人・企業・自治体を
応援するメディア「リプラス」

発電事業者である前に農業者。さがみこファームが開拓した地域共生型ソーラーシェアリングとは?

香川県でソーラーシェアリングを実践する14代目農家の森岡さんが全国のソーラーシェアリング実践者(空シェア人)を訪ねる「森岡さんの空シェアめぐり旅」。今回は神奈川県相模原市でソーラーシェアリングの下でブルーベリー観光農園「さがみこベリーガーデン」を運営する株式会社さがみこファームの代表取締役社長 山川勇一郎さんを訪ねました。ソーラーシェアリング導入者の多くは農業経験者。その中で、山川さんは未経験からブルーベリー観光農園成功へと導きます。10年以上にわたる自然ガイドの経験を活かしながらソーラーシェアリングの可能性を切り開く山川さんに、地域共生型を貫くさがみこファームのこれまでとこれからをお聞きしました。

株式会社さがみこファーム

2019年設立。設立翌年からソーラーシェアリングの建設を進め、現在4機を運用中。272kW(一般家庭約80軒分)の電気を生み出し、その下ではブルーベリーを栽培している。2023年には体験農園「さがみこベリーガーデン」をグランドオープンし、収穫体験や農園スタディツアーなど、個人・団体向けに様々な体験プログラムを提供している。
https://sagamicofarm.co.jp/

01 自然ガイドから農業へ

森岡:さっそくですが、ソーラーシェアリングを始めたきっかけを教えてください。

山川:もともとは東日本大震災をきっかけに、父が私の生まれ故郷である東京都多摩市で屋根上の太陽光発電事業をはじめたのがきっかけです。それまで富士山麓で自然ガイドの仕事をしていましたが、父の事業に参画するかたちでUターンをして、現場のプロジェクトマネージャーを2年間やりました。その後独立して同じ太陽光発電事業をする中で、ソーラーシェアリングを知りました。その頃はFIT制度が導入されたプレミアム期間で野立てのソーラーパネルを中心に広がっていたのですが、他方で地域との摩擦や森林破壊の問題といった太陽光発電のいわゆるネガティブな側面がクローズアップされていました。ですからソーラーシェアリングであれば自然や地域とも調和的に再エネを広げていけるんじゃないかと考えて、2018年ごろから検討を始めたんです。    

森岡:なるほど。最初から農業をされていたわけではなかったのですね。

山川:そうです。ただ、もともと環境問題には興味があったんです。大学を卒業して3年程企業に務めてから、やはり環境に関わる仕事がしたいと思って富士山麓での自然ガイドを10年程やりました。富士山に登ったり、キャンプをしたり今とは違う手法ですが、体験型教育というかたちでより良い社会を作るための気付きを提供していました。その当時も農業を関連会社で行っていたので、全くの素人ではなかったんです。そこへ父の事業の話があったのでUターンして太陽光事業に携わりましたが、ずっと自然環境に対して問題意識を持ちながらやってきていました。

01動き出したからこそ人にも課題にも出会える

森岡:相模原市では初めてのソーラーシェアリングの導入だったということですが、導入時にハードル感じた点はありましたか。

山川:屋根上の太陽光発電は事業として経験していましたが、ソーラーシェアリングは初めてでした。一番の違いは農業ですよね。当初農業は他社と共同でやる話もありましたが、結果的に自社でやることになりました。ですから、農業の体制をどう作るかというのまず一番の問題でした。    

次に課題になったのは農業委員会への農地の一時転用許可申請です。それまで相模原市にソーラーシェアリングの実績がなかったので難しいだろうとは思っていましたが、案の定苦労しました。なにせ初めてだったので問題が見えきれてなかったこともあります。ですから最初は農業界ならではの特殊性を理解するのに苦労しました。ただ、こうした仕組みが日本の農業を守ってきたことも確かですから無視するわけにも当然いかないんです。やりながら、話しながらここまでやってきたという感じです。これから始める方についても、やってみないと分からないことが多いと思うので、勢いで始めるというのも無きにしもあらずだと思います。

森岡:色々とご苦労され立ち上げまで辿りつかれたんですね。申請で苦労されたということですが、そこは時間をかけて説得されたのでしょうか?

山川:申請は地域ごとにまったく異なりますから一例として聞いていただきたいですが、僕は動き始めてからラッキーな出来事に恵まれました。まず、相模原市はソーラーシェアリングの前例がない分、既存の事例による偏見がない、ニュートラルなスタンスだったことが一つ。もう一つは、色々動くうちに元農業委員会の委員長や、現・農業委員の方に出会ったんです。その方々に僕らと農業委員会の繋ぎ役になってもらったり、農業界での立ち振る舞いについて教えてもらったりしました。

森岡:出会いは大事ですね。

山川:そうですね。動いたからこそ出会えたのだと思います。

森岡:ソーラーシェアリングを導入してから想定外だったことはありましたか。

山川:ブルーベリーは果樹ですから、野菜と違ってすぐに収穫できるわけではないですよね。収穫ができるようになるまでに2年から4年はかかります。ですから準備に時間がかかることは想定内でした。その中でもなるべく収量が安定するように養液栽培を選んで、設備会社や先輩に習って、それなりに「上手く育っているね」とは言ってもらえるようになっていたんです。

ただ、今年はヒヨドリの被害に遭いました。というのも鳥対策のネットを張らないことにしていたんです。通常ブルーベリー栽培ではヒヨドリ対策でネットを被せるのですが、ソーラーシェアリングだとパネルの上にはネットは張れないですよね。下に張ろうとしても柱や梁があって簡単ではない。それで、そもそも本当に被害が出るのか?というのを鳥の調査員の方などにも来てもらって調べて、この地域の夏のヒヨドリ被害がないことを確認しながら、去年はネットを張らずに過ごしました。結果、無事被害に遭わなかったんです。しかし今年は自然のハチによる受粉が少なく収穫量が想定より少なかった上に、想定外にヒヨドリの大群やシカが来て食べられてしまいました。自然は思い通りにいかないと言いますが、「やっぱりそうだな」と実感しました。普通の事業であればなるべく速くPDCAを回すことができますよね。だけど農業で試せるのは1年に1回ですから、20年あっても20回しかトライできない。そういった難しさはあると思います。

03持続可能な農業と地域との共存を目指した会員制度

森岡:ソーラーシェアリングの電気の使い道について教えていただけますか。

山川:はい。4機あるうちの2つは特定卸として、さがみこファームの法人会員の企業に売電しています。          

森岡:個人の会員だけでなく、法人の会員制度もあるんですね。    

山川:ソーラーシェアリングを始める時、売電事業と農業、それぞれで収益を出さないと持続可能じゃないと思っていました。売電事業におんぶに抱っこじゃダメだろうと。農業もやるからには事業として成功させないといけない。そう考える中で観光農園としてのブルーベリー栽培に行き着きました。ブルーベリーはだいたい6月から8月までの夏の間が収穫期間で、熟れすぎると落ちてしまい、早く採っても追熟しません。ですから適したタイミングでピッキングしないといけないので、全て手作業になります。夏の暑い時期での手作業ですから労働集約的ですし、特定のスタッフで行うだけでは重労働です。そこで観光農園にして来園者にピッキングしてもらえるようにすると、効率化が期待できる上に収益も得られます。他の農園の成功事例などもあったので、ブルーベリーの観光農園で計画を進めていました。でも、いざ話を進めていくうちに行政から「ソーラーシェアリングの下で観光農園はできない」と言われたんです。

森岡:どういった理由だったのでしょうか?    

山川:国省が出しているソーラーシェアリングに関する技術的助言というものがあるですが、そこに、「建築基準法の適応外をする代わりに、特定の農業者がパネル下を営農する」という趣旨の内容が記載されていたんです。額面通りに考えれば、観光客は不特定多数になる。地域により対応方針は異なりますが、相模原市としては、それ故にソーラーシェアリングの下で観光農園はできないとの見解だったんです。そこで色々考えて捻り出した結果が「会員制」です。会員制にすれば「特定の多数」になりますよね。それで許可が下りました。

森岡:いやあ、素晴らしい。

山川:次に法人会員の話になります。売電事業は大手需要家に販売する手段もありますが、僕のスタンスとしては、単なる発電用地として大企業に売電するだけでは地域のためにならないと思っています。売電事業偏重で、農業をしっかりやらないで地域や行政とトラブルになるケースを各地で耳にします。農地で行うのだから、あくまで農業を主体でやるのは当然のことです。それで評判が落ちてしまうと、ソーラーシェアリングを進める気運が低下して、可能性が萎んでしまいます。ですから、僕らが地域・自然共生型の再エネを進めていくことが大事なのではないか、その一つのモデルを作りたいと思っていました。そのため売電先についても、地域づくりを一緒にやってくれる企業とお付き合いしたいと考えていたんです。そこへ電気小売会社を経由して企業の紹介があり、会ってみたところ意気投合したという次第です。特定卸先の2社とも、さがみこファームの法人会員です。その他にも法人会員は合計10社あり、色んなかたちでコラボレーションをしようとしています。

森岡:売電収入だけを目当てにして形だけ「ソーラーシェアリングを始めました」ではダメだというのは、僕も10年前にソーラーシェアリングを始めた時に苦労しましたからよく分かります。

04発電事業者である前に農業者でいること

森岡:地域と言えば、さがみこファームでは小中学校の体験学習の受け入れやなど、それこそ地域に根ざした農園運営をされていると思います。地元の方の反応はどうでしょうか。

山川:概ね受け入れてもらえているのかなと思いますし、僕たちも地方で事業をやる上で当たり前のことを当たり前にやる、というのを意識しています。例えば野菜をいただいたら別のタイミングでお返しする。挨拶をする。ちょくちょく顔を出して話をする。これは別に、当たり前のことなんですけどね。そして改めて気付いたのは、発電事業者である前に農業者であることが大事だと思っているんです。発電事業者として地域へ入ろうとすると「東京のよく分からない会社が来た」と距離が遠くなるですよね。それだと地元との関係の築きようがないです。ただ、農業者としてなら仲間として見てもらえるし、地元の経験豊富な方々に色々教わることがあるんです。ですから農業者として入って初めて信頼関係ができた気がします。信頼関係できると「電気の営業が来るけどそれってどうなの?」とか、「電気自動車ってどうなの?」といった相談が来るんです。それは農業をやっていることの良さだと思っています。ゆくゆくは「さがみこファームがここに来て良かったね」と言ってもらえるように、僕らがやっていることに対して期待してもらえる、地域課題について託してもらえるような存在になりたいなと思っています。

05営農型太陽光発電初めての醸造用ブドウに挑戦

森岡:今はブルーベリーを主体にされているとのことですが、オフシーズンはどうされているのでしょうか。

山川:まず、ブルーベリーについては、加工して売る、という6次化を進めています。また、夏場以外に収穫できるブルーベリー以外の作物を増やしていく事を計画しています。それと同時に、「SDGsの実践事例を学べる場」として、今は視察や研修などの団体プログラムを進めています。今日も大学のゼミが農作業やSDGsのプログラムを体験しに来ます。これは自然ガイド時代に10年以上、何もない自然から企画を考えて、コンテンツ化し続けていた経験が活きています。エネルギーや農業についても、そんなことを進めたいです。

森岡:ご経験を活かされていて素晴らしいです。

山川:夏以外の作物の一つとして、今度はワイン用のブドウをやろうと思っています。実は相模原市はワイン特区(果実酒やリキュールの最低製造数量基準を引き下げる特例措置の認定を受けた区域)なんです。ただ、ワイン用のブドウのソーラーシェアリングでの栽培実績は全国でもあまり例がなく、特に神奈川県内では皆無でした。ですからソーラーシェアリングでブドウをやるためには、日照量が落ちても収量が落ちないことと、相模原の気候でも栽培できることの証明が必要になります。まずは50%遮光でもブドウの収量が落ちないデータがあるので、そのデータが神奈川の気候と照らし合わせても遜色ないことを確認し、根拠として提示することにしました。

森岡:それは、新しいソーラーシェアリングを建てて行うのですか?

山川:今年度、非FITの発電所を2機作る予定です。先程の法人会員のうち1社は生活クラブ生協ですが、これはその生活クラブ生協と一緒に計画を進めています。かかる費用の1/3は神奈川県の補助金を活用、次に生活クラブ生協が持っている自然エネルギー推進基金から資金。それから生活クラブ生協の組合員から寄付を募ったところなんと200万円も集まりました。それらの資金をあてて今計画を進めています。

森岡:寄付でそれだけ集まるとは、すごいですね!

山川:僕らも最初はそこまで集まると思っていませんでしたが、寄付のお礼としてネーミングライツを付与するなどして取り組んだところ、やはり環境問題や再エネに関心が高い組合員が多いことから、1100人の方から寄付が集まりました。この共同プロジェクトは、その生活クラブ生協さんも喜んでくださっています。野菜は作った人の顔を見ることができるけど、電気は無色透明ですよね。ですから成果が見えづらい。ですがこうして太陽光発電所を組合員の寄付を募りながら建てると、組合員にとっても再エネに貢献している様子が想像つくわけです。さらに都心から車で1時間程の関東圏内にあるので勉強会なども実施しやすい。そのようにして法人会員の企業にはさがみこファームを活用してもらえたらなと思っています。地域課題は地元の農業者だけでやっていても解決できないです。上手くいくことばかりじゃないですが、こうして色んな企業や人が関わることで学び、知り、出来ることをやっていく。そうなると良いなと思っています。

06これからソーラーシェアリングを始める方へ

森岡:最後に、これから新しくソーラーシェアリングを導入したいと思っている方へのメッセージをお願いします。

山川:是非やって欲しいです。勢いを持って始めて欲しい。もちろん事業なので、やれる・やれないなどは当然計画します。でもどこかで決断はしなくてはいけない。踏み出して分かることもありますから、想いがあるのだったら是非やって欲しいです。

森岡:ありがとうございました。

Morioka’s comment
自身の経験を活かしながら、地域や企業と共に現在進行系でソーラーシェアリングに取り組む姿に心躍りました。
ソーラーシェアリングと観光農園の親和性も素晴らしく、様々なフックになり得るこのシステムはこれからの日本に必要だと感じました。思い立ったら吉日の精神で、まずは一歩、踏み出すことも重要ですね!

取材日:20239
※掲載情報は取材時点のものです。

写真:ゆのみふぉと 武藤慎哉(静岡県)

 

SHARE シェアする
  • LINE
  • Twitter
  • Facebook
KEYWORD この記事のキーワード