2023.2.28
ソーラーシェアリング×スマート農業で難易度の高い米麦の生産に成功!讃岐の田んぼ 監崎さんの挑戦
香川県でソーラーシェアリングを実践する14代目農家の森岡さんが全国のソーラーシェアリング実践者(空シェア人)を訪ねる「森岡さんの空シェアめぐり旅」。
今回訪ねたのは、香川県丸亀市にある株式会社讃岐の田んぼの監崎芳彦さん。ソーラーシェアリングの下で、難易度が高いとされる米・麦の生産に成功した「空シェア人」です。
現在、東京と香川を行き来しながら農業に取り組む監崎さんは、自らソーラーパネルを設計・建設。さらに九州大学や民間シンクタンクとの共同研究でスマート農業を取り入れた実証実験を行うなどパワフルな実行力の持ち主です。インタビューでは長年システム開発に携わった監崎さんならではのソーラーシェアリングにかける想いや今後の展望を話していただきました。
CONTENTS
01農業への不安を払拭したソーラーシェアリング
森岡:はじめに、讃岐の田んぼでのソーラーシェアリングの状況を教えてください。
監崎:讃岐の田んぼ自体は2018年に設立した会社なのですが、ソーラーシェアリングの取り組みは2016年から行っていました。現在スタッフは、専業者はおらず農作業やドローン操作をしてくれるアルバイト5人と私の6人です。私は東京にあるITの会社の代表と兼任しています。
ソーラーシェアリングは2016年に(香川県内の)東坂元に1号機を作ったのが最初です。実はこれ、全部私が手作りしたんです。あるシーズンの米の収穫が終わってから次の田植えまでの7カ月間、毎日コツコツと。
森岡:ええ!設計もご自分でやられたのでしょうか。
監崎:はい、全て自分で。息子が機械設計をやっているので、どの大きさのボルトにしたらいいかなどの強度計算だけは息子にやってもらいました。
森岡:それは親子の合作ですね。素晴らしいです。
株式会社讃岐の田んぼについて
2018年8月設立。米麦の生産を中心としながら「スマート農業の推進による生産性の向上」や「若手が活動しやすい環境の構築と担い手の育成」を経営方針に掲げる。<ソーラーシェアリング>
■東坂元(2016年5月) 1基
発電能力:334.89kW
農地面積:5,700㎡
下部作物:水稲
構 造:可動式パネル(±20°)
遮光率 :36.37%■林田町(2016年4月) 2基
発電能力:56.16kW
農地面積:850㎡
下部作物:ズッキーニ、ホウレンソウ
構 造:藤棚 角度10°
遮光率 :44.23%■西坂元(2019年6月) 2基
発電能力:64.8kW
農地面積:1,400㎡
下部作物:水稲、麦
構 造:市松模様 角度0°
遮光率 :25.34%
森岡:監崎さんと農業の関わりはいつからなのでしょうか。
監崎:もともと私はここ香川県で農家の長男として生まれ、小さい頃から農家の跡取りであることを意識していました。しかし大学を卒業するときに、先生から「しばらくは外で仕事をしても良いんじゃないの」とアドバイスをもらい、東京で就職することにしたんです。それ以来30年以上経っていますが、ずっといつか香川で農業をやること、どのようにしてやっていけばいいのか、ということが頭の片隅にあるような状態でした。
森岡:そんな中でソーラーシェアリングを導入したのはどういった経緯でしたか?
監崎:農業を始める前の懸案として、収入面の心配がありました。当時は3人の子どもを大学に行かせていた時期だったんです。子どもたちは東京で育ちましたが、「東京の考え方を全てと思わないように」との想いで地方の大学へ。ですから、3人の子どもに大学を卒業させられるだけの経済力を農業で持てるようにしたい、というのが農業をする上での目標でした。そこに東日本大震災が起こりました。震災をきっかけに世の中では再生可能エネルギーの活用に注目が集まり、私自身も色々と調べていくうちにソーラーシェアリングを知ったというわけです。そこで、周りにもソーラーシェアリングをやっている農家がいたので見学に行って話を聞いたり、勉強会に出たりしました。そうしてソーラーシェアリングの採算を見積もってみたところ、予想よりもはるかに高い利益が出る結果でした。この見込みだったら経済的な問題もなく香川で農業ができる、そう思って始めることに決めました。
森岡:導入で大変なことはありましたか?
監崎:はい。始めるにあたり各所へ申請や相談をしに行くのですが、水利組合や土地改良区など主要な組織の理事長は80歳を超える高齢者たちです。そこでソーラーシェアリングやスマート農業の話をしてもなかなか理解してもらえませんでした。例えば、インターネットについても「何かが飛んできて、何かやってくれる」といったような理解で。最終的には変化や変革に対して協力的でないコメントをもらうこともしばしばありました。
02自分がソーラーシェアリングの証明者になろう
森岡:ご苦労お察しします…。作物を米・麦にしたのはどうしてでしょうか?
監崎:小さい頃から実家の農業を手伝う中で米麦に親しんでいたということはありますが、何より米麦の現状を変えたいという想いがありました。米や麦は、誰しもが日常的に食べる食物で公共財のようなものですから、値段が上げられないんです。いくら良いものを作っても、ある程度以上の値段には設定できない。そして地元の農家を見渡すと、作付したことで補助金を得たあとは諦めたように手入れをしなくなってしまう農家がいるのを目の当たりにしたんです。東京で働いている人は、日々満員電車で通勤して、朝から晩まで働いて過ごしています。かたや地方では補助金行政で疲弊した農家たちがいる。この現状に愕然としながらも、僕がソーラーシェアリングをして、ソーラーパネルの下で米麦を育てながら安定した収入を得られることを証明できたら皆を驚かせられるんじゃないか、そうして「自分もやろう」という人が出てくるのではないかと思い、米麦にしました。
03米が育てばあらゆる可能性が広がる
森岡:ソーラーシェアリングを導入したことでどのようなメリットを感じていますか?
監崎:安定した収入があることですね。うちは3.5haの圃場の一部でソーラーシェアリングをしていますが、仮に10町歩(10ha)の田んぼがあったとしても、おそらくそれよりも売上は多いと思います。先ほども言ったように、3人の子どもを大学に行かせられるくらいの売上はあります。
もう一つ、ソーラーシェアリングのメリットは自然破壊を伴わないで再生可能エネルギーの利用拡大ができるところです。「自然破壊」と言えば、農地だってもともとは開拓した土地です。それが全国に無数にあるのに、有効活用されていないと思うのです。ソーラーシェアリングはこうした農地を発電所として活用できるのだから、私にとってやらないという選択肢はありませんでした。
森岡:逆にデメリットはありますか?
監崎:ソーラーパネル下での農作業については、効率の点で課題があります。田植え機や刈取機は問題ないのですが、草対策のために隙間なくトラクターを走らせたい時などは、ソーラーパネルの軸に当たらないようすごく気をつけながら走行しています。
それから収穫量です。最初は収穫量が安定せず、安定させるまでに4~5年かかりました。大きな要因は病害虫です。本来、稲は成長すると窒素が減り黄色くなりますが、ソーラーシェアリングの下の稲は日射量が減るため稲が青々としていたんです。そうすると病害虫がたくさん寄ってきてしまいました。昨年まで九州大学と共同研究していたので、その研究の中でパネルの角度や配置を変えたり、施肥の方法を変えたりと色々と試行錯誤し、克服しながら毎年収穫量を上げてきました。
ただ、個人的には収量よりも品質が大事かなと思っています。もし全国の田んぼを全部ソーラーシェアリングに変えますよとなったとしたら、おいしく食べれなきゃ困るので。ですから、基本的には一等米を作ることをがんばっていて、2021年と2022年は一等米を取ることができました。
森岡:なるほど。ソーラーシェアリングではなかなか難しい米作に試行錯誤で取り組まれてきたということですね。
監崎:そうですね。米は光合成でデンプンを作るので、日照時間が品質や量に一番影響します。ですからソーラーシェアリング下の作物としては一番難易度が高い。でも、今全国で「米が作れている土地」、イコール「日照量が多い土地」ということなのです。日照量が多いということは太陽光発電にも最適な場所なわけですよね。そして米は日本中で作られていますから、ソーラーシェアリングができる場所がそれだけあるということなんです。育てる難易度が高いのになぜ米をソーラーシェアリングの下で作ることにしたかというと、これで米が本当に育てばこんな良いことはないよね、というのを証明したかったからなのです。
森岡:素晴らしいです。監崎さんはスマート農業にも取り組んでいますが、どのようなきっかけではじめたのでしょうか。
監崎:今僕の自宅は太陽光発電の電力を使ってルーターからインターネット接続をしています。このように太陽光発電は農業にも活用できるICT環境が作れると考えていました。冒頭に讃岐の田んぼと兼任でシステム会社を経営していると言いましたが、そこで民間シンクタンクと一緒にシステム開発をしていました。そのシンクタンクで社内ベンチャーの募集があり、一緒に仕事をしていた社員の方とソーラーシェアリングの電力を使って行うスマート農業の構想などを提案書にして提出しました。それが見事合格しスタートすることになったのです。はじめは周りの農家に構想を話していたのですが、協力してくれる人が現れず、それなら「自分でやるか」と、讃岐の田んぼを法人化しました。
森岡:どのような効果がありましたか?
監崎:この取り組みでは、太陽光発電の電力を使って水門の制御をしたり、水位や風速をセンサーで把握したり、水管理の自動化を図るシステムを作りました。さらに生産管理機能を利用して作業管理・賃金支払情報の管理・肥料薬剤などの在庫管理も可能になりましたので、農作業の生産性向上に大きく貢献しました。
森岡:九州大学農学部とも共同研究をされています。これについても聞かせてください。
監崎:スマート農業を一緒にやっていた会社の方が、実は九州大学の大学院を卒業した方だったんです。そのつながりで九州大学が研究圃場を探しているという話を聞いて、それで紹介を受けて、共同研究をすることになりました。研究内容としてはソーラーパネル下での日射の遮断による影響や農作業効率低下の影響を中心に、他にも蒸発散量の抑制の効果、高温障害の軽減の効果、所得リスクの分散効果などの研究を行いました。3年間の研究は2022年3月に終了しましたが、研究の成果を転用申請の所見を書く際に利用したり、ソーラーシェアリングの設計を安価で効率的にしたりすることに役立っています。
04再エネの価値が正しく評価されるような意識変革を
森岡:監崎さんから見て、今後ソーラーシェアリングが拡大していくためにはどんなことが必要でしょうか。
監崎:まずは国民に対して、再生可能エネルギーの重要性を正しく理解してもらうための試みを国が実施するべきだと思います。今だと、普通なら500円の農作物を再生可能エネルギーを使って作ったからといって付加価値をつけて仮に1,000円で販売したとしても売れないでしょう。そこの価値を正しく理解してもらう必要があると思います。
それから、再生可能エネルギーの需要家の開拓です。大きな企業が讃岐の田んぼを訪れた際に「何が必要ですか?」と聞かれますが、「電気を買ってください」と伝えています(笑)
森岡:企業の意識が変わって再生可能エネルギーを積極的に購入すれば、価値が高まって、より多くの人に広がりますよね。それでは、監崎さんご自身の今後の展望を教えていただけますか。
監崎:常に考えていることは2つあります。1つ目は農地所有権売買の自由化です。今、農地は農地中間管理機構を経由して借りたり、貸されたりしていますよね。それを自由化することで土地に本来の価格がつき、農家の資金源になります。農家の収入が増えれば融資も受けやすくなり、ソーラーシェアリングなどの新しい取り組みにチャレンジする資金的な余裕ができる。そうして農家の売電収入などが増えれば行政は固定資産税の財源が増えて、巡って農業に対する補助金などの原資になる。農地の価値を上げれば、農家の人の役に立つ、と私は思っています。
2つ目は水域の管理の自動化です。これは米や麦の水の管理だけではなくて、川も溜池も全部自動化したら良いと思っています。私は東京でITの仕事を長くしていますが、35年程前にビール工場の水の管理の自動化に携わりました。そこでは原材料を投入したら、あとは人の手を介さずに同じビールの味を再現できる。一度自動化の仕組みができたら、同じビール会社で違う味のビールの製造に着手できる。そういう技術革新を目の当たりにしました。確かに費用はかかりますが、これができた時には農地の水の管理だけではなくて水災害の対策にもなる。これは小さい規模でも何千億円、何兆円とかかる話で、行政の説得も難しいですから、「お父さんはその資金を今から貯めるんだ」と自分の子どもたちに宣言しています(笑)。
05課題があることを楽しむチャレンジ精神を
森岡:こうした発想は、長年IT系の仕事をやっていたご経験があるからこそですね。
監崎:そうですね。ベンチャー企業を経営しながら思うことは、リスクは回避するのではなく、どうやって乗り越えるか、越えていく方法を考える点だと思っています。
森岡:最後にソーラーシェアリングを導入したいと思っている方々へのアドバイスをお願いします。
監崎:僕自身はソーラーパネルの下で稲が実っている状態が頭の中に見えているので、それを目標に皆をビックリさせてやろうと思って頑張っています。ソーラーシェアリングもスマート農業も、農協、自治体、国…やろうと思うと関係者が多く大変なこともたくさんあります。ですが分からないことがたくさんあること、課題がたくさんあることを楽しめる人に是非チャレンジしていただきたいと思います。
森岡:ありがとうございました。
【監崎芳彦さん プロフィール】
香川県丸亀市出身。東京でIT系会社を経営する傍ら、香川で「株式会社讃岐の田んぼ」を経営、スマート農業とソーラーシェアリングを利用した農業に取り組む。農林水産省のWebサイト「営農型太陽光発電について」でも優良事例として取り上げられる。
取材日:2023年1月
※掲載情報は取材時点のものです。
写真:Fizm LLC. 藤岡優(香川県三豊市)
今回空シェアでドローンも活用できることが判り、ICTの進化も併せてますますエネルギー×農業の可能性が広がるのを感じました。