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炭素を貯留する農業! カーボンファーミングを知っていますか?

この記事は、自然電力のウェブメディア「Hatch」に掲載された記事を転載しています。

 

「カーボンファーミング(炭素貯留農業)」とは、農地などの土壌中に炭素を貯留させる農業生産方法のことです。通常、農業活動によって温室効果ガスが排出されますが、カーボンファーミングを行うことにより、農業が炭素抑制源となることが期待されています[*1]。

海外ではすでに、カーボンファーミングの普及に向けた補助金支給などの取り組みが実施・検討されています。また、日本においても、カーボンファーミングによって貯留した炭素量をクレジット認証する取り組みが始まっています[*2, *3]。

このように国内外で注目を集めるカーボンファーミングですが、具体的にどのような農業生産方法なのでしょうか。また、普及に向けて、どのような取り組みが国内外で進んでいるのでしょうか。詳しくご説明します。

01農業分野から発生する温室効果ガス

国連食糧農業機関によると、2018年の「農業・森林・その他土地利用」由来の温室効果ガス純排出量は年間77億トンと、全産業の約16%を占めています。また、77億トンのうち、82%が農業由来の温室効果ガスであり、世界的に農業分野における温室効果ガス排出量削減が求められています[*2], (表1)。

表1: 世界の農業関連の温室効果ガス純排出量
出典:株式会社三井物産戦略研究所「潜在的なCO2吸収源として注目される農地」

国内でも、農業由来の温室効果ガス排出量削減が大きな課題です。2019年度の農林水産分野からの温室効果ガス排出量は4,747 万トンであり、国内における総排出量のおよそ3.9%を占めています[*4]。

02カーボンファーミングが求められる背景

大規模農業が進むと、食糧増産には貢献できますが、農業機械の燃料に化石燃料を使うことでCO2、化学肥料の使用によってN2O(一酸化二窒素)などの温室効果ガスが発生するため、地球温暖化につながってしまいます[*5]。

一方で、農作物を栽培する土壌は、炭素の巨大な「貯蔵庫」になることもできます。具体的には、全世界の土壌中に炭素の量を毎年0.4%ずつ増やすことができれば、人為的な活動による大気中への温室効果ガス排出を帳消しにできると言われています[*2, *5], (図1)。

そこで近年、後述するような不耕起栽培などの手法によって、土壌の浸食や有機物の減少を抑え、土中の炭素を増やす「カーボンファーミング」の導入が進んでいます[*5]。

不耕起栽培とは

カーボンファーミングには、様々な手法があります。まず、カーボンファーミングとして最も注目を集める手法として、「不耕起栽培」が挙げられます[*2]。

不耕起栽培とは、作物を栽培する際に通常行われる耕耘(田畑を耕し、雑草を取り去ること)や整地(土地をならすこと)の工程を省き、作物の刈り株、藁などの作物残渣を畑の表面に残した状態で次の作物を栽培する方法のことです。

通常の耕耘時と比較して、不耕起の場合は空気が土壌に取り入れられにくいという特徴があります。微生物の分解スピードが緩やかになり、植物に光合成で取り込まれた炭素が大気中に戻るのが抑制されるため、炭素が貯留されやすくなります。

不耕起栽培は既にアメリカなどのトウモロコシ産地で広く導入され、小麦の大産地であるEUでは導入が推奨されています。

また、不耕起栽培には、食糧増産や省エネなど、炭素貯留以外にも様々なメリットがあります[*2], (表2)。

アグロフォレストリーとは

カーボンファーミングには、不耕起栽培以外に、「アグロフォレストリー」と呼ばれる手法もあります。アグロフォレストリーとは、多彩な作物を混植することで森を再生し、生態系を維持しながら、農家の生活にも経済的安定をもたらすことができる農法のことです[*6]。

アグロフォレストリーは、森林伐採が大きな問題となっているアマゾンなどで導入が進んでいます。林業と農業を同一の土地で行うアグロフォレストリーには、様々なメリットがあります[*6, *7]。

例えば、農作物からの養分によって育まれた森林から木材を生産し、販売することで農家の追加収入となります。また、枝条や間伐材は薪として使用できるため、燃料源にもなります。

さらに、樹木によって風速が軽減することによる風食被害の軽減や、強い雨による土壌侵食への影響の軽減、植物の根系の活着(植物の地下部全体が根付いて成長すること)など、土壌の保全にもつながります。

加えて、樹木は地下部及び地上部でのバイオマスを増加させ、土壌構造の改善やほ場(作物を栽培する田畑)の地力や保水力の改善にも貢献できるなども大きなメリットと言えるでしょう。

03カーボンファーミング普及に向けた国内外の動向

海外におけるカーボンファーミング動向

先述したように、国内外でカーボンファーミング普及に向けた動きが活発化しています。

EUでは、2023年から実施予定の次期共通農業政策改革に向けた議論が現在進められています。既に、環境に良い農業の取り組みに対する補助金が支給されていますが、次期農業政策では、その支給対象の一つに、カーボンファーミングが加わる予定です[*2]。

また、海外では、炭素貯留によって創出された「炭素クレジット(土壌炭素クレジット)」取引が進んでいます。炭素クレジットとは、温室効果ガスの削減・吸収量をクレジットとして取引可能な形にした資産のことです。炭素クレジットは現在、一部を除き、企業は国へ報告する温室効果ガス排出量の相殺には使用できませんが、企業が独自に設定する自主的な目的達成のために利用できます[*8]。

また、近年、炭素クレジットを売買するボランタリー(自主的な)炭素市場が急成長しています。世界のボランタリー炭素市場は、2021年11月時点で取引高10億ドルを超え、2019年の3.2億ドルと比較して3倍強となりました。

さらに、GHGプロトコル(温室効果ガス排出量の策定・報告に関する世界基準)でも、土壌における炭素貯留の算定と、創出された炭素クレジットの売買報告の基準が検討されています。国際的な基準の策定によって、カーボンファーミングのさらなる促進につながることが期待されています。

国内におけるカーボンファーミング動向

日本では、ボランタリー炭素市場の構築はこれからとされています。しかしながら、経済産業省や環境省、農林水産省が運営する「J-クレジット制度」があります。

J-クレジット制度とは、省エネ再エネ設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証する制度です[*9], (図2)。

関連記事J-クレジットとは?脱炭素の取り組みに活かせるポイントを解説

2020年9月に、J-クレジットにおいて、「バイオ炭の農地施用」を対象とした方法論が策定されました。「バイオ炭の農地施用」とは、バイオ炭(バイオマスを加熱して作られる固形物)を農地土壌へ施用することで、難分解性の炭素を土壌に貯留する活動のことです[*9], (図3)。

本制度では、木竹由来の「白炭、黒炭、竹炭、粉炭、オガ炭」や、家畜ふん尿やもみ殻由来のバイオ炭などもクレジットの対象となっています。

バイオ炭の利用には多くのメリットがあります。例えば、土壌の保水性や透水性の向上、水質の浄化といった土壌改良効果があります。また、CO2の吸収効果や木材自給率の向上などにも貢献できるとされており、さらなる普及が求められています[*10]。

04カーボンファーミング普及に向けた展望

カーボンファーミング普及に向けて、補助金支給や炭素クレジットの導入など、様々な取り組みが行われています。このような金銭的インセンティブを与えるには、土壌中の炭素量を適正に評価し認証することが求められています[*2]。

しかしながら、土壌に貯留された炭素量を容易に評価認証するのは難しいという課題があります。なぜなら、天候や気温によって土壌中の微生物の活性状況等は日々変動し、不耕起栽培を実践していたとしても、必ずしも炭素量が増えているとは限らないためです。

このような課題を解決するため、EUではセンサーなどを活用したデータをもとにした農業を推進しています。また、アメリカでは、農務省が2020年2月に公表した「農業イノベーション・アジェンダ」において、炭素貯留をクレジット化することを念頭に、デジタルツールの活用がうたわれています。

今後は、炭素クレジット市場へより多くの事業者の参加を促すとともに、炭素量を容易に測定できる技術の普及が、カーボンファーミングのさらなる拡大のカギと言えるでしょう。

【参考】

*1
齊藤三希子・笹本愛子「炭素貯留農業『カーボンファーミング』とは? その具体例を解説」株式会社日本ビジネス出版

*2
株式会社三井物産戦略研究所「潜在的なCO2吸収源として注目される農地」

*3
農林水産省「バイオ炭について」

*4
農林水産省「農林水産省地球温暖化対策計画」

*5
株式会社朝日新聞社「人類は耕しすぎた…大量の炭素が大気に放出 不耕起栽培、『封印』策として期待集まる」

*6
独立行政法人国際協力機構「一般財団法人日伯協会 アマゾンを再生する日本の力-森をつくる農業『アグロフォレストリー』-」

*7
独立行政法人 国際農林水産業研究センター「アグロフォレストリーマニュアル」

*8
株式会社野村総合研究所「第3回 自然を利用した炭素貯留がもたらす『土壌炭素クレジット』」

*9
農林水産省「J-クレジット制度における『バイオ炭の農地施用』の方法論について」

*10
中部経済産業局「バイオ炭とは~農業分野での脱炭素~」

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