2024.4.11
電動農機とは?注目される理由やメリット・デメリットを紹介
電動農機とは、電力モーターと充電式のバッテリーを搭載した電気をエネルギー源に稼働する農業機械のことです。
昨今、電気自動車分野における電動化技術の発展や、日本政府による温室効果ガス削減目標の発表、農業従事者不足の問題などを背景に、農業分野において電動農機の開発が推進されています。国内の農業機械メーカーも相次いで電動農機の開発や市場展開に向けた発表をしており、国も補助金などを通じてバックアップしています。
ただ、こうした背景から電動農機は注目を集めているものの国内市場への本格展開はこれからであることから、関連する情報を整理できていない方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では電動農機について、注目される理由から具体例、メリットとデメリットまでを紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
01電動農機とは
電動農機とは、電気をエネルギー源として稼働する農業機械のことです。電力モーターと充電式のバッテリーを搭載しています。なお農業機械とは、例えばトラクタやコンバイン、田植え機、除草機など農業で活用される作業用機械を指します。
また類似する「ロボット農機」とは、自動走行式もしくは遠隔操作式の農業機械を指しており、電気をエネルギー源にしていれば電動農機の一種として位置付けられます。ただし、ロボット農機のなかには、ガソリンや軽油など化石燃料をエネルギー源とするものもあるため、区別が必要です。
02電動農機が注目される理由
電動農機が注目される理由は、以下の3つです。
農業従事者の減少により作業効率向上が求められるため
近年、農業従事者の減少が著しく進行しています。農林水産省の公式統計によると、仕事として主に自営農業に従事する基幹的農業従事者(個人経営体)数が2015年時点は175.7万人だったのに対して、2023年では116.4万人にまで減少しています。都市部への人口集中や高齢化により、農村地域の労働力が減少していることが主な要因です。
このような状況下で、電動農機の導入は労働力の不足を補い、作業効率の向上に大きく寄与するため、注目されています。
農業分野においても温室効果ガスの削減が求められるため
日本の農林水産分野における温室効果ガス排出量は5,084万トンです。その内、化石燃料の燃焼による排出が約36%(1,855万トン)を占めていることから、エネルギー源の見直しが指摘されています。
日本政府は2030年度に温室効果ガス排出量46%削減(2013年度比)を目標として掲げていることもあり、電動農機の開発および普及が注目されているのです。
農業機械の電動化が本格化しつつあるため
近年、農業機械の電動化が本格化しつつあります。電動化は自動車分野が先進しており、そこで培われた技術やノウハウを参考にして、農業分野での電動農機の開発が加速しています。昨今、農業機械を展開する主要各社が電動農機の開発状況や国内外に向けての発売を次々に発表しており、注目が高まっている状況です。農林水産省も補助金や税制、基金の活用で開発を支援しています。
03電動農機の具体例
電動農機の具体例を2つ紹介します。
電動トラクタ
多様な作業機械を装着することで、耕うん、肥料や農薬の散布、草刈り、運搬など、さまざまな作業を行えるトラクタの電動化が推進されています。国内大手の農業機械メーカーは、リチウムイオン電池のバッテリーを搭載した26馬力クラスの電動トラクタを、まずは欧州市場へレンタル形式で投入しました。電動化の課題である連続稼働時間を確保のため、およそ1時間の急速充電で約3〜4時間の連続稼働が可能なバッテリーを搭載しています。
複数メーカーが開発を進めるなか、電動式かつ自動走行式の電動トラクタなども発表されています。国内市場への本格導入はこれからですが、今後の更なる展開に期待できるでしょう。
電動草刈機
走行部・刈取部・操作部などで構成されるリモコン式の電動草刈機は、1台でほ場や水田の畦畔および整備法面における草刈り作業を行えます。各部電源はバッテリーから供給され、約1時間の連続稼働が可能です。電動式かつリモコン操作式のため、従来の自走式草刈機のようにハンドル持ちつつ機体を支える必要がなく、作業者の負担軽減も期待できます。
04電動農機のメリット
電動農機のメリットは、以下の4つです。
作業の効率化・省力化を図れる
電動農機を活用することで、農作業の効率化・省力化を図ることが可能です。電動農機自体が最新の性能水準で開発されているのはもちろん、さらに自動運転機能やアシストが搭載された電動農機であれば、より高い効率性や操作性を期待できます。
また、従来の化石燃料を消費するエンジン式の農業機械よりも、機体構造がシンプルであるため、故障頻度の低減や故障した際の修理が容易になるといった点もメリットといえるでしょう。
排気ガスが出ないため環境にやさしい
電動農機は、排気ガスを発生せず環境にやさしい点もメリットです。電動農機の動力源は、電気モーターであるため、温室効果ガスを発生することはありません。そのため、電動農機を導入することで環境負担の軽減に貢献でき、消費者や取引先などステークホルダーへのアピールも可能です。
このメリットには国も期待を寄せており、2021年に策定された「みどりの食品システム戦略」においても農業機械の電動化は、持続的生産体制の構築に向けた取り組み課題と位置づけられていて、2040年までに電化などに関する技術の確立を目指しています。なお「みどりの食品システム戦略」とは、農林水産省が策定した食料生産に関する方針です。農林水産業に伴う温室効果ガスの低減や、化石燃料由来の肥料低減など環境負荷の低減策を中心とします。
ただし、電動農機に用いる電気が化石燃料を用いて作られたものであれば、せっかくのメリットが薄れてしまいます。こうした課題は、再生可能エネルギーを用いれば解消できることも理解しておきましょう。
稼働音が静かで騒音の心配が少ない
電動農機は、稼働音が静かなため騒音の心配が少ない点もメリットといえます。電動農機は電気モーターを動力源としているため、内燃機関であるエンジンを使用した農機に比べて稼働時の騒音が非常に低いのが特徴です。
そのため、近隣住民や作業者自身の騒音への被害が軽減されます。さらに静かな作業環境は、作業効率の向上だけでなく、作業者の健康やストレス軽減にも寄与するでしょう。
将来的にエネルギーコストの抑制を期待できる
電動農機の技術開発は日進月歩で進んでおり、エネルギー効率の向上も図られています。そのため、従来の農業機械よりも低いエネルギーコストでの運用実現を期待できます。また、エンジンを搭載した従来の農機では、ガソリンやディーゼル燃料の価格変動により大きな負担を被る場合がありますが、電動農機ではこのようなリスクは軽減されます。
さらに、導入が進む太陽光自家発電による余剰電力を活用すれば、より大きなコストメリットを得られるでしょう。
05電動農機のデメリット
電動農機のデメリットは、以下の3つです。
初期投資が高額になりがち
電動農機の導入には、従来の農業機械に比べて、高額な初期投資が必要となります。電動農機が高額になるのは、バッテリーにリチウムのようなレアアースが用いられることが主な理由です。とくに大容量のバッテリーを搭載したモデルは、初期投資がより高額になると予想されます。そのため、将来的に電動農機の導入を検討する際には、相応の財務計画を要するでしょう。
充電に時間を要する
電動農機は、稼働に必要な電力をバッテリーから供給しますが、バッテリーの充電には一定の時間がかかります。従来の農業機械のように給油すれば完了というわけにはいきません。
特に大規模な作業を行う場合や、予想外の作業延長が生じた場合には、バッテリーの充電が間に合わない事態が生じやすくなります。そのため、充電時間を考慮した作業計画や、予備の充電済みバッテリーの用意が重要となるでしょう。
一方で、充電の課題をクリアするために、5分程度で充電が完了する急速充電器も実装に向けて開発が進められています。
バッテリー寿命がきたら交換が必要
電動農機に搭載されたバッテリーは、使用や充放電の回数に応じて寿命が設定されています。バッテリーの寿命が尽きると、性能が低下し充電容量が減少するため、バッテリーの交換が必要となります。その際に交換の費用と手間がかかる点は、電動農機のデメリットといえます。バッテリーの交換費用は工賃とあわせて、数十万~数百万円に及ぶと考えられます。将来的に電動農機の導入を検討する際には、バッテリー性能や保証期間などを重視することを推奨します。
06まとめ|生産効率を高めて持続可能な農業へ
電動農機とは、電力モーターと充電式のバッテリーを搭載した電気をエネルギー源として稼働する農業機械のことです。現在は、電動トラクタや電動草刈機などが発表されており、自動運転式の開発も進んでいます。
農業機械のメリットとしては、「農作業の効率化や省力化」「排気ガスを出さない」「稼働音が静か」「エネルギーコストを抑えられる」などが挙げられます。ただし一方では、「初期投資が高額になりがち」「充電に時間を要する」「バッテリー交換が必要となる」といったデメリットもあります。
現在も各メーカーにおいて日進月歩での開発が行われており、上記のようなメリットの強化やデメリットの解消が期待できます。
また、生産効率を高めつつ持続可能な農業を実現するための方法として、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)も注目されています。営農型太陽光発電とは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、従来通りの作業と太陽光発電を並行して行う取り組みです。
例えば、自家発電したエネルギーを電動農機に充てることで、エネルギーコストの低減はもちろん、脱炭素にも貢献でき、新たな付加価値の獲得にもつながります。このように再生可能エネルギーの自家消費や余剰売電を通じて、持続可能な営農モデルを確立できるのです。
下記ページでは、持続可能な営農モデルの確立に取り組む「Re+Farmingプロジェクト」のもと各地で導入が進む営農型太陽光発電について、メリットや新型モデル、導入事例などを分かりやすく紹介していますので、ぜひご覧ください。
【参考】
農業機械をめぐる情勢(農林水産省)
ロボット農機(農林水産省)
農業労働力に関する統計(農林水産省)
農林水産省地球温暖化対策計画について(農林水産省)
地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)(環境省)
我が国と世界の農業機械をめぐる動向(農林水産省)
ヤンマーHD、25年までに電動農機 トラクターなど発売(日本経済新聞)
クボタ、欧州で電動トラクター 23年レンタル開始 – (日本経済新聞)
クボタ、自動運転のEV農機 CESで初出展 – (日本経済新聞)
農機を24年度にも電動化、農水省が工程表 開発を支援 – (日本経済新聞)
クボタ、コンパクト電動トラクタ「LXe-261」を欧州市場に投入 – (日本経済新聞)
高機動畦畔草刈機(農林水産省)
みどりの食料システム戦略トップページ(農林水産省)
クボタ、電動農機5分で充電 – (日本経済新聞)