新しい農業のカタチを
つくるメディア「リプラス」

営農型太陽光発電とは?取り組みや課題、導入事例を解説

現在日本は、耕作放棄地の拡大や農業従事者の減少、エネルギー不足などの様々な問題を抱えています。耕作放棄地の増加や農業離れにより日本の食料自給率が低下するだけでなく、荒れ果てた状態が続けば農地へと戻すことが困難となります。

日本が抱えるこれらの問題を解決してくれると近年注目を浴びているのが、営農型太陽光発電です。今回の記事では営農型太陽光発電について、関連する制度や実施する際の基準などを詳しくご紹介していきます。営農型太陽光発電の導入事例も紹介していますので、導入を検討している方はご参考にしてください。

01営農型太陽光発電とは?

営農型太陽光発電とは農地に支柱を立てて上部に太陽光発電設備を設置し、その下で適切に農業を行う仕組みです。農業と発電を同時に行えることにより、収入の増加だけでなく、不作や市場価格に左右され不安定になりがちな農家に安定収入をもたらすことで、農業離れの減少につながると期待されています。

2013年に営農型太陽光発電の制度が発表

2013年には農林水産省が営農型太陽光発電に関するガイドラインを発表しました。営農型太陽光発電設備の設置には、農地法に基づく一時転用の許可が必要となりますが、このガイドラインによって農地転用許可制度に係る取り扱いについて明確化されました。

営農活動が問題なく継続できること、農作物の品質に著しい劣化が見られないことなどの一定の規定を設けることで、営農しながらの太陽光発電を可能としました。

農地転用型と営農型の違い

農地を活用した太陽光発電には農地転用型と営農型の2つがあります。

農地転用型とは、耕作放棄地を含む農地を宅地に転用し、太陽光パネルを設置する方法です。営農の継続は目的とせず、太陽光パネルを土地全体に設置できるため高い発電量も期待できます。

一方、営農型は完全な転用を行わずに、支柱を立てる部分のみを一時転用することにより農業を継続しながら太陽光発電を行う方法です。一つの土地で農地収入と売電収入を得られ、または電力の自家消費などができるようになります。
農業と太陽光発電の両立ができるとして、今注目を浴びているシステムです。

02営農型太陽光発電に対する取り組み

続いて、農地型太陽光発電に対する農水省の取り組みや導入状況をご紹介します。

食糧・農業・農村基本計画の内容とは

食糧・農業・農村基本計画とは食料・農業・農村基本法が掲げる以下の4つの基本理念を実現するために具体的な施策を行うプログラムで、日本の食と活気ある農業、農村を次の世代につなぐことを目標としています。

【基本理念】
・食料の安定供給の確保
・多面的機能の発揮
・農業の持続的発展
・農村の復興

変わりゆく農業や食料の情勢の変化に対応していくために、おおむね5年ごとに計画内容が見直されています。

普及促進に向けた制度の変更

2013年のガイドライン発表から5年後の2018年には、農水省が新たに営農型太陽光発電の促進制度を発表しました。営農型太陽光発電を設置する場合の農地の一時転用許可期間は3年以内とされていましたが、2018年に発表された促進制度により、担い手がパネル下部で営農をする場合や荒廃農地・第2種農地または第3種農地を活用する場合には10年以内に延長されました。

営農型太陽光発電の導入状況

営農型太陽光発電の導入数は、2013年から現在まで右肩上がりに上昇しています。2013年には102件であった導入数は、2020年には合計3,474件にまで増えています。年ごとの新規許可数も増加傾向にあり、2014年代の導入数は351件であったのが、2020年には約2倍の779件にまで上っているのです。

導入数が増え続けている点を見ても、今後さらに営農型太陽光発電を取り入れる農地は拡大していくと予想されるでしょう。

図1:営農型太陽光発電設備を設置するための農地転用許可件数
出典:営農型太陽光発電について(農林水産省 )

03政府が営農型太陽光発電に期待する背景

なぜ政府が営農型太陽光発電の促進を進めているのかを、農業や日本社会が抱える問題を通して解説していきましょう。

農業が抱える様々な問題

農業が抱える問題として、農業従事者の減少や高齢化が挙げられます。農業の経営は天候や世界情勢の影響を受け不安定となりやすいことから離農する人が増えており、最近では、親が農家をしていても子どもには継がせたくないと考える方も増えています。

新しく農業を始めるのはハードルも高く、離農者が増加している状況が長く続いているため、食料自給率低下も懸念されているのです。

また、農業では農作業機械などで多くのエネルギーを必要とします。昨今のエネルギー高騰化は農家にとって見過ごせるレベルの問題ではありません。また、脱炭素社会への動きもあり農作業機械の電動化も進んでいます。

営農型太陽光発電が農業にもたらすメリット

「農家は儲からない」という印象を大きく変えてくれるのが営農型太陽光発電です。営農型太陽光発電を行えば、農業の売上にプラスして売電収入を得られるため、農家として生活していける可能性が高まります。
農業で稼げるとなれば、仕事として魅力的に感じる若者の増加や離農者の減少、或いは、現在農業を営んでいる方の新しいチャレンジも増え、農業ビジネスの変革も期待できるでしょう。

また、発電した電気を自分で消費することも可能であり、高騰化するエネルギーを自給自足できるようになれば、農家にとって大きなコスト削減が期待できるでしょう。

日本のエネルギー事情

日本のエネルギー資源が乏しく、エネルギー自給率は12.1%(2019年度)しかありません。
先進国の中でも非常に低く、今私たちが使用しているエネルギー資源のほとんどは海外から輸入されています。

一方で、日本の1人あたりの電力消費量は世界第4位と高く 、エネルギーの需要と供給が一致していないことが分かります。自給率を上げない限り、石油などの化石燃料の輸入に頼り続けてしまうことになります。そこで、エネルギー不足問題の切り札の一つとして営農型太陽光発電が注目されているのです。

営農型太陽光発電が日本のエネルギー事情にもたらすメリット

日本の農地の10%で営農型太陽光発電を導入できれば日本国内で必要な電力を賄えるという試算もあります。住宅の屋根と比べると広いスペースの確保ができるほか、作物を育てるのに適した農地は太陽光が良く当たるため、太陽光発電の設置に適しているといえます。実際に、営農型太陽光発電で日本の消費電力すべてを賄うことは現実的ではないにしても、日本のエネルギー問題解決に大きな役割を果たせる可能性は十分にあるといえるのではないでしょうか。

04営農型太陽光発電における課題

新規導入数が増えつつある営農型太陽光発電ですが、諸外国と比べてもまだまだ設置数は少ない状態です。設置数が少ない理由は、営農型太陽光発電自体が知られていないことに加え、「事業採算性」と「事業継続性」の課題があるからだと考えられます。

事業採算性

営農型太陽光発電が抱える課題の一つが、事業採算性です。太陽光パネルの下で農業を行う営農型太陽光発電は、地上からの高さが最低でも2mは必要となります。そのため、高い位置の配置でも問題ない強度の確保に加えて、高所作業のため設置コストも掛かります。

後に売電収入を得られるとしても、いかに事業採算性を確保していくかが今後の課題となるでしょう。

事業継続性

営農型太陽光発電の課題として、事業継続性も挙げられます。営農型太陽光発電の普及促進に向けて、条件をクリアすれば一時転用許可期間が3年から10年以内に延長されましたが、一方で、設備設置の融資支払いは約20年にもわたります。

10年後に改めて転用許可の更新が必要になることも含め、20年単位で事業を継続していくための体制を前提に考える必要があります。

05営農型太陽光発電を設置するための基準や条件

続いては、営農型太陽光発電の設置にあたり、必要な条件や基準についてご紹介します。

支柱の基礎部分は一時転用許可の対象に

営農型太陽光発電を設置する際に農地に建てる支柱の基礎部分については、一時転用許可が必要となります。一時転用許可期間は基本的には3年ですが、担い手が設備の下で農業を行う場合や荒廃農地・第2種農地などを活用する場合には10年以内に延長されます。

適切に営農されていて、大きな問題につながっていなければ一時転用許可の再許可も可能です。

一時転用許可でチェックすべきポイント

一時転用許可にあたり、チェックすべきポイントは大きく分けて2つです。まず、一時転用期間が定められた期間内であるかです。一時転用期間は3年または10年以内のどちらかであり、条件をクリアしない限りは3年で期間は終了となります。

もう1つが発電設備の下できちんと営農が継続できるかという点です。「適切な営農」の判断基準として、以下の点が挙げられます。

【適切な営農の判断基準】
・設備の下で農業がされていること
・生産された農作物の品質に大きな劣化が見られないこと
・荒廃農地・第2種農地など以外の場合は、近隣にある田畑の平均単収と比較して約2割以上落ちていないこと
・荒廃農地・第2種農地などを活用した場合は、適切かつ効率的に使用されていること

その他にも、農作物の生育に適した日射量を確保できているか、農業機械などを効率的に利用できる設計であるか、周辺農地に支障がない位置に設置されているか等について確認されます。

農地の状況次第では一時転用期間が3年になったり、許可が下りなかったりすることもあります。事前に現場をチェックし、一時転用許可がもらえるかを確認しましょう。

年1回の報告が必要

一時転用許可が下りて営農型太陽光発電の設置が完了しても、年に一度農作物の生産性について報告する義務があります。上記の基準を満たしていれば問題ないですが、作物の育ちが悪い、生産性が著しく低下したと判断された場合は継続できず、設備をすべて撤去して農地へと戻すことになります。

06営農型太陽光発電の導入事例

最後に、営農型太陽光発電を実際に取り入れている事例をご紹介します。

たかとみファーム(鹿児島県志布志市)

耕作放棄地の拡大は全国へと広がり、人口の少ない地方や山間部においては非常に深刻な状態です。そこで、株式会社たかとみファームは鹿児島県志布志市の耕作放棄地などを活用して、営農型太陽光発電の導入を進めました。

発電設備の下では牧草の生産が行われ、生産量は近隣にある田畑の平均単収とほぼ同じ、100%を維持しています。下記インタビュー記事では、株式会社たかとみファームの追立晃樹さんからより詳しく、営農型太陽光発電についてお話をお伺いしました。

導入までの流れやポイント、発電設備よって得られた効果などをまとめているので、営農型太陽光発電に興味のある方はぜひご覧ください。

関連記事【導入事例】山間部の耕作放棄地を蘇らせるソーラーシェアリング。導入のポイントと効果とは?

07まとめ

今回は、営農型太陽光発電についてご紹介しました。農業と発電が同時に行えるとして政府も注目しつつある仕組みですが、現状の導入数はまだまだ少ないのが現状です。普及が急激に進まない理由として、営農型太陽光発電に関わる基準が厳しいことと、農業が問題なく行えるのかを疑問としていることが挙げられます。

しかし、近年導入のための基準が緩和されつつあり、また、実際に様々な環境で作物が問題なく育つことが実証されています。

農家にとっての安定収入を期待できる営農型太陽光発電は、農業や日本が抱える様々な問題を解決へと導いてくれる可能性も秘めているため、興味のある方はぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。

【参考】
支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用 許可制度上の取扱いについて(農林水産省)
食料・農業・農村基本計画の概要(農林水産省 2020年3月)
日本のエネルギー 2021年度版(資源エネルギー庁)

SHARE シェアする
  • LINE
  • Twitter
  • Facebook
KEYWORD この記事のキーワード