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放牧酪農とは?メリット・デメリットや導入手順を紹介

放牧酪農とは、乳牛を牧草地に放し飼いにする飼育法です。省力化や低コスト化、耕作放棄地の再生利用などのメリットが注目されており、農林水産省も推奨・推進しています。

こうしたなか、放牧酪農を検討するために「メリットとデメリットを知りたい」「導入手順を理解しておきたい」という方も多いのではないでしょうか。

そこで放牧酪農について、そもそもの定義や注目される背景、メリット・デメリット、具体的な導入手順を紹介します。本記事を読めば、放牧酪農についての基本やポイントを理解できますので、ぜひ最後までご覧ください。

01放牧酪農とは

放牧酪農とは、乳牛を牧草地に放し飼いにして自由に行動させる飼育法です。牛たちは牧草地を自由に歩き回り、自ら牧草を食します。牛に栄養を与えた牧草は排泄されて肥料となり、新たな牧草を育てるため、資源循環型農業としての側面もあります。

また農林水産省は、酪農業の省力化や低コスト化、耕作放棄地の再生利用などを目的として放牧酪農の取り組みを推奨・推進しています。

02放牧酪農が注目される背景

放牧酪農が注目される背景として、ウクライナ情勢や円安の影響で輸入飼料の価格が高騰していることが挙げられます。放牧酪農であれば、牧草を自家栽培することになりますので、飼料高騰の影響を受けにくく、エサ代を抑えやすくなります。

また、酪農の大規模化も放牧酪農が注目される背景のひとつです。酪農業界では現在、国の方針や担い手不足を受けて、効率化を図りつつ1戸あたりの頭数を増やす「大規模化」が進んでいます。そこで省力化・低コスト化に有効な飼育法として、放牧酪農が注目されているのです。

03放牧酪農のメリット

放牧酪農のメリットを5つ紹介します。

エサやりとエサ代の負担を抑制できる

放牧酪農では、エサやりとエサ代が不要になります。牛たちはお腹が空けば自ら牧草を食すため、エサやりを行う必要はありません。エサとなる牧草も敷地内で生育するため、海外から調達する場合と比較しエサ代も抑えられます。

酪農業のなかでも大きな負担である「エサやりの労力」と「エサ代による経営圧迫」をどちらも解消できる点は、魅力的なメリットといえるでしょう。

牛の足腰を鍛えられる

牛の足腰を鍛えられる点も、放牧酪農のメリットです。放牧酪農においては、牛たちは牧草地を自由に動き回ることができ、足腰は自然と鍛えられます。これにより、繁殖牛が分娩事故を起こすリスクを低減することができます。また、行動を制限されないため、ストレスが蓄積しにくい点もメリットといえます。

耕作放棄地を有効活用できる

放牧酪農には、耕作放棄地を有効活用できるというメリットもあります。近年、農家の高齢化および担い手不足に起因する耕作放棄地の増加が問題となっています。耕作放棄地は、景観を損なうだけでなく、雑草や病害虫、鳥獣害の発生源となるのが大きな問題点です。

そこで耕作放棄地を活用した放牧酪農を行うことにより、上記のような問題の解消に貢献できるのです。

牛舎に比べて衛生的

放牧酪農は、牛舎に比べて衛生的な点もメリットといえます。牛舎の場合は、牛たちは屋内で同じ場所に留まって過ごします。そのため、日光は当たりにくく、空気の循環も屋外に比べると悪くなりがちです。ふん尿についても、排泄してから処理されるまでは近くに留まらざるを得ません。

対して放牧酪農であれば、日中はいつでも日光に当たることができ、常に新鮮な外気に触れることができます。また排泄後は、直ぐに別の場所へ移動することも可能です。そのため、衛生的かつストレスを蓄積しにくい状態を維持できるのです。

持続可能な畜産物生産ができる

食料の安定供給・畜産業の発展・地球環境への配慮を目的とした「持続可能な畜産物生産」が農林水産省の主導のもと推進されています。

前述の通り、放牧酪農において牛たちに栄養を吸収された牧草は排泄され、肥料として新たな牧草を育てます。こうした資源のサイクルは、まさに持続可能な畜産物生産を体現しており、生産性・収益性を高めると同時に、食料の安定供給や環境に対しても貢献できるのです。

04放牧酪農のデメリット

放牧酪農のデメリットを5つ紹介します。

牧草地の整備に手間と費用がかかる

牧草地の整備に手間と費用がかかる点は、放牧酪農のデメリットです。放牧酪農を行うにあたり、まずは草刈り機などを用いて余分な草木を伐採しなければなりません。木の根が深い場合などには重機を用いるケースもあるでしょう。

また、牛の脱走を防ぐための電気牧柵、水飲み場、日よけ用の屋根など設備を整える必要があり、それぞれの設置には相応の手間と費用が発生します。

脱走や捻挫などのリスクがある

野外で放し飼いとなる放牧酪農においては、脱走や捻挫などのリスクは避けられません。柵を越えて脱走してしまうと、近隣の農地に入り込み作物を踏み荒らしてしまうといったトラブルも起こり得ます。また自由に動き回れる一方で、牧草地内のくぼみにつまずいて捻挫などのケガを負ってしまう可能性もあります。

害虫対策を行わなければならない

定期的な害虫対策を行わなければならない点も、放牧酪農のデメリットです。とくに家畜伝染病の原因となるダニやアブは対策が欠かせません。ダニは一年中発生するため、プアオン剤を定期的に牛へ塗布します。アブが発生する時期はアブトラップを設置する必要があります。

広い範囲を管理しなければならない

牧草地は広いため、全域を管理するには相応の労力を要します。「ワラビのような中毒性の植物が生えていないか」「牛たちの残したフンの状態は正常か」など、広い放牧地内を歩きながら確認しなければならない点はデメリットといえるでしょう。

季節によって乳成分・乳量が変動する

季節の移り変わりによって牧草に含まれる水分や栄養成分は変化します。その影響を受けて、乳脂肪分などの乳成分も変化してしまうのです。このように季節変動によって乳の品質を一定に保ちにくい点は、放牧酪農のデメリットです

05放牧酪農の導入手順

放牧酪農の導入手順を6ステップで紹介します。

放牧予定地を整地する

牛を迎え入れる前に、まずは放牧予定地の整地を行います。自動草刈り機や道具を用いて雑草や雑木を伐採していきます。電気牧柵の漏電を予防するために、周囲の草木も丁寧に刈り取りましょう。なお牧草地の必要面積は、牧草量にもよりますが牛2頭当たり60〜70aが目安です。

電気牧柵を設置する

整地が完了したら、電気牧柵を設置します。電気牧柵用の支柱を5〜10m間隔で打ち込んだら、支柱同士をつなぐように高張力線(鋼線)もしくはポリワイヤーを張ります。その後、電牧器に接続してバッテリーチェッカーで電圧が十分なことを確認すれば設置完了です。電気牧柵があることを知らせる危険表示板も必ず設置しましょう。

その他の設備を整える

その他の設備として、水飲み場と日よけ用の屋根の設置も不可欠です。水飲み場は、水分によって設置場所の土が柔らかくなる泥濘化が起きやすいため、移動が容易な水槽がおすすめです。

牛は暑さに弱いため、日よけができる場所を設けます。パイプハウスの骨組みに寒冷紗を張るなどして、日よけ屋根を設置しましょう。ただし、ブルーシートは日差しを通すため適しません。また、アブが発生する箇所には市販のアブトラップを設置します。

牛に電気牧柵を覚えさせる

脱柵するリスクがないパドックなどで、牛たちに電気牧柵を覚えさせましょう。牛は好奇心が強いため、近くに誘導すれば自ずと電気牧柵に触れます。電気の痛みを覚えたら、以降は電気牧柵に近づかなくなります。

放牧酪農を開始する

1〜4のステップを経れば、いよいよ放牧スタートです。牛は群れを好むため、少なくとも2頭以上で放牧しましょう。その際、放牧を経験した牛が混じっていると、牧草の食べ方などを覚えさせるのが容易になります。

日々の管理を継続する

放牧酪農を開始した後は、日々の管理を絶やさないことが大切です。具体的には、牧草や水の状態、頭数などはもちろんのこと、痩せていないか・ケガはないか・フンの状態に異常はないかなどの健康状態もチェックします。

また、家畜伝染病の原因となるダニ対策として、バイチコールなどのプアオン剤を月1〜2回塗布するようにしましょう。

06まとめ:放牧酪農のメリットを最大化

放牧酪農とは、乳牛を牧草地に放し飼いにして自由に行動させる飼育法です。昨今、放牧酪農が注目される背景には、ウクライナ情勢や円安による飼料価格の高騰、酪農の大規模化があります。

放牧酪農のメリットとして「エサやりとエサ代の負担を抑制できる」「牛の足腰を鍛えられる」など5つを紹介しました。対してデメリットとして挙げた「牧草地の整備に手間や費用がかかる」「脱走や捻挫などのリスクがある」などの5つも踏まえて、放牧酪農の検討にお役立てください。

放牧酪農の導入手順は全部で6ステップです。まずは牧草地の整備から始めて、電気牧柵や日よけ用の屋根など必要な設備を整えます。その上で牛に電気牧柵を覚えさせれば、放牧酪農を開始できます。日々の牛と牧草地のチェックも欠かさないようにしましょう。

また、放牧酪農のメリットを最大化するためには「ソーラーシェアリング」が有効です。ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、従来通りの農畜産業を営みながら太陽光発電も行う取り組みです。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

放牧酪農に欠かせない「日よけ用の屋根」をソーラーパネルにすることで、必要な電力を自ら賄いながら売電で新しい収入源を得られます。放牧酪農における低コスト化のメリットを最大化しつつ、追加収入による収益アップまで期待できるのです。

こちらの記事では、ソーラーシェアリングのパネル下で豚の放牧を実践されている株式会社グリーンウィンドのインタビューを紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。

関連記事家畜も育てる!ソーラーパネル下で広がるグリーンウィンドの循環型農業

【参考】
放牧の部屋(農林水産省)
畜産・酪農をめぐる情勢(農林水産省)
耕作放棄地での放牧のすすめ(家畜改良センター)
持続可能な畜産物生産について(農林水産省)
【外部寄稿】放牧をめぐる情勢について(農畜産業振興機構)
ミニ放牧マニュアル(東北農業研究センター)

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