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2023.4.27

乳価とは?10年間の推移や生乳需要との関係性を解説

乳価とは牛乳や乳製品の原料である生乳の価格のことです。酪農経営をするのであれば、乳価の基礎知識を理解し、乳価の動向を捉えることは重要です。

本記事では、主に酪農家に向けて乳価の概要や価格改定の仕組み、10年間の乳価推移を解説します。乳価と生乳需要の関係性や2023年の乳価改定についても解説しているため、これから酪農経営をしたい方は、ぜひ参考にしてください。

01乳価とは

まずは、乳価の概要や乳価改定の仕組みを解説します。

概要

乳価とは牛乳や乳製品の原料である生乳の価格のことです。乳価には、「日持ちがしない」という生乳ならではの特徴と国の政策が関わっています。

乳価は用途別に大きく次の2種類に分けられます。
● 飲用向け:飲用牛乳になる生乳
● 加工向け:バターやチーズなど特定の乳製品になる生乳

これらは用途別取引と呼ばれています。特徴的なのは用途別で価格を定めるだけでなく、「処理した結果(用途決定後)」でも価格が決定します。取引価格は、4月から翌年3月までの1年間を契約期間としており、1年を通して同条件で取引されます。

乳価改定の仕組み

乳価は酪農生産者団体と乳業メーカーの双方の合意で決定します。
合意までの過程を「乳価交渉」と呼び、次のような要因を勘案して決定します。

● 生乳の需要と供給の状況
● 市場の動向や経済状況
● 乳業者と酪農家の経営状況

乳価は業界全体で同じ傾向です。ただし、各乳業者と酪農家で異なる要因や条件があるため、乳価は各取引で変化します。

また、加工原料乳は国からの補助金や補助政策があるため、国の政策により乳価が変動する可能性があります。

02乳価の推移

ここからは、全国の乳価と国内最大の生産地である北海道の乳価推移を解説します。

全国の乳価推移

過去10年の全国の総合乳価推移は次の通りです。

出典:畜産・酪農をめぐる情勢(農林水産省)を元にRe+編集部作成
※総合乳価は経費と手数料を控除し、補助金などを合算した価格

乳価推移の内訳は次の通りです。
● 2019年4月:飲用向けが約4円値上げ
● 2017年4月:脱脂粉乳・バター向けが約1円値上げ
● 2015年4月:飲用向けが約3円、バター向けが約2円値上げ
● 2014年4月:消費税増税および加工乳向け上昇により約1.5円値上げ
● 2013年10月:円安による飼料価格・飼料輸入価格の上昇により飲用向けが約5円値上げ

過去2年〜3年の乳価は安定していますが、直近では飼料・燃料の高騰による生産コストの増加と、牛乳の消費量の減少が問題になっています。これは、ウクライナ情勢の影響やコロナ禍による業務用生乳の需要停滞が関与しています。

北海道の乳価推移

ホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)の過去10年ほどのプール乳価(用途別の販売乳代金を合計した平均単価)推移は次の通りです。

現在、国際的な穀物価格の上昇と円安により生産コストが増加しています。そのため、ホクレンは2022年11月から飲用向けの生乳を10円/kgの値上げすることを決定しました。

03乳価と生乳の需要と供給の関係性

ここからは、次の項目に分けて乳価と生乳の需要と供給の関係性を解説します。

● 生乳の需要の動向
● 牛乳が大量廃棄されてしまった理由
● 牛乳が余っているのに価格が上昇している理由

生乳の需要の動向

一般社団法人 Jミルクによると、10年間の生乳の需要と供給は次の通りです。なお、需要に関しては次の数値を参考にしています。

● 脱脂粉乳ベース:脱脂粉乳需要量を満たすための生乳必要量
● バターベース :バター需要量を満たすための生乳必要量

(単位:千t)
生乳供給量生乳需要量(脱脂粉乳ベース):
飲用向け+乳製品向け
生乳需要量(バターベース):
飲用向け+乳製品向け
2014年7,2717,494 7,588
2015年7,3527,4277,572
2016年7,2917,4557,526
2017年7,2417,4547,508
2018年7,2347,4477,683
2019年7,3187,2857,715
2020年7,3897,3557,480
2021年7,5977,4127,790
2022年7,5197,4817,943
2023年 (見通し) 7,4246,9967,475

出典:2023年度の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと課題について(一般社団法人 Jミルク)を元にRe+編集部作成

グラフと表を参考にすると、現状バターベースの生乳は需要と供給のバランスが取れているように見えます。しかし、2014年ごろからバター不足を受けた増頭対策によって生乳の生産量が増加傾向にありました。加えて、コロナ禍で需要が停滞したため、需要と供給のバランスが崩れると懸念されています。

農林水産省は、この需要と供給のバランスが崩れてしまう状況を懸念して、牛乳の消費を推進するために「プラスワンプロジェクト」という取り組みを実施しています。

牛乳が大量廃棄されてしまった理由

酪農業界で懸念されているのは牛乳の大量廃棄の問題です。大量廃棄につながってしまった理由は、主に次の原因が考えられます。

● コロナ禍により学校が休校し給食用の牛乳がキャンセルされた
● コロナ禍により商業施設での生乳消費が減少した
● 乳価の値上げやその他の物価が上昇して消費が減少した

「牛乳が余ってしまうのであれば、作らなければよいのでは?」と考える方もおられるかもしれません。しかし、乳牛は、毎日搾乳しなければ乳房炎などの病気になってしまう可能性があります。そのため、需要が減少したからといって絞る量を減らせないのです。つまり、生乳は生産と消費の調整が難しい食品であるのです。

04牛乳は余っているのに価格が上昇している理由

牛乳が余っているのに価格(乳価)が上昇してしまう主な理由は、配合飼料価格の高騰です。配合飼料価格の高騰の原因は次の通りです。

● 南米産地の乾燥天候による生育や収穫の悪化
● ロシアによるウクライナ侵攻による穀物の輸出の停滞

生乳の需要低下に加えて、乳牛を飼養するための飼料価格が上昇しているため、酪農経営を二重に圧迫しています、そのため、酪農農家は乳価の値上げ要請を取らざるを得えない状況になっているのです。

052023年の乳価改定

2023年の乳価改定の予定は次の通りです。
● 加工用乳価が10円値上げする予定
● 飲用乳価が15円値上げする予定

それぞれ解説します。

加工用乳価が10円値上げする予定

ホクレンは、加工用乳価の値上げを大手・中堅の乳業メーカーと合意して、2023年4月から生乳を10円/kg値上げすると発表しています。値上げ幅は過去最大となっています。

乳価の値上げの内訳は次の通りです。
● 脱脂粉乳やバター・チーズ・生クリーム向けなどの各用途一律で10円/kgの値上げ
● 給食用などの集団飲用向けも10円/kgの値上げ

近年、酪農経営が厳しくなっていたこともあり、ホクレンは2022年度内に値上げを目指して乳業メーカーと交渉していました。しかし、加工向けの乳製品の在庫が過剰であることや前述した11月の飲用向けの値上げも危惧され、交渉は難航していました。その後、乳業メーカーは準備期間が必要として、2023年に値上げする方向で合意します。

飲用乳価が15円値上げする予定

関東生乳販売農業協同組合連合会でも、2023年6月から生乳15円/kgの値上げを要請しています。値上げ要請の理由は配合飼料の高騰であるとして、「値上げすると消費がさらに落ち込む可能性があるが、現在の乳価では酪農経営の継続がむずかしい」という意見がでています。

前述した通り飲用向けは2022年11月に10円/kgの値上げをしており、乳業メーカーが値上げに合意すれば合わせて25円/kgの値上げとなります。

今まで、保存性の高い脱脂粉乳・バターで需要の調整は実施してきたが、新型コロナウイルス感染症などにより乳製品の需要減少は継続しています。引き続き、生乳の価値を高めて業界全体の発展が必要です。

06酪農家の経営を支える補助制度

酪農家の経営を支える補助制度として、「加工原料乳生産者補給金制度」が用意されています。生乳は需要と供給に大きく影響を受ける特徴があります。その特徴を考慮して酪農経営の安定化と生乳の再生産を確保するために用意された制度です。

この制度は、補助の対象用途に仕向けた生乳の実績数量に応じて、補助金の支払いが受けられる仕組みです。つまり、生産者の手取りが「乳業者の支払い+補助金」になります。

加工原料乳生産者補給金制度の対象や手続き、問い合わせを確認したい方は、農林水産省のホームページを参考にしましょう。

07まとめ:乳価の動向にある背景を理解しよう

近年、乳価は値上がりを続けてきました。一方、それ以上の急激な飼料・燃料コストの増加や、予期せぬコロナ感染症流行による消費量減など、複数の要因が重なり、乳価の上昇を上回る速度での運用コスト増が経営を圧迫しているのが昨今の実情です。他の食料品や電気代の値上げなどにより、さらに牛乳や乳製品の消費が低下する可能性があります。乳価変動の背景にある動向やマーケットの変化を継続して把握し、いち早く経営に反映していく必要があるでしょう。

【参考】
生産と製造をむすぶ「生乳取引」(一般社団法人 日本乳業協会)
畜産・酪農をめぐる情勢(農林水産省)
北海道の酪農・畜産をめぐる情勢(北海道農政部生産振興局畜産振興課)
加工用乳価10円上げ 飲用は据え置き ホクレン、23年度(日本農業新聞)
飲用乳価、1キロ15円上げ要請 関東酪農団体、餌代高騰で(秋田魁新報社
・一般社団法人Jミルク「2023年度の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと課題について農林水産省
配合飼料情勢(JACCネット)
飼料価格高騰緊急対策事業(農林水産省)
加工原料乳生産者補給金制度の概要(独立行政法人 農畜産業振興機構)
加工原料乳生産者補給金制度について(農林水産省)

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