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2022.12.21

遊休農地の固定資産税が約1.8倍に?とるべき対策とは

農地が農地であるためには、年間を通して適切に管理する必要があります。ただ、近年は農業従事者の減少や高齢化の影響などもあり、農地を適切に管理することができず、遊休農地として持て余されてしまっている土地も増加傾向にあります。

この記事では、そんな遊休農地がもたらす固定資産税への影響や、遊休農地を有効活用するための対策について解説します。

01遊休農地とは?

遊休農地は、以前は農地として使われていたものの、現在は放置されており、耕されてもいない農地のことを指します。

遊休農地の存在は農地法において、以下のように定義されています。

・現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
・その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる農地

耕作放棄地・荒廃農地との違い

遊休農地と似たような言葉で、耕作放棄地や荒廃農地があります。混同されやすい言葉であり、実際に意味も近いものではありますが、厳密には遊休農地とは異なる定義づけがされています。

まず耕作放棄地ですが、こちらは法令用語である遊休農地とは異なり、農林水産省が実施している統計調査(農林業センサス)の中で使われている言葉です。

耕作放棄地の定義は「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」とされています。このため、基本的な意味については遊休農地と同じと考えて良いでしょう。

荒廃農地は、土地が荒れ果ててしまい、農地としての回復が困難な状況にある農地を指す言葉です。

荒廃農地は農林水産省の調査によって客観的に「作物の栽培が不可能」と評価されたものを指していますが、耕作放棄地については農家が「耕作していない・するつもりはない」と主観的に判断した土地を指します。

図1:農地・荒廃農地について
出典:荒廃農地の現状と対策について(農林水産省)

1号遊休農地と2号遊休農地について

遊休農地には大きく分けて、

  • 1号遊休農地
  • 2号遊休農地

という2つの区分があります。

これは農業委員会が年に1回実施する農地パトロールによって調査した結果で定められる区分で、農地の利用状況を細分化しています。

1号遊休農地は、現在耕作が行われておらず、今後も行われる予定のない農地を指します。2号遊休農地は、周辺の農地に比べて利用の程度がひどく劣っている農地に対して与えられる区分です。

1号遊休農地と2号遊休農地は利用の程度や将来性などの観点から、客観的に区分されている点が特徴です。

02増加する遊休農地

農地としての有効活用がうまくいっていない状態にある遊休農地ですが、近年は全国的に増加傾向にあります。

遊休農地面積の推移

農林水産省の発表によると、日本全国の遊休農地面積は2010年時点で15万6,910haであったのに対し、2019年時点の遊休農地面積は9万7,749haと、数字だけを見れば減少していることがわかります。

これには2013年に施行された、農地取得条件の緩和などを認める農地法の改正が影響していますが、一方で農地が集中している地域では、営農者の減少や高齢化などの遊休農地増加につながる原因の根本的な解決は行われていません。

また、同省の別の調査では荒廃農地の中でも再生利用可能な農地(1号遊休農地)の面積は減少し、再生困難とされる農地面積が右肩上がりに増加していることがわかっており、遊休農地の段階で何らかの手を打っておく必要性は高まっているといえるでしょう。

増加の原因

遊休農地や耕作放棄地が増加する原因は、やはり少子高齢化や人口の流出による労働人口の減少や、農業に魅力を感じ農家を志す人の減少が挙げられます。2015年におよそ6万5,000人を記録していた新規就農者数も、2021年にはおよそ5万2,000人にまで減少しました。

農業従事者の平均年齢も、2015年は67.1歳だったのに対し、2021年には67.9歳まで上昇し、今後も右肩上がりとなっていくことが懸念されています。

少子高齢化によって、農家の跡を継ぐ若者が減少し、現役の農家も高齢化で引退を余儀なくされています。また、地方から都市部への人口の流出で農業が盛んな地方を支える若手が減少していることや、働き方の多様化で農家以外の職を求める人が増えたことも要因といえます。

03遊休農地増加による問題

遊休農地の増加や農家の減少は以前から懸念されてきた問題ですが、そもそも遊休農地が増えることでどのような問題が起こるのでしょうか。

農地としての質低下

遊休農地をそのまま放置してしまうと、いずれは荒廃農地となってしまうわけですが、一度荒廃してしまうと農地としての機能を取り戻せなくなる可能性があります。

農地は作物を育てやすいよう適切に管理されていますが、それが行われていない状態が続くと、農地として機能が低下するだけでなく、いずれは回復が困難になるケースもあります。

周辺への悪影響

遊休農地は、名前こそ農地ではあるものの、長年使われていないとその見た目は空き地と変わりがなくなっていきます。

人の手が入っていない状況が続くと、害虫や害獣の温床化や、不法投棄が行われてしまうこともあります。景観の悪化にもつながるため、放置してある状況は迅速に解決すべきでしょう。

食料自給率の低下

日本は食料自給率が決して高いとはいえず、2019年はカロリーベースで38%にとどまるなど、多くの食糧を輸入に頼っている状況です。遊休農地が増加すると、食料自給率の更なる低下を招き、日本の食料問題を悪化させる原因になりかねません。

災害時のリスク増大

農地の豊かな土壌が失われてしまうと、農地の雨水を保持する能力が失われ、洪水や氾濫が発生しやすくなるリスクも出てきます。

高地に位置する農地はそのまま下へ下へと土砂が流され、下流域で土砂崩れをもたらす要因にもなります。

04遊休農地に対する固定資産税について

このような遊休農地の問題を解消するべく、近年は遊休農地への課税強化が行われています。

通常、農地の固定資産税の評価額は、売買価格×0.55(限界収益率)という計算によって算出されています。一方で遊休農地の認定を受けた農地の場合、限界収益率である0.55を乗算することができず、結果的に通常の農地と比較して約1.8倍の固定資産税が発生します。

そのため、遊休農地として農地を放置することは収益を生まないだけでなく、税負担も大きくなることから、何らかの対策が必要であるといえるでしょう。

05遊休農地減少に向けた対策

遊休農地を減らすための対策は、さまざまな方面から進められています。

行政・自治体の対策事業

例えば宮城県白石市では、遊休農地の有効活用や景観改善に向けた、蓮やひまわりなどの景観植物の植栽を進めています。農用地の荒廃を防ぐとともに、雑草対策の省力化にも貢献しています。

参考:宮城県多面的機能支払推進協議会長賞(宮城県)

また山形県白鷹町では、遊休農地となっていた桑園を回復させるプロジェクトを進めています。養蚕業の衰退と共に廃れ、害獣の住処となっていた同町の桑園ですが、サクランボ、大豆、こんにゃくなどの作付けを推進するとともに、小作料対策や受け手の自己負担分を助成することで農家をサポートしています。

参考:山形県白鷹町(農林水産省)

補助金・減税制度

遊休農地の有効活用に向けた、金銭的な補助制度も進んでいます。

栃木県では遊休農地の再生施策の一環として、再生利用する遊休農地の面積10a 当たり3万円の補助金を給付するプロジェクトを開始し、積極的な土地活用を推進しています。

参考:遊休農地対策の推進について(栃木県)

また、同県では遊休農地を貸し出すことによって、固定資産税を減額できる制度も施行されています。貸出期間によっては半額まで減額できるケースもあり、積極的な活用が検討されます。

06遊休農地を有効活用する方法

節税につながる遊休農地を有効活用するための方法としては、主に以下のようなアプローチが挙げられます。

市民農園

市民農園は、農地を一般向けに貸し出し、共同で管理する方法です。農家に農地の責任を押し付けることなく、共同で管理できるので、常に人の手が入り、農地の健全な状態を維持する上で役立ちます。

農地バンク

農地バンクとは、不要になった農地を農地中間管理機構に届け出ることで、農地を必要としている人に紹介し、貸し出すためのサービスです。

農地の借り手を探す上で便利であるだけでなく、農地の集積が進むため、大規模な農地運用を推進する上でも役に立ちます。

農地売却

農地売却は、農地を別の事業者や個人に売り渡すものです。最近では農地法の改正によって農業への参入ハードルが下がったことから、農業ビジネスに参入する企業が増えるなど、農地の買い手も見つかりやすくなってきました。

農地転用

農地転用は、農地を全く別の事業の用途向けに転用するものです。農地転用は手続きが必要ですが、道路や住宅、商業施設などの需要がある地域では重宝されるケースも少なくありません。

ソーラーシェアリングを導入した農業の再開

近年注目を集めているのが、ソーラーシェアリングです。ソーラーシェアリングは、ソーラーパネルを取り付けた架台を農地の上に設置し、農作物の栽培と太陽光発電を並行して行う取り組みです。

農地を農地として活かせるだけでなく、売電による収益機会の拡大という恩恵も受けられることから、一石二鳥の手法といえます。

千葉大学で公共学の博士号を取得し、大学発ベンチャー企業を立ち上げた馬上丈司氏は、ソーラーシェアリング事業の重要性を高く評価しています。

馬上氏の詳しい解説については、以下のインタビューも参考にしてください。

関連記事馬上丈司さんに聞く!自らソーラーシェアリングを実践する理由とは?

【参考】
農地法(農林水産省)
農林業センサス等に用いる用語の解説(農林水産省)
荒廃農地の現状と対策について(農林水産省)
農地の利用状況調査の結果(農林水産省)
農業労働力に関する統計(農林水産省)
食料自給率って低いと良くないの?(農林水産省)
宮城県多面的機能支払推進協議会長賞(宮城県)
山形県白鷹町(農林水産省)
遊休農地対策の推進について(栃木県)
営農型太陽光発電について(農林水産省)

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