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特産物消滅の危機?農作物における地球温暖化の影響とは

この記事は、自然電力のウェブメディア「Hatch」に掲載された記事を転載しています。

 

日本は、北海道、本州、四国、九州の比較的大きい4つの島と、そのほかの小さな島々で構成されています。その形は南北に長いため気候が多様で、それぞれの地域に適した作物が栽培されています。

それらは特定の地域で生産・収穫された「特産物」として、各都道府県を盛り上げる重要な文化の一つです。

もちろん世界でも、それぞれ土地の風土を生かした特産物が生産されています。

しかし、近年問題となっている地球温暖化の影響で、これまで育てられた作物がうまく栽培できなくなる事例が出てきました。

今回は、地球温暖化の影響によって無くなってしまうかもしれない特産物や、新たに生まれてきた特産物を通して、これからの農業や食生活がどのように変わっていくのかを考察します。

01地球温暖化の影響で変わりつつある風土

日本には四季があり、春夏秋冬それぞれの季節にあわせた作物が栽培され、「旬」の食材を大切にする食文化が存在します。

さらに、南北に長い島であるため、北は亜寒帯から南は亜熱帯まで、さまざまな気候区分に属しています[*1]。

地方によって天候には大きな違いが見られ、1年間の平均気温を比較すると、北海道の内陸部と沖縄では、15℃以上もの差があります[*2]。

この風土を生かして様々な作物が栽培され「特産物」として私たちの食卓を豊かにしてきました。

しかし、近年問題となっている温暖化の影響で、日本の気候は変わりつつあります。

気温

例えば、日本の気温の経年変化(上昇率)を見てみると、既に100年あたり1.26℃上昇しています[*3], (図1)。

さらに、日最高気温30℃以上の真夏日と35℃以上の猛暑日の年間日数も、1931~2016年の85年間で増加傾向を示しています[*4], (図2)。

図1: 日本の年平均気温偏差の経年変化
出典:気象庁「気候変動監視レポート」(2020)

もちろん、これは日本だけの現象ではありません。
世界の年平均気温の上昇率は、100年あたり0.75℃です(図3)。

図3: 世界の年平均気温偏差の経年変化
出典:気象庁「気候変動監視レポート」(2020)

この傾向は今後も続くと予想されています。1850年~1900年を基準として考えると2100年までに最善のシナリオでは1.5℃、最悪のシナリオでは5.7℃平均気温が上昇すると予想されています(図4)。

図4: 2100年までの世界平均気温の変化予測(1950~2100年・観測と予測)
出典:一般社団法人地球温暖化防止全国ネット(JCCCA)「世界平均気温の変化予測(観測と予測)」

平均気温が10℃くらい上がるならまだしも、1.5℃上がったところで何か違うのだろかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、人の体温が1℃上がれば身体に変調をきたすように、地球の平均気温が1℃上がるだけでも大きな気象の変化が起こるのです。

気象庁気象研究所と東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所の共同研究グループが温暖化が及ぼす影響をシミュレーションしています。

その結果、今後、平均気温が1℃上がるだけで国内の猛暑日発生回数は、年間で1.8倍に増えることがわかりました[*5]。

その他、降水量や積雪量にも影響が出ています。

降水

1日あたりの降水量が100mm以上の大雨の日数が増加している一方で、1日あたりの降水量が1.0mm以上の日は減少しています[*4], (図5)。

強い雨が増加しているのに、雨が降る日は減少している、つまり、集中的に大量の雨が降るようになったのです。

積雪

年間の積雪の深さの最大値は1962~2016年の54年間で、日本海側で減少しています。減少率は東日本の日本海側で10年あたり12.3%、西日本の日本海側で10年あたり14.6%です[*4]。

02特産物への影響

真夏日や猛暑日の増加、大雨の増加、積雪量の変化は私たちの生活にも影響を及ぼしますが、農作物にも多大な影響を与えています。

ブドウ

巨峰、ピオーネなどの黒いブドウ(黒色品種)は、気温が高いと着色が進まず「赤熟れ(あかうれ)」と呼ばれる着色不良が発生します(図6)。

近年では温暖化の影響で赤熟れが増加し、商品価値が著しく低下することが大きな問題となっています。今後も温暖化の進行に伴い、さらに赤熟れが増加すると予測されているのです[*6]。

こうした作物に起こる着色不良はブドウだけにとどまりません。

岐阜県の特産物である富有柿は、鮮やかで濃いだいだい色をしていますが、平均気温が高くなると、だいだい色の成分であるカロテノイドがうまく合成されず、熟しても緑色が残る柿になってしまいます。

岐阜県気候変動適応センターの研究では、温暖化の進行によって、特に9月の高温が柿の品質を低下させる要因になっていると予想しています[*8]。

既にこの現象は発生しており、研究を行っている山田教授は「甘みはあっても色が乗らない柿が近年多く見つかっている。変化は始まっていると考えている」と述べています[*9]。

ナシ

九州各県では、「幸水」に代表される二ホンナシが露地栽培されていますが、近年、花芽の枯死による発芽不良が発生し問題となっています(図7)。

農研機構と鹿児島県農業開発総合センターの研究によって、原因は、温暖化による秋冬季の気温上昇だと明らかになりました。

10月から2月の気温が上昇すると、花芽の耐寒性が十分高まらない状態で冬を迎えてしまいます。その状態では、花芽は冬の寒さに耐えることができず、凍害を受けて枯死してしまうのです[*7]。

コーヒー

気候変動の影響を受けているのは日本の特産物だけではありません。世界中の人に親しまれているコーヒーも生産が危ぶまれているのです。

コーヒーの生育には、標高、昼夜の寒暖差、適度な降雨量が必須条件です。気温や湿度が上昇すると、「さび病」と呼ばれるコーヒーにとって深刻な病気が発生しやすくなり、収穫量の減少や品質低下を招きます。

コーヒーの一大産地であるブラジルでは、気温・湿度の上昇や降雨量の減少などが起こり、今後コーヒー栽培に適した地域が減少すると言われています。

図8で赤色が付いている地域は、ブラジルにおける高温乾燥地域でコーヒー生産が可能なエリアです。2050年にはこのほぼ全域が生産に適さなくなるというデータが示されています。

同様のことが中南米、アフリカなど世界中で今後起きると予想されています。このまま気候変動の影響を受け続ければ、2050年には、世界で最も生産されているコーヒー豆の原種あるアラビカ種の栽培に適した土地が、2017年頃の面積よりも約50%縮小すると報告されているのです[*10]。

関連記事気候変動で「適地適作」が変化する?その影響と対応策を解説

03新しい特産物への期待

気候変動に伴う気温上昇によって、農作物の収量や品質特産物に影響が出始めている一方で、これまで寒さにより栽培困難であった作物が栽培可能となることも考えられます。
各地方では、新しい作物を特産物にしようとする動きもあります

タロッコ

愛媛県は柑橘類の栽培が盛んで、その中でも温州みかんが最も多く作られています[*11]。

しかし、近年の平均気温の上昇により、高温障害が発生する事例が多発するようになりました。

そこで、愛媛県では夏場の高温にも強いタロッコという品種の柑橘の導入及び産地化が進んでいます[*12], (図9)。

温暖化の影響により、秋が長くなり春が早まるとともに、冬季の最低極温が-3℃以下になる頻度が減って寒害が少なくなったことから (図10)、タロッコの完熟生産が可能となったのです[*13]。

図9: 夏場の高温にも強い品種タロッコ
出典:愛媛県「愛媛果研ニュース」(2014)

ライチ

宮崎県では、温暖化を逆手に取った亜熱帯性果樹の生産振興が進められています[*14]。

主に熱帯・亜熱帯地域で栽培されるライチは、国内市場で流通しているもののほとんどが、冷凍または蒸熱処理をされた輸入品です。

宮崎県では、完熟マンゴーの栽培技術を応用して、マンゴーに続く希少な国産果実としてライチの生産拡大を進めています[*15]。

コメ

日本では様々なコメの品種改良が行われ、各地の気候に適応した品種が生みだされてきました。

しかし、高温による発育・肥大不良など従来の品種では対応できない現象も起き始めており、将来的な品質の低下、収量の低下が危惧されてきています。

これらの問題に対応するため、日本では農林水産省が海外と共同研究を行い、イネの出穂・収量性等の基礎データの収集、種子増殖・保存、品種改良などを進めています。

その研究過程で、これまでの品種よりも高い収量が得られる系統が見つけられました。この系統のイネは、沖縄の特産物である泡盛等の原料として使用する試みにも貢献しています[*16]。

リンゴ

スペイン、特にカタルーニャ地方では、気候変動の進展に伴い従来のリンゴ品種において、赤く色づきにくい、日焼けする、果肉が柔らかくなる、貯蔵障害の発生率が高いといった問題が発生していました。

その対策として2019年、変化する気候に対応可能なリンゴの品種「HOT84A1」が開発されました(図11)。この品種は気温40℃に達することのあるスペインで試作に成功した実績があり、優れた食味を維持しながら、日焼けしにくいことが証明されています。

2021年2月にはスペインのイベリア半島で商業栽培が開始されました[*17]。

04あなたの地域の特産物が変わるかもしれない

ここまでで紹介してきたように、既に気候変動により国内外で農作物特産物の生産に様々な影響が出ています。

栽培技術の向上も一因ではありますが、温暖化によって、沖縄県で栽培されていたゴーヤが福島県で、沖縄のマンゴーが和歌山県で栽培されるようになった事例もあります[*18]。

気候が変わったことで新しい作物の栽培が可能になり、新しい特産物が生まれることは地域活性化にもつながるでしょう。

しかし、これまで当たり前に食べてきた特産物が、近い将来無くなってしまうかもしれません。そうなれば「旬」を大切にする食文化や、郷土料理にも影響を与える可能性もあります。

もちろん技術的に、気候変動に対応できる品種を生み出すことは可能かもしれませんが、品種改良は気候変動を根本的に解決する術ではありません。

また、適応が進んでいる農業分野においても、今後の気候変動によって経験したことのない影響を受ける可能性は十分考えられます。
日本の四季と豊かな食文化を守るためには、農作物への被害を最小限に抑える気候変動への緩和策が先決だと言えます。

【参考】
*1
気象省「日本の気候」
*2
一般財団法人国土技術研究センター「国土を知る / 意外と知らない日本の国土」
*3
 気象庁「気候変動監視レポート」(2020)
*4
環境省, 文部科学省, 農林水産省, 国土交通省, 気象庁「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」(2018)
*5
国立研究開発法人科学技術振興機構「温暖化で平均気温が1度上がると国内の猛暑日は1.8倍に 気象研と東大がスパコンで予測」(2019)
*6
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「温暖化に伴う、ブドウ着色不良の発生拡大を予測」(2019)
*7
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「温暖化により増加しているナシ発芽不良の主要因が、『凍害』であることを解明」(2017)
*8
岐阜県「温暖化が富有柿の品質に与える影響と、柿にかわりうる転換品目について検討」(2020)
*9
岐阜新聞「20年後『富有柿』鮮やかな色なくなる?既に予兆が…温暖化影響」(2020)
*10
「Climate change: Pinpointing the world’s most vulnerable coffee zones」WORLD COFFEE RESEARCH
*11
愛媛県「いろいろなかんきつ」(2016)
*12
農林水産省「地球温暖化適応策の推進」(2010)
*13
気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「高温にも強いブラッドオレンジ『タロッコ』の導入」(2018)
*14
気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「ライチの産地化」(2018)
*15
全国知事会「宮崎県産『生ライチ』の魅力を全国へ!」
*16
国際農林水産業研究センター「7. イネ遺伝資源に関する国際共同研究体制の必要性」
*17
気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「欧州で進む気候に対応したリンゴの新種開発」(2021)
*18
農林水産省「地球温暖化が作物生産に与える影響について」(2007)

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