、安定的かつ持続的な農業の実現に役立つ新着記事やセミナー、トレンドなどの最新情報を受け取れるメールマガジンもお勧めです。下記ページにて簡単に登録できますので、ぜひご活用ください。
メルマガ登録 – Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつくるメディア「リプラス」