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循環型農業とは?メリット・デメリットと事例を分かりやすく紹介

循環型農業とは、化学肥料や農薬の使用を抑えつつ、使用する資源を循環させて自然環境への負荷を軽減する農業です。循環型農業は、生態系や自然環境への貢献につながるのはもちろん、取り組むことによってブランドイメージが向上するといったように実施者にとってもさまざまなメリットがあります。

本記事では循環型農業について、用語としての定義、メリット・デメリット、事例を紹介します。「循環型農業に関心はあるが、実施すべきか迷っている」といった方に向けた内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

01循環型農業とは

循環型農業とは、化学肥料や農薬の使用を抑えつつ、使用する資源を循環させて自然環境への負荷を軽減する農業です。例えば、家畜の排せつ物を堆肥化する、廃棄される作物や食品を飼料化するといったことが挙げられます。

似た用語に、環境保全型農業があります。農林水産省によって環境保全型農業は、「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」と定義されています。

双方とも農薬の利用や環境負荷を押さえつつ、資源(物質)の循環性にフォーカスした場合を循環型農業、地球温暖化防止や生物多様性の維持にフォーカスした場合を環境保全型農業という表現をしています。最終的な目的は農業と環境の持続可能性を高める、というゴールに向かっているため、実際にとられるアクションの選択肢は似ています。

02循環型農業のメリット

循環型農業のメリットを4つ紹介します。

・持続可能性が高まる
・消費者と生産者の安全性が高まる
・SDGsへの貢献によりブランドイメージ向上につながる
・交付金や補助金を受けられる

持続可能性が高まる

循環型農業を行うことで持続可能性が高まり、将来にわたって安定した生産を行えます。より具体的には、以下の通りです。

・資源の適切な利用
循環型農業では、生産の過程で発生する副産物や廃棄物を資源として再利用します。例えば、有機質の廃棄物を堆肥として利用することで、化学肥料の使用が抑えられます。これにより、土壌の劣化や人体への影響などのリスク低減につながり、持続的な農業を実現できるのです。

・生態系への負荷低減
循環型農業は、環境への負荷を抑えることを目指します。生物にとっては有害となるリスクがある化学肥料や化学合成農薬の使用を削減し、代わりに生物農薬や天敵動物の利用など生態系への負荷が少ない手法を用います。これにより、生態系との調和を保つことができるのです。

・循環経済の促進
循環型農業では廃棄物を資源として再利用するため、資源の枯渇や廃棄物の増加問題にも対処でき、循環経済の促進につながります。

消費者と生産者の安全性が高まる

消費者と生産者の安全性が高まることも、循環型農業のメリットです。循環型農業においては、化学肥料や化学合成農薬の使用が控えられます。そのため、消費者は農作物を口にする際、生産者は農薬散布などの作業を行う際、それぞれの安全性が高まるのです。

SDGsへの貢献によりブランドイメージ向上につながる

循環型農業はSDGs(持続可能な開発目標)への貢献となり、消費者をはじめとする外部からのブランドイメージが向上します。

先述の通り循環型農業は、資源の効率的な利用や環境保護を重視する取り組みです。そのため循環型農業を推進することで、消費者や利害関係者へSDGsに対する努力や姿勢を示すことができるのです。

政府や各団体・企業など多方面からの啓発もあり、消費者の間で環境への影響を考慮した商品を選ぶ傾向が強まっています。循環型農業はこうした消費者の嗜好性に合致した支持を得やすい農業といえるでしょう。

交付金や補助金を受けられる

循環型農業に取り組むことで、交付金や補助金を受けられる可能性があります。例えば、以下のような制度が挙げられます。

・ 環境保全型農業直接支払交付金
2011年度から化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取り組みと合わせて、地球温暖化防止  や生物多様性保全等に効果の高い営農活動を支援する目的で設けられた交付金です。
【参考】環境保全型農業直接支払交付金(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/mainp.html

・ みどりの食料システム戦略推進交付金
持続可能な資材・エネルギーの調達、資源のリユースやリサイクル、高い生産性と両立する持続的生産体系への転換などへの取り組みを支援するための交付金です。
【参考】みどりの食料システム戦略(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/

03循環型農業のデメリット

循環型農業のデメリットを4つ紹介します。

・生産が安定するまでに時間を要する
・病害虫による被害のリスクが高まる
・初期投資が必要になる
・専門的知識の取得にリソースが必要

生産が安定するまでに時間を要する

循環型農業は環境への配慮および持続可能性を重視する一方で、生産の安定には時間を要する傾向があります。循環型農業では一般的な化学肥料・化学合成農薬などを用いず、生態系への負荷軽減や土壌の健康状態などを重視するため、新たな手法に適応して生産体系や生産量を安定させられるまでには、数年を要することもあります。

病害虫による被害のリスクが高まる

病害虫による被害のリスクが高まってしまう点も、循環型農業のデメリットといえるでしょう。先述の通り循環型農業では、化学合成農薬の使用を控えて、自然由来の防虫手法に頼らなければなりません。そのため、防虫に特化して開発された化学合成農薬と比較すると、天敵動物による防虫など循環型農業に用いられる対策は即効性や安定性の面に難が残ります。

初期投資が必要となる

循環型農業を始めるにあたっては、相応の初期投資が必要となります。循環型農業の要となる有機資材や有機肥料を調達しなければなりません。購入費用だけでなく、調達先を見つけるための労力や時間といったコストも要します。また、有機資材を堆肥化する場合や、バイオマスエネルギーを利用する場合には専用設備を整える必要があります。

専門的な知識の取得にリソースが必要

循環型農業を行う上では、環境負荷や特殊な栽培手法についてなど従来の農業とは異なる専門的な知識が求められます。例えば、循環型農業では有機資材や資源を管理し、循環させる必要があります。そのため有機物の分解や堆肥化、資源の再利用などに関する知識を習得しなければなりません。実作業を行いながらの新たな知識習得は決して容易とはいえないでしょう。

04循環型農業の事例7選

循環型農業の事例を7つ紹介します。

家畜の排せつ物を堆肥化

家畜の排せつ物(ふん尿)は、有機資材として農業に再利用できる貴重な資源です。排せつ物を収集し、堆肥として利用すれば、有機資材として分解され土壌の改良や栄養補給が可能となります。このように畜産業と農業の連携、いわゆる「耕畜連携」は、資源の最大限の活用と環境保護において重要な役割を果たすのです。

作物残さを家畜の飼料化

農作物の収穫後に残った茎、葉、枝などの部分である作物残さを、家畜の飼料として再利用します。例えば、通常であれば焼却処分となる米やトウモロコシの茎部分を飼料にします。これにより飼料コストの削減や循環的な資源の再利用が促進されます。さらに家畜の排せつ物を利用すれば1つ目の事例につながり、循環型農業が成立します。

食品残さによるエコフィード

食品残さを飼料化する「エコフィード」も注目されています。2つ目の事例とは異なり、食品製造過程や販売過程で生じた加工くずや売れ残り弁当、廃食油などを飼料化します。生産過程で生じた規格外野菜などはこちらに含まれます。輸入飼料に頼らず飼料の自給率を高めることで、持続可能な農業の実現につながるのです。

合鴨農法

合鴨農法(アイガモ農法)とは、水田で合鴨を飼育することで、害虫や雑草を食べてもらい低農薬での栽培を実現するための手法です。合鴨の排せつ物は肥料となり、循環型農業が成立します。また、合鴨が水田を泳ぐことで、除草効果や根っこまで酸素が届くといったメリットもあります。

アクアポニックス

アクアポニックスは、魚の養殖(アクアカルチャー)と水耕栽培(ハイドロポニックス)を組み合わせた持続可能な農法です。魚が生育する水槽の上に作物用のプランターを据え付けて、水槽内の水と魚が出すフンを利用して栽培を行います。魚が出すフンが作物の栄養となり、水は浄化されるため資源の循環が成り立ちます。

リビングマルチ・カバークロップの栽培

リビングマルチ栽培とは、土壌で作物を育てる際に主な作物とは異なる植物(緑肥)を一緒に育てる栽培手法です。同時期、畝間に緑肥を植えるリビングマルチ栽培に対し、カバークロップ栽培は作物の作付期間の合間に緑肥を育てます。
どのような植物を育てるかによって目的・効果が異なります。例えば、枯れ上りが早い植物を同時に育てることで地表が覆われて他の雑草は生えないため、除草剤の散布量や散布回数を減らすことができますし、早期に枯れるため本作物と競合しません。また、その緑肥を土壌に漉き込んで肥料とすることで化学肥料の利用量減や、収穫量改善に役立てることもできます。その他にも、害虫を遠ざける効果をもつ植物を一緒に育てるといった例があります。

05まとめ:循環型農業で持続可能な農業経営を

循環型農業とは、化学肥料や農薬の使用を抑えつつ、使用する資源を循環させて自然環境への負荷を軽減する農業です。近いキーワードに農林水産省が定義する「環境保全型農業」があり、農業と環境の持続可能性を高める、というゴールを共通としつつも、地球温暖化対策や生態系保全をフォーカスした考え方です。

循環型農業のメリットは「持続可能性の向上」「消費者と生産者の安全性向上」「ブランドイメージ向上」「交付金や補助金を受けられる」の4つです。反対にデメリットは、「生産安定までの期間が必要」「病害虫のリスク向上」「初期投資が必要」「専門知識が不可欠」の4つです。実施や転換の検討にお役立てください。

また循環型農業の事例を7つ紹介しました。「家畜の排せつ物の堆肥化」といった耕畜連携のものから、「合鴨農法」「アクアポニックス」など自然の生態系を上手く活用したものまでさまざまです。

なお、環境負荷の軽減という観点から循環農法と相性がよい取り組みの一つとして「ソーラーシェアリング」があります。ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、従来通りの農畜産業を営みつつ、太陽光発電を並行して行う取り組みです。再生可能エネルギーの自家消費や余剰売電によって持続的な農業経営が実現できます。農林水産省による積極的な推進支援もあり、導入する農家が増えつつあります。循環型農業を実践できるだけでなく、収入面・コスト面でのメリットがある点も導入が進む要因です。

こちらの記事では、ソーラーシェアリングのメリットやデメリットについて、実際に導入した農家へのインタビューを基に紹介していますので、ぜひご覧ください。

関連記事家畜も育てる!ソーラーパネル下で広がるグリーンウィンドの循環型農業

【参考】
環境保全型農業関連情報(農林水産省)
環境保全型農業直接支払交付金(農林水産省)
みどりの食料システム戦略トップページ(農林水産省)
みどりの食料システム戦略推進交付金交付等要綱(農林水産省)
エコフィードをめぐる情勢(農林水産省)

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