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2023.10.23

TNFDとは?設立背景 や理解のポイント、参画メリットを解説

この記事は、自然電力の脱炭素支援サービス「お役立ちコラム」に掲載された記事を転載しています。

 

企業活動において脱炭素化を進め、気候変動への対応を求められる潮流の中で、自然・生物多様性を守り増やすという発想が、ビジネスにも求められる時代になってきました。

「自然」や「生物多様性」に関連した「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」では、4回に亘る提言(ベータ版)の公表を経て、2023年9月に最終提言が発表されました。 TNFDは、今後の企業経営におけるキーワードになるかもしれません。

では今なぜ、自然や生物多様性が注目されているのでしょうか。本記事ではTNFDの概要、設立背景や理解のポイント、TCFDとの違い、取り組むメリットについて解説します。

01TNFDとは

TNFDとは「Taskforce on Nature-related Financial Disclosures」の略であり、日本語で「自然関連財務情報開示タスクフォース」と訳されています。

TNFDは、ESGなどの取組みに関する情報開示を企業に対して求めていく国際的な動きの中で生まれたものです。企業活動も人間の活動の一部であることから、自然環境から切り離すことはできず、相互に影響しあっているといえるでしょう。TNFDは、自然環境や生物多様性が企業に与える影響や生態系サービス(「多様な生物がかかわりあう生態系から人間が得ることができる恵み」のこと)における財務上のリスクや機会を任意のフレームワークに沿って情報を開示することで企業の社会的価値を見える化することを目的として設立されました。

TNFDが掲げる目標

TNFDは、自然や生物多様性へのネガティブな影響を緩和するための市場主導型のグローバルなイニシアティブです。TNFDは、世界の金融資金の流れを「ネイチャーポジティブ(自然再興)」な成果へとシフトさせることを最終的な目標に掲げています。

ネイチャーポジティブとは、「生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる」という考え方です。そのためTNFDフレームワークにおいては自然が組織に与える影響だけでなく、組織が自然に与える影響についても取り上げます。

TNFDはあらゆる規模の企業や金融機関が行動を起こせるように、自然関連のリスク管理と情報開示に関するフレームワークを開発しています。また、開発するだけでなく、TNFDフレームワークと既存のESG情報開示フレームワークであるGRISASBなどとの統合や、金融安定理事会(以下、FSB)、気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS)などへの関与を目指しているのです。

TNFD設立の背景と今後の見通し

TNFDはまだ歴史が浅く新しいイニシアティブですが、急速にその影響力を拡大しています。

TNFD設立の着想は、2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において得られたものです。その後、グローバルキャノピー、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、世界自然保護基金(WWF)の4機関が主導し、2020年7月に非公式に発足しました。その後金融機関、規制当局、企業などの参加を経て、2021年6月に正式に発足しています。       

情報開示のフレームワークのベータ版がこれまでに4度公表され、2023年9月には最終提言が公表されました。

フェーズタイムライン経緯
準備〜2021年タスクフォースの発足
構築 
テストおよび協議2022年〜フレームワークベータ版のドラフト配布
・3月にベータ版リリース(v0.1)
・6月にベータ版リリース(v0.2)
・11月にベータ版リリース(v0.3)
20の新興諸国および先進国市場の金融規制当局、データ作成者、利用者との協議
2023年・3月にベータ版リリース(v0.4)
正式な協議プロセス(3月30日〜6月1日)
公表
および導入
2023年・9月予定のタスクフォースの最終提言を経て、フレームワークの導入を支援するガイダンスを継続

2022年3月17日時点で、情報開示のフレームワークを検討するタスクフォースの参加メンバーは5大陸15ケ国から34名、タスクフォースを支援するステークホルダーの集まりであるフォーラムへの参画団体・企業数は300以上です。

また2022年末には、国連生物多様性条約第15 回締約国会議(CBD-COP15)が開催され、昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されました。身近なところでは、世界の食料廃棄を半減するという合意があったほか、特筆すべきは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全するという、画期的な合意が盛り込まれたことです。

このことからも、生物多様性なくしてサステナブルな開発はありえないと考える時代が到来したといえるでしょう。

TCFDとの違い

では「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」とTNFDには、どのような違いがあるのでしょうか?

TCFDは2015年12月に発足した国際的なイニシアティブで、気候リスクを考慮した上で、気候変動や脱炭素に関連して開示すべき情報について示したフレームワークを提言しています。

TCFD提言が求める気候変動に関連した情報開示の必要性が高まる中、さらに大気や水などの自然資本や生物多様性の保全に関する情報開示の必要性を受けてTNFDは発足しました。

TCFDはG20やFSB主導で発足した一方で、TNFDは市場主導型で発足したという違いはありますが、両者は協力関係にあります。TCFDの構築・運用から得られた学びに基づいて構築されているのがTNFDです。

TCFDとの違いは、次の3つが挙げられます。

  1. TCFDの開示勧告は化石燃料依存に関連した気候変動関連リスク・機会開示を重視する一方、TNFDでは自然との相互作用を重視する
  2. CO2の排出削減という1つの指標でアプローチするTCFDと比べ、TNFDではより広い範囲での自然への影響を考慮する
  3. 自然の状態は、企業活動に関わる場所に紐付けられるために、TNFDでは地域特性を考慮した情報開示が求められる

TNFDが提案する開示勧告は、市場への取り込みと統合を促進するためにもTCFDの開示勧告と似ている点がポイントです。そのためTNFDフレームワークの構築および普及にかかるスピードは、想定よりもかなり速くなる可能性があることに注意が必要だといえるでしょう。

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日本におけるTNFD参画団体・企業

TNFDタスクフォース・フォーラムへの参画団体・企業は、続々と増えている状況です。ここでは環境省の資料より、2022年3月時点における日本からの参加団体をご紹介します。

  • ブリヂストン
  • いであ
  • IGES
  • JBIB
  • 経団連自然保護協議会
  • キリンホールディングス
  • 国際航業
  • 丸紅
  • 三菱ケミカル
  • 三菱UFJフィナンシャルグループ
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
  • 三菱UFJ信託
  • みずほフィナンシャルグループ
  • みずほリサーチ&テクノロジーズ
  • MS&ADホールディングス
  • NEC
  • りそなアセットマネジメント
  • 積水ハウス
  • 損保ジャパン
  • 住友化学
  • 住友林業
  • 三井住友フィナンシャルグループ
  • 三井住友トラスト・アセットマネジメント
  • Suscon Japan
  • 東京海上ホールディングス
  • 金融庁
  • 環境省

なお国土交通省農林水産省20234月に参画を表明していることから、参画団体・企業がさらに増えることが予想されます。

02TNFDの理解を深めるための3つのポイント

ここでは、TNFDの理解を深めるための3つのポイントを次のとおりご紹介します。 

  1. 「自然」「生物多様性」の定義
  2. 4つの重要な柱からなる情報開示への提言
  3. TNFDフレームワークの要素

では、それぞれのポイントについて見ていきましょう。

1.「自然」「生物多様性」の定義

TNFDフレームワークにおいて、自然は「人間を含む生物の多様性と、生物同士および環境との相互作用に重点を置いた自然界」と定義されています。生物多様性は、自然を企業活動を行っていく上で必要とされる資産のひとつとして見たときに、ポートフォリオを構成する重要な要素だといえるでしょう。

さらにTNFDでは、自然は「陸域」「海洋」「淡水」「大気」の4つの領域からなるとされ、企業活動を含む社会はこれらすべての領域と相互作用して存在していると考えられているのです。

ではなぜ「自然」「生物多様性」が、企業経営や金融において重要視されているのでしょうか?

重要視されている理由は、経済は自然の外部にあるのではなく、自然の中に組み込まれているからです。そのため自然界が危機に瀕している現代においては、経済は自然に依存しているという事実をもはや無視することはできません。世界経済が持続して発展するためには、自然と人々がともに繁栄する視点が不可欠との認識が広まっているのです。

2. 4つの重要な柱 からなる情報開示への提言

TNFDフレームワーク案(v0.4)では、組織がどのように行動すべきかについて次の4つの柱によるアプローチを採用し「開示推奨項目」として提言しています。

  1. ガバナンス
  2. 戦略
  3. リスク管理
  4. 指標と目標

組織が自然へ与えるの影響に関連したリスクと、自然が組織に与える財務パフォーマンスへの影響の両方を軽減することを目指して、上記の柱は作成される必要があります。

上記の4つの柱を見ると、TCFDと同じフレームワークの構造を採用していることがお分かりいただけるでしょう。TNFDにおいては自然を計測するといった困難さが伴うために、TCFDと同じ構造に加えて自然関連のリスクと機会に関する幅広い範囲の定義が盛り込まれています。    

ただし現時点におけるTNFDKPIは、脱炭素を想定した「炭素排出量」になっている点に注意しましょう。

3. TNFDフレームワークの要素

TNFDフレームワーク案の中心となる3つの核は、次の要素から構成されています。

  1. 開示提言
  2. リスクと機会の評価アプローチ(LEAP)
  3. 主な概念と定義

TNFDがスタートすれば、自社事業と自然とのかかわりを評価することになります。その際に推奨されている評価アプローチが、次の4つのフェーズからなるLEAPです。

評価のフェーズフェーズの概要
Locate自然との接点を発見する
Evaluate依存関係と影響の関係を診断する
Assessリスクと機会を評価する
Prepare自然関連リスクと機会に対応し、報告する準備を行う

自社の事業活動がどのように自然と相互作用するのかなど、LEAPアプローチの質問に回答しながら、膨大な情報を適切かつ定量的に把握していくことが重要になります。

例えば後述するキリンホールディングス株式会社の事例では、Locateフェーズの「優先地域の特定」において「生態系の完全性」「生物多様性の重要性」「水ストレス」の観点から評価を行いました。その結果、原料生産地として依存度の高いスリランカの紅茶農園のある地域は貴重な固有種の生息地であるほか、水ストレスも高く絶滅リスクにさらされている生態系だと判明したそうです。

またEvaluateフェーズにおける分析では、水の利用や化学肥料・農薬の利用によって原料生産地の自然に影響を与えていることが判明しました。そこで有機肥料利用の知見をもつ団体の支援を得て、適切な農薬や肥料の使い方を学んでいます。今後は、把握された課題と持続可能な農業基準の認証取得支援活動の有効性について分析・評価するAssessおよびPrepareフェーズに進むとのことです。

03企業がTNFDに取り組むメリット

ここでは、企業がTNFDに取り組むメリットを社外的・社内的の2つの観点でご紹介します。

社外的なメリット

ESG投資をはじめとする環境に配慮した金融のあり方が、非常に注目を集めています。このようなトレンドの中、TNFDフレームワークを活用し情報開示した内容がステークホルダーに受け入れられることで企業が得られるメリットは次のとおりです。

  • 持続可能性と強靭性をもち、さまざまな危機に対応できる企業だと高い評価を得られる
  • 自然の保全と経営の両方に取り組む企業行動が認められ、ESG投資を呼び込める

社内的なメリット

ここでは実際にTNFD開示をLEAPを用いて世界で初めて行ったキリンホールディングス株式会社の事例から、社内的に得られたメリットについて詳しく見ていきましょう。

同社では、開示作業において、すでに取り組んでいたTCFD開示をTNFD開示にうまく融合できる箇所が見つかったということです。例えばTCFDで気候変動による生物資源(農産物)減収時の財務インパクトをシナリオ分析で開示した内容を、TNFDでは自然が毀損されたときのリスクとして開示できました。両者を融合させることで、企業は開示に対応しやすくなったのです。

またLEAPアプローチの活用によって、自社事業と自然の相互作用を整理できたことから新たなリスクの発見につながりました。気候変動対策の方法によっては、生物多様性に悪影響を及ぼすことがあります。例えば、単一のバイオマスエネルギー作物を広い地域に栽培することなどが該当するでしょう。そこで両立できない関係性にある気候変動対策と生物 様性保全の取り組みは、開示作業を通してバランスのとれた対策へと見直しするきっかけになったそうです。

さらに今後の流れを象徴している例として、環境省が募集する第4回「脱炭素先行地域」の重点モデル新設が挙げられます。「生物多様性の保全、資源循環との統合的な取組」が新たに追加されたことからも分かるとおり、生物多様性の保護や再生への取り組みは気候変動対策にもなりうるのです。

04気候変動への対応に加え、自然や生物多様性を守る経営が必要に

TNFDは、先行するTCFDをベースに構築されているフレームワークです。2022年末に開催されたCOP15において、生物多様性に関する新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されたことも追い風になり、自然や生物多様性は企業経営・金融において無視できない存在になりつつあります。

気候変動への対応に加え、自然や生物多様性を保全する取組みにも目を向けつつ、脱炭素経営に取り組んでみてはいかがでしょう。

【参考】

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