2023.9.14
農業経営に役立つアプリとは?搭載されている機能や活用事例を解説
農業アプリとは、ほ場管理や書類作成、情報収集、農薬計算、病害虫診断などが搭載されている営農支援ツールです。アプリそれぞれに特化した機能が搭載されており、自分の農業課題に沿ったアプリを活用することが重要です。農家に必要なアプリを活用することで、農作業の効率化や生産性の向上が期待できるでしょう。
本記事では、農業に役立つアプリの概要や搭載されている機能の一例として、農林水産省が提供している「MAFFアプリ」と、全国農業協同組合連合会(JA全農)が提供している「Z-GIS」を紹介します。機能や活用事例なども解説しているため、ぜひ参考にしてください。
01農業経営に役立つアプリとは?
近年では、パソコンやスマートフォンで利用できる農業アプリが多数あります。作物栽培や農業経営に関するデータを蓄積・分析することで、農作業の効率化を進め、農業技術の継承に役立つ「スマート農業」の一つです。ここからは、農業経営に役立つアプリを機能別に解説します。
スマート農業と同義であるアグリテックについて知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
営農支援(生育記録・作業記録など)
営農支援アプリでは、ほ場や農作業に関する情報を記録・集計・出力ができます。入力した情報は、クラウド上で保存されるため農作業者全体で共有が可能です。機能の一例は次の通りです。
● 航空写真マップにより視覚的なほ場管理ができる
● 農協や直売所に提出する帳票の自動作成ができる
● 作業記録に写真やコメントを残しタイムリーな情報共有ができる
● 作業時間・各農作物の売上・肥料や農薬の量・必要なコストなどをグラフで見える化し、管理できる
利用料金は無料のものから月額10,000円程度までとプランによりさまざまです。アプリによってサポート体制が用意されているため、パソコンやスマートフォンが苦手な人でも利用しやすいでしょう。
農薬関連
農薬情報に特化したアプリには、次のような機能があります。
● 知りたい農薬や病害虫を検索できる
● 必要な薬液量や希釈倍数を計算できる
アプリの使用方法の一例をあげると次の通りです。
混用事例の確認 |
|
希釈計算 |
|
農薬関連のアプリは基本的に無料で使用可能なものが多いようです。
病害虫診断
病害虫診断に特化したアプリで、病害虫の図鑑や対策方法を閲覧できます。アプリ内で病害虫の疑いがある農作物を撮影することで、AI診断が可能です。診断方法と診断可能な農作物の一例は次の通りです。
診断方法 |
|
診断可能な農作物 | なす・たまねぎ・ピーマン・いちご・ねぎ・トマト・ブロッコリー・大根・エンドウ・かぼちゃ・きゅうりなど(100種類以上の病害虫を診断) |
LINEやSNSで病害虫診断や栽培方法の相談ができる機能が搭載されているアプリもあります。基本的に無料ですが、機能拡張のために課金が必要なアプリもあります。
情報収集
情報収集に特化したアプリで、買取単価や市場状況を確認できます。機能の一例は次の通りです。
● 各農作物の高値・中値・安値など値動きを確認できる
● 市場が求めている農作物の情報を得られる
● 農作物の買取情報を収集できるため作付け計画が立てやすくなる
● 農林水産省の政策情報を収集できる
農林水産省が運営している「MAFFアプリ」であれば 無料で利用可能です。「MAFFアプリ」に関しては後述で詳細を解説します。
ほ場管理
ほ場管理や収量マップに特化したアプリで、衛星画像やAI分析により、ほ場状況を確認しながら農業ができます。機能の一例は次の通りです。
● 衛星画像により地力・生育状況を確認できるため、的確な追肥判断や追肥量の調整ができる
● 天気予報を詳細に確認できるため、天気に合わせた営農計画が立てられる
● 降水確率や風速をAI分析し、農薬散布に適した時間帯を示してくれる
● AIにより生育状況を予測できるため、肥料や農薬を散布する最適な時期を把握できる
● 病害の発生時期を予測できるため、予防に適した時期に薬剤散布ができる
利用料金は「無料〜5,500円/月」で、各アプリにより異なります。
販売促進
消費者と生産者をマッチングするアプリです。農業者は農作物を出品することで新たな販路を作れます。機能の一例をあげると次の通りです。
● 出品・注文管理・入金などすべての作業がスマートフォンで完結できる
● 注文が入ると自動で配送伝票が届く
● 農家の情報を発信したり感想が届いたりと、消費者と直接つながることができる
登録は無料ですが、アプリにより売上から10%〜20%の手数料が差し引かれます。
農業者マッチング
農家と働き手をマッチングできるアプリです。本格的に農業を始めたい人や学生、主婦、シニアなどさまざまな方と農家をつなぐことができます。短期・長期雇用など、農繁期や閑散期の時期に合わせて募集が可能です。
また、一般的な求人広告よりもコストが低い場合が多いです。短期間雇用のコストの例を挙げると次のようになります。
【農繁期の短期雇用のコスト例】
農繁期 |
|
閑散期 | 0円 |
02農林水産省の農業アプリ「MAFFアプリ」
農林水産省は、農業・林業・漁業の方に役立つ情報を発信するために「MAFFアプリ」を運営しています。「MAFFアプリ」の基本機能と使用感について紹介します。
アプリの基本機能
農林水産省と農業者をつなぐアプリです。主な機能は農業に関する情報収集で次の機能が搭載されています。
● 農林水産省からイベント情報や政策情報などが直接届く
● 登録したユーザー情報に基づいた情報が表示される
● 農林水産省に農家の意見・要望を直接送信できる
● 「経営所得安定対策」などの一部交付金が電子申請で完結できる
● 農薬の使用方法や注意点を検索できる
「Google Play」や「App Store」からダウンロードできます。
「MAFFアプリ」の使用感
「MAFFアプリ」を開くとホーム画面が開き、次の項目が選べます
● ホーム画面
● 情報検索画面
● マフすぐ
● eMAFF
● 農薬検索
ここからは「MAFFアプリ」の使用感について解説します。
ホーム画面
ホーム画面では、農林水産に関する情報、天気情報、閲覧数ランキングが表示されます。最新または注目されている情報を閲覧できます。最上部に熱中症の情報も表示されるため、作業員の安全対策にもつながるでしょう。
情報検索
情報検索の画面では、農林水産に関連する情報を調べることができます。検索窓からは、入力したキーワードに関連する情報を調べられます。経営改善やスマート技術、気象・災害・防災、病害虫などの項目からも検索可能です。
マフすぐ
マフすぐの画面では、農林水産省に直接つながる機能が用意されています。
● マフちょく:農林水産省への意見や伝えたい現場の情報を送信できる
● Maff Channel:農林水産に関する情報を動画で発信しているチャンネルに移動できる
● aff:食に関する情報や生活に役立つ情報を発信しているWebマガジンのページに移動できる
● 逆引き辞典:補助金や融資、出資に関して「〜したい、〜を作りたい」など、逆引きで調べられる
eMAFF
eMAFFとは、農林水産省に関する手続きをインターネット上で申請できるサービスです。認定農業者制度や経営所得安定対策などの一部の制度が申請可能です。農業に関連するすべての制度が申請できるわけではないので注意してください。
農薬検索
農薬検索では、作物名・農薬情報・病害虫名などを組み合わせて農薬を検索できます。農薬の使い方や注意事項などを確認できます。
03JA全農 農業アプリ「Z-GIS」
JA全農は、ほ場管理の効率化を目的にしたアプリ「Z-GIS」を提供しています。「Z-GIS」の特徴や基本機能に加えて、活用事例を解説します。
アプリの基本機能
「Z-GIS」は、ほ場管理の効率化を目的に開発されたアプリです。クラウド上にポリゴン化されたほ場情報と、Excelで管理されたほ場情報をひもづけることで、農作業者全体で情報を管理・共有できます。具体的な機能は次の通りです。
● ほ場マップを作物や収量別で色分けできる:翌年の基肥や追肥の参考にできる
● ほ場マップに作物名や品種名、田植え日を記載できる:どこにどの農作物があるか管理できる
● 色分けした特定のほ場のみを抽出できる:収量が低いほ場を抽出すれば翌年の作付け計画の参考にできる
利用料金は、「無料〜66,000円/年」で利用可能です。利用料金により対象者やほ場数が異なります。
事例①:収量の底上げをめざした水稲農家
「Z-GIS」を活用することで、収量の底上げをめざした水稲農家の事例です。「Z-GIS」で作成した施肥マップをブロードキャスタ(肥料等を散布する機械)に転送して可変散布を実施しました。
1haを超えるほ場でも正確な散布ができ、条件が良いほ場では10km/h以上での散布が行えています。実施した農家は、「従来は作業中に施肥量を変えられず、低速で作業をしていました。この方法では速度を気にせず作業できます」と述べています。
「Z-GIS」を活用して施肥マップに基づいた可変散布ができれば、正確な肥料散布ができます。正確な肥料散布は、農作物の品質や収量の増加に加えて、労働時間の削減も期待できるでしょう。
事例②:耕作放棄地を次世代が使える農地に
「Z-GIS」を導入することで、紙媒体の煩雑な管理から解放された営農組合の事例です。これまでは、ほ場整備情報や転作作物の管理、賃貸借の管理などを紙媒体で扱っていましたが、こうした紙媒体での管理に限界を感じて、「Z-GIS」の導入に至りました 。
「Z-GIS」の導入後は、台帳面積や水張り面積などあらゆる情報をデジタル管理し、効率の良い営農管理が実現しています。このような取り組みは、「若い世代を長期的に雇用して十分な給料を支払える農業経営につながる」と期待されています。
ほ場管理をデジタル化して効率の良い農業経営が実現できれば、若い世代へ引き継げるだけでなく、耕作放棄地の活用の一助にもなるでしょう。
参考:耕作放棄地を減らし、次世代に農地を残すために(JA全農)
このような農業のデジタル化やスマート農業の導入は、若い世代の就農を推進し、耕作放棄地問題を解決する「新しい農業のカタチ」として注目されています。新しい農業には、例えば、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を活用して、「自家発電による燃料費削減や売電による継続的な収入を取り入れる」という方法もあります。ソーラーシェアリングの詳細を知りたい方は、ぜひこちらを参考にしてください。
04農業アプリを活用して農業経営を効率化しよう
農業アプリには、営農支援や病害虫診断、情報収集などそれぞれに特化した機能があります。自分の農業経営における課題や改善すべき点は何かを判断して、アプリを活用するのが重要です。
いち早く農業関連の情報を把握しておきたいのであれば「MAFFアプリ」、ほ場管理において煩雑な紙媒体から解放されたいのであれば「Z-GIS」というように、活用します。
農業アプリを有効活用すれば、的確な施肥による収量向上や画像AI診断による病害防除など、農家が抱えている農業課題の解決の糸口になるでしょう。
【参考】
・農林水産省 農林漁業者向けスマートフォン・アプリケーション(農林水産省)
・aff(あふ)最新号(農林水産省
・農林水産省共通申請サービス(eMAFF)(農林水産省)
・Z-GAS JA全農 営農管理システム(JA全農)
・地域全体の収量底上げをめざし、水稲栽培の詳細データをZ-GISに活用(JA全農)
・耕作放棄地を減らし、次世代に農地を残すために(JA全農)