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【畜産家向け】牛のメタンガスが環境に与える影響|対策と貢献が必要

社会全体の環境に対する意識が高まるなか、「牛のメタンガスが環境に影響を与えている」「家畜牛のゲップが地球温暖化の原因となっている」などが話題となり、多くの人の関心を集めています。こうした状況を受けて、次のような疑問を抱く畜産家の方も多いのではないでしょうか。

「牛のメタンガスが環境に対してどれ程の影響を及ぼしているのか」
「畜産家として、対策を取るべきなのか」
「対策を取るとして、どのような方法があるのか」

そこで本記事では牛から発生するメタンガスについて、環境に与える影響の大きさ、対策の必要性、具体的な対策を紹介します。さらに、牛のメタンガス以外で環境に貢献できることもあわせて解説しますので、ぜひ最後までお読みください。

01牛のメタンガスが環境に与える影響の大きさ

牛のメタンガスが環境に与える影響の大きさについて解説します。

メタンガスは地球温暖化の主要因のひとつ

メタンガス(CH4)とは、炭素原子と水素原子が結合した炭化水素化合物の一種です。メタンガスは、地球温暖化に対して、二酸化炭素(CO2)に次いで影響力が大きい温室効果ガスといわれています。主な自然発生源は湿地や白アリなど、人為発生源は、水田、牛などの家畜、埋め立て、化石燃料採掘・燃焼など多岐にわたります。

メタンガスの地球温暖化に対する影響は二酸化炭素の25倍

温室効果ガスにはさまざまな種類がありますが、人間の活動によって増加するものとしては、二酸化炭素やメタンガス、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスが主たるところです。

日本国内の温室効果ガスを排出量でみると、二酸化炭素が90.9%を占めており、メタンガスは2.3%ほどです(2021年度)。ただし、メタンガスの地球温暖化に対する影響は二酸化炭素の25倍といわれており、決して無視できるものではありません。

国内農林水産業におけるメタンガス排出量の約28%を占めている

家畜の消化管内発酵(ゲップ)は、国内農林水産業におけるメタンガス排出量の約28%を占めています。なお、家畜の消化管内発酵由来メタンの95%は、反すう胃を有しており胃の微生物が発酵を行う「牛」から排出されます。

つまり、国内農林水産業におけるメタン発生の4分の1以上を「牛のゲップ」が占めており、地球温暖化問題において頻繫に取り沙汰されているのはそのためです。

02牛から発生するメタンガスへの対策が必要な理由

牛から発生するメタンガスへの対策が必要となる理由を解説します。

地球温暖化が畜産業へ及ぼすリスクを低減するため

地球温暖化が畜産業へ及ぼすリスクを低減するために、牛から発生するメタンガスへの対策が必要です。

具体的には、温暖化によって夏の気温が高まると、暑さによるストレスから家畜が食欲不振になり、以下のようなリスクを引き起こしかねません。

● 乳用牛における生産乳量の低下
● 肉用牛における肉量・肉質の低下
● 免疫力の低下による疾病の増加
● 受胎率の低下

特に牛は、採食した飼料をルーメン(第一胃)内での発酵時に発熱するため、寒さにはある程度強いものの暑さに弱い家畜です。

また、地球温暖化が進むことによる飼料作物栽培への悪影響も指摘されています。温暖化によって、その地域に適した牧草の種類が変化し、病虫害リスクや高温による夏枯れのリスクも高まります。

以上から畜産業への様々なリスクを低減するためにも、牛由来のメタンガスへの対策は欠かせないといえるでしょう。

ブランドイメージを維持・向上させるため

ブランドイメージを維持・向上させるためにも、牛から発生するメタンガスへの対策を行うべきといえます。

昨今、各国におけるSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを通じて、地球温暖化や資源の過剰消費などが多く取り沙汰されており、社会全体における環境問題への関心が高まっています。今や環境問題への取り組み姿勢や地球環境への貢献度は、商品および企業のブランドイメージを左右し、売上にまで影響を及ぼすほどです。

さらに、「牛のゲップによる地球温暖化への影響」は話題性からも注目されており、先の背景とあわせると畜産家にとっても無視できない状況となっています。

03牛から発生するメタンガスへの対策

牛から発生するメタンガスへの対策を、4つ紹介します。

メタンガス発生を抑える飼料を利用する

牛から発生するメタンガスを抑える飼料があります。飼料として製品化されているものとしては「カシューナッツ殻液混合飼料」が挙げられます。出光興産株式会社の子会社にあたる株式会社エス・ディー・エス バイオテックが研究開発・販売している飼料であり、牛のルーメン(第一胃)から排出されるメタンを約 2 割低減することが確認されています。

また、低たんぱく質飼料についても、従来の飼料に比べ、生産性に影響することなく温室効果ガスを約 40%削減できることが証明されています。

この他にも、メタンガス発生を抑える飼料の開発が進んでおり、ユーグレナ、タンニン、脂肪酸カルシウムなどの抑制効果が証明されており、飼料製品化などによる普及が期待されています。

家畜排せつ物の処理方法を工夫する

家畜排せつ物の処理方法を「貯留」から「強制発酵」に変更することで、メタンガスの発生量を削減した事例があります。

従来は、排せつ物をまとめて貯留した後に畑へ散布していました。そこに固液分離機を導入して排せつ物を固体分と液体分に分離し、固体分は敷料に用いて強制発酵、液体分は従来通り貯留で管理しつつ畑へ散布します。これにより、排せつ物を長時間そのまま貯留するよりもメタンガス発生量が抑制されます。

堆肥化に麦稈を多く用いて水分を調整する

ふん尿の堆肥化の際、麦稈(麦藁)を多く用いて水分を調整することで、メタンガスの発生量を抑制できることが明らかとなっています。具体的には、以下の通りです。

麦稈による乳牛ふん尿の水分調整が温室効果ガス排出量に及ぼす影響を検証するために、北海道農家慣行の実規模無通気堆積法に基づく堆肥化試験を実施。試験区を高水分区・中水分区・低水分区の3つに分け、111 日間の堆肥化過程における温室効果ガス発生量を測定しました。

その結果、メタンおよび一酸化二窒素の発生量は低水分区が最も低く、麦稈を多量に混合することが温室効果ガスの発生を大幅に抑制することが示されました。

以上から、乳牛ふん尿に麦稈を積極的に混合することで適正水分に調整して、発酵を促進する堆肥化技術は、酪農現場からのメタンガスの発生量の削減に有効といえます。

04牛のメタンガス削減以外で環境に貢献できること

牛のメタンガス削減以外で環境に貢献できることを、4つ紹介します。

有機飼料を利用する

有機JASで定めている有機飼料とは、JAS規格に従って生産された有機でない原材料の比率が5%以下の飼料のことです。有機飼料は、生産過程において化学肥料や農薬の使用が制限されています。そのため、農地や水域への化学物質の流出が抑えられ、環境汚染のリスクが低減します。

食品や作物の残さを飼料として活用する

食品残さや作物残さを家畜の飼料として再利用することで、環境保全へ貢献できます。食品残さとは、食品製造過程や販売過程で生じた加工くずや売れ残り弁当、廃食油などです。一方の作物残さとは、農作物の収穫後に残った茎、葉、枝などです。

いずれも本来ならば、焼却など廃棄による処理エネルギーが必要だったものを再利用することで、環境負荷の軽減につながります。なお、食品残さを飼料として利用することは「エコフィード」と呼ばれています。

家畜の排せつ物を堆肥として活用する

家畜の排せつ物(ふん尿)を堆肥化することで、化学肥料と比べて土壌環境や生態系への負荷が少ない有機肥料となり、循環型農業の一端を担います。循環型農業とは、化学肥料や農薬の使用を抑えつつ、使用する資源を循環させて自然環境への負荷を軽減する農業のことです。

また、家畜の排せつ物を堆肥化するにあたっては、完熟堆肥を目指すことで作物栽培へより貢献できます。詳しくは、こちらの記事をお読みください。

関連記事完熟堆肥とは?利点や注意点、入手方法を紹介

炭素繊維リアクターを導入する

炭素繊維リアクターの導入により、養豚汚水浄化処理施設における温室効果ガス(一酸化二窒素)の排出を約80%削減できることが農家施設にて実証されています。同リアクターは既存施設に導入可能であり、従来の活性汚泥処理法と同等の有機物処理能力を維持しつつ、窒素除去効果の向上も期待できます。ただし、相応の導入コストがかかるため、改良とあわせて低価格化が進められています。

05まとめ|環境にも経営にもプラスな取り組みを

牛のメタンガスが環境に与えている影響は大きく、メタンガスは地球温暖化の主要因のひとつであり、地球温暖化に対して二酸化炭素の25倍も作用します。さらに、国内農林水産業におけるメタンガス排出量の4分の1以上が牛の消化管内発酵(ゲップ)によるものです。

地球温暖化が畜産業へ及ぼすリスクも深刻であり、温暖化が進むと暑さによる牛のストレス増加などによって生産性の低下を招きます。社会の環境への関心が高まるなか、ブランドイメージを維持・向上させるためにも、牛から発生するメタンガスへの対策が欠かせません。

具体的な対策として、「メタンガス発生を抑える飼料を利用する」「家畜排せつ物の処理方法を工夫する」「堆肥化に麦稈を多く用いて水分を調整する」の3つを紹介しました。

加えて、牛のメタンガス削減以外で環境に貢献できることも紹介しました。具体的には「有機飼料の利用」「食品・作物の残さを飼料として活用」「家畜の排せつ物を堆肥化」「炭素繊維リアクターの導入」の4つです。

また環境にも経営にも良い作用をもたらす取り組みとしては、本文でも紹介した循環型農業と相性が良い「ソーラーシェアリング」が挙げられます。ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光パネルを設置して、従来通りの産業を営みつつ太陽光発電を並行して行う取り組みです。再生可能エネルギーの自家消費や余剰売電によって経営の安定化を図ることができます。

以下はソーラーシェアリングを実際に導入した方へのインタビューを基にした記事ですので、ぜひあわせてお読みください。

関連記事家畜も育てる!ソーラーパネル下で広がるグリーンウィンドの循環型農業

【参考】

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