2024.1.18
北海道の酪農における特徴や動向、発展に向けた取り組み事例を紹介
北海道の酪農における生産額は、全国の5割以上を占めています。ただ一方では、酪農家の高齢化や戸数減少、人口減に伴う国内需要の減少傾向といった課題への対処を問われています。そこで本記事では、北海道の酪農における特徴や最新動向、発展に向けた取り組み事例を紹介します。
CONTENTS
01北海道の酪農における特徴
北海道の酪農における特徴は、以下の通りです。
乳用牛・生乳の生産額は全国の5割以上を占める
北海道の酪農における生産額は、全国の5割以上を占めています。具体的には、全国の乳用牛・生乳生産額9,286億円に対して、北海道の生産額は4,976億円であり、その割合は53.6%です(2021年時点)。
経営体は家族経営が9割、組織経営が1割
北海道の酪農における経営体は、家族経営体が約9割、組織経営体が約1割となっています。なお、家族経営体とは、1世帯で事業を担う経営体のことであり、雇用者の有無は問いません。一方の組織経営体とは、大規模法人など家族経営体以外すべての経営体を指しています。
飼養形態は「繋ぎ飼い」が6割程度
北海道の酪農における飼養形態は、繋ぎ飼いが全生乳出荷戸数の60%程度を占めており、次いでフリーストールが30%程度、放牧主体が5~10%を占めています。また、フリーストールのなかでも搾乳ロボットを導入した飼養形態は、全体の約10%です。
02北海道の酪農における最新動向
北海道の酪農における最新動向を紹介します。
酪農ヘルパー利用は減少傾向
酪農ヘルパーを利用する北海道内の組合数は、2009年から2017年までの間は組織合併により微減が続き、以降は横ばいで推移しています。同様に酪農ヘルパー要員数は、専任・臨時ともに減少傾向にあり、特に臨時ヘルパーの減少が目立ちます。具体的には、2009年には493名だった臨時ヘルパーが、2022年には245名とおよそ半減している状況です。
酪農ヘルパーについては、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。
省力化機械の導入が加速
北海道の酪農において省力化機械の導入が進んでいます。特に搾乳ロボットについては、2015年以降に農林水産省が推進する畜産クラスター事業および畜産ICT事業の活用により搾乳ロボットの導入が加速。1戸で複数台を保有する酪農家も増えており、2022年2月時点において463戸で稼働しています。
ミルキングパーラーの導入が増加傾向
北海道の酪農において搾乳の効率を高めるミルキングパーラーの導入が増加傾向にあります。搾乳ロボットと同様に2015年以降、畜産クラスター事業および畜産ICT事業の活用により導入が進み、2021年時点では約1600戸の酪農家がミルキングパーラーを保有しています。
地域営農支援システムが発達
北海道では酪農ヘルパーだけでなく、TMRセンター、コントラクター、哺育育成センターなど、アウトソーシングにより営農を支援する仕組みが発達しています。
● TMRセンター
混合飼料(total mixed ration)を調合・製造する施設であり、酪農家が餌づくりを行う手間を省く。
● コントラクター
作業機械と労働力などを有して、農家等から農作業を請け負う組織(機関・団体など)。
● 哺育育成センター
仔牛を16ヵ月齢まで預かり、人工授精で受胎を確認して持ち主に返す組織。
乳用牛の改良を推進
北海道の酪農において、泌乳能力や体型の改善による酪農生産基盤の維持と強化、生乳の安定供給を目的として乳用牛の改良が行われています。
特に乳用牛の改良については、土台となる「牛群検定」の安定的な実施体制の確立、「後代検定」や新たな改良技術の普及推進に取り組んでいます。
● 牛群検定
検定加入農家が飼養する乳用牛について、個体毎に乳量・乳成分率・体細胞数・繁殖成績などのデータを毎月記録、収集したデータを専門機関で分析、その結果を「検定成績表」として酪農家へフィードバックする一連の仕組みを指します。
● 後代検定
種雄牛の候補となる雄牛の遺伝的能力を、その娘牛の検定成績などから評価する方法です。これにより、遺伝的に優れた能力を持つ種雄牛を計画的に生産できます。
ただ一方で、酪農家の減少に伴う牛群検定加入農家の減少や後代検定実施率の低下といった傾向もみられており、畜産振興課は安定した実施体制の確保、後代検定や新たな改良技術の普及推進に努めています。
03北海道の酪農を持続的に発展させるための方針
北海道では酪農を持続的に発展させるため、「北海道酪農・肉用牛生産近代化計画」として、以下3つの方針を掲げています。
経営体質の強化
酪農における経営体質の強化では、「生産基盤の強化」と「収益性の向上」を目指します。
生産基盤の強化
生産基盤の強化では、具体的に以下を推進しています。
● 家族経営体の経営力の強化
北海道における酪農経営体の約9割を占める家族経営の維持と発展に向けて、労働負担を軽減する省力化機械の導入、地域営農支援システムの整備、既存の経営資源の円滑な継承などの支援を推進する。
● 協業法人の設立支援
地域経済の発展に重要な生乳生産量の維持および拡大に向けて、生産性の向上や雇用の創出が期待される協業法人の設立を支援する。
● 畜産クラスター事業等の効果的な活用
経営体質の強化においては地域の現状や課題の分析を行う必要があるため、生産者をはじめ市町村や生産者団体等の各関係者が連携する畜産クラスター事業を活用した取り組みを推進する。
● 施設整備のコスト低減
低コストで導入可能な施設整備等の推進とコスト削減に関する優良事例の共有を推進する。
収益性の向上
収益性の向上では、具体的に以下を推進しています。
● ベストパフォーマンスの実現
乳用牛の飼養管理技術向上による「乳牛の供用期間の延長や受胎率の向上・分娩間隔の短縮・子牛事故率の低下」などを推進。また、快適な環境での飼養、衛生面・生産工程へも配慮する。
● スマート農業技術の活用
省力化による労働生産性を高めるため、搾乳ロボットやえさ寄せロボットなどICTやIoT技術を活用した機器や設備の導入と、使いこなすためのサポート体制の充実を図る。
● 経営管理能力の向上
生産および経営データの数値的情報の管理・分析、第三者的視点を取り入れるための経営コンサルティング活用などを促進する。
● 放牧酪農の推進
北海道の強みである自給飼料基盤を活用した放牧酪農は、飼料生産や給与、家畜排せつ物処理において省力的かつ低コストな飼養管理が可能であるため、研修会の実施や営農指導の強化に注力する。
● 性判別精液や和牛精液等の効果的な活用
収益性アップのため、高能力牛に対する性判別精液や受精卵移植の活用により優良な乳用後継牛を計画的に確保する。
● 乳牛改良の推進
乳量や乳成分とともに、体型等の改良による長命連産性を高めることで、生涯生産性の向上を推進する。
生産体制の強化
生産体制の強化では、「生乳の安定的な生産」「災害等に強い酪農・畜産の確立」を目指します。
生乳の安定的な生産
地域営農支援システムの充実・省力化機械の導入により、1戸当たり飼養頭数の増加や飼養管理の向上を図り、高品質な生乳の安定的生産を実現させます。また、国および酪農乳業関係者と連携して、全国レベルでの需給調整機能の構築を推進します。
また昨今は、世界情勢の影響を受けて輸入に依存している飼料の価格高騰が課題となっています。そのため、北海道内においても「冬の間は使わない畑で飼料用ライ麦を生産」といった自給への取り組みが進んでいます。
災害等に強い酪農・畜産の確立
これまでの地震や台風、感染症拡大などの経験を踏まえて、営農活動の継続に向けた対策を促進するとともに、需給が確保されるよう関係者間の緊密な連携構築を促進します。また、北海道から都府県への移出についても、関係機関・団体と連携しながら、効率的かつ安定的な輸送の確保に注力します。
需要の創出
需要の創出では、「食の安全と消費者の信頼確保」「ブランド力の向上」「輸出の推進」を目指します。
食の安全と消費者の信頼確保
GAP(農業生産工程管理)やHACCP(危害分析重要管理点)の考えに基づき、以下を製造・販売業者や生産者に対する立入検査や指導などを通じて推進します。
● 生産者段階での農薬や動物用医薬品の適正使用
● 生産履歴の記帳・保管
● 乳房炎対策として搾乳機器の適正使用
● 抗菌剤の適切な選択と使用
● 各種法令の遵守
● 衛生管理の高度化
● 危機管理体制の構築
また、消費者の理解醸成に向けて、生産現場や畜産物の見える化、観光産業や小売業、飲食業等と連携した情報発信を実施します。
ブランド力の向上
以下により、ブランド力の向上および差別化を図ります。
● 国内外で高い評価を得ている北海道ブランドの生乳の生産を維持・向上
● ジャージー種やブラウンスイス種、放牧、有機飼料の利用など特色ある生乳のブランド化
● 酪農家自らが行う牛乳乳製品の開発・製造販売を通じた差別化
● 各種登録・認証制度(機能性表示制度、有機認証制度など)の活用による品質向上
輸出の推進
人口変化に伴い、日本国内の食市場が縮小する見込みに対して、世界の食市場は拡大の見込みです。特に台湾・香港・シンガポール・中国などアジア圏で輸出額の8割以上を占めており、今後も更なる需要拡大を見込して輸出環境の整備を推進します。
04北海道の酪農を発展させるための取り組み事例
北海道の酪農を発展させるための取り組み事例を3つ紹介します。
畜産クラスターによる酪農の発展と継承
畜産クラスターとは、畜産農家と地域の関係事業者が連携して、地域ぐるみで高収益型の畜産を実現するための体制です。例えば、酪農家の高齢化や戸数減少といった課題を解決すべく、以下のような取り組みがなされています。
● TMRセンターやコントラクターといった外部支援の強化
● 哺育育成センター整備により6ヵ月齢未満の哺育部門を外部化
● 集中型家畜ふん尿処理施設の整備
6次産業化による生乳製品の加工・販売・ブランディング
6次産業化により、酪農家が生産から生乳製品の加工・販売・ブランディングまでをこなして、収益性を向上させる事例が増えています。例えば、以下のような事例です。
● 有機JAS認証を取得した生乳でチーズやヨーグルトなど乳製品を加工・販売
● 直営レストランやカフェを経営して、生産・加工した乳製品を調理して提供
● 牧場内に直売所やイートインスペースを備えた生乳加工施設を整備
スマート酪農・畜産による省力化と生産性向上
スマート酪農・畜産による省力化と生産性向上も北海道における酪農の発展に寄与しています。例えば、以下のような事例が挙げられます。
● 搾乳ロボット導入による省力化と生産性向上
● スマホ1台で豚舎の環境を一括モニタリング
● クラウド型牛群管理システムによる肉牛の繁殖管理
スマート畜産については、こちらの記事でより詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
05まとめ|北海道での酪農を安定して営むために
北海道の酪農について、特徴や最新動向、持続的発展に向けた方針と取り組み事例を紹介しました。
北海道の乳用牛・生乳の生産額は全国の5割以上を占めています。ただ一方で、酪農家の高齢化や戸数減少、消費者人口の減少などの課題に対処すべく、北海道酪農・肉用牛生産近代化計画として「経営体質の強化」「生産基盤の強化」「収益性の向上」の3つの方針を掲げて取り組みを推進しています。
具体的には、TMRセンターやコントラクターといった外部支援の強化、生産から加工、販売まで行う6次産業化、スマート酪農・畜産による省力化・効率化などを通じて、酪農経営の安定化が進められています。
また昨今、農畜産業における経営安定化の観点から「ソーラーシェアリング」が全国的に注目されています。ソーラーシェアリングとは、農畜産業を行うエリアに太陽光発電設備を設置して、産業は従来通り営みながら、太陽光発電も行う取り組みです。農林水産省による推進支援もあり、全国的に広がりつつあります。
こちらの記事では牧草栽培地での設置事例を紹介していますので、ぜひご参考にしてください。
【参考】
・北海道の酪農・畜産をめぐる情勢(北海道農政部)
・北海道の酪農・畜産をめぐる情勢 その1(北海道農政部)
・北海道の酪農・畜産をめぐる情勢 その2(北海道農政部)
・TMRセンターとは(北海道TMRセンター連絡協議会)
・コントラクター(農作業受託組織)(北海道農政部)
・ぐるっとDoTo!360°【施設見学編】乳牛の哺育・育成センター(株式会社 Oplus(オープラス))(北海道農政事務所)
・乳牛改良に関すること – 農政部生産振興局畜産振興課(北海道庁)
・第8次北海道酪農・肉用牛生産近代化計画のポイント(北海道庁)
・第8次北海道酪農・肉用牛生産近代化計画(北海道庁)
・世界の穀物需給及び価格の推移(農林水産省)
・道内酪農家の離農加速 減少率28年ぶり4%超 飼料高騰 耐えきれず(北海道新聞デジタル)
・北海道の農畜産物の 輸出に関する現状と課題(北海道農政部)
・畜産クラスターの取組事例について(農林水産省)
・北海道版 6次産業化事例集(農林水産省)