2023.1.18
儲かる農業ってどんな農業?収入を増やすためにすべきこと
近年、農業分野に興味を持つ方が少しずつ増えてきています。そこで気になることの一つに、やはり「お金」の部分があるのではないでしょうか。今回は、「儲かる農業」に関するトピックをご紹介します。農業分野で収入を増やすために何をすべきか考えるきっかけになれば幸いです。
01農業は儲かる?
みなさんは、農業の収入事情にどのようなイメージを持たれているでしょうか。中には、イメージすらつかないという方もいるかもしれません。ここでは、農業分野における所得についてお話していきます。
平均所得は個人約115万円、法人約425万円
農林水産省の「農業経営統計調査」によると、2021年の個人農家と法人経営体を合わせた全ての農業経営体における平均所得は125万4,000円とされています。個人と法人で分けると、個人で農業を営む人の平均所得は115万2,000円、法人での平均所得は424万5,000円です。
農業の現場ではトラクターをはじめとした農業機械や温室の設備などが必要になるため、それらを用意するのに多大なコストがかかることは珍しくありません。全農業経営体の平均所得125万4,000円は、粗収益1,076万9,000円から農業経営費951万5,000円を差し引いたものです。
規模や形態によって所得は大きく変わる
先ほど平均所得をご紹介しましたが、お分かりいただきたいのは農業分野の所得には大きなばらつきがあるということです。1,000万円以上の利益を生み出している農業経営体もあれば、反対に赤字になってしまっている農業経営体もあります。また、個人経営体でも、主業経営体(世帯所得の50%以上が農業所得)の平均所得は434万円であり、農業への比重の度合いにより大きく所得が異なることが見て取れます。
他の業界においてもいえることですが、規模や形態、地域によって状況は大きく異なり、経営体ごとでも多様です。例えば、兼業農家として別の事業での収入があり、農業を本業としていない経営体もあります。平均所得はあくまでも兼業農家なども含めたものですので、農業だけで生計を立てていくのであれば平均よりも高水準の所得を目指せる余地は十分にあるといえます。実際、「令和2年 農業経営体の経営収支」によると、全農業経営体の所得平均は123万6,000円ですが、対象を専業農家に絞ると平均は415万6,000円になります。
労働時間に対する所得比率も考慮を
世間でコストパフォーマンスの重要性が叫ばれるようになって久しいですが、農業においても同じことがいえるのは間違いありません。何をどのように育て、出荷するかによって、かかる時間や労力は大きく異なります。もちろん所得額そのものも大切ですが、その所得を生み出すために割いた時間的・人的コストも無視してはいけません。労働時間を伸ばすことで無理やり成り立っている経営では、長続きさせることは難しいといえます。労働時間に対しての所得比率も加味した上で、「稼げる」農業の実現を目指しましょう。
02儲かる農業の特徴とは
さて、ここからが本題です。農業分野で高所得を実現している、つまり「儲かる農業」をしている経営体には特徴があります。ここでは主な特徴を4つピックアップしてご紹介します。これから農業を始める、または経営体の収益をより増やしたいと考えているのであれば、ぜひ参考にしてみてください。
高単価の農作物を選んでいる
農作物によって販売価格や生産に必要なリソースは異なります。そのため、必然的に高単価を実現しやすい作物と、そうでない作物が生まれることになります。農業所得の高い経営体の中には、高単価の作物を選んで作っているところが多く含まれています。
農林水産省の「品目別経営統計」では、生産している作物別に農業経営体の所得が公表されており、作物の種類ごとに比較することが可能です。例えば露地野菜の場合、10a当たりの農業所得は、ししとうが142万8,000円と最も高く、次いでなすが122万6,000円、きゅうりが118万5,000円となっています。このような果菜類は、玉ねぎ(11万1,000円)、白菜(12万4,000円)、大根(14万円)といった根菜類や葉茎菜類に比べると収穫量が多く、販売価格が比較的高い水準にあるため、農業所得が高くなります。
またビニールハウスなどで育てる施設野菜をみると、ミニトマト(202万8,000円)、いちご(189万8,000円)、なす(169万4,000円)の順になっています。施設野菜は果菜類が中心で、10a当たりの農業所得は露地野菜に比べるとおおむね高い水準にありますが、同時にハウスの管理費といった農業経営費も多くかかるのが特徴です。
経費がかからない育て方をしている
生産にかかる経費を削減することができれば、売上に対する利益を増やすことができるため、儲かる農業に一歩近づくことが可能です。農業分野における経費削減の例としては、使用頻度の低い農業機械を購入ではなくリースで代替したり、ロボット技術やドローンを活用して人件費を削減したりといった取り組みが挙げられます。
経費を削減するあまり生産効率が落ちてしまうと本末転倒ですが、IT技術の導入は効率向上と経費削減の両方を見込めるため、近年注目を集めるようになりました。イニシャルコストこそかかってしまいますが、長い目で見て経費を抑えて利益を生み出せるような農業経営を行うために、農業へのIT技術導入は必須ともいえるでしょう。
栽培形態が最適化されている
日本列島は東西南北に長く広がっているため、同じ作物を作る場合でも地域によって育て方が異なることは多々あります。こうした観点では、育てる作物や地域に合った栽培方法をとることが非常に重要です。高い収益を維持できている農業経営体の場合は、栽培地域や作物に合わせた栽培方法が最適化されているといえます。反対に、なかなか収益が上がらず、経費ばかりがかさんでしまっている場合には、ビニールハウスの使用有無や土づくりの仕方などを再考する必要があるといえるでしょう。
6次産業化で付加価値をつけている
近年では、農作物の生産に特化した1次産業から、加工や販売、サービスまでを一貫して行う「6次産業」へシフトする農業経営体も増えてきています。従来は卸売市場の相場変動に大きく影響を受けることが多くありましたが、販売までの決定権を生産者が持つことによって高い売上を見込むことができます。また、生産だけでは得ることができなかった収益が入ってくることも、6次産業化の特長です。儲かっている農業経営体は、こうした新しい取り組みにも積極的であるという傾向にあります。
03農業で収入を増やすためにすべきこと
さて、上記でご紹介してきた、「儲かる農業」の特徴を踏まえ、これから農業を始めるにあたって、収入を増やすためにしておきたいことについてご説明します。
作物の質を上げて高単価を狙う
農業分野に限らず、昨今は商品を売るための戦略として「付加価値の創造 」が重んじられるようになりました。付加価値とは、競合にはない特別な価値のことで、農業に当てはめて考えると作物の味や形がそうした価値にあたるでしょう。昨今では、作物をブランド化して新たな価値を生み出す取り組みも増えてきています。高単価で取引される福岡産のいちご「あまおう」はその最たる例です。作物を育てて市場に供給するというビジネスモデル自体は既に確立されており、付加価値を生み出す隙はあまりありません。それゆえ、作物の質やブランディングで差別化を図るのが、高単価化への最短ルートだといえます。
そして、質を高めるという観点では、スマート農業の導入も視野に入ってきます。IT技術を使って正確な生育管理や出荷作業を行うことにより、高品質な作物を継続的に出荷できるようになることが見込まれます。
生産量を増やす
売上に対して一定の利益が発生しているのであれば、生産量を増やして所得の増加を目指すのも手だといえます。生産量を増やすには、耕地面積を広げるのはもちろんのこと、面積あたりの収穫量を増やすことも大切です。一年に二度収穫を行う「二期作」を行ったり、土壌や植え方を最適化したりと、できることは多くあります。
ちなみに、先に触れたスマート農業は、生産の効率化にも役立ちます。計測したデータを元に生産方法を改善したり、ロボットを使って最適な栽培方法を選択したりすることが可能です。現状起きている問題や改善の余地を加味した上で、最善の方法を探していきましょう。
農地を有効活用して副収入を得る
農地を有効活用することで、メインの作物栽培で得られる収益とは別の収益を確保することもできます。農地の有効活用の代表例は、ひとつの農地で異なる時期に二つの作物を育てる「二毛作」でしょう。古くからある方法なのでノウハウも確立されており、日本のほとんどの場所で行えることから、二毛作を導入している農家の方も多いといえます。
また最近では、農地では従来通り作物を育てつつ、農地の上部にソーラーパネルを設置することで発電を行い、売電を行って副収入を得る「ソーラーシェアリング」も話題になっています。作物の生育や作業に悪影響が出るのではないか、という心配をする方もいるかもしれませんが、ソーラーパネルの配置を調整することで影響を最小化するためのノウハウは蓄積されつつありますし、場合によっては作物に当たる光の量を最適化することで生育に好影響を与える可能性も指摘されています。また農作物の相場は変動しやすいため、売電による追加収入を得られれば、農業経営にとってプラスとなることは間違いありません。ソーラーシェアリングの詳細については、以下の記事もご覧ください。
04新しい試みで「儲かる」農業を
農業経営を行う上で、「儲かる」「儲からない」の分岐となるのは、加工やサービス業まで含めた幅広い視点でビジネスモデルを検討・確立できるかどうかではないでしょうか。近年、農業分野においては、スマート農業の導入をはじめとしてたくさんの新たな試みがなされています。そのためには、他業界の取り組みや最新テクノロジーの動向に関する情報をインプットすることも不可欠です。新たな取り組みはリスクを考えがちですが、例えば農地の一部で試験的に始めるなどリスクを小さくしながら試す方法はあります。固定観念にとらわれず、時代に合わせて変化し続けられる農業経営体こそが、これからの農業を作っていくといえるでしょう。
【参考】
・農業経営統計調査(農林水産省)
・令和2年 農業経営体の経営収支(農林水産省)
・高収益な農業の実現に向けた取組事例集(第2弾)(農林水産省)
・品目別経営統計(農林水産省)