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【農家向け】野菜高騰の原因と対策|供給と収益の安定化に向けて

野菜の価格高騰が取り沙汰されている昨今、一般消費者や飲食店に限らず、生産を担う農家の方や農業法人にとっても不安な状況といえるでしょう。こうしたなか、次のように考える方も多いのではないでしょうか。

「野菜の価格高騰における原因と課題を正しく理解したい」
「野菜高騰への対策を講じて供給と収益を安定させたい」

そこで本記事では、野菜の価格高騰について、そもそもの原因、農家・農業法人にとっての課題、具体的な対策をまとめて解説します。

01野菜の価格が高騰する原因

野菜の価格が高騰する主な原因は、以下の4つです。

天候不良

天候不良は、野菜高騰の原因となります。雨天もしくは晴天の一方に偏ると、野菜の生育が阻害されて収穫量の減少を引き起こします。その結果、需要に対する供給不足によって、野菜の価格高騰が生じます。

具体的には、長期にわたる雨天は光合成量を低下させて、野菜に以下のような悪影響を及ぼします。

● 成長に必要な有機物を十分に生成できず生育が遅れる
● 茎や葉が伸長する勢力が衰える
● 育ったとしても茎や葉、身の部分が貧弱
● 病原菌に対する抵抗力が低下する

また、反対に晴天が続いた場合には、水分不足や日射過多によって生育が阻害されます。

猛暑や厳寒など異常な気温

猛暑や厳寒などによる異常な気温も、野菜の価格高騰の原因となります。異常な暑さや寒さは、野菜に障害を与え、供給不足および価格高騰へとつながります。

具体的な障害としては、猛暑は高温や土壌の乾燥によって発芽不良やしおれ、葉焼け、着果不良などが挙げられます。厳寒は低温による作物の凍結、積雪による潰れなどをもたらします。

また、昨今は地球温暖化による気候変動が生じており、特に温暖化を起因とする高温障害や栽培適地の移動が指摘されています。詳しくは、こちらの記事をお読みください。

関連記事気候変動で「適地適作」が変化する?その影響と対応策を解説

各種災害

各種災害による被害で野菜の収穫量が減り、価格高騰につながるケースもあります。特に日本は台風による被害を受けやすく、強風で作物がぶつかり合って傷ついたり、飛ばされたりといった被害はもとより、台風に伴う豪雨で水分過多なども引き起こします。

輸送コストの増加

輸送コストの増加も野菜の価格を高騰させる原因です。具体的には、ガソリン価格の高騰や運送サービス料金の上昇が挙げられます。昨今の農産品物流は逼迫しており、農業者からは「小ロットでは物流費が高くなる」「荷下ろしの場所数が減った」「台風や事故など何か起きれば輸送できない」といった声が上がっています。

02野菜の価格高騰に関して農家が抱える課題

野菜の価格高騰に関して、農家が抱える課題について解説します。

消費者の「買い控え」による収益減少

野菜の価格が高騰すると、消費者の「買い控え」につながります。ある野菜の価格が高騰すると、消費者は「この野菜は高いから、今は買わないようにしよう」「他の野菜で代替しよう」といった判断に至ります。こうした判断は、各家庭に留まらず、飲食店などの仕入れにまで影響を与えます。

その結果、価格が高騰した野菜の売上は伸びず、農家の収益減少につながってしまうのです。

生産コスト増加を価格に転嫁できない

野菜の生産に必要な肥料代や燃料費といった各種コストが増加する一方で、コスト増加分を販売価格に直接転嫁することは困難です。

農林水産省によると、2023年2月時点の農産物価格指数の上昇率は108.3で、農業⽣産資材価格指数の上昇率の121.9と比べると緩やかであり、飼料や肥料の価格上昇に伴い⽣産資材価格の⾼騰が続く⼀⽅、農産物価格への転嫁は円滑に進んでいません。多くの農家が自らの収益を減らして、価格高騰を抑制している状態です。農業経営および生産、供給の安定化のためには、⽣産コストの上昇をいかに価格へ転嫁できるかが課題といえるでしょう。

03野菜高騰に関する課題への対策

野菜高騰に関する課題への主な対策は以下の通りです。

気候変動や病気に強い品種を育てる

気候変動や病気に強い品種を選択して育てることで、生産および供給の安定化を図れます。同じ種類の野菜であっても耐暑性や耐寒性に優れた品種、特定の病気にかかりにくい品種などさまざまです。自らの栽培環境が抱える課題に沿った品種を選択することで、生産と供給、そして販売価格の安定化を実現できるでしょう。

安定した生産を可能にする技術や手法を取り入れる

野菜の価格高騰を回避するためには、安定した生産を可能にする技術および手法を取り入れることも検討すべきです。具体的には、以下のような技術や手法の開発・普及が進んでいます。

● 簡易設置型パッド&ファン装置を利用した夏季施設トマトの加温冷却技術
高温障害によるトマトの生育・着果不良などの問題解消を目的とした技術。水を滴下して湿らせた冷却パッドに送風ファンで風を送り、気化冷却による冷房効果を得るための装置を設置します。既存の冷房設備と比較して省スペースかつ安価のため、中小規模施設へも導入しやすいのが特徴です。

● 成長点局所加温とCO2施用を組み合わせたミニトマト栽培技術
温室全体を均一に加温する慣行の方法とは異なり、群落の成長点付近を局所的に加温します。これにより、慣行よりも少ない燃料で、慣行と同程度の生育が見込めます。同時に施設内のCO2濃度を高める技術を組み合わせることで、収量増加と暖房費削減を実現します。

● 促成ピーマンにおける株元加温による設置作業の省力化技術
燃料使用量を低減できるピーマンの株元加温の簡易設置法です。促成ピーマン栽培は、燃料を多く消費するため低コストの暖房技術が求められていました。そこで、収量はそのままに燃料費を削減できる本技術が開発されました。設置も簡易なため、燃料高騰時での緊急導入も可能であるのが特徴です。

● 露地野菜作において施肥量を大幅に削減できる「うね内部分施用機」
露地野菜経営の規模や様々な「うね」に対応した5機種のうね内部分施用機。葉菜類をはじめ、根菜類、果菜類、花き類など多くの作物栽培において30~50%の施肥量削減効果があることが確認されています。

● セル内リン酸施肥によるキャベツの減肥栽培技術
セル育苗培土にリン酸肥料を混合することで、肥料コストを削減する技術。育苗培土に混合したリン酸肥料を全量基肥として栽培することで、効率的にリン酸が吸収されるため少ない肥料での栽培を可能としました。慣行施行法と同じ収量を維持しつつ、肥料コストを3割以上減らすことに成功しています。

● 前作としてブロッコリーを作付けすることで、ナス半身萎凋病の発生を抑制
ナスを栽培する前に、ブロッコリーを作付けして残渣をすきこみすることで半身萎凋病の発生を減らす栽培手法です。日照不足や湿潤状態で生じやすいナス半身萎凋病は全国的に発生しており、甚大な被害を引き起こしています。土壌くん蒸が有効ですが、環境負荷および生産者の作業負荷が懸念されます。そこで、本手法を用いることで、環境保全と作業効率化を実現しました。

国の支援制度を活用する

国が行う支援制度の活用も検討しましょう。具体的には、以下のような事業が挙げられます。

● 肥料価格高騰対策事業
世界的な穀物需要の増加・エネルギー価格の上昇・ロシアによるウクライナ侵略などの影響により、化学肥料原料の国際価格が大幅に上昇し、肥料価格が急騰しています。そこで、海外原料に依存している化学肥料の低減や堆肥などの国内資源の活用に取り組む農業者に対して、肥料コスト上昇分の一部を支援するものです。

● 施設園芸等燃料価格高騰対策事業
経営費に占める燃料費の割合の高い施設園芸において、燃料価格高騰の影響を受けにくい経営への転換を目的としています。計画的に省エネルギー化などに取り組む産地を対象に、農業者と国で基金を設けて、燃油・ガスの価格が一定の基準を超えた場合に補塡金が交付されます。

ソーラーシェアリングの導入を検討する

野菜高騰に起因する収益減少に対する対策として、ソーラーシェアリングが有効です。ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。

従来の農地にソーラーパネルを設置するだけで、電気代などのコスト削減や追加収入を期待できます。また、日陰ができることによる猛暑下での作業効率改善や野菜の葉焼け防止にも役立ちます。

注目のソーラーシェアリングについてのメリットやデメリット、始め方などはこちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひあわせてお読みください。

関連記事注目のソーラーシェアリング。導入件数増加の理由とは?

04まとめ|供給と収益の安定化に向けて

野菜の価格高騰について、原因や農家にとっての課題、具体的な対策をまとめて解説しました。

野菜の価格が高騰する主要な原因は「天候不良」「猛暑や厳寒などによる異常気温」「各種災害」「輸送コストの増加」であり、生産者の立場である農家がコントロールできない要素ばかりです。

また、野菜の価格高騰に関して農家が抱える課題としては、「消費者の買い控えによる収益減少」「生産コスト増加を価格に転嫁できない」が挙げられます。

こうした野菜の価格高騰への対策も紹介しました。具体的には、「気候変動や病気に強い品種を育てる」「安定した生産を可能にする技術や手法を取り入れる」「国の支援制度を活用する」「ソーラーシェアリングの導入を検討する」の4つです。

特にソーラーシェアリングは、農林水産省の推進支援や収益安定化の観点から全国的に注目されています。従来通り農業を営みながら太陽光発電も行うことで、自ら電力を賄いつつ収益の安定化を図ることが可能です。

【参考】

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