2023.4.27
スマート畜産とは?メリット・デメリットと事例を紹介
スマート畜産とは、 IT技術やロボット技術を活用して、省力化や生産性向上を図る新たな畜産業のことです。
昨今、畜産業は次のような状況にあります。
・飼養戸数は減少する一方、1戸当たりの飼養規模は拡大
・労働時間は2,000時間/人・年を超える畜種もあり、周年拘束性が高い
・担い手の高齢化や経営者不足等を背景に、経営離脱が続いている
こうした状況に対処・対応するための手段として、スマート畜産が注目されているのです。
そこで本記事ではスマート畜産について、メリット・デメリットと導入事例を分かりやすく紹介します。上記のような状況に悩んでいる方や、導入検討のために基本情報を理解しておきたい方には最適な内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
CONTENTS
01スマート畜産とは
スマート畜産とは、 IT技術やロボット技術を活用して、省力化や生産性向上を図る新たな畜産業のことです。例えば、IT技術を活用して家畜や飼育環境の状態を把握したり、自動運転ロボットにより作業を効率化したりします。
またスマート畜産に用いる技術は、次の5つに分類されます。
●センシング・モニタリング
生体データ(繁殖機能や栄養・健康状態等)や飼養環境に関するデータを提供する技術
●生体データ活用
生体に関するデータをAI等で活用する技術
●飼養環境データ活用
飼養環境に関するデータをAI等で活用する技術
●自動運転・作業軽減
自動運転ロボット等の導入により作業の軽労化を図る技術
●経営データ管理
経営の現状分析、計画作成、進行管理等を行う技術
02スマート畜産のメリット
スマート畜産を導入するメリットを5つ紹介します。
作業負担を軽減できる
スマート畜産の導入により、さまざまな作業にかかる負担を軽減可能です。具体的には、搾乳、エサやり、子牛への哺乳、畜舎内の清掃、糞尿の運搬、畜舎の温度管理などをロボットにより自動化します。
例えば、搾乳ロボットであれば、牛の誘導から装置の装着、搾乳作業までを自動化できます。導入前は半日以上かかっていた搾乳作業がほぼ自動化され、疾病をもつ牛のみ別絞りをする1~2時間のみに短縮されます。また、早朝や夜間の作業が不要になることもメリットといえるでしょう。
最適な経営判断を行える
スマート畜産は最適な経営判断を支えます。例えば、センシングおよびモニタリング技術により、家畜の生体データを自動収集・一元管理すれば、各個体の現状や履歴などをいつでも確認できます。これにより、計画や指示などを的確かつスムーズに行えるのです。
また、システムによっては種付け後の妊娠鑑定、乾乳予定日、分娩予定日などを予測して、作業計画を自動で策定します。
人材の確保・育成を行える
人材の確保・育成を行いやすくなる点も、スマート畜産のメリットです。先述した通り畜種によっては一人当たりの年間労働時間が2,000時間を超えるケースがあり、担い手の確保および定着を困難にしています。こうした課題の解消策として、スマート畜産による作業の省力化や効率化が期待されているのです。
また、スマート畜産は人材育成にも有効です。畜産業には熟練した技術や知識・経験が求められますが、スマート畜産により作業判断のサポートやアドバイスを受けることが可能となります。例えば、病気の疑いがある牛の判別や治療後の経過観察などを熟練者に依存することなく、客観的な評価でモニタリングできるようになるのです。
生産性を向上・安定化できる
スマート畜産により、生産性の向上・安定化を期待できます。例えば、生産管理および生産記録システムを用いれば、最適な生産計画を立てた上で、生産状況の把握など着実な進捗管理が可能です。
また、畜舎環境制御システムを用いれば、温度や湿度、照明などを自動制御で常に最適な状態に維持できます。その他にも、疾病検知システムや発情検知システムなどもあり、負担なく生産性の向上・安定化を図れます。
消費者の信頼性が高まる
スマート畜産は、消費者の信頼性アップにも寄与します。センシングおよびモニタリングを行うシステムを導入することで、家畜の生体データは一元管理のもと蓄積されていきます。各個体の生育過程や疾病履歴などを記録・管理できる環境が整うことで、消費者にとって安心・安全となり、信頼性の向上につながるでしょう。
03スマート畜産のデメリット
スマート畜産を導入するデメリットを5つ紹介します。メリットとあわせてスマート畜産の導入検討にお役に立てください。
初期費用と維持費がかかる
スマート畜産の導入には、一定の初期費用と維持費がかかる点はデメリットといえます。経営・生産管理システムのなかには安価で月額利用できるものがありますが、自動制御ロボットであれば数千万円かかります。
例えば、搾乳ロボットであれば50~60頭用で約2,300~3,000万円であり、光熱費や保守費用などの維持費も別途必要です。導入に際しては、中長期でみた費用対効果を基に判断することが欠かせません。
導入までに多くの工程と期間を要する
導入までに多くの工程と期間を要することもスマート畜産のデメリットといえるでしょう。具体的な工程は、以下の通りです。
●解消すべき課題の決定
●予算・財源の検討
●運用体制の検討
●資金の調達
●委託先企業の選定・契約
●設備やシステムの仕様打合せ
●設置および動作確認での本稼働
さらに本稼働後には、効果の確認や改善点の洗い出し、運用体制の見直しなどを行う必要があります。
運用に一定のITリテラシーが求められる
スマート畜産の運用には、一定のITリテラシーが求められる点もデメリットです。スマート畜産はIT技術がベースとなっているため、より円滑な運用のためにはITに対する知識が欠かせません。
具体的には、機器やアプリケーションの操作、通信ネットワークに対する知識、セキュリティ面の理解などを要します。各種システムから収集したデータを読み取るスキルや、分析して判断に活かすスキルなども必要です。
もちろん各メーカーとも、より簡単に操作・運用できる機器やシステムの開発を進めているため、今後に期待したいところです。
通信環境が整っていなければ導入できない
そもそも通信環境が整っていなければ導入できないシステムや機器があることも、スマート畜産のデメリットといえるでしょう。牧場の多くは生活圏から離れた場所で営まれるケースも多く、通信環境が十分に整っていないエリアが存在します。スマート畜産に用いられる技術のなかには、GPSによる位置制御が安定しなければ上手く動作しないシステムもあります。
そのためスマート畜産の導入検討時には、必要な通信環境が整っているかの確認を優先しなければなりません。
通信・機器トラブル発生時の対応が難しい
通信トラブルや導入した機器やシステム上で発生するトラブルへの対応が難しい点も、スマート畜産のデメリットといえます。
スマート畜産に置きかえた作業は一気に効率化され、情報も一元管理されます。その一方で、通信や機器にトラブルが生じた場合、関連する作業がまとめてストップしてしまうリスクもあるのです。
また、機器の操作はできても、メンテナンスまで行うのは容易ではありません。そのため、担当企業へメンテナンスを依頼しますが、立地によっては駆けつけて対応してもらうまでに相当の時間を要するケースもあるでしょう。
スマート畜産導入に際しては、通信・機器トラブル発生時の対処方法についてもあらかじめ明確に定めておくことをお勧めします。
04スマート畜産の事例
スマート畜産の事例を3つ紹介します。各事例について「得られた成果」を箇条書きでまとめていますので、参考にしてください。
スマホ1台で豚舎の環境を一括モニタリング
養豚場にて、スマートフォンで豚舎の環境をモニタリングできるアプリケーションを導入。エサや水の使用量から、温度・湿度・二酸化炭素の値、集糞や浄化槽の状況まで、あらゆる情報を1台のスマートフォンでモニタリングできるようになりました。
【得られた成果】
・環境の状態把握に要する時間を大幅に短縮
・個体の体調変化を確認する時間を確保
・速やかな把握・対応により豚のストレスが低減
搾乳ロボット導入による省力化と生産性向上
家族経営を行っていたある酪農場は、搾乳ロボットを備えた牛舎を新築。作業に当たっていた家族の高齢化による労働力不足の解消や、少ない労力で可能な限り多くの飼養を実現するためにスマート畜産に乗り出しました。
【得られた成果】
・新たに得られた時間を他作業へ活用
・搾乳ロボットのシステムにより個体管理力が向上
・収穫できる乳量が増加
クラウド型牛群管理システムによる肉牛の繁殖管理
肉用牛の育成・販売を手がける法人は、クラウド型牛群管理システムを導入。労働力不足による分娩事故の発生率上昇が導入のきっかけです。導入によって、繁殖管理をはじめ、栄養管理、病畜管理など個体の状態を詳細かつ効率的に把握することが可能となりました。
【得られた効果】
・疾病にかかった個体を早期に発見できるようになった
・発情発見率が導入前の2~3倍に向上
・精度の高い人工授精を実現でき繁殖数アップに成功
05まとめ:よりスマートな畜産を実現するために
スマート畜産とは、 IT技術やロボット技術を活用して、省力化や生産性向上を図る新たな畜産業のことです。
スマート畜産のメリットとして「作業負担の軽減」「最適な経営判断の実施」「人材の確保・育成」など5つを紹介しました。一方で「初期費用と維持費がかかる点」「導入までに期間を要する点」などをデメリットも5つ紹介しています。本記事内で紹介した3つの事例とあわせて、スマート畜産の導入検討にお役立てください。
また昨今、農畜産業において経営安定化の観点から「ソーラーシェアリング」が注目されています。
ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、農畜産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。
作業に必要な電力を自ら賄うことで、コストを削減しつつ災害・停電時にも備えられるため、スマート畜産に不可欠な電力を安定して供給可能です。さらに売電で得られた副収入をスマート畜産の導入に投資するといった選択肢を取ることもできます。
よりスマートな畜産を実現したい方にとっては、ソーラーシェアリングも検討の価値があります。ぜひ、こちらの記事をご覧ください。
【参考】
・スマート畜産をめぐる情勢(農林水産省)
・スマート農業技術カタログ(畜産)(農林水産省)
・畜産経営者のためのスマート畜産マニュアル(一般社団法人全日本畜産経営者協会)
・畜産・酪農をめぐる情勢(農林水産省)
・IoT導入でトラブル対応の迅速化へ! スマホですべてを「見える化」した注目の養豚場(AGRI JOURNAL)
・スマート畜産導入事例調査報告書(一般社団法人全日本畜産経営者協会)
・酪農における省力化機械導入事例集(北海道農政部生産振興局畜産振興課)