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「ブルーカーボンを知る 未来創造部レクチャー&体験プログラム」体験レポート

コンブ、ワカメ、それに新鮮な魚介類。私達は日々海の恵みを享受しながら暮らしています。しかし気候変動や環境問題によって海の環境は年々変化し、生態系にまで影響を及ぼすほどの深刻な問題が起こっています。こうした問題に対して熱海を拠点として環境活動をするのが株式会社未来創造部です。代表の枝廣淳子さんのインタビューに引き続き、 同社が主催する「ブルーカーボンを知る 未来創造部レクチャー&体験プログラム」で学ぶことができる環境問題解決のためのアプローチと船上でのフィールドワークについてご紹介します。

プログラム概要
概要:ブルーカーボンや藻場の再生について学び・体験するためのプログラム
内容:①レクチャー ②海上体験
場所:静岡県熱海市
https://mirai-sozo.work/program/post-5.html

取材日:2023年7月
※掲載情報は取材時点のものです。現在のプログラムはウェブサイトをご確認ください。

株式会社未来創造部
2020年設立。「未来の子どもたちに きれいで楽しい地球を残す」をミッションに、環境問題に関するコンサルティングや教育・研修などの事業を展開する他、ブルーカーボンに関わる研究と実践活動を進める。
https://mirai-sozo.work/

プログラムは未来創造部 代表取締役副社長の光村智弘さん、そして高島あずささんによる気候変動に関するレクチャーから始まりました。

01海が砂漠化している!?深刻な海の問題

国や企業によって施策が急速に進められていることで耳にする機会が増えた「脱炭素」。気候変動への対応策として、企業や家庭から排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするために、社会システムを変革させる動きです。レクチャーでは、気候変動を止めるためには、脱炭素を最初のステップとして、さらに、すでに排出されて大気中に存在する二酸化炭素を除去すること、そして除去・回収した二酸化炭素を固定化する必要があることを説明いただきました。

気候変動を止める3つのステップ
1.これから出すCO2を実質ゼロまで減らす
例)エネルギー消費量の削減、再生可能エネルギーへの転換
2.すでに大気中にあるCO2を除去する
例)グリーンカーボン、ブルーカーボン生態系の活用
3.除去・回収したCO2を固定化する
例)バイオ炭などの製炭

世界が気候変動の解決に向けて脱炭素化の取り組みを加速させている一方、地球温暖化はますます深刻化しています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)の第6次報告書では気温が3.3~5.7度も上昇する可能性を示唆しました。

この事実に加えて高島さんは、「ここ数年でも異常気象による災害の程度は、日本だけでなく世界でも悪化している」と言います。レクチャーでは黒アワビが絶滅危惧種になっていることを例に出しながら静岡県におけるアワビの収穫量減少の話や、続いて貝や魚の収穫に影響を及ぼす磯焼け、そして海藻が収穫できない海の砂漠化についての説明がありました。

特に海が砂漠化していることによる海藻の収穫量減少は深刻で、かつては海藻が繁殖していた熱海の海中を水中カメラで撮影しても、全く海藻が見当たらない「海の砂漠化」が起きていると言います。それは漁師さんがアワビの餌にする海藻がなく、市販品で代用する程深刻な状況です。

「海の砂漠化」が進む海底(提供:(株)未来創造部)

02未来創造部が取り組むプロジェクト

こうした気候変動と失われる海の豊かさの問題を同時に解決できるのがブルーカーボンの取り組みです。未来創造部では大きく分けて3つの取り組みを行っています。

未来創造部が取り組むブルーカーボンのプロジェクト
1 藻場の再生
2 藻場の調査
3 情報発信・共有

藻場の再生

藻場とは、海草・海藻が繁殖する場所のことをいいます。藻場の再生をすることは、繁殖した海藻・海草がCO2を吸収する環境的利点だけでなく、漁業支援、観光資源、カーボンクレジットとしての活用など経済的な観点でも重要な意味を持ちます。未来創造部では2021年から毎年6月にコアマモの移植実験を行い、今年2023年6月には6,000株のコアマモを移植し、日々経過観察を行っています。「海の田植え」と表現される移植の様子や、過去には土石流災害によって消失してしまったこと、2023年には過去の経験を活かし、水深が浅い場所に土ごと移植する方法に変更したことで、元の環境に近い形での移植に成功したお話など、実践を通じてしか得ることのできない再生活動の様子をお話しいただきました。

2023年のコアマモの移植の様子(提供:(株)未来創造部)

藻場の調査

藻場の再生のために海藻や海草を植えたあとは、経過観察をする必要があります。しかし誰でも目視できる陸地での活動と異なり、海の中の調査は一筋縄では行きません。水中ダイバーに調査を依頼すると、数千万円の費用が発生するとのこと。海中の広い藻場を調査するにはコストがかかり過ぎます。かといってコストを抑えた手法で十分な情報量が得られないのでは正確な観察ができません。

未来創造部ではこの現状を打破し、平易・迅速・廉価で全国どこでも・誰でも実施できる 藻場分布調査の手法を立ち上げるために活動しています。用いるのはGPS魚群探知機、水中ドローン、そして水中カメラ。依頼があれば日本全国どこへでも出向いて調査をするために準備を進めているとのことです。

藻場分布調査に使用される機材(提供:(株)未来創造部)

情報発信・共有

最後は情報発信と共有です。未来創造部では、企業・自治体・一般の方向けにブルーカーボンや環境問題に関する研修・ワークショップを展開しています。また、未来創造部 代表取締役社長の枝廣淳子さんは全国に藻場再生のプロジェクトを展開するNPO法人ブルーカーボン・ネットワークの理事長も務めています。ブルーカーボン・ネットワークでは法人・個人のサポーター会員に向けたセミナーの開催や、外部からの視察や調査、研究の受け入れ、そして依頼があればブルーカーボン・ネットワークの調査論文の共有などをしています。全国でブルーカーボンを広げる取り組みをしている地域をつなぎ、情報と知見を共有することで、活動を広げ、加速化することに取り組まれています。

03作業艇に乗って藻場の再生現場へ出発!

1時間ほど海における環境問題や未来創造部のブルーカーボンの取り組みについて学んだあとは、いよいよ海上での藻場再生現場の見学です。調査機材を搭載した作業艇に乗り、海へと出発しました。

船上ではまず光村さんから機材の説明がありました。平易・迅速・廉価な調査方法の確立を目指す未来創造部では、誰でも購入できるような機材を使用して調査しています。レクチャーで紹介された機器類を実際に使い、水中カメラで海中の様子を見ながら、同時に魚群探知機で海草の厚みを確認する様子などを体験することができます。

船上では光村さん((株)未来創造部 代表取締役副社長)が
藻場分布調査の手法について詳しくレクチャー

調査見学の途中では、熱海港に流れる糸川の河口に長さ約30センチのネットを張り、川から海に流れるプラスチックごみを回収する活動についての説明も聞きました。直径5mm以下の小さなプラスチックを指すマイクロプラスチック。これが海に流出することによる海洋汚染も深刻な問題なのだそうです。

最後に水中ドローンの操縦体験をしました。操縦はスティックを動かすだけなので、「覚えてしまえば誰でも操縦可能」とのこと。実際、初めての操作でも潜水、浮上、左右に回転、前進、後退などスムーズに動かすことができました。

水中ドローンの操作方法について説明を受けた後、実際に操縦体験ができる

04体験プログラムに参加して

環境問題へのアプローチを体系的に学べただけでなく、学んだことを実際にフィールドで確認できたことでさらに理解が深まり、確かな納得と大きな実感を得られるプログラムでした。少人数制で企画されているため講師の方々との距離が近く、質問や相談がしやすいのも特徴でした。

四方を海に囲まれた日本にとって、ブルーカーボンは豊かな海を取り戻し、温暖化対策の新たな一手となり、さらには地域と地域をつなぐためのプロジェクトとして、今後ますます期待が寄せられています。

体験プログラムの参加は、未来創造部ホームページからお問い合わせください。
「ブルーカーボンを知る 未来創造部レクチャー&体験プログラム」
URL:https://mirai-sozo.work/program/post-5.html

【参考】
IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年12月22日版)|気象庁

 

 

写真:ゆのみふぉと 武藤慎哉(静岡県)

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